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[2022.1]【連載 アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い⑭】もう一人の「イパネマの娘」を賛美した歌 - 《Lígia》
文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura
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前回は、名曲「イパネマの娘」誕生の際のモデルとなった美女が実在し、イパネマのレストラン・バー「Veloso」の常連飲み客であるジョビンとヴィニシウスが、毎日見かけていた人物(エロイーザ)であったというお話をご紹介しました。実は、もう一人のイパネマの娘とでも申しましょうか。イパネマの娘のヒットから6年後の1968年、ジョビンは、この「Veloso」というお店で出会った別な女性にも気を寄せ、素敵な歌に昇華させています。
後にジョビンの友人でもある人気作家フェルナンド・サビーノの夫人となる、リジア・ジ・モライスが、その人でした。教師であったリジアは、身長175cmの長身で、緑色の瞳が美しい女性。1968年のある日、雨降る午後、仕事帰りに女性友達と「Veloso」でくつろいでいたところ、別な席で飲んでいたジョビンが、彼女を見とがめ、話しかけてきたのだそうです。
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リジアは、学校の授業が終わり、今ここで友人とくつろいでいると応えます。一緒に店に来ている友人のセシリアが洋裁を生業とし、ジョビンの妻テレーザにも洋服をよく納品していた関係にあることから、ジョビンの素性を既に知らされていたリジアが、その後「しかし偶然ですね。お宅のベッチ(ジョビンの娘エリザベッチの愛称)は、私の生徒なんです。」と告げると、一瞬驚いた表情を見せたジョビンは、「こんなことは初めてだ。美しい女性だからと、ナンパしようとしたら、それが教師と保護者の会議と化してしまうなんて……」とジョークを飛ばし、明るく振る舞ったのだとか。
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