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[2020.12]12月11日はタンゴの日

文●編集部

 毎年12月11日はタンゴの日。ブエノスアイレスはもちろん世界中で様々なイベントが予定されています。

 まず、なぜこの日がタンゴの日かというと、タンゴを世界に広めた歴史的大歌手カルロス・ガルデルと、やはり歴史的指揮者兼バイオリン奏者フリオ・デ・カロの誕生日がこの日だから。アルゼンチンで盛り上がりを見せ、世界にもタンゴの団体が続々誕生しているのに、ブエノスアイレスにタンゴの日というのがないのは... ということで、作詞・作曲家協会(SADAIC)やアルゼンチン作家協会(Argentores)の支援を受けた作曲家で芸術プロデューサーのベン・モルの発案で、ベン・モルがブエオスアイレス市内のたくさんの他の文化団体にも応援を依頼して、市の文化局に申請したのが1965年。

 しかし、タンゴは誕生した頃からずっと、多くのタンゴ・ファンが存在するのにもかかわらず、上流階級の支持が少なかったため、この申請が通ったのが、12年後の1977年(昭和15年)の11月29日、正式に市の条例で認められたのです。この機会に、滅多に聴かないタンゴの「ルーツ」に耳を傾けてみては?

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 カルロス・ガルデルは、1917年に作った「わが悲しみの夜」がラテンアメリカ中で大ヒット、俳優として映画にも出演するようになりました。El Zorzal Criollo(中南米の渡り鳥)と呼ばれるほど世界を巡り、「タンゴ」を本格的に世界に紹介したのです。ところが、1935年、アメリカでの映画撮影の帰途、コロンビアのメデジン空港で離陸に失敗した事故でこの世を去ってしまいました。逆にこれ以来、世界にさらにガルデル・ファンが生まれたと言われます。今年は彼の生誕130周年でもあります。年初からたくさんのイベントが続いてきましたが、この「タンゴの日」イベントもその一つ。

 実はこのガルデルは、長年どこで生まれたのかが、長年論争になっていました。アルゼンチン、ウルグアイのタクアレンボー、フランスのトゥールーズ(あのコンコルドを生産した航空産業のメッカ)... 結局トゥールーズにて出生証明書が発見され、論争は決着しました。とは言っても、それでもウルグアイのタクアレンボーで1887年に生まれたと主張する人もまだ存在しています。60年代はその論争の決着がついていなかったのと、アルゼンチン人でない可能性もあったので、条例に認められなかったのかもしれませんね。しかし、外国生まれではあっても、タンゴを世界に広めるのに、彼ほど貢献した人はいなかったわけですから、とうとう申請を認めた、というのが実情でしょう。

 もう一人、フリオ・デ・カロは1899年ブエノスアイレス生まれ。父親は、フリオにピアノ、弟のフランシスコにはバイオリンを習わせたいと思っていたが、子供たちはやがて、楽器を交換していました。フリオがバイオリンのスターとしてだけでなく、オーケストラの指揮者やタンゴの作曲家としても頭角を現しました。1924年頃から、タンゴの新しいスタイルの確立する6重奏団を結成。ボーカルの「ガルデリアン派」に対して器楽面での代表的な「デカリアン派」として認識されるようになりました。ジャーナリストのフリオ・ヌードラーの言葉を借りれば、「彼はタンゴ・アラバレロの本質を守り、勇敢で遊び心にあふれた創始者たちを、それまで知られていなかった感傷的でメランコリックな表現力で溶かし、クレオール語のルーツとヨーロッパ化の影響を和解させた」のです。

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 しかし、今から考えると、タンゴの歴史の中でピアソラの存在も大きい。彼はタンゴがかなり下火になってしまった70、80年代に世界を相手に新しいタンゴを広めたにも関わらず、アルゼンチンのではなかなか評価されませんでした。もちろん、音楽家たちには大きく評価されていたのですが、ピアソラが本当に世界でも評価され、アルゼンチンでも今のように評価されるようになったのは90年代以降になってからです。その意味ではピアソラの命日である7月4日こそ「新しいタンゴの日」に制定しようという動きは出てこないんでしょうかね。来年はピアソラ生誕100年ですから、ぜひそうなってほしいものですが..。

 さて、今年はコロナの影響で、タンゴの日のイベントは中止?と思いきや、結構今まで通りに行われそうです。まず中心となる祝賀会は13:00、市の中心にあるオベリスコのすぐ近く、アストル・ピアソラ遊歩道で、ラウル・ガレロ、ネストール・マルコーニ、フアン・カルロス・クアッチが指揮し、歌手スサナ・リナルディが特別参加して、「Pa' que bailen los muchachos」、「Tal vez será su voz」、「Dandy」、「Uno」、「Buen amigo」、「Che bandoneón」、「La última curda」、「Buenos Aires, es tu fiesta」、「Viva el tango」、「Don Juan」などの曲を演奏する予定です。

 続いて16:00からは、中心から少し離れますが、大きなセンテナリオ公園のエバ・ぺロン野外劇場で第17回ウーゴ・デル・カリル・コンクールの決勝戦。歌唱部門(女性・男性)、サロンダンス部門、器楽アンサンブル部門(デュオからカルテット、クインテット以降)で競うようです。

 19:00からは、中心部のフロリダ通りとサンタフフェ通りの交差点でやはり市立のシンフォニック・バンドの演奏。エル・フィルールテ」、「タキート・ミリタル」、「グリセル」「ラ・クンプルシータ」などの古典レパートリーが演奏されるそう。パオラ・ラロンド&ビクトル・ニエバのダンスも。

 また、同じ時間に、アグエロ2502番の国立図書館の講堂ではなんとネストル・マルコーニ指揮のエミリオ・バルカルセ・タンゴ・スクール・オーケストラが無料公演を行うそう。

 また、アバスト地区にあるカルロス・ガルデル博物館(カルロス・ガルデルの母親の家で、ガルデル自身も幼少期をここで過ごした=住所Jaures, Jean 735)では11月5日から11日まで、様々なイベントが。5日(土):SNS上で公募した「ガルデルの肖像画」の作品を公開。6日(日)視聴覚作品Gardel Mundialの紹介と、世界のダンサー、歌手、作家、放送作家のガルデルへの評価、証言を。7日(月)、クリスティアン・アサト(ピアノ)とアイレン・パリス(バンドネオン)がライヴトークイベントを開催します。

8日(火)18:00からはタンゴの女性達のライブ・パネル・ディスカッション。トークはシルビア・ブルネリ(パトリモニオBA)がコーディネートし、参加者はヴァニナ・シュタイナー(編集者、作家、文化マネージャー、Tinta Roja Magazineのディレクター)、デニス・シアマレーラ(研究者、歌手、作家、作曲家、Sciammarella Tango:女性オーケストラのクリエイティブディレクター)、マリアナ・ドカンポ(作家、タンゴ教師、ブエノスアイレス国際クィア・タンゴ・フェスティバルの主催者)を予定。

9日(水)は、上記のチャンネルで「ロサリオ・ヴェラ・ペニャローザ」の50人以上の生徒たち子供たちの合唱が聴けます。10日(木)youtubeの同チャンネルでガルデルのコレクターズ・ミーティング。古い蓄音機でガルデルノアルバムを聴きながら彼に敬意を評します。また、Elena Santillan, Guillermo Elias y Leonardo Paludiというアルゼンチンとポルトガルのコレクターが、この博物館の館長Marina Cañardoのコーディネートで、蓄音機を使ってそれぞれの宝物や逸話を紹介します。そして11日は新世代のタンゲーロスを代表する3人の優れた歌手、ヘスス・イダルゴ、エルナン・ヘノヴェーゼ、エステバン・リエラのトリオによるショーの録音を聴き、ガルデルの音楽を再訪します。

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 その他、市のタンゴ専門ラジオ局でも特別番組があるそう。

コロナに負けないブエノスのタンゴ熱が楽しめそう?

 そして、このコロナ禍で被害を被っているのはアルゼンチンのタンゴ界も同じ。以上のイベントは全て無料で開催されるが、ささやかな希望のニュースも。以前、ブエノスアイレスの有名ショッピング街フロリダ通りの中心にあるグエメス・ギャラリーの地下にあったピアソラ・タンゴと、テアトロ・カルロス・ガルデルの「パラシオ・タンゴ」が、先週の金曜日に再スタートすることになりました。芸術プロデューサーは、以前オベリスコ近くの「タンゴ・アルヘンティーノ」でプロデューサーを務めていた、フアン・ファブリ氏。アバスト地区にある「エスキーナ・カルロス・ガルデル」も彼のプロデュースでしたが、これもパラシオ・タンゴにまとめました。ここは11月の最終土曜日に特別なパーティ、12月は第2週末から週二回の営業になる模様。
「以前は毎日営業していましたが、今は週2回の営業になるかもしれません。この状況のため、観光客の大規模な流入はありませんが、この再開では、アルゼンチンのお客を引き付けるために試みるつもりです」と言っています。恒常的なペソ安で、観光客相手の入場料設定が、肝心のブエノスアイレス市民の足をタンゴ・シアターから遠ざけているのが実情で、できれば、入場料は今後も安いままにしてほしいものです。

 この復帰のために予定されているショーは、「エスキナ・カルロス・ガルデル」で、六重奏、5組のダンス・カップルと2組のシンガー、30組近いアーティストがステージに登場します。「市のプロトコルではステージに立つアーティストの数が制限されているため、いくつかの調整をしなければなりませんでした。しかし、番組の質は負けていません。2019年10月にパンデミックが流行る前にモナコに持って行ったそのものです。」と、ガルデルの作品とタンゴの黄金時代へのオマージュを語っています。以前、アバストのエスキーナで行われたものと原案は同じですね。"2つの劇場のほぼ9ヶ月間の明かりが消えているのを見て本当に落ち込みました "と嘆いていましたが、いよいよファブリが動き出しました。

 日本ではいくつかタンゴの日の情報がありますが、今の自粛の中ではほとんど何もできません。大変ですが、まず守るのは自粛と命です。だからしょうがない。あと少し、頑張りましょう!!!

(ラティーナ 2020年12月)

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