[2025.1]Best Albums 2024 ④
2024年のベストアルバムを選んでいただきました!第二弾です。
(カタカナ表記のものは国内盤として発売されています)
●清川宏樹
もちろん音楽に技術や質が大切なのは言うまでもない。だが結局の所、リスナーは文脈や物語性を排して音楽を聴くことはできないし、聴覚を通して表現者の人生観や独自性に触れることを望み、それを喜びとする。いかなる情報・記録へのアクセスも容易になった今、技術の保存だけではもはや音楽は残らない。音楽に新たな価値を与え、その枠組みを押し広げる人こそが、これからの本当の意味での音楽の継承者になるのだろう。そんな思いで作品を挙げた。
最近は音楽に関する文章を書く機会がめっきり無くなってしまったが、本誌がきっかけで以前Juan Pablo Navarroへのインタビューを行った際、印象に残った彼の言葉を挙げ、本稿の締めくくりとしたい。
―「壊すことへのおそれ」を壊さないといけません。時が経てば、その音楽がタンゴに属するのか、ブエノスアイレスの音楽に属するのか、わかることでしょう。
(順不同)
● Ramiro Boero / Neotípico
● Fabrizio Colombo · Lucas Eubel Frontini / L'art du duo
● Hernán Jacinto / Gardel
● ハヤカワ・テルージ・トリオ / カントス
● Don Olimpio / La Olimpeña
● Lucio Mantel / Los Ancestros
● 菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール / Pubis Angelical「天使乃恥部」
● Ricardo Herz Trio / Sonhando O Brasil
● Sonâcias / Eu Vi a Música no Ar
● Carlos Aguirre & Almalegría / Melodía que va
●鈴木一哉
現代タンゴとその周縁から選出(ABC順)。①はタンゴ界の今を牽引するバンドネオン奏者による超弩級作。ディエゴ・スキッシと共演歴ある女性歌手による②は、要注目のマリナ・ルイス・マッタが室内楽的編成(ラミーロ・ガジョ参加)への編曲とピアノを担当。③はタンゴやジャズの要素を融合した現在形ブエノスアイレス音楽を展開。④と⑧では故モサリーニの薫陶を受けた音楽家達がタンゴの革新を目指す。痛切な感情表現が肺腑を抉る⑤は、タンゴという狭いジャンルの枠では捉えられない作品だが、タンゴの感情と技法が深部で身体化されている点からの選盤。ロサリオ市のモダン派五重奏団の3作目⑥は、浮遊感が漂う独自のタンゴ感覚が横溢。⑦はバンドネオン最高峰の巨匠による圧巻のコロン劇場ライヴ。⑨はピアソラ初期のティピカ編成での仕事を現在の感性で蘇生。ノルウェーの若きピアニスト率いる八重奏による⑩は、ポスト・ピアソラの殻を破った会心作。
① Ramiro Boero / Neotípico
② Flor Cozzani (ARREGLOS : Marina Ruiz Matta) / MANZI MORES DE CÁMARA
③ Nicolás Guerschberg, Alejandro Guerschberg / CONTRA LAS CUERDAS
④ ハヤカワ・テルージ・トリオ / カントス
⑤ 喜多直毅クアルテット / III
⑥ La Máquina Invisible / La Máquina Invisible II
⑦ Néstor Marconi, Orquesta del Tango de Buenos Aires / Néstor Marconi con la Orquesta del Tango de Buenos Aires en vivo en el Colón
⑧ Mosalini Teruggi Cuarteto / Tangueada
⑨ Daniel Ruggiero / PIAZZOLLA PARA ORQUESTA TÍPICA
⑩ Håkon Skogstad / 8 Concepts of Tango
●西村秀人(PaPiTa MuSiCa共同代表)
①ラミーロ・ボエロの大編成楽団は待望の1枚。期待を超える内容。②ダニエル・ルジェ―ロの新作はもともとピアソラ生誕100周年プロジェクトだった「46のオルケスタ」時代の再現で、録音されなかった幻のレパートリーを含むところがポイント。③ここしばらく頻繁に来日しているピアニスト、アドリアン・エンリケスのソロ作品で、名曲の新鮮な解釈が素晴らしい。④そのアドリアン・エンリケスが指揮するマヌエル・デ・ファリャ音楽院のタンゴ・オーケストラの初アルバムで、管楽器も多数、ギターが5人も参加するユニークな大編成でタンゴのサウンドを追求している唯一無二の試み。⑤オリジナルの組曲と新作からなるラミロ・ガージョの最新作。ガルデルに捧げた曲、マルコーニに捧げた曲もあってよいが、東京の印象をつづった曲が中国風なのは残念。⑥もともとピアソラ財団キンテートだったグループが、理不尽な解雇に反発してそのまま活動を続けているのだが、しっかり身についたピアソラ・サウンドを聞かせてくれる。⑦ウルグアイの巨人ラダの新譜はコラボ集で、名曲揃いで楽しさ爆発。⑧ラダのバンドにいたこともあるピアニスト、オラシオ・ディ・ジョリオの久しぶりのアルバムで、ウルグアイ風味の実に爽快なインストゥルメンタル・ミュージック。⑨多彩なカタルーニャの歌姫シルビア・ぺレス・クルスと御大フアン・ファルー、待望の共演盤。⑩昨年ピアソラのコンフント9とオラシオ・サルガン楽団の分が出て話題になった伝説の1972年コロン劇場コンサート・ライヴ。今回はパワー全開のセステート・タンゴの分が登場。
(番号は順不同)
① Ramiro Boero orquesta / Neotípico
② Daniel Ruggiero / Piazzolla para orquesta típíca
③ Adrián Enriquez / Piano Tango
④ Orquesta de Tango de Falla / La marca
⑤ Ramiro Gallo Quinteto / Todas las cosas, y el tiempo
⑥ Quinteto Revolucionario / Piazzolla QR
⑦ Rubén Rada / Candombe con la ayudita
⑧ Horacio Di Yorio / Montevideo Indigo
⑨ Silvia Pérez Cruz & Juan Falú / Lentamente
⑩ Sexteto Tango / Concierto Teatro Colón 1972
●吉村俊司
①はオルケスタ・ティピカという形態での新しい表現への挑戦として非常に聴きごたえのあるアルバム。日仏混合トリオによる②ともどもタンゴの今を模索する作品としてぜひ聴いておきたい。一方③は、土台にタンゴを持ちつつもタンゴの枠を飛び出した音の記録。④は様々な音色のギターとアレイムビラ(アフリカの親指ピアノをベースにした楽器)が耳を通じて視覚を刺激する。ザ・ピアノ・エラで出会った⑤も空間的・視覚的な音楽(読みはビュシュラ・カイクチャ)。プログレッシブロックの世界に南米的なリズム、響きが潜む⑥は19年ぶりの新作。⑦⑧⑨はストリーミングで出会った作品たちで、⑦はウルグアイ出身のドラマーとアルゼンチンのピアニストによるスリリングな共作、⑧もやはりウルグアイ出身のギタリストによるリーダー作、⑨は世界中のミュージシャンのコラボレーションによるメッセージ。⑩は本来ラティーナの守備範囲外かもしれないが、拙連載でも取り上げた壮大な作品。
① Ramiro Boero / Neotípico
② ハヤカワ・テルージ・トリオ / カントス
③ 喜多直毅クアルテット / III
④ 清水悠 / K22517
⑤ Büşra Kayıkçı / Places
⑥ ボンデージ・フルーツ / ボンデージ・フルーツ Ⅶ
⑦ Mateo Ottonello, Hernán Jacinto / Mateo Ottonello / Hernán Jacinto
⑧ Beledo / Flotando en el vacio
⑨ Playing For Change / Songs For Humanity
⑩ Kamasi Washington / Fearless Movement
(ラティーナ2025年1月)
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