[2016.12]【YOSHIRO広石 LATIN CONCERT 2016】 LATINとJAZZとBRASILIANのカクテルで 自由と多様性を
文と写真●石橋 純 texto y fotos por JUN ISHIBASHI
YOSHIRO広石の歌手生活60周年記念ライヴに招かれた。50周年コンサートのあたりから、聴くたびごとに彼の歌から余分な力が抜けてきていることに感銘をうける。60年の節目もまた、自然体に磨きがかかっていた。その見事さは、武道の達人のような域にあるように思えた。音に身を任せ、詞と心の赴くままに歌うという佇まいだ。
10年前、50周年ライヴのとある曲中のセリフで、虚空を見つめたYOSHIROが「自由を!」と(そのときは力強く)叫んだのが鮮やかな印象となっていた。その後10年、YOSHIROは「自由」を体現してきたように思う。そのことをYOSHIROは、このたびの舞台において、みずからの言葉で、あるいはショーの趣向をとおして表現してみせた。
ショーの冒頭は「いつわり La mentira」。2013年のアルバム『ウノ』に収録された曲だ。アルバムでは1965年の録音の後に48年後の新録を繋ぐという驚きの企画を試みた。この日のコンサートでは、往年の写真のスライドショーとともに、レコードのスクラッチノイズも派手な65年録音をフルコーラスで聴かせ、それに続いて今のYOSHIROが生でフルコーラスを歌った。本人曰く「若くエネルギーに満ちていた」20代の録音。それはじつに技巧的な歌でもある。直後に70代のYOSHIROが歌う。半世紀の時を経て、この歌手が技巧の練磨の先にそこから離れた歌の境地を達成したことがありありとわかる。
冒頭の3曲につづき、この夜のゲストのひとり川西みつこが登場。円熟したボレロを聴かせた。
第一部の〆としてディセポロのタンゴ「ウノ」、そして先ごろ他界したフアン・ガブリエルの「アスタ・ケ・テ・コノシ」と、YOSHIROが近年こだわる「救いようのない人生に灯るかすかな光」を表現した重い曲で休憩となる。
第二部は「サマータイム」「ミスティ」とジャジーな曲につづいて、もうひとりのゲスト、ノラの登場となる。ノラは持ち場の三曲の冒頭を、YOSHIROと縁の深いベネズエラから来日中のグアコのヒット曲「コモ・セラ」で飾った。ボレロの定番「コンティゴ・ラ・ディスタンシア」そしてパワフルに「キンバラ」と続けた。
左から、ノラ、YOSHIRO、川西みつこ。バックはTOKYO SALSABOR
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