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[2022.9]【連載 アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い㉚】 子供たちに歌わせても、大丈夫? ─ 《Pra mode chatear》

文と訳詞●中村 安志 texto e traduão por Yasushi Nakamura

 中村安志氏の好評連載「シコ・ブアルキの作品との出会い」と「アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い」とは、基本的に毎週交互に掲載しています。今回は、トン・ジョビンがナラ・レオンに乞われて作った子供向けのかわいい作品。しかし、よく聴くと…といった中身の曲です。
 外交官として長くブラジルに滞在し、ご自身もギターを弾気温額を愛する中村氏だから書けるエピソードです。お楽しみ下さい。

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 ジョビンの作品は、もともと学んだクラシックの作曲の延長として試みた作品(主に初期)、ブラジルの50年代の歌謡曲に沿った伝統的スタイルのラブソングの部類のほかに、ボサノヴァと呼ばれるようになった斬新なリズムと和声が響く作品群の中だけでみても、しっとりと慕情を語る歌、悲しい歌、人間の虚栄心に対する皮肉を込めた歌など、様々な世界を描く作品に分かれていますが、わかりやすい子供向けの歌を作った例については、意外に知られていないと思います。

 日本で紹介されているほとんど唯一の例と言えそうなのは、彼の末娘のマリア・ルイーザのために、幼少のマリア・ルイーザ本人と一緒に録音された「マリア・ルイーザのサンバ(Samba de Maria Luiza)」でしょう(1994年のアルバム『Antonio Brasileiro』に収録)。

    ↑「Samba de Maria Luiza」

 この歌は、可愛いくてしようがないという愛娘への格別の情もあって書かれたと言えますし、それこそ唯一の例外ではないかと思われそうですが、今回は、これよりもかなり前、81年に作られたもう1つの作品をご紹介します。

 1981年、ボサノヴァ時代から様々な作品を披露してきた歌姫ナラ・レオンが、童謡や子守唄などを盛り込んだ、子供向けのアルバムの中の2曲を歌うこととなり、その1つをジョビンの曲にしたいとして、依頼したのが、今回ご紹介する「Pra mode chatear(困らせようと)」という歌でした。

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