[2022.2] 新しい会田桃子像の全貌を提示する器楽と歌の2枚組大作アルバム『MOMOKO AIDA』
文●花田勝暁
ポストクラシカル~ジャズ~ワールドミュージック(フォルクローレ / タンゴ)にまたがる新しい室内楽 + 主にスペイン語で歌われる胸に迫る名曲の数々 ⎯⎯ 歌声の魅力にも定評があったバイオリニストの会田桃子が、1枚がインストゥルメンタル、もう1枚が歌のアルバムという、2枚組の大作アルバム『MOMOKO AIDA』を発表した。
インストゥルメンタル・アルバムは、会田桃子のオリジナル楽曲(6曲)が中心となり、録音メンバーの藤本一馬、林正樹、西嶋徹が、新曲を提供した。歌のアルバムは、会田が長年愛着を持って歌い続けてきた楽曲が収録された。
インストゥルメンタル・アルバムは、一聴したところ、参加メンバーでもある藤本一馬や林正樹らが提示してきた「新しい室内楽」と、音世界を共有する部分があると思ったが、聴き進めると、会田桃子の「歌う」ヴァイオリンの魅力によって、別の世界が提示されていると思うに至った。
「タンゴバイオリニスト会田桃子の枠から、ちょっと飛び出したかったというのは正直なところです」というのは、本人談だが、新しい会田桃子像の全貌を提示する強力な大作アルバムが完成した。
この壮大なアルバムの制作に関して、本人にインタビューを行った。
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⎯⎯ 2枚組の大作となりましたが、アルバム制作のきっかけ、とくにキーマンとなっている藤本一馬さんとの関わりについて教えてください。
会田桃子 歌のCDを作らないんですか?としばしばお客様から言われて来て、ずっと録りたいなあと思っていたんです。スペースシャワーさんと、プロデューサー淡中隆さんからアルバム制作のお話を頂いたタイミングで、歌もの8曲、インスト10曲を録音する事になりました。
当初歌ものは配信のみ、後々盤にしようか、と言う話だったのですが、録音を終えてみて、プロデューサーさんから、これは勿体ないから2枚組にしちゃおう!という事になりました。
藤本一馬くんとは、数年前に知り合い、一昨年の初共演からお互いのオリジナル曲を演奏するデュオを重ねていました。このアルバムの中の、一馬くんの参加曲に関しては、DUOから生まれたものが多く収録されています。
藤本一馬カルテットもそうですし、クアトロシエントスのメンバーともゆかりが深い一馬くんでしたので、ここは、クアトロシエントスと、そしてそこに、みんなとも縁の深い、私が1番信頼して尊敬する岡部洋一さんに参加頂いた感じです。
録音メンバー的には、「クアトロシエントス + 藤本一馬」に見えるかもしれませんが、クアトロシエントスに藤本一馬くんが入った、と言うより、むしろ一馬君とのDUOに、みんなが重なってくれた、印象の方が強いです。
ミキシングやマスタリングの音作り、その他エディットまで、一馬くんがやってくださり、彼の力なしには作れなかったアルバムとなりました。
⎯⎯ インスト・アルバムの方は、こんな音世界を築きたいというイメージは、事前にありましたか?
会田桃子 フォルクローレ・テイストの新曲が多かったので、全体的にフォルクローレ色が印象として強いかもです。
とにかく、もうタンゴバイオリニスト会田桃子の枠から、ちょっと飛び出したかったというのは正直なところです。
タンゴの様に強い衝撃だったり心を動かされる、というアルバムではなく、ずっと心地よく聴いていられる様な世界は作りたかったかもです。
⎯⎯ フォルクローレ・テイストのオリジナル曲は、以前から書き溜めていたんですか?
会田桃子 1曲はそうですね、5年前くらいに書いたもので、「Huayño oriental」という曲は一馬くんとのDUOでやり始めていて、レコーディングでは全員入ってもらった感じです。
⎯⎯ その「Huayño oriental」は、どんなきっかけで出来た曲だったんですか?
会田桃子 もともとワイニョのリズムで曲を書いてみたいと思っていたんです。
山下Topo洋平さんと、ギターの智詠さんと昔トリオでやっていたフォルクローレのバンドでワイニョの曲を色々演奏していた時から、書けたら良いなと思っていました。レコーディング曲に入れる事も想定して、書き上げた感じです。
⎯⎯ 藤本一馬さんが「Shadows and Echoes」、林正樹さんが「茜色の鈴」、西嶋徹さんが「Desde la Ionosfera」という曲を提供されています。共演者から提供されたオリジナル曲の3曲は、新曲ですか? こういう楽曲が欲しいというようなイメージは、何か伝えましたか?
会田桃子 全て新曲です。こちらから、どの様な曲が良い、という依頼は全くしていません。
⎯⎯ 会田さんが新しく作りたい音楽像というのが、共有できていたということなのでしょうか?
会田桃子 いや、言葉では、何も共有はしてませんでしたが、全員、私のアルバムに入れるなら、と言う想定で書いてくれました。
私は想像以上にものすごく素晴らしく、三人三様、全く違った雰囲気でありつつ、私をイメージしてくれて書いてくださったというところ、非常に感動しました。
⎯⎯ 自身のオリジナル曲、共演者による新曲に囲まれて、1曲だけ、古典タンゴ「Sueño de juventud」を録音しています。この曲の選曲理由はどういったものですか?
会田桃子 たまたまなんです…(笑)。もともと、書き溜めていたものに、「Canaro en París(パリのカナロ)」のアレンジや、ガッツリタンゴ的なオリジナルもあり、それらが候補になかったわけでは無かったのですが、並べて考えてみたら全部外す事になった感じで、「Sueño de juventud」だけは、割と浮遊感ある編曲にしていたので入れても大丈夫そうかなーと思い、選曲に残りました。
⎯⎯ 録音は何日間でしたか?
会田桃子 録音は四日間で全18曲をダビング含めて録りました。
「Sueño de juventud」「Vals de su vida」「Soledad」「夏の幻」は、私が第一バイオリン、第二バイオリン、ビオラを弾いています。チェロの徳澤青弦くんと第一バイオリンをまず録って、あとから第二バイオリン、ビオラを被せました。
⎯⎯ 弦楽四重奏分を2人で録音したということですか?
会田桃子 そうです! 「Sueño de juventud」「Vals de su vida」に関しては、北村聡くんが、第一バンドネオンと第二バンドネオンの両方をダビングで入れてくれました。
⎯⎯ 録音の時のことについて教えてもらえますか?
会田桃子 aLIVE RECORDING STUDIOというスタジオで録音しました。大体ブースに分かれて録音しました。ブースには分かれていましたが、クリックを使ったのは3曲で、あとは、「せーの」で録っています。
⎯⎯ 前作のソロアルバム『Al cielo desierto』との違いはどんなところにあると、ご本人としては考えていますか?
会田桃子 『Al cielo desierto』はやはりタンゴのアルバムなので、今回のとは全く違うかなと思います。
それから、藤本一馬くんの影響がかなり強く出てると思うので、これまでのアルバムたちとは全然違った趣になったと思います
⎯⎯ 藤本一馬さんの音楽のどんなところに惹かれていますか?
会田桃子 彼の人間性と同じで、果てしなく優しいところですかねえ(笑)。彼との共演で、明らかに私の中の何かが大きく変化したのは間違いないと思います。こんなにも穏やかに、自然に音を奏でられるようになったのは、一馬くんとの出会いのお陰です。子供を産んだ頃から、私の表現したいものがだんだん変わって来たのもあるかもしれませんが、ここに来て、一変したという感じです。そんな音が収録されてるんじゃないかな……。
⎯⎯ はい、確かにそんな音を聴くことができます。
今度は、歌のアルバムについて少しおうかがいしたいです。選曲の基準などはあったのでしょうか?
会田桃子 歌のアルバムは、「Alfonsina y el mar」以外、ずーっとレパートリーとして歌って来たものです。
「El dia que me quieras 」「Por la vuelta」「El último café」 といった曲はもう15年来、歌って来ている曲です。
⎯⎯ 先行シングルとしても発表された「Nada」は、歌う会田桃子としての代表曲だと思いますが、この曲を歌う時は、どんなことを考えているのですか? 「Nada」は、録音は会田さんと藤本一馬さんのデュオですが、アレンジはピアニストの林正樹ですね。
会田桃子 林くんのアレンジのナダは、『Al cielo desierto』 でピアノ一本でやってもらい、そのアレンジを今回ギターで一馬くんに弾いてもらいました。少しギター的な動きでアレンジも加えて演奏してくださいました。
「Nada」は歌詞はとても悲しいのですが、メロディと歌詞から生まれるタンゴのグルーブ感が半端なく、だれの心も掴んでしまうサビと言い、本当によく出来た作品だなあ……と歌うたびに思います。
⎯⎯ アルバム・タイトルが、ずばり『MOMOKO AIDA』です。どんなアルバムが完成したという気持ちですか?
会田桃子 そうですね……、タンゴ以外の音楽、そして歌手として、今の自分の集大成的なアルバムにはなっているかもしれないです。
そこに1番重要なのは、どれだけ周りに素晴らしいミュージシャンたちに恵まれているか、と言う点。
こんな素晴らしすぎるミュージシャンたちとの共演、私は幸せすぎるなあと、改めて感じます。
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(ラティーナ2022年2月)
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