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[2021.04]加藤登紀子 ビルボードライブ横浜ライブレポート

文●東 千都(ラティーナ編集部) 
写真提供●(株)トキコプランニング

 3/30(火)ビルボードライブ横浜で加藤登紀子のライブが開催された。

 黒い衣装で統一したサポートメンバーに続き、大きな拍手に迎えられ加藤登紀子もステージに登場。メンバーと同じく黒で、赤の模様が入ったドレス、ステージ後方もドレスと同じ色調となり、鬼武のピアノが始まる。映画『紅の豚』の挿入歌であるシャンソンの名曲「さくらんぼの実る頃」からライブはスタート。さすがキャリア55年を越えるベテラン歌手、ステージに立つだけでその空気を一気に変える。
 ステージから観客一人一人に向かって、微笑みながら会釈しながら歌っている。これはビルボードライブという会場だからこそ生まれる親密さであろう。
 フランス語と日本語を交えながら叙情的に歌い上げる。続いて「デラシネ」とフランスに関係する曲が続き、映画の世界に引き込まれるような感じで、観客の心を鷲掴みにする。

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 曲が終わりトークタイム。開口一番に「すべては偶然なのよ」と。今日ステージに向かう時にそう呟いたそう。昨日の満月を見たのだが、それはふと窓を開けたから見えたとのこと。

窓を開けなければ月も見えないし、満月だということも知らなかった。
すべては偶然なのよ…
(サポートメンバーの)鬼武みゆきを「かぐや姫」と呼んでいます。
昨日は朧月だったら大丈夫だけど、月が煌々としていると帰ってしまうのではないかと心配してます(笑)

考えてみたら、コロナ禍になって一年も経ったんですよ。
私はほっつき歩くのが大好きなんだけど、家にいるのが身につきました。
一日中私相手に暮らしているの。どう思う?(笑)

大変だけど、こんなにゆっくりした時間で自分と向き合えるなんてないこと。一人で55周年を祝いました。時間があるから、自伝(「登紀子自伝 ~人生四幕目への前奏曲」)も丁寧に書きました。
曲も作りました。次に歌う曲は、2020年4月13日に作った歌です。
「この手に抱きしめたい」

 コロナ禍で、毎日の感染者は数字で意識するようになっているんじゃないか。突然コロナに罹ってしまい苦しんでいる人やその家族のことをもっと大切に考えなくてはいけないのではないか。守りたい人のそばにいて、抱きしめることも触れることができない。身内にとって、とても辛い事。また防護服を着てその方達を守っている医療関係者の方々にも感謝したい。その人たちの事を考えて作った曲である。
 サビの歌詞
「生きるために 生き抜くために 私ここに あなたのそばにいます」
はまさに、この曲が作られた当時、我々も強く感じていたことである。
その当時の不安な気持ちや自分たちの無力感といったものを思い出し、胸にこみ上げてくるものがあった。

 会場の気持ちが高まったところで次は「未来への詩」。NHKのラジオ深夜便のうた(2020年4~5月)として放送されていた曲。歌手生活55周年を記念するシングルである。劇団ひまわりと次女のYaeもコーラスで参加しているバージョンで。2020年の5/13に発売された曲、やはりこのコロナ禍においては、これらの歌詞が胸に刺さる。

どんなに暗い夜にも 朝が来るように

生きるすべての人に 幸せが来るように

Pray Forever, Sing For Future
祈り歌い継がれた 未来への詩が…

 先ほどの曲と同様、最近の曲だからこそなのか、メッセージがストレートに胸に来る。伸びのある声、ヴァイオリンの音色がその感情をさらに高める効果となっている。バンドメンバーのコーラスも入り、ステージ全体からその想い「Pray Forever, Sing For Future」が伝わってくるかのようだ。
 歌い終わると客席からは大きな拍手が。やはり観客にもその想いが伝わっているのだろう。

「祈り続け、未来のために歌う」
手を差し伸べ心捧げるということでこの歌詞を作りました。

 ステージには次の弾き語りのためにアコースティックギターが登場し、それを持ちながらトーク。毎月11日に土の日としてYoutube配信を行っていることなどの近況報告。土という漢字は、+と−でできている、つまりプラスマイナスゼロともいえるので、ゼロから始めるという意味でも配信をスタートしたそう。
 先日の3月の土の日配信ライブは一人で屋上から行った。東日本大震災から10年が経過し、その想いを込めて配信を行った。


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 次は、69年リリースで加藤登紀子の原点とも言える歌「ひとり寝の子守唄」、そして大ヒットした「知床旅情」を弾き語りで歌う。「知床旅情」の後半部分では、バンド演奏も加わり、スケールがさらに大きくなる。
曲が終わると、再びトークへ。

「歌は自分のために歌う」
何かに対して歌っていても、それと自分が一体化するので結局自分のために歌うことになる。自分の中にどうしても歌が込み上げてくる時が何回かあった。それもすべて偶然だったなと思い返します。
3/11からちょうど10年。3/11から1週間経って作った曲「今どこにいますか」を歌います。この曲がどうやって考えついて作ったかは今は思い出せません。

 「今どこにいますか」を、引き続き弾き語りで。当時のことを鮮明に思い出させる歌詞で、またもや胸にこみ上げてくる。

明日は来る 必ず来る
太陽はまわってる
出来ることをひとつずつ
またひとつ 積み上げて

 最後はバンドメンバーもコーラス参加し、さらにグッとくる。

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 次の曲「命結-ぬちゆい」について。福島第一原発の影響で全村避難になった福島県飯館村を2011年5月25日に加藤登紀子が訪れた時に作った曲。20年前から飯館村とは交流があったので、村を離れる全員に向けて歌ってほしいということで訪れたが、津波の被害は無く、美しい景色がそのまま残っていることに絶句したとのこと。何も失っていないのに、原発の影響で故郷を離れなければいけなくなった人々に対し、何が歌えるのか?何を言えば今日来た意味があるのか?と思い作った歌。
 沖縄では命を「ぬち」と言う。沖縄の方言の優しさと暖かさに包まれた歌を作れないかと思い、その場で歌詞を作ったそう。

 村民に寄り添って作られた歌詞、所々入る沖縄音階が胸に沁みる。トークで「歌には命が宿る」と言っていたが、この歌を聞くとまさにその通りだと実感する。胡弓の音色によりさらに胸を締め付けられる。

 弾き語りが終わり再びトーク。

 加藤登紀子は満州生まれ。彼女のお父さんは「故郷を失うことは悲しいこと」だと言っていた。前述の飯館村についての話にも通じる。

 歌手としていろんなところに行きながら、「私が故郷、歌が故郷」だと思うことがある。そして、今までの歴史の中でも、音楽だけは故郷の代わりになると思う。

 次は故郷の歌とも言える「悲しき天使」。ロシアの歌謡曲で誰もが聞いたことのある歌。ステージ上を行き交いながら歌い、観客も手拍子で応える。
最後は徐々にテンポアップし、「ライライライ〜」と観客はマスクの中から参加する。盛り上がったところで次の曲「愛の讃歌」のヴァイオリンとピアノの前奏が…。会場の気持ちが一気に高まるのを実感する。
 圧倒的な歌唱力で胸が揺さぶられ、自然と涙が出てくる。ライブで泣くことはあまりないのだが、何ともいえない感情が込み上げてくる歌。私は作詞岩谷時子バージョンに聞き慣れており、初めて生で作詞加藤登紀子バージョンを聞いたのだが、これもまたすごく良い!(同じ“ときこさん”ですね!)

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歌があれば生きられるということで歌ってきました。
今年の7/18にコンサートやります。「時には昔の話を」というタイトルで。
29年前の7/18は映画「紅の豚」の初日でした。
これも偶然ですね。是非いらしてください。

 最後は「紅の豚」のエンディング・テーマである「時には昔の話を」。
当時映画を観に行ったことや、その頃の懐かしい思い出などが頭をよぎる。

 大きな拍手に見送られ一旦ステージから去るが、そのまま拍手は続く。そして再び登場し、アンコールは「百万本のバラ」から。代表曲の一つとも言える歌。リリースから30年以上経っているが、今でも当時と変わらぬパフォーマンスである。むしろ当時よりも円熟味が増し、それがこの歌の世界を更に広げているのではないか? 歌い続けるということはこういうことか、と納得させる歌唱力。観客もずっと手拍子で盛り上げている。

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 「まだ時間ある?」と確認しながら、ギター告井の掛け声で最後の曲「歌いつづけて」が始まる。前の曲「百万本のバラ」と同時期の曲。アップテンポで、ギターがキーになる曲だ。最後まで手拍子が続き、会場は最高潮に盛り上がり、ライブは終了した。

7月18日のコンサートが無事にできるよう日々元気に過ごしましょう。
ほんとにありがとう!


 最後に、個人的な話で恐縮だが、私の母はお登紀さん(敢えてこう呼ばせていただく)の大ファンである。歳もほぼ同じで、同じ満州生まれということで、母が勝手にシンパシーを感じているだけなのだが。地方在住のため開催は少ないが、私が小さい頃からお登紀さんの「ほろ酔いコンサート」には足繁く通っていた。その頃はよく分かっていなかったから、「何が面白いんだろう?」と思ったものだ。帰って来るとしばらくは機嫌が良かったので、それはそれで助かっていた(笑)
 今回お登紀さんのライブを初めて観て、母が好きな理由がわかった。心に栄養を与えてくれる効果があるのだ。毎日を淡々と過ごしていると、感情がこんなにも揺さぶられたり、歌を聴いて涙が出てくるということはあまりない。それほどお登紀さんのパフォーマンス、溢れ出るパワー、感情を直接受け取れる機会がいかに大切かということがよく分かった。
 今度の7月のコンサートには母と一緒に観に行きたいと強く思った。


セットリスト
1. さくらんぼの実る頃
2. デラシネ
3. この手に抱きしめたい
4. 未来への詩
5. ひとり寝の子守唄
6. 知床旅情
7. 今どこにいますか
8. 命結-ぬちゆい
9. 悲しき天使
10. 愛の讃歌
11. 時には昔の話を
アンコール
1. 百万本のバラ
2. 歌いつづけて
サポートメンバー
告井 延隆 / Nobutaka Tsugei (Guitar)
鬼武 みゆき / Miyuki Onitake (Piano)
渡辺 剛 / Tsuyoshi Watanabe (Violin)


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