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[2024.5]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2024年5月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。


20位 Yīn Yīn · Mount Matsu

レーベル:Glitterbeat [14]

 オランダ人の4人組バンド、YĪN YĪNの3作目となる最新作。2019年リリースの1stアルバム、そして2022年の2ndアルバムは世界的にも高く評価されたが、その時のメンバーの1人は脱退、新メンバーを迎えてベルギーの田園地帯にある彼らのスタジオでレコーディングされた。クルアンビンとクラフトワーク、東南アジアのサイケデリアやオリエンタルな雰囲気がありつつ、YMOや80年代のディスコソング、シティ・ポップなど日本的な要素もミックスされた不思議な感じの作品。突然「Takahashi, Takahashi〜」とコーラスされ、えぇっ?(高橋幸宏さんのこと?)と驚いてしまった。収録曲が「Takahashi Timing」「Tokyo Disko」「Komori Uta」など、「日本」を想像させる。アルバムタイトル『Mount Matsu』の「Matsu」は日本語そのまま「松」で松の木を意味し、再生と未来への希望の象徴としているそうだ。ジャケットも富士山を彷彿させているし、本作のテーマはまさに「日本」と言えるだろう。そして、上記動画もどことなく観たことがある!「クイズダービー」を想像してしまうのは私だけではないはずだ。
 ポップでサイケデリックではあるけれど、箏も使われていたり、ゆったりとしたオリエンタルな楽曲もあって、聴いていてとても楽しい。聴きながら彼らのライヴを観たいな〜と思っていたら、なんと今年のフジロックに出演するではないか!これはぜひ観たい!!!

19位 Lass · Passeport

レーベル:Chapter Two [-]

 セネガル出身フランス在住のアフロポップ歌手 Lass の2作目となる最新作。2022年リリースの1stアルバム『Bumayé』も本チャートにランクインし国際的にも高評価を得た。その時のル・モンド紙は彼を「現代アフリカ音楽の有望な大使」と評したほど。
 それから2年が経過した本作でも、前作同様エレガントな歌声を披露している。前作よりメランコリックでキャッチーな要素が多いが、ダンサブルなアフロビーツのリズムは健在。キューバ人ピアニストのロベルト・フォンセカ(Roberto Fonseca)、カリブ海の島マルチニークのルーツを持つフランス生まれのミュージシャン、ダヴィド・ウォルターズ(David Walters)もゲストで参加しており、アフリカだけでなくカリブ、フレンチ・カリビアンも感じられる作品。
 アルバムタイトル『Passeport』とはまさにパスポートのことで、アフリカか大陸から外に出ることはなかなか認められないアフリカ各国のパスポートについて疑問を投げかけているとのこと。どこか哀愁的であったり、楽観的な楽曲が混在しているのは、結果的にセネガルからフランスに辿り着いた彼自身のストーリーも表現しているのではないだろうか。
 聴いていて飽きない楽曲ばかり、そして彼の豊かで力強く美しい歌声にどんどんハマっていく。歌がうまいのはもちろん、声の柔らかさ、エレガントさにうっとりしてしまう!今月初登場だが、来月は上位にランクインしていることだろう!

18位 Asmaa Hamzaoui & Bnat Timbouktou・L’Bnat

レーベル: Ajabu! [-]

 モロッコの民族音楽グナワ音楽の女性として第一人者である若手ミュージシャン、アスマー・ハムザウィと彼女のバンドであるブナット・ティンブクトゥによる最新作。本作が2作目となる。
 モロッコ・カサブランカで音楽家の父とダンサーの母から1998年に生まれたアスマーは、幼い頃からゲンブリ(3弦のリュート)を習ったり、父親のバンドにも加わったりしてきた。グナワの儀式に女性は欠かせないが、グナワ・ミュージシャンとしての女性はほとんどおらず、ましてや女性だけのバンドはなかったそうだ。2012年に女性だけのメンバーでバンドを結成、2017年グナワ音楽のメッカであるエッサウィラで開催されたグナワ・フェスティバルに出演しブレイクした。以降世界のフェスにも出演、世界に新世代のグナワ音楽を紹介している。今年のWOMADにも出演予定で、期待されている存在。一方で、伝統を重んずる一部のグナワ伝統主義者に反対されてもいる。
 低音のゲンブリとリズミカルなカルカバ(鉄製のパーカッション)が催眠術のように続きググッと引き込まれる。「砂漠のブルース」とも言われるグナワ音楽特有の楽曲に、アスマーの表現力豊かなリードヴォーカルと、メンバーのコーラスが加わりじっくりと陶酔できる作品。グナワ音楽の不思議な感じが体感できる内容だ。伝統を存続させたいと願う彼女たちの熱い思いが伝わってくる。このまま活動を続けて欲しいと願うばかりだ。

17位 Dele Sosimi & The Estuary 21 · The Confluence

レーベル:Wah Wah 45s [-]

 ナイジェリアにルーツを持ち、英国を拠点に活動するミュージシャン Dele Sosimi(デレ・ソシミ)の最新作。デレはフェラ・クティのエジプト80の元バンド・メンバーであり、フェラの息子フェミ・クティとともにフェミのグループ Positive Force の共同創設者でもある。まさにアフロビートとともに活動してきたミュージシャン。
 本作は、Get Cape. Wear Cape. Fly 名義で活動していた英国出身ミュージシャン Sam Duckworth(サム・ダックワース)とのプロジェクトにより制作された。2人は、ナイジェリアのラゴスで毎年開催されるフェラ・クティのイベント Felabration 2012 で知り合ったが、実際に共演することになったのは10年近く経過したパンデミックのロックダウンの時となる。2021年からセッションを重ね、EP『The Confluence EP』を2023年にリリース。本作はそのEPに収録された6曲を含め新たに5曲を加えた作品で、サムがプロデュースを担当。
 デレの根底にあるアフロビートに、ジャズ、ソウル、R&B、ファンクなどが融合していて、めちゃくちゃカッコイイ!ジャンルでは括れない、新たな領域の洗練されたサウンドをたっぷり堪能できる。共同名義のバンド「The Estuary 21」には、2人とそれぞれ一緒に活動してきた実力派ミュージシャンたちも参加し、豪華なビッグバンド編成となっている。また英国で伝説的ラテンパーカッショニスト Snowboy も特別ゲストとして参加。
 61歳のデレと、38歳のサムによるコラボ。お互いをリスペクトし合っているからこそいい音楽ができたのだろう。素晴らしい作品。

16位 Avalanche Kaito · Talitakum

レーベル:Glitterbeat [-]

 ベルギー・ブリュッセル在住のトリオ、アヴァランチ・カイトの2作目となる最新作。2022年リリースの前作となるデビュー作も本チャートにランクインし、世界のいくつもの著名なフェスティバルにも招聘され、国際的にも評価された。
 彼らは自身の音楽「グリオ・パンク・ノイズ」と呼んでいるが、本作でもそれは健在。一曲目から、不協和音を基調とした楽曲でスタート。ノイジーなのだが、嫌にならないのが彼らの音楽のとても不思議なところ。アフリカの民族楽器が使われ、繰り返される楽曲のせいなのか、本作も中毒性のある作品となっている。
 タイトル『Talitakum』(タリタクム)には、ヴォーカルの Kaito Winse の故郷ブルキナファソの言葉であるムーア語で「死者よ、蘇れ!」という意味が込められているそうだ。彼らの不協和音によって、先祖たちは静かに休んではいられないだろうが…。
 本作もまたハマっちゃう作品です。ご注意を。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

15位 Maliheh Moradi & Ehsan Matoori · Our Sorrow

レーベル:ARC Music [17]

 イランの女性ミュージシャン、マリエー・モラディと、イランの作曲家エフサン・マトーリのデュオ作品。
 1979年のイラン革命以来、イランでは女性が公の場で独唱することは禁じられてきた。数年前から徐々に規制が緩和され、公の場でアンサンブルとして演奏することはできるようにはなったが、男性歌手が同席しているのはまだ制限されているようだ。芸術的な表現にこのような制限があることは非常に抑圧されていると言える。しかし、マリエーはこのような抑圧に抗いながらも自身の声を世間に届けようと決意したアーティストである。
 音楽一家に生まれた彼女は、幼い頃から歌とトンバク(イランのゴブレット型の打楽器)の演奏を学んだ。その後テヘラン音楽院でシタールを学び、イラン音楽と演奏芸術への理解を深めた。17歳で初めてステージに立った後、彼女の音楽に対する情熱はより深まったが、女性に課せられた制約が彼女にはとても耐え難いものであった。そこで彼女は、不本意ながらも大切な夢を実現するという固い決意を胸に、祖国イランを離れるという大胆で勇敢な選択をした。アメリカに移住し、制限から解放された彼女はより音楽に打ち込むことができ、やがて著名な作曲家でありコラボレーターでもあるエフサン・マトーリとの出会いにつながった。
 本作は、2019年の弾圧に対する抗議行動などからインスピレーションを受け、マリエーの綴った手記をベースにマトーリが作曲した。イランの伝統的な楽曲に見事に変換しており、イランの女性が直面する抑圧に光を当てた作品。マリエーの美しくもあり強くしなやかな歌声が、心からの叫びを表現しているようで、胸を鷲掴みにされる。彼らの覚悟が感じられる作品。
 彼女はいつかイランに戻って同胞たちの前で歌いたいと言う。その時が早く来ること、無事にそれが実行できることを強く願いたい。

14位 Tarek Abdallah & Adel Shams El Din · Ousoul

レーベル:Buda Musique [6]

 エジプト最北端の都市アレクサンドリア出身で、現在はフランスを拠点に活動を行っているウード奏者/作曲家のタレク・アブダラーと、同じくアレクサンドリア出身でやはりフランスで活躍する打楽器奏者アデル・シャムズ・エル・ディンのデュオ最新作。2015年リリースの前作『Wasla』以来、9年ぶりのリリースとなる。前作タイトルにもなった「Wasla」とは、19世紀後半から20世紀前半にかけて主に演奏されていたエジプトにおける組曲形式の古典音楽のことで、本作でもこのWaslaのスタイルを踏襲した作品となっている。
 アデルの打楽器は、アラブのフレームドラムで「リク」と呼ばれる楽器。基本的にはウードとリクによるシンプルな楽器編成のインストゥルメンタル演奏となっている。リクの響きが何とも心地よく、ウードの音色やメロディととても相性が良い。古典音楽ではあるが、詳しくない人にも気持ちよく聴ける楽曲ばかり収録されている。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き)

13位 Nancy Vieira · Gente

レーベル:Galileo Music Communication [18]

 北西アフリカの西の沖合、大西洋上の島々からなる国、カーボベルデ出身の歌手ナンシー・ヴィエイラの最新作。1995年にデビュー作をリリース、本作は7作目となる。2018年リリースの前作『Manhã Florida』も好評を博したが、本作はそれ以来のリリースとなる作品。
 2019年にユネスコ無形文化遺産に登録されたカーボベルデの国民的音楽モルナ(Morna)を歌い続け、カーボベルデの代表として世界各地で歌っている。本作では、モルナをはじめ、フナナー(funaná)といった伝統的なカーボベルデの音楽はもちろん、ポルトガルやアフリカ、ブラジル音楽などのエッセンスが加わった楽曲をアコースティックに展開。また、ゲスト陣も豪華で、ポルトガルのSSWアントニオ・ザンブージョ(デュエット曲が美しく、彼の歌声にもうっとり…)、モザンビーク生まれでポルトガル在住のベテランミュージシャン、アメーリア・ムージ(二人のハーモニーが美しく、アメーリアの巻き舌に圧巻!)、アンゴラ出身でセンバ(アンゴラの伝統音楽)を代表するミュージシャン、パウロ・フローレス(彼の味わい深い声とナンシーの歌声が絶妙にマッチ!)、ギニアビサウ出身で世界を渡り歩き活動しているミュージシャンのRemna、ポルトガルのフナナーバンド、FogoFogoなど多彩なミュージシャンが参加している。この面々を見ると、まさにポルトガル語圏の音楽「ルゾフォニア音楽」の集大成とも言えるだろう。
 カーボベルデの音楽的伝統を守りながらも、彼女独自の世界を新たに再構築しており、とても優雅で魅力的な作品に仕上がっている。

↓国内盤あり〼。(日本語解説/帯付き。LPもあり)

12位 Kiran Ahluwalia · Comfort Food

レーベル:Six Degrees [-]

 インド生まれでカナダ在住の女性ミュージシャン、キラン・アフルワリアの8作目となる最新作。現在はニューヨークとトロントを行き来しながら音楽活動をしている。カナダの音楽アワードである、JUNO賞を二度も受賞している実力派アーティスト。 子供の頃一家でカナダへ移住し、幼少の頃からインド音楽をはじめとした音楽を習得、大学卒業後には実際にインドにも行きあらゆるインド音楽の勉強を行った。デビュー後は世界中で公演し、これまでティナリウェンやジャスティン・アダムズなど多様なジャンルのミュージシャンたちとも共演、高く評価されている。
 彼女を支えるバンドは、エレキギター、アコーディオンやオルガン、タブラ、ベース、ドラムからなる6人編成。リーダーは、彼女の夫でもあるパキスタン系アメリカ人ギタリストのレズ・アバシ。毎年開催されるダウンビート国際批評家投票で常にトップ10に入る名ギタリストである。
 彼女の音楽は、インドの伝統的な歌唱法と、西洋のロックやジャズなどがミックスされた楽曲で、彼女の大陸を越えた生い立ちを反映している。本作でもそれが表現されており、聞いていてとても不思議な感覚。歌い方一つで聴こえ方がこんなに変わることに驚く。マサラミックス(スパイスみたい!)の音楽と言われるのも納得だ。
 ポップなワールドミュージックとなっているが、本作ではプロテストソングも歌われている。ヒンドゥー原理主義や民族ナショナリズムに抗議する力強い曲、インドでのニューデリーで行われた女性だけの平和的抗議活動で、警官が女性たちに暴力を振るったことに対して抗議している曲など、大陸を超えて活動してきた彼女の情熱やエネルギーが感じられる作品。

11位 Les Amazones d’Afrique · Musow Dance

レーベル:Real World [8]

 2014年にマリ・バマコで、マリの有名な音楽家であり社会変革活動家でもある3人の女性(ママニ・ケイタ、ウム・サンガレ、マリアム・ドゥンビア)によって結成されたユニットの最新作。2017年リリースのデビュー作はオバマ大統領の目に留まりその年のお気に入り20曲にアルバムの中の1曲が選ばれたりして話題となった。続く2020年の2nd作品も好評価だったが本作はそれ以来の作品で三作目となる。どの作品も3人だけではなく、マリ以外のアフリカ出身の(ベナン出身のアンジェリーク・キジョーや、コートジボワール出身のドベ・ニャオレ(Dobet Gnahoré)など)女性ミュージシャンがゲストとして参加している。本作でもベナン出身のファファ・ルフィーノや、ブルキナファソ出身のカンディ・ギラ(Kandy Guira)、ドベ・ニャオレ(Dobet Gnahoré)などが参加。
 アフリカで行われている女性への性的暴力、教育の欠如、強制結婚などの不平等に対し当初から真正面から取り組み、それを音楽的に表現、国際的に発表することで、男女平等を訴えている。今では世代や出身国を超えた女性アーティストが結集し、それをアフリカ全体の問題として捉えている。芸術的にも信念としてもとても素晴らしいが、何よりも彼女達の強く美しい歌声、ハーモニーが強く刺さる。そして、どの収録曲もカッコいい!
 本チャートにソロでもランクインするアーティスト達がコラボレーションしており、とても聴きごたえあり!このメッセージが世界的に広く伝わることを強く願う。

10位 V.A. · Congo Funk! Sound Madness from the Shores of the Mighty Congo River (Kinshasa / Brazzaville 1969-1982)

レーベル:Analog Africa [26]

 アフリカ音楽のメッカとみなされたコンゴ音楽の黄金期である70年代の音源を中心としたコンピレーションアルバムがランクイン!アフリカ音楽のレア音源を復刻することで人気のドイツのレーベル “Analog Africa” からのリリース。
 アフリカ中央部を流れるコンゴ川沿いにあるコンゴ民主共和国(旧ザイール国)の首都キンシャサと、対する北岸にあるコンゴ共和国の首都ブラザヴィルに実際に行って集めた音源約2000曲から厳選した14曲のファンク系ナンバーが収録されている。二つの都市のさまざまな側面を紹介し、有名無名を問わず、ルンバを新たな高みへと押し上げ、最終的に大陸全体、そして世界の音楽に影響を与えたバンドやアーティストにスポットを当てている。
 当時の音源にどっぷり浸れる貴重な作品!

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き、LPもあり〼)

9位 Ana Lua Caiano · Vou Ficar Neste Quadrado

レーベル:Glitterbeat [11]

 1991年生まれ、ポルトガル・リスボンを拠点に活動する作曲家/歌手/マルチ楽器奏者のアナ・ルア・カイアーノのデビュー作。2022年にリリースされた2作のEPと、同年のWomexに出演したことで、ヨーロッパはもとより世界で高い注目を集めることになった。
 13歳までクラシックのピアノを習い、その後ジャズ音楽学校で4年間学んだ。15歳のときに作曲を始め、いくつかのバンドで作曲と歌を担当、シンセサイザーを演奏した作品へと繋がっていった。そして、パンデミックによるロックダウンにより、独りで音楽制作することになった。他のミュージシャンと一緒に演奏することができなかったため、自宅でエレクトロのテクスチャーやクラブ風のビートを試し始め、エレクトロニックとポルトガルの伝統音楽を融合させる楽曲を制作。伝統音楽はファドのことではなく、口頭で伝えられ田舎で歌われていた音のことだという。ボンボやブリンキーニョといった伝統楽器を使い「カンテ・アレンテジャーノ」と呼ばれるポルトガルの伝統音楽をベースしたオリジナルを作曲。そこにエレクトロニックの要素を加味し、静寂と激動、伝統と先進など相反する要素を取り込んだ、唯一無二なサウンドを作り出した。
 実験的でありながら、伝統的な要素も感じられる。彼女は「伝統音楽は、世界とともに進化していくものだと信じている」と言う。それが見事に表現された作品。今後も注目のアーティストが登場!

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き、LPもあり〼)

8位 Jembaa Groove · Ye Ankasa | We Ourselves

レーベル:Agogo [-]

 ベルリンを拠点に活動する7人組バンド、ジェンバー・グルーヴの2作目となる最新作。ベーシスト/作曲家のヤニック・ノルティングと、シンガー/パーカッショニストのエリック・オウスによって2020年後半に結成された多文化バンドで、ベルリンのアンダーグラウンド・ミュージック・シーンのフレッシュなサウンドと、ガーナやマリの西アフリカの伝統的なサウンドを融合させている。2022年リリースのデビュー作となる前作『Susuma』は国際的にも高評価を受けた。
 本作ではガーナの伝説的なマルチ・インストゥルメンタリストでプロデューサーで、クワシブ・エリア・バンド(Kwashibu Area Band)のクワメ・イエボア(Kwame Yeboah)をプロデューサー/共同制作に迎えた。また、イギリスのシェフィールドを拠点に活動するK.O.G.(Kweku of Ghana)、ガーナを代表する現役アフロ・ビート・マエストロのジェドゥ-ブレイ・アンボリー(Gyedu-Blay Ambolley)もゲスト参加。
 ハイライフが、ジャズやソウルをモダンに融合させ、とても洗練された作品に仕上がっている。アフリカとヨーロッパがうまくミックスされており、聴いていてとても心地よい作品。

↓国内盤あり〼。(LPもあり〼)

7位 Sahra Halgan · Hiddo Dhawr

レーベル:Danaya Music [4]

 「アフリカの角つの」と呼ばれるアフリカ大陸東端にある未承認国家、ソマリランド共和国出身の女性歌手サハラ・ハルガンの最新作。
 ソマリア北西部が内戦により1991年にソマリアから独立したのがソマリランド。内戦が過酷でサ1992年に政治難民としてヨーロッパに渡ることとなり、現在はフランス在住。9年前に、ジュネーブ発のバンド Orchestre Tout Puissant Marcel Duchamp のギタリストであるマエル・サレーテス、BKO QUINTET の創設メンバーであるリヨン出身のパーカッショニストエメリック・クロールと出会い、リヨンでサハ・ハルガン・トリオとして活動を開始し、オリジナル曲とソマリアの伝統的な歌をミックスした1stアルバム『Faransiskiyo Somaliland』を2015年にリリース。続いて2020年にも2ndアルバムをリリースし、本作が3作目となる。本作にはトリオの他に新メンバーのレジス・モンテがヴィンテージ・オルガンとプロト・エレクトロニクスで参加している。
 アルバムのタイトル『Hiddo Dhawr』は「Preserve Culture」を意味し、直訳すると「文化を守る」。彼女が2013年にソマリランドの首都ハルゲイサに設立した文化センターの名前でもある。彼女はトリオで、機会あるごとにソマリランドの国旗を掲げて世界中をツアーしてきた。「私は自分がソマリランド人であることを世界に知ってもらいたい。文化、言語、音楽、伝統など、私たちがどれだけ豊かな国なのかを知ってほしい」と訴えている。本作にはソマリランドの文化を守るという彼女の理念が込められている。
 先行リリースとなるシングル曲しかまだ聴けていないが、古くから伝わるソマリアの伝統と、繰り返されるギターリフ、ハンドクラップ、タンバリンの容赦ないビートを融合させている。アフリカのポップさとパンクのミックスが堪らない!砂漠のブルースも彷彿させるギターリフはクセになる。

6位 Ali Doğan Gönültaş · Keyeyî

レーベル:Mapamundi Música [-]

 イスタンブール出身のトルコ系クルド人バンド Ze Tijê のリードヴォーカル Ali Doğan Gönültaş のソロ二作目となる最新作。前作『Kiğı』は2022年リリースで、本チャートにも5ヶ月間ランクインしていた。
 クルドの弦楽器タンブールと、彼の歌だけでとてもシンプルな音。しかし、幻想的な彼の歌声と、魅惑的なタンブールの深い音色が絶妙に織り成されている。クルドの歴史や文化、そして個人的な経験を反映した歌で、ザザキ語やトルコ語などで歌われおり、豊かで魅惑的な作品。
 アルバムタイトル『Keyeyî』とは、彼の母国語であるザザキ語で「家」を意味する。自身の故郷を思い出し、実家で過ごした時間や、そこで得た喜びや悲しみなど様々な思いを表現したアルバム。
 彼の民族の物語に不可欠な音楽的遺産を受け継いでおり、豊かで魅惑的な音楽の物語を形成している。シンプルだからこそ刺さってくる作品。

5位 Maria Mazzotta · Onde

レーベル:Nove Nove Zero [3]

 イタリア南部プーリア州出身のヴォーカリスト、マリア・マッツォッタの最新作。パーカッション/クリスティアーノ・デッラ・モニカ、ギター/エルネスト・ノビーリのトリオでの作品。ゲストに今月チャート5位のボンビーノもギターで、またニューヨーク在住ドイツ人ジャズ・トランぺッター、フォルカー・ゲーツェも参加している。
 2000年から2015年まで南イタリアの伝統的な民族音楽を探求するバンド、Canzoniere Grecanico Salentino のメンバーとして活躍、ソロになっても様々なプロジェクトで活動しボーカル・テクニックの知識を深めた。2020年にはソロ名義としてデビューアルバムとなる『Amoreamaro』をリリースし、国内外から高い評価を受けたアーティスト。
 本作のタイトルは「波」。波のような絶え間ない変化についてを本作で表現している。彼女のパワフルでダイナミックな歌声、しかし決してそれでだけではなく、感情と抑揚が込められたテクニックを大いに堪能できる。20年以上のキャリアに裏付けされる歌声は圧巻。シチリア出身の女性歌手ローザ・バリストレーリが歌ったことで知られる「Terra Can Nun Senti(愛なきふるさと)」も収録。今現在世界で起きている戦争や争いによって居場所を失った人々に捧げられているのが、とても胸に沁みいる。
 低音だけでなく高音の高らかな歌声もあり、色々なバリエーションを持つ歌手。そして彼女のイタリアの民族音楽の解釈がポストロックと見事に融合しているのがとても独創的で素晴らしい。彼女の歌声がストレートに響き、そして3人が共鳴しているさまに惹き込まれてしまう作品。

4位 Lina · Fado Camões

レーベル:Galileo Music Communication [1]

 ポルトガルの若手女性ファド歌手リナ(Lina)の2作目となる最新作。2020年にリリースされた前作は、シルビア・ペレス・クルスやロザリアなどと共演したスペインのミュージシャン/プロデューサーのラウル・レフリーとの共作で高く評価された。本作は彼女にとって初のソロ名義作となる。
 本作では、16世紀に活躍したポルトガルを代表する歴史的詩人、ルイス・ヴァス・デ・カモンイス(Luis Vaz de Camoes 1524-80)の古典詩を基に、“ファドの王様” アルフレード・マルセネイロ(1891-1982)や、モザンビーク生まれのポルトガル人女性歌手アメリア・ムジェによる作曲のナンバーやリナの自作曲、さらには伝統曲などを独自のアレンジで展開している。
 今回は、ティナリウェンやロバート・プラントらとコラボしたイギリス人ギタリストのジャスティン・アダムズがプロデュース。世界の様々なミュージシャンたちとコラボしてきた彼独特のアプローチで個性的なファドを創り出した。伝統と革新がうまく融合した楽曲を、彼女が美しく神秘的な歌声、豊かな表現力で歌う。ポルトガルギターの巨匠、ペドロ・ヴィアナによるポルトガルギターの音色もさらに豊さを彩り、聴いてきてうっとりするほど。現代ファドの進化をじっくりと感じさせてくれる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)


3位 Sam Lee · Songdreaming

レーベル:Cooking Vinyl [-]

 「サム・リー&フレンズ」で来日したこともある、イギリスのフォークミュージシャンで民俗学者のサム・リーの最新作がいきなり3位に登場!2012年にデビュー、本作が4作目となる。昨年、一年かけてレコーディングされ、プロデューサーのバーナード・バトラー(Bernard Butler)、長年のコラボレーターでありアレンジャー/作曲家のジェイムズ・キー(James Keay)とともに本作を作り上げた。
 コントラバスやパーカッション、ヴァイオリンをベースに使っているが、アラビアのカヌーン、スウェーデンのニッケルハルパ、スモール・パイプなど、様々な楽器を取り入れている。また、ロンドンを拠点に活動するトランスジェンダーの合唱団、トランス・ヴォイセズ(Trans Voices)とフィーチャーした先行シングルも一曲目に収録されており、コーラスを交えた壮大な楽曲からスタートする。
 彼はこのアルバムを、「屋外で過ごした時間に感じた感情のモザイクであり、私が目撃し、責任を感じているすべての複雑さを語り、表現することを許された内省的な瞬間に、芸術的に浮かび上がるものだ」と評している。
 英国諸島の自然に直接関連し、その存在そのものを織り込んだ曲を歌うことで、サムは歌を通して土地と交わる伝統を再発明し、同時代化し続けている。まさに大地、自然を感じられ、何より彼の声が癒される。サムの新たな境地が見出された作品だ。

2位 Aziza Brahim · Mawja

レーベル:Glitterbeat [2]

 西サハラ出身で現在はスペイン・バルセロナ在住のSSW、アジザ・ブラヒムの最新作。EPも含めると本作が6作目のアルバムとなる。
 彼女の出身地である西サハラは未だ領土問題が解決しておらず「アフリカ最後の植民地」と言われているところ。アルジェリアと西サハラの国境近くの難民キャンプで生まれ育った彼女は、ラジオで世界から流れてくる音楽を聴きながら過ごした。10代でキューバに留学し、1990年代の深刻なキューバ経済危機を経験。1995年に19歳で難民キャンプに戻り音楽家としての道を歩み始め、2000年からはスペインで亡命生活を送っている。
 2019年リリースの前作『Sahari』は各方面で高評価を博した。このアルバムのリリースツアーを行おうとしたところでパンデミックとなりツアーは中止となった。そして、2020年にはモロッコ軍とサハラ・アラブ民主共和国との衝突が激化、停戦していた西サハラでの戦争が始まってしまう。悲しみに暮れていた彼女に追い討ちをかけるように、彼女の最愛の祖母が亡くなってしまい、悲しみは頂点を迎えてしまう。それを救ったのが音楽制作で、本作のきっかけとなった。悲しみや喪失感から徐々にインスピレーションが生まれていったそうだ。
 収録曲はアフリカの民族音楽や砂漠のブルースをベースにしているが、ロックやスペイン、キューバといった彼女が歩んできた要素もうまくミックスされ、彼女の生き様が表現されている。深い感情がこもった歌声は、今なお紛争が続いている故郷の人々へのメッセージが込められているように静かに胸に響く。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)

1位 Aynur · Rabe

レーベル:Dreyer Gaido [5]

 クルド出身のトルコ人歌手/作曲家/楽器奏者アイヌールの8作目となる最新作。20年以上にわたる彼女のキャリアの集大成とも言える作品で、ドイツとスペインで20人近いミュージシャンの協力を得てレコーディングされた。その面々は、スナーキー・パピーのマイケル・リーグ(エレクトリック・ギター)、中国出身の有名なピパの名手ウー・マンなど、注目すべきゲストも参加している。
 愛や精神性、自由といったテーマを探求し制作された本作は、クルド音楽における卓越した声としての地位を再確認し、21世紀のクルド芸術の真髄を体現した。クルドの伝統的な要素と現代的な西洋の楽器や、クラシックやジャズなどのジャンルをミックス、東洋的な楽器も加わり文化的な融合を実践している。クルドの伝統音楽はもちろん、アップテンポなダンス音楽もあり、瞑想的な楽曲や、即興演奏もあり、それを優雅に美しくミックスし、多彩なサウンドが現代的に展開されている。


(ラティーナ2024年5月)

↓4月のランキング解説はこちら。


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