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[2024.4]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2024年4月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。


20位 Ëda Diaz · Suave Bruta

レーベル:Airfono [24]

 フランス系コロンビア人でフランス在住のコントラバス奏者/シンガーのエダ・ディアス(Ëda Diaz)の最新作。2017年、2022年にそれぞれEPをリリースし、本作がフルアルバムとして最初の作品となる。 
 フランス人の母親とコロンビア人の父親を持ち、幼い頃からフランスの音楽院でクラシックピアノを学び、毎年夏休みにはコロンビアのメデジンの実家で過ごすという生活をしてきた。メデジンではタンゴやボレロをはじめとした南米音楽を祖母から教え込まれたそう。コントラバスを演奏するようになったのは20歳を過ぎてから。音楽系ではない大学で都市計画を学びながら(しかも修士課程まで!)、コントラバスを習得。大学時代にはロック、ピアノ、ジャズ、そしてラテン音楽を通して自分の居場所を探していたという。
 2017年からフランスのミュージシャン、アンソニー・ウィンゼンリエス(Anthony Winzenrieth)とタッグを組み始め、本作へと繋がった。ブジェレンゲなどコロンビアの伝統音楽、子供時代から聴いてきた伝統的なラテンのリズムへの愛と、現在のアヴァンギャルドなポップミュージックへの憧れを組み合わせることで、自分自身の世界を築き上げたいという願いが本作に反映されているそうだ。彼女のアイデンティティを追求した作品。伝統音楽もありながらポップな作品に仕上がっている。個人的には彼女の鼻にかかった歌声が好き。今後の活躍も注目されるアーティスト。

↓吉本秀純さん連載「境界線上の蟻(アリ)」2024年3月号でも、本作を取り上げております。こちらも併せてご覧ください。

19位 Bombino · Sahel

レーベル:Partisan [5]

 ニジェール出身トゥアレグ族のギタリスト、SSWのオマラ・“ボンビーノ”・モクタールの最新作。プロデューサーは、英国のプロデューサー/ミキサーであるデヴィッド・バーン、フランク・オーシャン、ザ・エックス・エックスなどのプロデューサーで知られるデヴィッド・レンチ。
 2011年国際的にリリースされたアルバム『Agadez』で世界的に注目を浴び、2018年のアルバム『Deran』でグラミー賞ベスト・ワールド・ミュージック・アルバムにノミネートされ、ニジェールで初めてグラミー賞にノミネートされたアーティスト。
 トゥアレグ族は、北アフリカのベルベル人の流れを汲む遊牧民で、何世紀にもわたって植民地主義や厳格なイスラム支配の押し付けと戦ってきた。独立のための武装闘争と政府軍による暴力的な弾圧の時代に育った彼の演奏は、同じアフリカのティナリウェンやアリ・ファルカ・トゥーレをはじめとし、ジミ・ヘンドリックスやジョン・リー・フッカー、ジミー・ペイジを彷彿とさせるギター・リフを響かせながら、抵抗と反乱の精神を表現している。パンデミックによって世界の動きが止まった時、遊牧民である彼らも留まらなければいけなくなった。その時に本作の楽曲制作をしていたとのこと。そして、バンドメンバーと共にモロッコ・カサブランカのスタジオでレコーディングを行い、本作が出来上がった。
 ボンビーノにとってこれまでで最も個人的で力強く、政治的な思いに満ちた作品。また、彼が最初から目指していたサウンドの多様性、そしてサヘル地域を構成する文化や人々の複雑なタペストリーをそのまま反映した作品でもある。「トゥアレグ族の一般的な苦境は常に頭の中にあり、ずっと自分の音楽の中で取り上げてきたが、このアルバムでは特別に焦点を当てたかった」と彼は言う。
 ロック、 “砂漠のブルース”、ポップ調の楽曲等、サウンドは多岐に渡る。そこにボンビーノによるキレキレのギターテクニックが融合され、すっかり虜になってしまいそう。彼の熱い魂が強く伝わってくる作品。

18位 Nancy Vieira · Gente

レーベル:Galileo Music Communication [-]

 北西アフリカの西の沖合、大西洋上の島々からなる国、カーボベルデ出身の歌手ナンシー・ヴィエイラの最新作。1995年にデビュー作をリリース、本作は7作目となる。2018年リリースの前作『Manhã Florida』も好評を博したが、本作はそれ以来のリリースとなる作品。
 2019年にユネスコ無形文化遺産に登録されたカーボベルデの国民的音楽モルナ(Morna)を歌い続け、カーボベルデの代表として世界各地で歌っている。本作では、モルナをはじめ、フナナー(funaná)といった伝統的なカーボベルデの音楽はもちろん、ポルトガルやアフリカ、ブラジル音楽などのエッセンスが加わった楽曲をアコースティックに展開。また、ゲスト陣も豪華で、ポルトガルのSSWアントニオ・ザンブージョ(デュエット曲が美しく、彼の歌声にもうっとり…)、モザンビーク生まれでポルトガル在住のベテランミュージシャン、アメーリア・ムージ(二人のハーモニーが美しく、アメーリアの巻き舌に圧巻!)、アンゴラ出身でセンバ(アンゴラの伝統音楽)を代表するミュージシャン、パウロ・フローレス(彼の味わい深い声とナンシーの歌声が絶妙にマッチ!)、ギニアビサウ出身で世界を渡り歩き活動しているミュージシャンのRemna、ポルトガルのフナナーバンド、FogoFogoなど多彩なミュージシャンが参加している。この面々を見ると、まさにポルトガル語圏の音楽「ルゾフォニア音楽」の集大成とも言えるだろう。
 カーボベルデの音楽的伝統を守りながらも、彼女独自の世界を新たに再構築しており、とても優雅で魅力的な作品に仕上がっている。

↓国内盤あり〼。(日本語解説/帯付き。LPもあり)

17位 Maliheh Moradi & Ehsan Matoori · Our Sorrow

レーベル:ARC Music [-]

 イランの女性ミュージシャン、マリエー・モラディと、イランの作曲家エフサン・マトーリのデュオ作品。
 1979年のイラン革命以来、イランでは女性が公の場で独唱することは禁じられてきた。数年前から徐々に規制が緩和され、公の場でアンサンブルとして演奏することはできるようにはなったが、男性歌手が同席しているのはまだ制限されているようだ。芸術的な表現にこのような制限があることは非常に抑圧されていると言える。しかし、マリエーはこのような抑圧に抗いながらも自身の声を世間に届けようと決意したアーティストである。
 音楽一家に生まれた彼女は、幼い頃から歌とトンバク(イランのゴブレット型の打楽器)の演奏を学んだ。その後テヘラン音楽院でシタールを学び、イラン音楽と演奏芸術への理解を深めた。17歳で初めてステージに立った後、彼女の音楽に対する情熱はより深まったが、女性に課せられた制約が彼女にはとても耐え難いものであった。そこで彼女は、不本意ながらも大切な夢を実現するという固い決意を胸に、祖国イランを離れるという大胆で勇敢な選択をした。アメリカに移住し、制限から解放された彼女はより音楽に打ち込むことができ、やがて著名な作曲家でありコラボレーターでもあるエフサン・マトーリとの出会いにつながった。
 本作は、2019年の弾圧に対する抗議行動などからインスピレーションを受け、マリエーの綴った手記をベースにマトーリが作曲した。イランの伝統的な楽曲に見事に変換しており、イランの女性が直面する抑圧に光を当てた作品。マリエーの美しくもあり強くしなやかな歌声が、心からの叫びを表現しているようで、胸を鷲掴みにされる。彼らの覚悟が感じられる作品。
 彼女はいつかイランに戻って同胞たちの前で歌いたいと言う。その時が早く来ること、無事にそれが実行できることを強く願いたい。

16位 Cara de Espelho · Cara de Espelho

レーベル:Locomotiva Azul [35]

 ポルトガルの新ユニット、カラ・デ・エスペーリョ(Cara de Espelho)の1作目となるアルバム。新ユニットではあるが、90年代以降ポルトガルのバンドで活躍していたり、ポルトガルのミュージシャン達に楽曲を提供しているベテランミュージシャン6人が集まった大御所バンド。
 メンバーは、2006年結成の“ネオファド”バンド Deolinda のメンバーでもあり、アントニオ・ザンブージョやファド歌手アナ・モウラにも楽曲提供している作詞・作曲家のペドロ・ダ・シルヴァ・マルティンス(Pedro da Silva Martins)、1991年結成のポルトガルの伝統音楽バンド Gaiteiros de Lisboa の創設メンバーであり、楽器製作者でもあるカルロス・ゲレイロ(Carlos Guerreiro)、主に1991年から2002年に活動していたポルト出身のバンド、Ornatos Violetaのベーシスト、ヌノ・プラタ(Nuno Prata)、Deolinda のギタリスト、ルイス・J・マルチンス(Luís José Martins)、DeolindaのメンバーでもありポルトガルのSSW、David Fonseca のパーカッションも務めるセルジオ・ナシメント(Sérgio Nascimento)、そして女性ヴォーカルとして、A Naifa や Señoritas で活動していたマリア・アントニア・メンデス(Maria Antónia Mendes)と、錚々たる面々!
 ポルトガルのポピュラー音楽界で活躍してきたメンバー達だからこその表現で、ロックっぽくもあり、ファドも感じられ、伝統と現代性をミックスし洗練された作品。初めて聴いた時には、根底に音の力強さが感じられ、只者ではない感!が伝わってきて、プロフィールを追うに従ってそれが充分納得できた。キャリアと年齢をいい感じに重ねてきた彼らが、新たなユニットで活躍している姿に勇気付けられる。今後の作品にも期待したい。

15位 Ary Lobo · Ary Lobo 1958-1966

レーベル:Analog Africa [7]

 ブラジル北東部の大衆ダンス音楽のフォホー歌手、アリ・ロボの全盛期である1958-66年に録音された作品を集めたアルバム。
 パラー州ベレン出身のアリはリオデジャネイロに向かい、1956年6月RCAビクターと契約。リオの音楽シーンは、アフロ・ブラジルの伝統に深く根ざした北東部出身のこの新人に注目し始めた。1960年には彼の最高傑作と言われる 『Aqui mora o ritmo(リズムはここに息づいている)』をリリース。それから1966年に『Quem É O Campeão?』をリリースするまで、毎年LPを1枚ずつレコーディングしていた。しかし、1960年代の終わりにはフォホーの人気は下火になり、アリは仕事の機会を求めて都市を転々とすることを余儀なくされ、やがて彼はフォルタレザにたどり着き、1980年に亡くなるまでそこで暮らした。
 1950年代にパラー州から登場した歌手やソングライターの中で、彼はは当時としては異例の国民的名声を獲得し、700曲以上を録音した。
 先月初登場していたのにチェックできておらず、ランキングを見て驚いた!フォホーファンには堪らない!彼の巻き舌で歌っているポイントがとても好き!ダンス音楽好きならぜひ聴いてほしい一枚!

↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付きLP)

14位 Yīn Yīn · Mount Matsu

レーベル:Glitterbeat [28]

 オランダ人の4人組バンド、YĪN YĪNの3作目となる最新作。2019年リリースの1stアルバム、そして2022年の2ndアルバムは世界的にも高く評価されたが、その時のメンバーの1人は脱退、新メンバーを迎えてベルギーの田園地帯にある彼らのスタジオでレコーディングされた。クルアンビンとクラフトワーク、東南アジアのサイケデリアやオリエンタルな雰囲気がありつつ、YMOや80年代のディスコソング、シティ・ポップなど日本的な要素もミックスされた不思議な感じの作品。突然「Takahashi, Takahashi〜」とコーラスされ、えぇっ?(高橋幸宏さんのこと?)と驚いてしまった。収録曲が「Takahashi Timing」「Tokyo Disko」「Komori Uta」など、「日本」を想像させる。アルバムタイトル『Mount Matsu』の「Matsu」は日本語そのまま「松」で松の木を意味し、再生と未来への希望の象徴としているそうだ。ジャケットも富士山を彷彿させているし、本作のテーマはまさに「日本」と言えるだろう。そして、上記動画もどことなく観たことがある!「クイズダービー」を想像してしまうのは私だけではないはずだ。
 ポップでサイケデリックではあるけれど、箏も使われていたり、ゆったりとしたオリエンタルな楽曲もあって、聴いていてとても楽しい。聴きながら彼らのライヴを観たいな〜と思っていたら、なんと今年のフジロックに出演するではないか!これはぜひ観たい!!!

13位 Mari Boine & Bugge Wesseltoft · Amame

レーベル:By Norse Music [4]

 ノルウェーのサーミ人マリ・ボイネと、同じくノルウェーのジャズ・アーティスト、ブッゲ・ヴェッセルトフトのデュオ最新作。ブッゲはプロデュースも担当。2人は2002年にもコラボしているが本作で再びタッグを組んでリリース。
 ブッゲの優しいピアノの演奏に、マリの包容力や深みのあって強さやしなやかさも感じられる歌声が重なり、瞑想的で開放的なサウンドスケープが作り出されている。歌っているのは、愛や人間の弱さ、不正、闘争、誇りと尊厳など、シリアスな内容となっている。
 聴いていると胸にすーっと入っていくような感じ。歌詞まで理解できるともっといいのだが、聴いているだけでも心地よい美しい作品。

12位 Shakti · This Moment

レーベル:Abstract Logix [3]

 イギリスのギタリスト、ジョン・マクラフリンがリーダーを務め、インドのパーカッショニストの巨匠、ザキール・フサインたちと結成、結成50周年を迎えたシャクティの最新作。本作がスタジオアルバムとしては46年ぶり(すごい!)で、4作目となる。昨年はワールドツアーを実施し、世界のファンへ音楽を届けた。
 速いタブラとギターのコンビネーションはダイナミックで圧巻される。速い!と思っていてもリズムが変化し緩急あるアレンジが良く、美しいユニゾンも聴ける。キャリアに裏打ちされた演奏テクニックを存分に味わえる作品。さすがです!

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

11位 Ana Lua Caiano · Vou Ficar Neste Quadrado

レーベル:Glitterbeat [-]

 1991年生まれ、ポルトガル・リスボンを拠点に活動する作曲家/歌手/マルチ楽器奏者のアナ・ルア・カイアーノのデビュー作。2022年にリリースされた2作のEPと、同年のWomexに出演したことで、ヨーロッパはもとより世界で高い注目を集めることになった。
 13歳までクラシックのピアノを習い、その後ジャズ音楽学校で4年間学んだ。15歳のときに作曲を始め、いくつかのバンドで作曲と歌を担当、シンセサイザーを演奏した作品へと繋がっていった。そして、パンデミックによるロックダウンにより、独りで音楽制作することになった。他のミュージシャンと一緒に演奏することができなかったため、自宅でエレクトロのテクスチャーやクラブ風のビートを試し始め、エレクトロニックとポルトガルの伝統音楽を融合させる楽曲を制作。伝統音楽はファドのことではなく、口頭で伝えられ田舎で歌われていた音のことだという。ボンボやブリンキーニョといった伝統楽器を使い「カンテ・アレンテジャーノ」と呼ばれるポルトガルの伝統音楽をベースしたオリジナルを作曲。そこにエレクトロニックの要素を加味し、静寂と激動、伝統と先進など相反する要素を取り込んだ、唯一無二なサウンドを作り出した。
 実験的でありながら、伝統的な要素も感じられる。彼女は「伝統音楽は、世界とともに進化していくものだと信じている」と言う。それが見事に表現された作品。今後も注目のアーティストが登場!

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き、LPもあり〼)

10位 Amsterdam Klezmer Band · Bomba Pop

レーベル:Vetnasj [-]

 1996年にオランダ・アムステルダムで結成されたオランダ系ユダヤ人の7人編成バンド、アムステルダム・クレズマー・バンド(Amsterdam Klezmer Band:AKBって言うらしいですよ!)の最新作。2022年にレコーディングされたが、創設メンバーの1人であるアコーディオン奏者テオ・ヴァン・トルが 2023年8月に66歳で亡くなってしまったため、本作は彼に捧げられている。25年以上活動し、ヨーロッパだけでなく世界各地のフェスで演奏しているユニット。クレズマー、バルカンをはじめとし、スカやジャズ、ジプシー、オリエンタル、そしてヒップホップをもミックスした彼ら独自の楽曲を演奏している。
 陽気な楽曲で始まる本作は、全体的には陰と陽がありエネルギッシュでもあり、ドラマティックでもある。ウィーン在住のドイツ人DJプロデューサーで、さまざまなスタイルのワールド・ミュージックを演奏、プロデュース、リミックスして名を馳せているウルフ・リンデマン、別名ダンケルブントとコラボレーションしている。その結果、過去作以上に様々な音楽的方向へ広がり、活気に満ちた作品に出来上がった。
 テオに捧げるアコーディオンソロ曲「Just A Thought」(友人である後任のアコーディオン奏者が作曲)と、アルバム最終曲「The Journey and The Traveler」が、彼の終わりを表現しているようで胸に沁みる。

9位 Otava Yo · Loud and Clear

レーベル:ARC Music [16]

 ロシア・サンクトペテルブルクの民族音楽ユニット、オタヴァ・ヨの最新作。結成20年、イギリス、フランス、アメリカ、インド、日本など世界30カ国以上で公演しライヴで高い評価を得ており、海外でのファンも多い。
 本作は5年前から制作開始したのだが、その間にロシアがウクライナに侵攻したため多くの困難がありつつも、ようやく完成した作品。グループ創設者のアレクセイ・ベルキンは、ウクライナ人の母とロシア人の父を持ち、ラトビア人の妻を持つ。戦争が起こりさぞかし複雑な心境であったことは容易に想像がつく。彼らのルーツを引き裂くことになってしまったが、自分たちの音楽を通して力を見出そうとしている。音楽が慰めや支えとなり、ルーツに関係なく人々をひとつにまとめる力になることを信じて本作が生まれたそうだ。
 アルバム全体で祝祭的な雰囲気を醸し出している。伝統的だがあまり知られていないロシア民謡にスポットを当て、ロシア民族楽器である弦楽器のグースリやバグパイプのヴォリンカなども使い、彼ら独自のハーモニーを奏でている。歌のハーモニーも素晴らしい。動画を観てもダンスと一体で楽しめる音楽に仕上がっている。
 ロシアの伝統的な民族音楽をより幅広い現代の聴衆に届けるというコンセプトのもと活動している彼らが、さらにそれを発展させ続けようとしている意気込みも感じられる。音楽は境界を越え普遍的であるというメッセージを強く感じた作品。

8位 Les Amazones d’Afrique · Musow Dance

レーベル:Real World [-]

 2014年にマリ・バマコで、マリの有名な音楽家であり社会変革活動家でもある3人の女性(ママニ・ケイタ、ウム・サンガレ、マリアム・ドゥンビア)によって結成されたユニットの最新作。2017年リリースのデビュー作はオバマ大統領の目に留まりその年のお気に入り20曲にアルバムの中の1曲が選ばれたりして話題となった。続く2020年の2nd作品も好評価だったが本作はそれ以来の作品で三作目となる。どの作品も3人だけではなく、マリ以外のアフリカ出身の(ベナン出身のアンジェリーク・キジョーや、コートジボワール出身のドベ・ニャオレ(Dobet Gnahoré)など)女性ミュージシャンがゲストとして参加している。本作でもベナン出身のファファ・ルフィーノや、ブルキナファソ出身のカンディ・ギラ(Kandy Guira)、ドベ・ニャオレ(Dobet Gnahoré)などが参加。
 アフリカで行われている女性への性的暴力、教育の欠如、強制結婚などの不平等に対し当初から真正面から取り組み、それを音楽的に表現、国際的に発表することで、男女平等を訴えている。今では世代や出身国を超えた女性アーティストが結集し、それをアフリカ全体の問題として捉えている。芸術的にも信念としてもとても素晴らしいが、何よりも彼女達の強く美しい歌声、ハーモニーが強く刺さる。そして、どの収録曲もカッコいい!
 本チャートにソロでもランクインするアーティスト達がコラボレーションしており、とても聴きごたえあり!このメッセージが世界的に広く伝わることを強く願う。

7位 Natascha Rogers · Onaida

レーベル:Nø Førmat! [13]

 オランダ出身でフランス在住のSSW/パーカッショニスト、ナターシャ・ロジャースの最新作。昨年京都で行われた音楽フェス「KYOTOPHONIE 天橋立」に出演予定だったが直前でキャンセルとなり残念な思いをした人も多かったのではないだろうか。
 彼女はオランダ人の母と、アメリカ・インディオのルーツを持つアメリカ人の父のもとオランダで生まれた。父が持っていた(隠し持っていた?)コンガに興味を示しパーカッションに憧れ、マンディンゴやアフロ・キューバンの偉大なパーカッショニストに教わるために旅をした。多くのミュージシャンたちと共演してきたが、本作はソロ名義でのアルバムとなる。
 キューバのサンテリア、ヨルバの精神性や、アフロ・ラテンのリズム、そして彼女自身のネイティブ・アメリカンのルーツなど、幅広い文化的影響からインスピレーションを得て制作された。ピアノ、パーカッションを自身が演奏し、英語、スペイン語、ヨルバ語で歌っている。アフロ・キューバのパーカッションを専門的に学んだというが、激しい感じのパーカッションではなく、柔らかく静謐で、でも彼女の芯の強さやしなやかさも感じられ、独自の世界観がとても美しく表現されている。魅力的で幽玄的、自然(森の中)にいるような感覚になり、とても心身が癒される作品。

6位 Tarek Abdallah & Adel Shams El Din

レーベル:Ousoul · Buda Musique [10]

 エジプト最北端の都市アレクサンドリア出身で、現在はフランスを拠点に活動を行っているウード奏者/作曲家のタレク・アブダラーと、同じくアレクサンドリア出身でやはりフランスで活躍する打楽器奏者アデル・シャムズ・エル・ディンのデュオ最新作。2015年リリースの前作『Wasla』以来、9年ぶりのリリースとなる。前作タイトルにもなった「Wasla」とは、19世紀後半から20世紀前半にかけて主に演奏されていたエジプトにおける組曲形式の古典音楽のことで、本作でもこのWaslaのスタイルを踏襲した作品となっている。
 アデルの打楽器は、アラブのフレームドラムで「リク」と呼ばれる楽器。基本的にはウードとリクによるシンプルな楽器編成のインストゥルメンタル演奏となっている。リクの響きが何とも心地よく、ウードの音色やメロディととても相性が良い。古典音楽ではあるが、詳しくない人にも気持ちよく聴ける楽曲ばかり収録されている。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き)

5位 Aynur · Rabe

レーベル:Dreyer Gaido [-]

 クルド出身のトルコ人歌手/作曲家/楽器奏者アイヌールの8作目となる最新作。20年以上にわたる彼女のキャリアの集大成とも言える作品で、ドイツとスペインで20人近いミュージシャンの協力を得てレコーディングされた。その面々は、スナーキー・パピーのマイケル・リーグ(エレクトリック・ギター)、中国出身の有名なピパの名手ウー・マンなど、注目すべきゲストも参加している。
 愛や精神性、自由といったテーマを探求し制作された本作は、クルド音楽における卓越した声としての地位を再確認し、21世紀のクルド芸術の真髄を体現した。クルドの伝統的な要素と現代的な西洋の楽器や、クラシックやジャズなどのジャンルをミックス、東洋的な楽器も加わり文化的な融合を実践している。クルドの伝統音楽はもちろん、アップテンポなダンス音楽もあり、瞑想的な楽曲や、即興演奏もあり、それを優雅に美しくミックスし、多彩なサウンドが現代的に展開されている。

4位 Sahra Halgan · Hiddo Dhawr

レーベル:Danaya Music [6]

 「アフリカの角つの」と呼ばれるアフリカ大陸東端にある未承認国家、ソマリランド共和国出身の女性歌手サハラ・ハルガンの最新作。
 ソマリア北西部が内戦により1991年にソマリアから独立したのがソマリランド。内戦が過酷でサ1992年に政治難民としてヨーロッパに渡ることとなり、現在はフランス在住。9年前に、ジュネーブ発のバンド Orchestre Tout Puissant Marcel Duchamp のギタリストであるマエル・サレーテス、BKO QUINTET の創設メンバーであるリヨン出身のパーカッショニストエメリック・クロールと出会い、リヨンでサハ・ハルガン・トリオとして活動を開始し、オリジナル曲とソマリアの伝統的な歌をミックスした1stアルバム『Faransiskiyo Somaliland』を2015年にリリース。続いて2020年にも2ndアルバムをリリースし、本作が3作目となる。本作にはトリオの他に新メンバーのレジス・モンテがヴィンテージ・オルガンとプロト・エレクトロニクスで参加している。
 アルバムのタイトル『Hiddo Dhawr』は「Preserve Culture」を意味し、直訳すると「文化を守る」。彼女が2013年にソマリランドの首都ハルゲイサに設立した文化センターの名前でもある。彼女はトリオで、機会あるごとにソマリランドの国旗を掲げて世界中をツアーしてきた。「私は自分がソマリランド人であることを世界に知ってもらいたい。文化、言語、音楽、伝統など、私たちがどれだけ豊かな国なのかを知ってほしい」と訴えている。本作にはソマリランドの文化を守るという彼女の理念が込められている。
 先行リリースとなるシングル曲しかまだ聴けていないが、古くから伝わるソマリアの伝統と、繰り返されるギターリフ、ハンドクラップ、タンバリンの容赦ないビートを融合させている。アフリカのポップさとパンクのミックスが堪らない!砂漠のブルースも彷彿させるギターリフはクセになる。

3位 Maria Mazzotta · Onde

レーベル:Nove Nove Zero [12]

 イタリア南部プーリア州出身のヴォーカリスト、マリア・マッツォッタの最新作。パーカッション/クリスティアーノ・デッラ・モニカ、ギター/エルネスト・ノビーリのトリオでの作品。ゲストに今月チャート5位のボンビーノもギターで、またニューヨーク在住ドイツ人ジャズ・トランぺッター、フォルカー・ゲーツェも参加している。
 2000年から2015年まで南イタリアの伝統的な民族音楽を探求するバンド、Canzoniere Grecanico Salentino のメンバーとして活躍、ソロになっても様々なプロジェクトで活動しボーカル・テクニックの知識を深めた。2020年にはソロ名義としてデビューアルバムとなる『Amoreamaro』をリリースし、国内外から高い評価を受けたアーティスト。
 本作のタイトルは「波」。波のような絶え間ない変化についてを本作で表現している。彼女のパワフルでダイナミックな歌声、しかし決してそれでだけではなく、感情と抑揚が込められたテクニックを大いに堪能できる。20年以上のキャリアに裏付けされる歌声は圧巻。シチリア出身の女性歌手ローザ・バリストレーリが歌ったことで知られる「Terra Can Nun Senti(愛なきふるさと)」も収録。今現在世界で起きている戦争や争いによって居場所を失った人々に捧げられているのが、とても胸に沁みいる。
 低音だけでなく高音の高らかな歌声もあり、色々なバリエーションを持つ歌手。そして彼女のイタリアの民族音楽の解釈がポストロックと見事に融合しているのがとても独創的で素晴らしい。彼女の歌声がストレートに響き、そして3人が共鳴しているさまに惹き込まれてしまう作品。

2位 Aziza Brahim · Mawja

レーベル:Glitterbeat [1]

 西サハラ出身で現在はスペイン・バルセロナ在住のSSW、アジザ・ブラヒムの最新作。EPも含めると本作が6作目のアルバムとなる。先月いきなり1位に登場!
 彼女の出身地である西サハラは未だ領土問題が解決しておらず「アフリカ最後の植民地」と言われているところ。アルジェリアと西サハラの国境近くの難民キャンプで生まれ育った彼女は、ラジオで世界から流れてくる音楽を聴きながら過ごした。10代でキューバに留学し、1990年代の深刻なキューバ経済危機を経験。1995年に19歳で難民キャンプに戻り音楽家としての道を歩み始め、2000年からはスペインで亡命生活を送っている。
 2019年リリースの前作『Sahari』は各方面で高評価を博した。このアルバムのリリースツアーを行おうとしたところでパンデミックとなりツアーは中止となった。そして、2020年にはモロッコ軍とサハラ・アラブ民主共和国との衝突が激化、停戦していた西サハラでの戦争が始まってしまう。悲しみに暮れていた彼女に追い討ちをかけるように、彼女の最愛の祖母が亡くなってしまい、悲しみは頂点を迎えてしまう。それを救ったのが音楽制作で、本作のきっかけとなった。悲しみや喪失感から徐々にインスピレーションが生まれていったそうだ。
 収録曲はアフリカの民族音楽や砂漠のブルースをベースにしているが、ロックやスペイン、キューバといった彼女が歩んできた要素もうまくミックスされ、彼女の生き様が表現されている。深い感情がこもった歌声は、今なお紛争が続いている故郷の人々へのメッセージが込められているように静かに胸に響く。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)


1位 Lina · Fado Camões

レーベル:Galileo Music Communication [2]

 ポルトガルの若手女性ファド歌手リナ(Lina)の2作目となる最新作。2020年にリリースされた前作は、シルビア・ペレス・クルスやロザリアなどと共演したスペインのミュージシャン/プロデューサーのラウル・レフリーとの共作で高く評価された。本作は彼女にとって初のソロ名義作となる。
 本作では、16世紀に活躍したポルトガルを代表する歴史的詩人、ルイス・ヴァス・デ・カモンイス(Luis Vaz de Camoes 1524-80)の古典詩を基に、“ファドの王様” アルフレード・マルセネイロ(1891-1982)や、モザンビーク生まれのポルトガル人女性歌手アメリア・ムジェによる作曲のナンバーやリナの自作曲、さらには伝統曲などを独自のアレンジで展開している。
 今回は、ティナリウェンやロバート・プラントらとコラボしたイギリス人ギタリストのジャスティン・アダムズがプロデュース。世界の様々なミュージシャンたちとコラボしてきた彼独特のアプローチで個性的なファドを創り出した。伝統と革新がうまく融合した楽曲を、彼女が美しく神秘的な歌声、豊かな表現力で歌う。ポルトガルギターの巨匠、ペドロ・ヴィアナによるポルトガルギターの音色もさらに豊さを彩り、聴いてきてうっとりするほど。現代ファドの進化をじっくりと感じさせてくれる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)


(ラティーナ2024年4月)

↓3月のランキング解説はこちら。


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