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[1995.09]MPBアコースティック現象の鍵を握り、世界を股にかける充実のチェリスト ─ ジャキス・モレレンバウム

文●エイトール・アラウージョ texto por HEITOR T.DE ARAUJO
《翻訳●国安真奈》

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 MPB (ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック)では、90年代の初めから、これまでなかった音色が使われ始めていることにお気づきの読者は多いだろう。例えば91年、カエターノ・ヴェローゾがリリースしたアルバム『シルクラドー」。カエターノ流実験的音楽詩とも呼べるこの作品は、それまでのMPBの音の通念からかけ離れたものだったが、この音の創造に大きく貢献したのが、坂本龍一のキーボード、そしてとりわけジャキス・モレレンバウムのチェロだった。それ以降、モレレンバウムは、ソロ・アルバムにかまけるヒマもないほど、ひっぱりだこのミュージシャンとなった。
『シルクラドー』では、ジャキスの参加は2曲に限られていたが、その次の作品、2枚組のライヴ・アルバム『シルクラドー・アオヴィーヴォ』では、彼のチェロは全編にわたって登場し、作品全体の雰囲気を決定づけるまでになっている。これ以降、彼の活躍はめざましい。同じカエターノのベスト・セラー『フィーナ・エスタンパ」では演奏のほかプロデュースを担当。また、ガル・コスタの最新アルバム『私の宝箱』のプロデュースも手がけ、トム・ジョビンの遺作『アントニオ・ブラジレイロ』でも、ほとんどすべての曲で演
奏している。
 2年前には坂本龍一とバイオリンのエヴァートン・ネルソンとともにトリオを組んでワールド・ツアーを敢行したが、キーボードとバイオリンとチェロのユニットが世界中で多数の観客を集めるなどということは、どう考えても尋常ではない。ちなみにジャキスは、今年の「ハイネケン・コンサーツ」で一晩のホスト・アーティストに選ばれ、自身のステージに坂本とネルソン、カエターノ・ヴェローゾと彼のバンド、そして妻のパウラ・モレレンバウムを招いて演奏している。この夜のステージは、同フェスティバルで最もエキサイティングなものとなった。
 その彼に、今回インタビューを試みたわけだが、なにせ超売れっ子ミュージシャンのこと。初めてコンタクトをとった時期にはガル・コスタとともに海外ツアーに出かけており、その途中、パウロ・ジョビンのバンドに合流、NYでトム・ジョビン追悼コンサートに出演している……と思ったら、再びガルのバンドに参加し、プエルトリコでステージを務め、その後ブリュッセルに飛び、再度ジョビンの追悼コンサートに出演した。そしてブリュッセルから直接カエターノ・ヴェローゾのバンドに合流、スペインとイタリアでの公演をこなし、ブラジルへの帰途、NYへ立ち寄り、坂本龍一のアルバム・レコーディングに2曲参加し、帰国するさまパウラ・モレレンバウムのアルバムのプロデュース作業を完了し、カエターノも2曲歌って参加している映画のサントラ『クアドリフォリオ』の仕事を始めるといった具合である。

 なんとも忙しい。その彼をリオはサンタテレーザにある、グアナバラ湾を臨む心地よいフラットに訪ね、本当に希少な時間を割いて話を聞かせてもらった。

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—— ブラジル音楽にとっては馴染みのないデリケートな楽器を操るあなたは、今やMPBに決定的な影響を与えるようになっているが、あなた自身が受けた影響とはどんなものだったのだろうか?

ジャキス  僕は54年にリオで、音楽家の一家に生まれた。父はオーケストラの指揮者で、母はピアニスト。叔父の何人かはバイオリニストといった環境だった。父は市立劇場でオペラやバレエ、演奏会の指揮をしていて、ちびだった僕はバック・ステージでよく遊んだものだ。父は早くから僕にピアノを習わせたが、12歳の時、ラジオでピアノとチェロのためのソナタを聴き、チェロに転向することに決めた。他の人々と違って、僕は自分の将来を決めるのに迷ったりはしていない。あまり考える必要もなく、音楽は自分にとって自然な道だと思っていた。が、思春期までクラシック音楽一辺倒だった僕は、ある日初めてビートルズの音楽を聴いて、ビートルズ狂になった。強烈な印象を受けたんだ。それ以降ずっと、クラシックは僕の生業、ポピュラー・ミュージックは僕の趣味になった。

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