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[2020.10]【島々百景 第53回】田沢湖 秋田県仙北市

文と写真●宮沢和史

 絶滅した生き物が復活したという話を自分はこれまで聞いたことがないが、“絶滅種”から“野生絶滅種”に昇格(?)した生物がいる。国鱒(クニマス)である。日本で唯一の生息地だったのは秋田県仙北市にある広大な湖 “田沢湖”。戦前まで内水面漁業においてこのクニマスは食料資源だった。古くは江戸時代の1670年代にクニマスに関する最古の文献が残っているという。1800年代頭には献上品としての記述が多く残されている。庶民の食卓の魚というよりは、献上用、贈答用の高価な魚という位置付けだったのかもしれない。サケ科のマスの仲間はたくさん種類があるが、クニマスはビワマスの陸封型(何らかの理由で海に還ることをやめ、河川や湖にとどまり産卵を繰り返す魚種の呼称)であるヒメマスの亜種とも思える形態をしているが、細部の差異や単独種間で交配することから、田沢湖に棲む独立種であろうとされている。この魚がなぜ絶滅したかというと、電力強化ため1940年に田沢湖に水力発電所を建設したのだが、湖水の水量では発電には足りず、近くを流れる玉川から水を引き込んだのだが、この川は玉川温泉からの強酸性の水が流れ込んでいたため、1940年終わりには湖水が酸性化し、クニマスがまったく獲れなくなり、絶滅種に認定。戦争に突入していくために様々な犠牲を払った時代とはいえ、悔やんでも悔やみきれない史実だと言える。
 
 それから、長い月日、60年以上経って宮沢の故郷である山梨県の西湖で何とクニマスが発見されたのだ。このニュースに日本中の関係者が驚愕した。

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