[2022.3] 【島々百景 第69回】 瀬底島(沖縄県)
文と写真●宮沢和史
ロシアとウクライナとの戦争と言っているが、これは戦争ではなく侵略だ。名前を口に出すのもいやだが、ロシアのリーダーは自国をピアーズ・ブロスナンの頃のロシアに、いや、ロジャー・ムーアやショーン・コネリーの時代へとたった数日で逆行させてしまった。巨大な商業的システムの上で流通する音楽以外にも世界には豊かで素晴らしい音楽がたくさん存在するということを知っているラティーナの読者のみなさんにとって、そして、ラティーナに関わってきた関係者一同にとって、この不条理な侵略は到底許されるものではないだろう。人々の生活が極限状態に陥ると、そこに音楽は聴こえてこない…… 何があってもそんな状況にしてはならない。
ここまでの流れを振り返ってみると、狂気と化したリーダーとその周辺が勝手な妄想の上に始めた侵略行為によって、それぞれのフィールドで真っ先に排斥されたロシア人はスポーツ選手や芸術関係の人々。これはおかしくないだろうか? 心情的に排除したくなることは理解できるし、「そうしないとこちらが辞退する」という感情、事態も分からなくはない。しかし、これまで、どのジャンルよりも世界の人々と上も下も右も左も関係なく交流し感動を分かち合い、国境を超え多くの人にそれを与えてきた人々が真っ先に迫害にも似た仕打ちを受けるというのは不条理に思えて仕方ない。人間社会というのはことが大きくなれば大きくなるほど、より不条理になる宿命なんだと片付けてしまいたくはない。ロシアでコンサートをした時、納得のいかない不可解な出来事が少なくはなかった。頭の中が??? だらけになったこともあった。しかし、ひとりひとりと交流すると“ロシア人の” という枕詞は忘れてしまい、むしろ欧米よりも身近な同じ極東の隣人だと思えたものだ。だが、ここまで羞恥心なく時代を大幅に後退させる暴力行為をが現実に起こると、人類は永遠に成熟できない下等な生物なのだと悟ってしまいたくなる。たくさんの知恵、我慢、犠牲、汗や血や涙をつぎ込んで、今までそっと積み上げてきた平和への緩やかな上り道がたった1人の狂人の判断で数日の間に崩れ去ってしまうという現実を決して許してはならないと思う。そして国内外で暮らすロシア人への迫害は、これまた時代を逆行させる行為に他ならないのだから、決して実行してはならない。
即時降伏すれば犠牲者は出ない。国を守ろうとすれば犠牲者が出る。戦争を放棄すれば侵略され、侵略に抗えば戦争になる。といった矛盾の中で兄弟国同士が血と涙を流し合っている。全く馬鹿げている。もはや、ロシア人が声を一つにして張り上げ、内側から現状のロシアを解体するしか道は残されていないだろう。どうか、世界からどんな目でロシアという国が、ロシア人が見られているかをロシア国民に気づいてほしい。国境の少し外で起こっていることを凝視してほしい。これだけインターネットの蜘蛛の巣が張り巡らされた社会であっても、情報を完全に遮断できるという事実を目の当たりにすると、社会主義の闇の深さと自由主義社会が抱えている問題との両方が浮き彫りになる。
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