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[2021.08]【島々百景 第63回】黒島|沖縄【文と写真 宮沢和史】

文と写真●宮沢和史

 沖縄を旅するようになった1990年代初頭の那覇空港は今よりいいもずっとこぢんまりとしていた。空港に着いてから離島行きの便に乗り換えるには、一旦ターミナルから出て、徒歩で離島行きの別のターミナルまで歩かなければならなかったのも今思えばユニークな思い出だが、その数百メートルの間に沖縄の暑さを直接肌で感じ、離島への旅に想いを馳せるのにちょうどいい時間だった。八重山の島々を旅したいのならまずそこから石垣島へと向かう。日本最西端の与那国島へは那覇からも空路で渡れるが、石垣島からはフェリーか飛行機を使う。八重山諸島は石垣島と与那国島にしか空港がないので、それ以外の、竹富島、黒島、小浜島、鳩間島、西表島、波照間島、その他の小さい島々へ渡るにはフェリーか船を使う以外に方法はない。2013年に開港した石垣島の新空港「南ぬ島 石垣空港」は大変キレイで立派な空港であるが、それ以前は島の中心地に近い石垣市真栄里のスーパーやホームセンターが集まるエリアに隣接するように滑走路が伸びていた空港だったので、買い物で立ち寄ると島の南方向から飛行機が近づいてきて、瞬く間に機体が大きくなり、巨大な腹を見せながら頭上を通り過ぎ2、300m先に着陸するのを高い確率で目撃できたものだ。その臨場感はなかなか他では味わえないものがあったが、そもそもこの空港は戦時中に海軍用として建設されたもので、年々増加の一途を辿る観光目的の来島者を迎えるには手狭になり、1979年に島の南東部に位置する白保集落の沖合に新空港を建設する計画が発表された。しかし、着工への道筋が整った段階で、白保の健全なサンゴ礁を守ろうとする「八重山・白保の海を守る会」という市民団体が結成され、島内外において積極的な反対運動が展開され、1989年にはこの建設計画は撤回されることとなる。自然環境を守る目的のためにこのような経過をたどった例は稀なのではないだろうか? 白保地域はこれまで新良幸人や大島保克といった歌三線の才能ある人物を輩出し続けている地域であり、結果的に八重山芸能の価値ある源泉を守った格好になったとも言える。この反対運動においては沖縄本島のシンガーソングライター喜納昌吉氏も音楽活動の中で積極的に声を上げていて、自分自身、空港問題の実情を知るきっかけとなったのは、昌吉さんが東京公演の際に販売し、購入したカセットテープの楽曲「白保ぬ浜に花咲かさな」だった。泥沼のベトナム戦争を描いた映画『地獄の黙示録』中に流れるThe Doorsの楽曲を思わせるその叫びは、理論的なメッセージに頼るのではなく、法律やビジネス的価値観によって覆い隠されている人間の強欲・本性をむしり剥がすような理屈を超えたエネルギーに満ち溢れていた。自分も機会を見つけてはよくこの歌を歌ったものだ。のちにこの曲は「火神(ひぬかん)」という楽曲に発展することになる。

 風吹きよ 雨降りよ
 白保の浜に 花咲さ 花咲さ
 御神ぬ 踊ゆさ 白保んかい
              「白保ぬ浜に花咲かさな」
               作詞作曲:喜納昌吉


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