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世界の音楽情報誌「ラティーナ」

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#映画評

[2024.5] 【映画評】豊かな実を結んだコラボによる青春映画 『青春18×2 君へと続く道』『水深ゼロメートルから』

豊かな実を結んだコラボによる青春映画 『青春18×2 君へと続く道』 『水深ゼロメートルから』 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  コラボレーションとは、異なる立場の個人や団体などが組んで行う共同作業のことで、協力した主体や規模、範囲によって合作、共作、協働など、様々な呼び方がある。いずれにしても考え方や文化的背景の違いが高いハードルになるリスクもあれば、逆に思いもよらない大きな成果を上げる可能性も秘めている。今月はそんなコラボによって豊かな実を結び、大きく花ひらいた青

[2024.4] 【映画評】春に観るべき傑作3本 〜『ブルックリンでオペラを』『パスト ライブス/再会』『異人たち』

春に観るべき傑作3本 『ブルックリンでオペラを』『パストライブス/再会』『異人たち』 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  3月は『DUNE 砂の惑星 PART2』『オッペンハイマー』という、2020年代を代表する超大作というだけでなく映画史にその名を刻むであろう傑作が公開されたが、4月は小規模でも質の高い心に残る作品が多く公開される。そのうちの3本を紹介しよう。  まず先週公開された『ブルックリンでオペラを』(23)は、『50歳の恋愛白書』(10)『マギーズ・プラン

[2024.3] 【映画評】『美と殺戮のすべて』 〜人気カメラマンが巨大企業と美術界に仕掛けた滅法面白い闘争の記録!

人気カメラマンが巨大企業と美術界に 仕掛けた滅法面白い闘争の記録! 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  ナン・ゴールディン(Nan Goldin)をご存知だろうか。1953年にアメリカで生まれ、14歳で家出、18歳頃から共同生活をしていたドラァグクイーンやアーティスト、親しい友人、そして自分自身のスナップ写真を撮ってスライドショーを披露。それをまとめた初めての写真集「性的依存のバラード(The Ballad of Sexual Dependency)」(86 ※同名の

[2024.2] 【映画評】『ミツバチのささやき』から半世紀、ビクトル・エリセから届いた新たな傑作!〜『瞳をとじて』

『ミツバチのささやき』から半世紀、 ビクトル・エリセから届いた新たな傑作! 『瞳をとじて』 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  リュミエール兄弟が映画を発明してから約130年の歴史の中で、時代も国境も超えて今も輝き続ける多くの傑作映画が生み出されてきたが、ビクトル・エリセ監督『ミツバチのささやき』もその1本だということに誰も異論はないだろう。1973年の作品だが日本では1985年に初公開されて大ヒットを記録し、その後のミニシアター・ブームの先鞭を付けたとも言える。ま

[2024.1] 【映画評】まったく真逆の表現で心を揺さぶるヨーロッパから届いた2本の冒険物語 『哀れなるものたち』『ゴースト・トロピック』

まったく真逆の表現で心を揺さぶる ヨーロッパから届いた2本の冒険物語 『哀れなるものたち』『ゴースト・トロピック』 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  もうすぐ公開される、ヨーロッパから届いた2本の映画を紹介しよう。1本はギリシャ、もう1本はベルギーの監督による作品で、いずれも女性が主人公の冒険物語だ。  『哀れなるものたち』(23)は、『籠の中の乙女』(09)がカンヌ国際映画祭ある視点賞を受賞して以来、発表する作品すべてが主要な国際映画祭のメイン部門でノミネート/受

[2023.12] 【映画評】ヴィム・ヴェンダースと日本人キャスト/スタッフによる最高のコラボレーション!『PERFECT DAYS』

文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  ヴィム・ヴェンダースの新作タイトルが『PERFECT DAYS』で、鬱蒼とした木々が映ったビジュアルを見て、まず思い出したのは彼の2016年の作品『アランフェスの麗しき日々』だ。それは冒頭からルー・リードの「PERFECT DAY」が流れ、緑あふれ木々がざわめき鳥がさえずる別荘で過ごす作家と、彼が執筆中の男女の物語がシュールなタッチで描かれるシンプルな会話劇だ。本作も「PERFECT DAY」が劇中で流れる(タイトルもそこから取られたの

[2023.11]ミルトン・ナシメントが導く魔法の森の秘密〜映画『ペルリンプスと秘密の森』

文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  ブラジルのアニメーション作家アレ・アブレウ、9年ぶりの新作『ペルリンプスと秘密の森』(2022)がもうすぐ日本で公開される。世界最大規模のアニメ映画祭であるアヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞と観客賞をダブル受賞した前作、『父を探して』(2013/日本公開は2016年)もこのコラムで紹介しているが、その中で “列車が山の間から煙を上げながら現れる” 場面について、「まるでミルトン・ナシメントの『ジェライス』(1976)のジャケットの

[2023.11] 【映画評】芸術の秋に贈る珠玉の音楽ドキュメンタリー ⎯ 『キャロル・キング ホーム・アゲイン ライブ・イン・セントラルパーク』 『ロイ・ハーグローヴ 人生最期の音楽の旅』

芸術の秋に贈る珠玉の音楽ドキュメンタリー 『キャロル・キング ホーム・アゲイン ライブ・イン・セントラルパーク』 『ロイ・ハーグローヴ 人生最期の音楽の旅』 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  11月に公開される伝説のコンサートを追った1本と、革新的なミュージシャンの人物像に迫ったもう1本の音楽ドキュメンタリーを紹介しよう。

[2023.10] 【映画評】秋を彩る個性豊かな邦画2本 ⎯ 『白鍵と黒鍵の間に』 『愛にイナズマ』

秋を彩る個性豊かな邦画2本 『白鍵と黒鍵の間に』『愛にイナズマ』 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  この秋から冬にかけて、小~中規模ながら個性豊かな邦画が続々と公開される。ここではそんな作品の中から、自由奔放な表現で観る者を困惑させながらも、強い印象を残すであろう、10月に公開される2本の異色作を紹介しよう。

[2023.9] 【映画評】この秋に観るべき傑作2本 ⎯ 『熊は、いない』『バーナデット ママは行方不明』

この秋に観るべき傑作2本 『熊は、いない』 『バーナデット ママは行方不明』 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  先月紹介した2本の映画は、フィクションとドキュメンタリーの境界が曖昧になるような作品だったが、イラン映画『熊は、いない』はそんな虚実の皮膜がより複雑かつ効果的に作用し合い、観る者がめまいを覚えるような面白さと深さを持った作品で、昨年のヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞している。  その妙味を存分に味わうためには、まず監督のジャファル・パナヒその人自

[2023.8] 【映画評】 虚実の皮膜を突き抜ける心の叫び 『ミャンマー・ダイアリーズ』『あしたの少女』

虚実の皮膜を突き抜ける心の叫び 「ミャンマー・ダイアリーズ」「あしたの少女」 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  今月も先月に引き続き、小規模な公開ながら質の高い心に残る作品2本を紹介しよう。いずれもフィクションとドキュメンタリーの境界が曖昧になるような表現が興味深い。  先週から公開されている『ミャンマー・ダイアリーズ』は、昨年のベルリン国際映画祭パノラマ部門でドキュメンタリー賞、ブロンズ観客賞、アムネスティ国際映画賞を受賞した作品だ。受賞名で分かるように基本的には

[2023.8]映画 『ジェーンとシャルロット』〜常に時代を先取りした母と葛藤を抱えた娘が、初めて真摯に向き合った、その赤裸々な記録。

文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  2023年7月17日の朝、ジェーン・バーキンが前日に亡くなったことを知らされる。その数日前に本作を観て、まだまだ元気な姿が鮮明なイメージとして残っていたので、とても驚き呆然とすると同時に、図らずも本作の公開が追悼上映になってしまうことが残念でならなかった。2021年には軽い脳卒中で倒れたというニュースも聞こえてきたが、多くのファンは2020年にコロナ禍で中止になってしまった来日公演が、なんとかもう一度実現するよう心から願っていただろうか

[2023.7] 【映画評】 夏に観るべき傑作4本 ⎯ 『サントメール ある被告』『CLOSE/クロース』『小説家の映画』『トルテュ島の遭難者たち』 ⎯ 台詞で見せる。映像で語る。

夏に観るべき傑作4本 『サントメール ある被告』『CLOSE/クロース』 『小説家の映画』『トルテュ島の遭難者たち』 台詞で見せる。映像で語る。 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  今年の夏は、「ミッション・インポッシブル」「インディ・ジョーンズ」シリーズの最新作や、まさかの宮崎駿新作等、大作が話題を集めそうだが、同時に小規模な公開ながら質の高い心に残る作品も多く控えている。そんな中から4本を選んで紹介しよう。  まずは先週から公開が始まった、韓国が世界に誇る

[2023.6] 【映画評】 『怪物』 ⎯⎯ 是枝裕和と坂元裕二。ついに実現した夢のコラボレーションの破壊力。

是枝裕和と坂元裕二。ついに実現した 夢のコラボレーションの破壊力。 文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)  本作は是枝裕和監督の最新作だ。カンヌで最高賞パルムドールを獲った『万引き家族』以降、フランスで『真実』を、韓国で『ベイビー・ブローカー』を、殆ど現地のスタッフ/キャストで制作するという挑戦を続けできたが、本作では映画デビュー作『幻の光』以来の、脚本を人に委ねるという新たな境地に挑んでいる。しかも今迄に何度かの対談等で互いにリスペクトを表明し合い、「もし脚本家と組むなら