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[2024.12]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」 53】 5 a Seco 『Sentido』

文:中原 仁

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 2000年代後半から2010年代に頭角を表した、ノヴォス・コンポジトーレス(新しいコンポーザーたち)と総称されるサンパウロの新世代。そのキーパーソン、ダニ・グルジェルとハイスクールの同級生だったト・ブランヂリオーニ、ヴィニシウス・カルデローニのほか、ペドロ・アルテーリオ、ペドロ・ヴィアーフォラ、ダニ・ブラッキ。この5人のシンガー・ソングライターが2009年に結成したバンド、シンコ・ア・セコ。当時は全員、20代前半だった。

 当初は、ライヴのために期間限定で結成したバンドだったそうだが反響が大きく、初ライヴ後にダニ・ブラッキが抜けてレオ・ビアンキーニが加入し、バンドは継続。2012年、同世代のオーディエンスの熱い声援に包まれたライヴCD/DVD『Ao Vivo no Auditório Ibirapuera』を発表し、その後、各メンバーのソロ活動と並行して活動を続け、スタジオ録音作を3枚、発表した。

 結成10周年を迎えた2019年、活動停止を発表。メンバーは個々の活動に戻った。ト・ブランヂリオーニはプロデューサーとして、アナヴィトーリアの『Cor』、ポルトガルのルイーサ・ソブラルの『DanSando』などを手がけた。

 ヴィニシウス・カルデローニは演劇の脚本家としても活動し、劇団コンパニーア・バルカ・ドス・コラサォンイス・パルチードス(Cia. Barca dos Corações Partidos)のミュージカル『ムゼウ・ナシオナル(Museu Nacional)[トーダス・アズ・ヴォゼス・ド・フォゴ](Todas as Vozes do Fogo)』の脚本と演出などを手がけた。
 
 レオ・ビアンキーニは2021年、リーダー作『Solto no Mundo』を発表。ペドロ・アルテーリオは2023年、ト・ブランヂリオーニのプロデュースでリーダー作『De Cara Limpa』を発表。ペドロ・ヴィアーフォラはペドロ・アルテーリオとのデュオ・ユニット、ペドロスを組んで活動し、EPを発表。父のシンガー・ソングライター、セルソ・ヴィアーフォラとの共作、共演を行なった。

 こうした日々に加え活動停止後、コロナ禍に見舞われたこともあって停止期間が長くなったが、2024年9月、サンパウロで開催されたコアラ・フェスティヴァルに出演して5年ぶりのライヴ・パフォーマンスを行ない、ニューアルバムの完成を告知。11月28日、新作『Sentido』がデジタル・リリースされた。全15曲全て未発表曲で、約50分の力作。最初に各曲の作者とリード・シンガーをメモっておこう。

1. Comédia de enganos (Alfredo Del Penho, Beto Lemos e Vinicius Calderoni) All, Chico Buarque
2. Plano A (Tó Brandileone, Celso Viáfora, Vinicius Calderoni) Tó Brandileone
3. A vida que pode ser (Leo Bianchini, Vinicius Calderoni) Leo Bianchin
4. Bagulho doido (Vinicius Calderoni) Vinicius Calderoni
5. Deixa eu gostar de você (Pedro Altério e Celso Viáfora) Pedro Altério
6. Ela apareceu (Pedro Viáfora) Pedro Viáfora
7. Milagre (Tó Brandileone, Vinicius Calderoni) Tó Brandileone
8. A vera (Leo Bianchini, Vinicius Calderoni) Leo Bianchin
9. Inventar sentidos (Vinicius Calderoni) Vinicius Calderoni
10. Céu de dentro (Pedro Altério, Leo Bianchini, Pedro Viáfora) Pedro Altério
11. A vida vi (Pedro Viáfora, Celso Viáfora) Pedro Viáfora
12. Amor e só (Tó Brandileone, Paulo Novaes) Tó Brandileone
13. Quero-quero (Leo Bianchini, Leo Versolato) Leo Bianchin
14. Pequenas alegrias (Vinicius Calderoni) Vinicius Calderoni
15. Sigamos (Pedro Altério, Pedro Viáfora) Pedro Altério, Pedro Viáfora

 オープニング曲「Comédia de Enganos」は先にも書いた、ヴィニシウス・カルデローニが脚本と演出をつとめた劇団コンパニーア・バルカ・ドス・コラサォンイス・パルチードスのミュージカル『ムゼウ・ナシオナル [トーダス・アズ・ヴォゼス・ド・フォゴ]』の挿入曲で、ヴィニシウスと音楽監督をつとめたアルフレド・デル・ペーニョ、ベト・レモス(この2人はリオ勢)の共作。ヴィニシウス、レオ、ト、ヴィアーフォラ、アルテーリオの順にリードをとり、最後に登場するのは今年、80歳を迎えたシコ・ブアルキだ。これはビックリのコラボ。エドゥ・ロボとのコンビで数々のミュージカルの音楽を手がけてきたシコへのオマージュをこめた共演だろう。シコにとっても、息子世代のヴィニシウスの演劇の分野での活躍が頼もしく思えたことだろう。余談だがシコが歌う歌詞の最後のフレーズ "キャラヴァンが進む" を聴いてシコの2017年の新作『Caravanas』(キャラヴァンの複数形)を思い出した。

 これ以降、メンバー同士の共作(ペドロ・ヴィアーフォラの父セルソとの共作も)も含めて進行し、曲ごとにリード・シンガーが交代する。それぞれが個性を発揮していてヴァラエティ豊かだが、オムニバスっぽさはなく統一感があるのは、リズムコンシャスなロックが全員のバックグラウンドにあるからだろう。歌詞を含めた彼らの音楽には、ユーモアやウィットなどの遊び心もある。メガ・シティ、サンパウロで生活するインテリ層の感受性もある。結成15年、30代の後半を迎えた5人の、成熟という言葉では片付けられない、信頼感に裏づけられた確信が伝わってくるアルバムだ。第二の旅立ちを迎えたシンコ・ア・セコのキャラヴァンの今後が楽しみ。

 最新の映像がないので、最初の記録となる『Ao Vivo no Auditório Ibirapuera』から、再生回数5千万超えの曲「Pra Você Dar o Nome」 (Tó Brandileone作)を。

(ラティーナ2024年12月)


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