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[2024.11]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」 52】 Marcelo D2 & SambaDrive 『Direct-to-Disc』

文:中原 仁

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 リオのヒップホップ・ユニット、プラネット・ヘンプのリーダー、マルセロ・D2(デードイス)はファースト・ソロ・アルバム『Eu Tiro É Onda』(1998年)以降、ヒップホップとサンバの融合の第一人者として新たな地平を切り開いてきた。

 2017年、ピアノ・トリオと共演した6曲のスタジオライヴ・セッション『Marcelo D2 & Samba Drive - Living Room Live Vol.1』をYouTubeで公開。DJなし、生バンドに乗って代表曲をラップした。

Marcelo D2 & Samba Drive - Living Room Live Vol.1 (audio only)

 それから5年を経て2022年、オランダのスタジオで録音したMarcelo D2 & SambaDrive名義のフル・アルバム『Direct-to-Disc』が2024年11月1日、LPとデジタル・プラットフォームでリリースされた(注:11月1日リリースのため「2024年ブラジル・ディスク大賞」投票の対象外。2025年の対象となります)。

 イギリスのレーベル、Night Dreamerが発売する『Direct-to-Disc』(テープもしくはハードディスクに録音するプロセスを省き、録音の場でマスターのラッカー盤レコードにカッティングする手法)のシリーズ、ブラジル音楽では、2020年10月号の連載で紹介したセウ・ジョルジとホジェーのアルバム以来となる。

 SambaDriveのメンバーは、ピアノとキーボードがアルゼンチン出身のパブロ・ラピドゥサス(Pablo Lapidusas)。ベースがマウロ・ベルマン(Mauro Berman)。ドラムスがロウレンソ・モンテイロ(Lourenço Monteiro)。ミックスはマリオ・カルダート(Mario Caldato)。まずは、録音風景をとらえたダイジェスト映像(2分弱)をどうぞ。

 ここからは収録曲順ではなく、初出のアルバムの時代順に、曲を紹介していこう。

 DJ Nuts(当時のクレジットはRodrigo Nuts)らと共同プロデュースした『Eu Tiro É Onda』(1998年)から2曲。
 「1967」(B2)の曲名はD2の生年で、ライムも自叙伝だ。

「1967」ロンドンでのライヴ映像

 「Samba de Primeira / Encontro com Nogueira」(A4)では "リオからきたヒップホップだ。ファンクとDJとパンデイロだ" と高らかにレペゼンする。

 「黒いオルフェ」のシーンから始まる「Samba de Primeira」video clip(98年)

 『Eu Tiro É Onda』リリース後、リオで行なったD2のインタビュー(1998年11月号)がアップされた。サンバについても語っているので、参考にどうぞ。

 「2003年ブラジル・ディスク大賞」関係者部門でダントツ1位となった名盤『A Procura da Batida Perfeita』からは4曲。
 "サンバの呪い" を意味する「A Maldiçâo do Samba」(A1)ではピアノがバーデン・パウエル&ヴィニシウス・ヂ・モライスのアフロ・サンバの名曲「Canto da Ossanha」を引用し、D2は初出と同じく最後にパウリーニョ・ダ・ヴィオラの名曲「Argumento」の一節を引用して締める。

Marcelo D2 & Samba Drive - Living Room Live Vol.1(2017年)

 「A Procura da Batida Perfeita」(A3)。曲名はアフリカ・バンバータの「Looking for the Perfect Beat」のポルトガル語訳だがD2のオリジナル曲で、初出でサンプリングしたルイス・ボンファの「Bonfa Nova」の旋律をピアノが弾く。

『Acúsico MTV』(2004年)のライヴ映像

 「Qual É?」(A5)は初出盤からの最大のヒット曲。最後にアントニオ・カルロス&ジョカフィの「Kabaluere」の一節を引用する。

Marcelo D2 & Samba Drive - Living Room Live Vol.1(2017年)
 

 「Profissão MC」(B1)は、MCを職業とした人間の誇りがテーマ。

 『A Arte do Barulho』(2008年)からは「Desabafo」(B4)。初出ではクラウヂアが歌う「Deixa Eu Dizer」(イヴァン・リンス&ホナウド・モンテイロ・・ソウザ作)をサンプリングしていたが、ここではピアノが旋律を弾くだけなので、D2のラップに集中して聴ける。

Marcelo D2 & Samba Drive - Living Room Live Vol.1(2017年)

 『Nada Pode Me Parar』(2013年)からは「MD2 (A sigla no TAG)」(A2)「Eu Tenho o Poder」(B3)「Rio (Puro Suco)」(B5)の3曲。最後はリオ讃歌だ。

「MD2」video clip

「Eu Tenho o Poder」Marcelo D2 & Samba Drive - Living Room Live Vol.1(2017年)

「Rio (Puro Suco)」video clip

 50代後半を迎えたD2の切れ味に、全く衰えなし。サンバジャズ調のシンプルな演奏に乗ったラップからは、歌心とサンバのシンコペーションが伝わり、彼の素顔をより身近に感じることができる。

 21世紀のサンバ・シンコパード。そう言えるかもしれないアルバムだ。

(ラティーナ2024年11月)


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