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[2024.2]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2024年2月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。


20位 Luzmila Carpio · Inti Watana / El Retorno del Sol

レーベル:ZZK [5]

 ボリビアの先住民ケチュア族出身のSSW、ルスミラ・カルピオの最新作。リリースは、デジタル・クンビア、エレクトリック・フォルクローレで知られるブエノスアイレスの名門レーベルZZKから。
 ルスミラは、半世紀以上にわたってアンデスの先祖伝来の知識と音楽を世界中に広めてきた。その長いキャリアの中で、120曲以上を作曲し、25枚以上のアルバムをリリース、母国語のアイマラ・ケチュア語とスペイン語の両方で歌いながら何百万人もの人々にインスピレーションを与えてきた。また2006年から2010年まで在フランスボリビア大使も務め、『ローリング・ストーン』誌が彼女を「南米で最も多作な先住民シンガーのひとり」と評したこともある。ボリビアだけでなく、ラテンアメリカ全土の先住民コミュニティの光明となって活動してきた。
 本作では、ラテンアメリカ先住民の儀式や儀礼、自然との交わりなど伝統に対する敬意を表し、彼らの闘いや女性のエンパワーメント、そして人々と地球へのメッセージを伝えている。魂が込められた彼女の特徴的な歌声と、民族楽器との相性が非常に心地よい。民族楽器もチャランゴやケーナといったボリビアのものだけでなく、ハルモニウム、ヴァイオリンやギターなどの西洋楽器、アルゼンチンのボンボ・レゲーロ、アルメニアのドゥドゥク、アジアのパーカッションなども使われている。時折アジアの楽曲かと思えるようなところがあるのもそのせいかもしれない。
 パチャママ(母なる大地)とタタ・インティ(父なる太陽)と対話するように作られたそうだ。地球環境問題がかなり深刻化している今、人間と自然との調和を見出すことはかつてないほど重要だということを、大地と太陽に対話することで表現している。
 本作LPのお披露目を6月21日の夏至の日に、リリース日を9月21日のお彼岸に合わせるということで、一貫した意思が感じられる。気候変動の異常さを感じた今夏、我々も本作を聴いて、今一度環境について考えなければならないと思わされた作品。

19位 Lenhart Tapes · Dens

レーベル:Glitterbeat [16]

セルビアの首都ベオグラードを拠点に活躍する音楽家ヴラジミール・レンハルトが主宰するレンハルト・テープスは、カセット・ウォークマンを楽器のように操り〈ベオグラード・エスノ=ノイズ〉なる新ジャンルをパフォーマンスする前代未聞のプロジェクトだ。2023年発表の本作ではヴァイオリニスト/民俗音楽学者/ラジオ編集者といった肩書きも持つ女性歌手ティヤナ・スタンコヴィッチらが参加し、バルカン各地の伝統音楽などを取り上げている。ヴラジミール所有の豊富なカセット・コレクションから選りすぐった、ノイズを含む音素材をリズム・ループさせ、バルカンの伝統に則ったヴォーカルやヴァイオリン/ギター/ベース/サックスといった生楽器も加わえて作品に命を吹き込む。(オフィスサンビーニャより)

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

18位 Okavango African Orchestra · Migration

レーベル:Okavango African Orchestra [28]

 カナダ・トロントとモントリオール在住のアフリカ生まれの熟練ミュージシャンを集めたユニット、オカバンゴ・アフリカン・オーケストラの最新作。3作目となるアルバムで、1、2作目ともに、カナダのグラミー賞とも言えるJUNO賞を受賞している。
 ユニット名は、ボツワナのカラハリ砂漠にある盆地、オカバンゴ・デルタに由来する。周囲の厳しい環境のために共存を余儀なくされ、わずかな資源を分け合っていることを意味している。
 メンバーはアフリカ生まれと言っても出身国は様々で、言語も異なる。歴史的にほとんど交流のなかったアフリカのいくつかの主要な文化の音楽と楽器をひとつにまとめ、それぞれの異なる調律システム、リズム、音色を調和させ新しい音楽言語を生み出した。現代のカナダの多文化精神が生み出したとも言え、彼らは「国境のないアフリカ」を表現している。
 アルバムタイトルは「移住」、オカバンゴ・デルタに生息する動物たちがより緑豊かな牧草地へと移動するように、移動と探検という新たな領域に到達しようと努めている。メンバーたちはただ音楽を演奏するのではなく、新しいコンセプトやアイデア、一緒に活動する方法を紹介しているとのこと。国境を越えたアフリカを感じられ、一般的なアフリカ音楽とはまた異なる。魅力的で中毒性のある音楽。

17位 Carola Ortiz · Cantareras

レーベル:Segell Microscopi [34]

 スペインを拠点に活動するミュージシャン、カロラ・オルティスのソロプロジェクトの4枚目となる最新作。彼女は、歌手だけでなくクラリネットも演奏、また作曲家、音楽研究家でもあり、バンドにも所属し世界各地で演奏している才能ある音楽家である。
 本作は、イベリア半島の豊かな女性の口承音楽の伝統に現代的な視点を加え、民謡や中世音楽、ジャズ、エレクトロニックの要素を取り入れ蘇らせた楽曲が収録されている。このプロジェクトの主な目的は、女性の歴史的経験を掘り下げ、光を当てることであり、求婚、結婚、母性、死など、女性のライフサイクルと儀式における重要な節目にスポットを当てている。タイトル『Cantareras』とは、かつて泉や川から水を汲み、地域の採石場を満たす役割を担っていた女性たちのことで、まさに女性の人生を表現している。
 スペインのパレンシア、セビリア、ガルシア地方などの伝統的な歌、またタラゴーナの歌にカロラの詩を乗せて歌っていたり、彼女オリジナル曲も収録。もちろん彼女のバスクラリネットも含まれている。中東の要素も感じられ、スペインの豊かな景色を堪能できる作品。

16位 Aga Khan Master Musicians · Nowruz

レーベル:Smithsonian Folkways Recordings [11]

 歴史的に重要なイスラム文明や、現代のイスラム社会、世界各地のディアスポラからの美術品を展示・収集しているトロントの美術館、アガ・カーン美術館の音楽プログラムの一環としてのグループ、アガ・カーン・マスター・ミュージシャンズによる最新作。本作が彼らにとって初めてのフルアルバムとなる。
 アガ・カーン美術館では教育機関としても機能し、音楽をはじめとした様々な芸術のイベントや講演などを開催している。音楽的革新が文化遺産の活性化にどのように貢献できるかを探求するために集められたメンバーはここでキュレーターとしての役割も持ち、ワークショップやマスター・クラスなどを中心に、2013年より演奏活動を行なってきた。
 彼らは、中東、地中海沿岸地域、南アジア、中央アジア、中国出身の6人の音楽家たち。ピパ(琵琶)担当は中国出身のウー・マン、イランと中央アジアで使われる二弦のリュート楽器ドゥタール奏者のシロジッディン・ジュラエフはタジキスタン出身、中央アジアで使われるフレームドラム、ドイラ担当アッボス・コシモフはカザフスタン出身、アラブの伝統撥弦楽器カーヌーン奏者フェラス・チャレスタンはシリア出身、ヴァイオリン、ヴィオラ・ダモーレ担当ジャセル・ハジ・ユーセフは北アフリカ・チュニジア共和国出身という多国籍なグループ。彼らのルーツである中央アジア、中国、中東、北アフリカの音楽を取り入れ、伝統的な音楽が融合した独創的な作品となっている。それぞれの楽器が持っている深い音や魅力、そして各メンバーの高度なテクニックも存分に味わえる。とても有意義な作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き)

15位 La Sève · Chlorophylle

レーベル:King Tao [25]

 フランス・ドローム地方出身の4人組バンド、ラ・セーヴの二作目。ギター3本とパーカッションの編成で、彼らは西アフリカの音楽、特にカメルーンやコンゴの音楽に影響を受けたそう。
 本作では、カメルーンのビクツィ(Bikutsi)やコンゴのルンバなど、西アフリカの多くの地域で親しまれているダンスミュージックを探求している。
6/8拍子で、速くとてもリズミカルな感じで腰を揺らし、足で床をたたくような楽曲もあり、またレゲエやジャズのような楽曲もありとても面白い。どっぶりアフリカのダンスミュージックかと思いきや、彼らのオリジナル曲に現代的でモダンなアレンジも加わり彼ら独自のスタイルを貫いている。何の情報もなく一番最初聴いたときにはアフリカ人によるアルバムかと思ったのだが、全然違っていた!
 フランス人による西アフリカ音楽のアルバム、というのが斬新でよい。中毒性のある作品。

14位 Idrissa Soumaoro · Diré

レーベル:Mieruba [6]

 マリ共和国出身の作曲家、歌手、ギタリストで、カマレン・ンゴニ(西アフリカの伝統的な弦楽器)の名手でもあるイドリサ・スーマオロの最新作。サリフ・ケイタも所属していた伝説的なバンド、レ・アンバサドゥール・ドゥ・モテール・ド・バマコのメンバーでもあった。
 1949年首都バマコ郊外の村に生まれ、小学生の頃に校長先生のギターと出会い、それ以来ギターに夢中になる。ギターだけでは飽き足らず、様々な楽器にも魅了され、1968年にバマコの国立芸術学院に入学する。その頃から音楽活動や作曲も行い、芸術学院卒業後は音楽教師となる。音楽教師として最初に赴任したのが、本作タイトルでもある町、ディレ(Diré)である。昼は教師、夜はアーティストとして、多くのステージに出演し続け、レ・アンバサドゥール・ドゥ・モテール・ド・バマコにも参加することとなる。
 バンド解散後は、視覚障害者に力を与える必要性を世間に認識させるため、自ら保健省へ出向し、目の見えない人と見える人で構成されたオーケストラを立ち上げた。さらには、点字音楽学を学ぶためイギリスにも奨学金留学する。マリに戻ってからは様々な責任ある役職を歴任し、1996年マリの文部省音楽総監に任命され、2011年に退官するまでその職を務めた、というすごい人。
 2003年に自身のソロアルバム『Koté』をリリース。2010年にはアリ・ファルカ・トゥーレとの共演作を収録したアルバム『Djitoumou』をリリースし、本作はそれに続くソロ3作目となる作品。
 本作は2012年から制作を開始したが、制作途中でプロデューサーが急逝し、制作は中止されていた。しかし、パンデミックによりじっくり制作する時間ができ、今回のリリースに至った。イドリサの意向により、マリのブルースの故郷である町セグーを拠点とするインディペンデント・レーベル、Mieruba からのリリース。構想から制作、流通に至るまで、「マリが繁栄できるよう、共に立ち向かおう」というメッセージが本作に込められている。
 砂漠のブルースを感じさせる楽曲で、彼の人生そのものが歌や演奏で表現されており、大変渋い作品。
昨年9月に17位でランクインして以来、ずっと上位をキープし続けている。

13位 Casapalma · Montañesas

レーベル:Raso [30]

 スペイン北部のカンタブリア州カブエルニガ出身の男女(ヨエル・モリーナとイレーネ・アティエンサ)デュオ、カサパルマのデビュー作。カブエルニガにあるイレーネの実家の呼び名からデュオ名を名付けた。
 カンタブリア山脈が近いこの地域には古くから口承で伝わる山の歌や伝統的な民謡があり、スペインの民族音楽の中でも豊かなジャンルを持っていると言われている。それらが録音されているテープを調べたり、その地域の祭りなどを通じて歌を集め、それを現代的な要素とミックスさせ独自に再解釈した。その結果、オルタナティブ・ポップ、実験的エレクトロニクス、レゲトンのスロービートのようなモダンでポップな仕上がりとなっている。
 伝統音楽の枠を押し広げ、豊かな文化を現代的に表現している素晴らしい作品。タンバリンの音色で気分を高揚させてくれ、彼らの情熱が伝わってくるかのようだ。

12位 Petroloukas Halkias & Vasilis Kostas · The Soul of Epirus Vol. II

レーベル:Artway / Technotropon [-]

 ギリシャ伝統音楽の重鎮でクラリネットの生ける伝説と呼ばれる、ペトロルーカス・ハルキアと、ギリシャ北西部のエピルス州出身のラウト(ギリシャとキプロスで発見されたリュート族の長い首のフレット楽器)奏者/作曲家のヴァシリス・コスタスとのデュオによる最新作。
 本作は、エピルス出身の偉大なクラリネット奏者、キトス・ハリシアディスが1920年から30年にかけて確立した器楽曲と演奏スタイルへの創造的なアプローチに基づいており、2019年にリリースされたvol.1に続く第二弾となる。キトス・ハリシアディスは、エピルスのレパートリーに基づくユニークで複雑な音楽言語を創作、ペトロルーカスはそれを生涯を通して維持しさらに発展させた。ヴァシリスは現在、ペトロルーカスのクラリネットの演奏哲学をラウトに翻訳している。
 伝統的な楽曲が現代的に見事に蘇っており、そしてクラリネットとラウトが対話しているような感覚を覚える。後世に伝えるべき作品。 

11位 Almir Mešković & Daniel Lazar · Family Beyond Blood

レーベル:ALDA [22]

 ボスニア出身のアコーディオン奏者アルミル・メシュコヴィッチとセルビア出身のヴァイオリニスト、ダニエル・ラザールのデュオ作品。オスロのノルウェー音楽アカデミーで出会いがデュオを組むきっかけとなり、現在も二人ともノルウェー在住である。
 バルカン半島のルーツを持ち、ノルウェー在住ということで、それらの要素が融合されている作品。ルーマニアの伝統的な民謡ドイナ、ボスニアの大衆音楽セヴタなどバルカン半島の伝統的な音楽や、北欧の民謡、そしてロマ音楽など多様な音楽が効果的に融合し、魅惑的で個性的なサウンドを形作っている。さらに、多様な文化と音楽の伝統を代表する国際的なミュージシャンがゲストとして参加。例えば、マリのコラ奏者トゥマニ・ディアバテや、サーミ・ヨイクを歌うマルヤ・モーテンソン、今月10位にもランクインしているノルウェー在住マリ出身のパーカッショニスト、シディキ・カマラなど豪華なゲストが演奏を披露している。
 クラシック音楽と民族音楽で20年以上の経験がある二人のテクニックが存分に詰まっている作品。ジャンルにとらわれない、豊かな芸術を見事に表現しており、思わず聞き惚れてしまう。

10位 Sidiki Camara · Return to the Traditions

レーベル:Global Sonics [18]

 マリの音楽家シディキ・カマラの最新作。現在はノルウェーのオスロ在住で、オスロのレーベルからのリリース。
 タイトルを直訳すると『伝統への回帰』。国境を越え、マリのルーツと共鳴する深遠な音楽的探求をテーマとし、祖国マリの通過儀礼にまつわる音楽を深く掘り下げている。
 催眠術のようなンゴニの音色、そこにベースとパーカッションが加わり、魅惑的な音楽の世界が広がっている。国外に住んでいるからこそ見えるものがあるのだろうか?どことなく冷静な表現も窺える。
 パーカッションの連続性にハマってしまう作品。中毒性あります!

9位 Mari Boine & Bugge Wesseltoft · Amame

レーベル:By Norse Music [10]

 ノルウェーのサーミ人マリ・ボイネと、同じくノルウェーのジャズ・アーティスト、ブッゲ・ヴェッセルトフトのデュオ最新作。ブッゲはプロデュースも担当。2人は2002年にもコラボしているが本作で再びタッグを組んでリリース。
 ブッゲの優しいピアノの演奏に、マリの包容力や深みのあって強さやしなやかさも感じられる歌声が重なり、瞑想的で開放的なサウンドスケープが作り出されている。歌っているのは、愛や人間の弱さ、不正、闘争、誇りと尊厳など、シリアスな内容となっている。
 聴いていると胸にすーっと入っていくような感じ。歌詞まで理解できるともっといいのだが、聴いているだけでも心地よい美しい作品。

8位 Hysterrae · Hysterrae

レーベル:Linfa [-]

 民族も音楽的背景も異なる4人の女性によるイタリアのユニットのデビュー作。メンバーは、サレント地方を代表するヴォーカリスト兼フルート奏者のチンツィア・マルツォ、イランの古典・伝統音楽界の名手で、タール、セタール、ダフを巧みに操るシャディ・ファティ、ナポリ音楽だけでなく、バルカン半島の音楽や地中海の様々な民族音楽のプロジェクトにも参加している歌手イレーネ・ルンゴ、多才なシンガーでありマルチ楽器奏者、女優でもあるシルヴィア・ガッローネという実力派メンバーが集結。そこにプロデューサー/サウンド・エンジニア/エレクトロニック・ミュージックの巨匠であるエマヌエーレ・フランドーリが加わり、バンドの雰囲気が巧みに演出されている。
 アルバムタイトルでもありユニット名でもある「Hysterrae」とは、古代ギリシャ語で母親の子宮を意味する「hyster」に由来し、民族の枠を超えたバンドの探求を強調し、団結という深遠なメッセージを伝えている。すべての存在は偉大なる宿主である母なる地球の一部として相互に繋がっているということを表現している。
 繰り返されるリズム、美しいポリフォニック・ヴォイス、ダブEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)の要素を巧みに織り交ぜている。その呪術的な融合が不思議な雰囲気を醸し出している。最初ちょっと怖かったのだが、聴いているうちに魅惑的で美しく感じる作品。

7位 Frank London’s Klezmer Brass Allstars · Chronika

レーベル:Borscht Beat [9]

 グラミー賞受賞のトランペット奏者で作曲家のフランク・ロンドンによる自身名義のバンド、フランク・ロンドンのクレズマー・ブラス・オールスターズの最新作。
 バンドは8人組で、トランペット×2、トンボーん×2、クラリネット、チューバ、ギター、ドラムという編成。ホーン楽器が多いとやはり音の厚みが違う。伝統的なイディッシュ音楽やハシディック音楽、そしてクレズマーをエレクトロニック・ビートとシームレスに融合させている。祝祭感、エネルギー溢れる作品。

6位 Koum Tara · Baraaim El-Louz

レーベル:Odradek [2]

 フランス人ピアニスト/作・編曲家カリム・モーリスと、カリムと繋がりの強いフランスの弦楽器四重奏ユニット、ラ・カメラータ、そしてアルジェリア人歌手ハミドゥことモハメド・ハマムらにより構成された8人組ユニットKoum Tara の最新作。2018年にもアルバムリリースをしているが、今回は歌手を変えてのリリース。
 北アフリカの伝統音楽である「シャアビ」と、クラシックや現代ジャズが融合した魅力的なサウンドを展開している。楽器もアルジェリアのマンドリンやダラブッカ、北アフリカのフレームドラムであるベンディールなどのアラブの伝統楽器と、ピアノやヴァイオリン、チェロ、ヴィオラなどの西洋楽器の両方が使われている。パンデミック中に構想され「シャアビ」の詩やメロディー、ルーツにまで探求し、その結実として制作された作品。ハミドゥやカリムのオリジナル作品も収録されている。
 ユニット名「Koum Tara」とアルバム名「Baraaim El-louz」(訳すと「アーモンドの木の芽」という意味)は、どちらも18世紀のアルジェリアの詩人、モハメド・ベンデッバの詩に基づいて付けられた。
 異なる文化が見事に美しく融合されたとても斬新な楽曲ばかり。現在のシャアビを新たに切り開こうとする意気込みが感じられ、ジャンルを越えた多様性溢れる作品となっている。催眠術のような感じで作品に惹き込まれてしまう。

5位 Ary Lobo · Ary Lobo 1958-1966

レーベル:Analog Africa [8]

 ブラジル北東部の大衆ダンス音楽のフォホー歌手、アリ・ロボの全盛期である1958-66年に録音された作品を集めたアルバム。
 パラー州ベレン出身のアリはリオデジャネイロに向かい、1956年6月RCAビクターと契約。リオの音楽シーンは、アフロ・ブラジルの伝統に深く根ざした北東部出身のこの新人に注目し始めた。1960年には彼の最高傑作と言われる 『Aqui mora o ritmo(リズムはここに息づいている)』をリリース。それから1966年に『Quem É O Campeão?』をリリースするまで、毎年LPを1枚ずつレコーディングしていた。しかし、1960年代の終わりにはフォホーの人気は下火になり、アリは仕事の機会を求めて都市を転々とすることを余儀なくされ、やがて彼はフォルタレザにたどり着き、1980年に亡くなるまでそこで暮らした。
 1950年代にパラー州から登場した歌手やソングライターの中で、彼はは当時としては異例の国民的名声を獲得し、700曲以上を録音した。
 先月初登場していたのにチェックできておらず、ランキングを見て驚いた!フォホーファンには堪らない!彼の巻き舌で歌っているポイントがとても好き!ダンス音楽好きならぜひ聴いてほしい一枚!
(☆Analog Africa ありがとう!)

↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付きLP)

4位 Bixiga 70 · Vapor

レーベル:Glitterbeat [3]

 ブラジル・サンパウロのアフロ・ブラジリアン・バンド、ビシーガ70の最新作。オリジナル作品としては4年ぶりで、本作が5作目。
 2010年にブラジル・サンパウロで結成され、ドラム、ベース、ギター、鍵盤のほか、複数のパーカッションとホーン隊からなる大所帯バンド。アフロビートを中心としたアフリカ音楽に、サンバやカンドンブレなどのアフロ・ルーツのブラジル音楽、またクンビアやアフロ・キューバン、アフロ・ジャズといったアフロ系汎ラテン音楽などをミックスさせた楽曲を演奏する。前作リリース後にパンデミックとなり、その間に10年以上一緒に活動してきたメンバーが脱退、そして新たなメンバーが加入するという動きがあった。
 本作はそんな経緯を経て、まさにバンドを再結成するような感じで、新メンバーと共に新たに音楽を作り上げた重要な作品。従来までの土台となる音楽性は変わらないが、新メンバーが今までと違ったアイデアを持ち寄って来たおかげで、新たなエッセンスが加わった作品となっている。例えば、北東部出身の新メンバーにより、アシェーやピゼイロ、テクノ・ブレーガなどの要素もミックスされている。新たな要素を柔軟に受け入れることで、今までよりもさらにパワーアップしている。
 また、本作ではゲストとして、パーカッショニストのシモーニ・ソウが参加している。シモーニは、先日26年ぶりに来日したシコ・セーザルのかつてのバンドメンバーであり、26年前の初来日公演の際にも来日している。シコだけでなく、イタマール・アスンサォン、ゼリア・ドゥンカン、ゼカ・バレイロ、バヂ・アサドなどのアーティストとも共演、2000年以降は国際的なプロジェクトにも取り組んでいる実力派パーカッショニスト。10〜11月にかけて行われている本作リリースのヨーロッパツアーにも同行しているようだ。
 彼らの音楽はアフリカ的であり、ブラジル的でもある。今のサンパウロをそのまま体現しており、音楽でエネルギーを解放しているようだ。本作はバンドのターニングポイントとなるべき作品で、今後の活動もますます期待できる。インスタでもヨーロッパツアーの様子がアップされている(下記にリンクあり)が、ぜひ観てみたい!と思わせるバンド。いつか日本にも来てくれないかなぁ、と願っている。

↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付きCD&LP)

3位 Shakti · This Moment

レーベル:Abstract Logix [4]

 イギリスのギタリスト、ジョン・マクラフリンがリーダーを務め、インドのパーカッショニストの巨匠、ザキール・フサインたちと結成、結成50周年を迎えたシャクティの最新作。本作がスタジオアルバムとしては46年ぶりで、4作目となる。(すごい!)昨年はワールドツアーを実施し、世界のファンへ音楽を届けた。
 速いタブラとギターのコンビネーションはダイナミックで圧巻される。速い!と思っていてもリズムが変化し緩急あるアレンジが良く、美しいユニゾンも聴ける。キャリアに裏打ちされた演奏テクニックを存分に味わえる作品。さすがです!

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

2位 Batsükh Dorj · Ögbelerim: Music for My Ancestors

レーベル:Buda Musique [1]

 1990年、モンゴル最西端の村ツェンゲルで生まれた音楽家バツフ・ドルジの最新作。今までモンゴル・ホーミーのコンピレーションアルバムなどには登場していたが、本作が彼のソロデビューアルバムとなる。ワールドミュージックだけでなく世界の様々な民俗音楽を広く紹介しているフランスのレーベル Buda Musique からのリリース。昨年10月に初ランクインし、先月1位に!
 彼が生まれた村ツェンゲルは、隣接するトゥヴァ共和国(ロシア)と関わりが深く、村に暮らす住民もトゥヴァ系の人々が多い。彼もその一人で、幼い頃からモンゴルとトゥヴァのホーミーを学び、トゥヴァの音楽大学を卒業。フーメイ(khoomei)、スグット(sygyt)、カルグラー(kargyraa)などいくつか種類があるトゥヴァの喉歌のテクニックもマスターした。またトゥヴァの民族楽器のイギルやドシプルールも演奏し、その楽器制作も行なうという多才ぶり。
 本作でギターを伴奏しているのは、フランスの音楽家/民族音楽学者で、ホーミーのプレイヤーでもあるジョアニ・キュルテ。彼との出会いがあり、本作を制作するに至った。トゥヴァをルーツとする伝統的な楽曲や、伝統に則ったバツフのオリジナル曲が収録されており、馬のリズムや水の流れを模倣しながら、遊牧民の文化を歌っている。
 モンゴルやトゥヴァの壮大な大地に響き渡るような豊かな喉歌と、ドシプルールの独特の音色で、その土地の伝統を見事に表現。自然の中で聴いているかのような心地良さが感じられる作品。これが1stアルバムとは驚かされる。今後の活躍が大いに期待できるアーティストだ。

↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付きCD)

1位 Bombino · Sahel

レーベル:Partisan [7]

 ニジェール出身トゥアレグ族のギタリスト、SSWのオマラ・“ボンビーノ”・モクタールの最新作。プロデューサーは、英国のプロデューサー/ミキサーであるデヴィッド・バーン、フランク・オーシャン、ザ・エックス・エックスなどのプロデューサーで知られるデヴィッド・レンチ。
 2011年国際的にリリースされたアルバム『Agadez』で世界的に注目を浴び、2018年のアルバム『Deran』でグラミー賞ベスト・ワールド・ミュージック・アルバムにノミネートされ、ニジェールで初めてグラミー賞にノミネートされたアーティスト。
 トゥアレグ族は、北アフリカのベルベル人の流れを汲む遊牧民で、何世紀にもわたって植民地主義や厳格なイスラム支配の押し付けと戦ってきた。独立のための武装闘争と政府軍による暴力的な弾圧の時代に育った彼の演奏は、同じアフリカのティナリウェンやアリ・ファルカ・トゥーレをはじめとし、ジミ・ヘンドリックスやジョン・リー・フッカー、ジミー・ペイジを彷彿とさせるギター・リフを響かせながら、抵抗と反乱の精神を表現している。パンデミックによって世界の動きが止まった時、遊牧民である彼らも留まらなければいけなくなった。その時に本作の楽曲制作をしていたとのこと。そして、バンドメンバーと共にモロッコ・カサブランカのスタジオでレコーディングを行い、本作が出来上がった。
 ボンビーノにとってこれまでで最も個人的で力強く、政治的な思いに満ちた作品。また、彼が最初から目指していたサウンドの多様性、そしてサヘル地域を構成する文化や人々の複雑なタペストリーをそのまま反映した作品でもある。「トゥアレグ族の一般的な苦境は常に頭の中にあり、ずっと自分の音楽の中で取り上げてきたが、このアルバムでは特別に焦点を当てたかった」と彼は言う。
 ロック、 “砂漠のブルース”、ポップ調の楽曲等、サウンドは多岐に渡る。そこにボンビーノによるキレキレのギターテクニックが融合され、すっかり虜になってしまいそう。彼の熱い魂が強く伝わってくる作品。

(ラティーナ2024年2月)

↓12月のランキング解説はこちら。


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