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[2023.12]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2023年12月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】
e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。
※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。
20位 Mohammad Motamedi & Rembrandt Trio · Intizar
レーベル:Just Listen [39]
オランダ出身のピアニスト、レンブラント・フレイリヒス、パーカッショニストのヴィンセント・プランジャーとベース奏者のトニー・オーバーウォーターによるレンブラント・トリオと、イラン人歌手モハマド・モタメディによるアルバム。
トリオは、ホセイン・アリザデやカイハン・カルホールといったイランの音楽家たちとのコラボレーションを行っており、彼らとのアルバムも過去にリリースしている。イランで有名な歌手であるモタメディは、即興演奏の名手であり、音楽のムードからインスピレーションを得て、詩を選び、その上で自由に即興演奏をする音楽家。
本作では、ペルシャの詩人ハーフェズ、ルーミーなどの詩を引用し、よりスピリチュアルで伝統的なペルシャのレパートリーに合う曲と、トリオにヴァイオリン、チェロ、クラリネットが加わった、より世俗的な曲が収録されており、現代イラン文化の2つの側面を反映している。
トリオはジャズのバックグラウンドがあるため即興演奏の経験が豊富で、伝統的なペルシャ古典音楽においては、即興演奏が重要な役割を果たすということではまさに最適な組み合わせと言えるだろう。ペルシャ音楽というジャンルを越え、ジャズの要素も感じられる作品。
レコーディングは、アムステルダムのオルゴール・パーク(かつての教会をオルガン用のコンサート・ホールに改装した場所)で行われた。そこには多様なオルガンがあり、特に室内楽やオルガン音楽には抜群の音響効果を発揮する場所であり、モタメディのヴォーカルを録音するのに理想的な場所となった。レンブラントは古い教会オルガンやアンティークのフォルテピアノを、プランジャーは「ウィスパーキット」を、オーバーウォーターはヴィオローネを演奏し、西洋音楽と古代音楽の楽器を組み合わせ、彼ら独自の方法で解釈している。異なる大陸の音楽家たちが即興によって共通言語を見出した作品。
19位 Emilia Lajunen · Vainaan Perua: Satavuotinen Sakka
レーベル:Nordic Notes / CPL-Musicgroup [15]
フィンランドのフィドル奏者エミリア・ラユネンの最新作。現在フィンランドで活躍しているフィドル奏者の中で、最も高い評価を得ている一人。2007年にシベリウス音楽院の民族音楽科で音楽修士号を取得、さらにストックホルム王立音楽アカデミーでも研鑽を積み、2010年からはシベリウス音楽院民族音楽科でフィドルの主任講師として務めている実力派アーティスト。他の多くのアーティストとも共演し、いくつかのユニットを組んでいる。フィドルだけでなく、ニッケルハルパも演奏する。
本作のタイトルは、フィンランドの伝説的な二人のフィドル奏者の曲のタイトルをくっつけたもの。英語に訳すと『Legacy Of The Dead : Deep In The Dregs』で「死者の遺産:残滓の奥深く」となる。「死者の遺産とは、今日の演奏家たちが新しいものを創作してもなお残る、民族音楽の残り滓のこと」と彼女は説明する。民族音楽の “残り滓” とはすごい言い方だが、フィンランドの伝統音楽を、伝統的なアプローチと現代的で実験的なアプローチを組み合わせて蘇らせるという彼女の博士課程での研究結果が反映されたアルバム。
フィドルの独奏あり、また彼女が歌っている曲もあり、ハーモニカやパーカッションとのセッションもあり、バラエティに富んだ内容で過去の楽曲を見事に美しく蘇らせている。長めの曲もあるが、彼女の世界に強く惹き込まれてしまう。
18位 V.A. · Lost in Tajikistan
レーベル:Riverboat / World Music Network [8]
中央アジアに位置するタジキスタン、国土の大部分が「世界の屋根」と呼ばれるパミール高原とそれに連なる山脈から成る。パミール高原を境に中国やインドのアジアと、アフガニスタンやイランなどの中東との「文明の十字路」とも言える地位を確立してきた国だ。アジア、中東両地域からの音楽文化がもたらされ、この国独自の音楽文化が発展してきた。しかし、地理的なこともありそれが国外へと発信される機会は非常に少なかった。
本作は滅多に触れられないタジキスタンの音楽の伝統と、革新的な音を併せた楽曲が収録されている。中央アジアの音楽文化研究でも知られる英国の音楽家ルー・エドモンズが、2008年に現地で録音/収集した貴重な音源集となっている。タジキスタンの首都ドゥシャンベ、ホログのパミリの町、およびグント渓谷近くの2つの村で録音され、タジキスタン各地方で歌い継がれてきた伝承歌を継承するグループ Mizrobなどをはじめとした全5組による音源。
フレーム・ドラムのダフ、弦楽器や弓奏楽器などが使われ、中東とアジアがミックスされた音であるのが非常に興味深い。口琴も入る楽曲もあり、モンゴル地域の影響もかなり受けているのがよくわかる。歴史と文化、そして音楽の形成が表現されているのが感じられる。豊かで貴重な作品だ。
↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付き)
17位 Genticorum · Au Coeur de l’Aube
レーベル:Genticorum [25]
カナダ・ケベック州で民族音楽を演奏するトリオ、ジェンティコルムによる最新作。キャリアは20年以上で、複数のカナディアン・フォーク・ミュージック・アワードを受賞し、ジュノー賞などにもノミネートされ、ケベック伝統音楽の進化をリードする存在として高い評価を得ている。ヨーロッパをはじめとした海外でのフェスにも多数出演し、国際的にも高く評価されている実力派ユニット。
ケベックのトラッド音楽シーンにおいてキーマンとして認められている、フィドルのパスカル・ジェムと、ギターのヤン・ファルケによりユニットを結成。2015年からは、熟練したマルチ楽器奏者で作曲家のニコラス・ウィリアムス(フルート、アコーディオン)が加わった。
フィドルの軽快で複雑な音色、フルートやアコーディオンのメロディライン、そして繊細なギターの組合せがなんとも心地良い。インスト曲もあるが、3人による男声ハーモニーも魅力的で、とても美しい。フランス語圏であるケベックならではで、歌詞はフランス語で歌われている。
何より彼らが演奏することをとても楽しんでいる姿が上記動画からも伺える。それが強く作品から伝わってきて、多幸感を味わえる作品。
16位 Yungchen Lhamo · One Drop of Kindness
レーベル:Real World [12]
アメリカ在住のチベット人SSW、ユンチェン・ラモの7枚目のアルバムとなる最新作。前作『Awakening』も、昨年4〜6月の本チャートに上位ランクインしていたことは記憶に新しい。
本作は、2004年に彼女が設立した非営利財団「One Drop of Kindness」と同じ名前のタイトル。パンデミックや戦争など世界が不安な状況が続いている中で「私たちは困難な時代を生きている。でも、一緒に、少しずつ、私たちは世界を変えることができるのです」と彼女は言う。多くの人の少しの優しさが世界を変えられるようにと祈り本作を制作。ジョン・アレヴィザキス(John Alevizakis)との共同プロデュースである。
ヴァイオリンやギター、バンジョーなどの西洋楽器と、オーストラリアの先住民アボリジニの金管楽器であるディジュリドゥ、アルメニアの民族楽器で木管楽器のドゥドゥク、トルコの弦楽器ドゥンブシュやウードなど世界の民族楽器が使われている。それらの音色と、彼女のバリエーション豊かな声との融合がたまらなく心地よい。地に這うような低音でのマントラや、チベット仏教の声明しょうみょうを思わせるような喉歌、ビブラートがかかった美しい高音など、柔らかく私たちを包み込んでくれるかのよう。まさにヒーリングサウンドだと言える。
音楽で人の心を変えようとする彼女の思いがまっすぐに伝わる作品。「一滴の優しさ」が世界を変えることを我々も願おう。まずは身近なことから。
15位 Santrofi feat. Omniversal Earkestra · Deep into Highlife: Live in Berlin
レーベル:Outhere [18]
ガーナ出身の若手実力派バンド、サントロフィの最新作。西アフリカの大衆音楽ジャンルであるハイライフを復活させるという使命を持つ彼らは、デビュー前からヨーロッパ各地のフェスに出演、2020年リリースのデビューアルバムも本チャートにランクインするなど、ワールドミュージック界でもとても活躍しているグループ。
彼らが2021〜22年にガーナとドイツでハイライフのプロジェクト「Deep into Highlife」を開催し、多くのアーティストをステージに招いてコンサートやジャムセッションを行った。本作は2022年6月のベルリン最終公演でベルリンのバンド、ジ・オムニヴァーサル・イヤケストラとの共演ライヴを収録したもの。ジ・オムニヴァーサル・イヤケストラは、2011年に結成された14人編成の金管楽器集団。伝説的な存在である70年代のマリ音楽を彩ったビッグバンドの音楽を探求し、共演録音を行ったアルバム『Le Mali 70』を2020年にリリースし、話題となった。
本作には、サントロフィのデビュー作収録楽曲の他、ガーナのハイライフ伝説的ミュージシャン A.K Yeboah や、ガーナのドリル(ヒップ・ホップのサブジャンル)音楽のパイオニアである若手ミュージシャン Yaw Togの楽曲も収録(もちろんご本人達も登場!)されている。やはり大所帯の2バンドが演奏しているだけあって、音の厚みがすごい!ライヴの臨場感を充分に味わえる。ハイライフだけでなく、アフロジャズ、アフロファンクも感じられ、とても洗練された作品となっている。音楽のエネルギーがビシバシ来る!良い!実際にライヴを観たくなる作品。
14位 Leon Keïta · Leon Keïta
レーベル:Analog Africa [7]
ドイツのレーベル Analog Africa が定期的にリリースするアナログ限定盤シリーズ “リミテッド・ダンス・エディション”の最新作。今回は、かつてマリの音楽シーンで異彩を放ったミステリアスな音楽家レオン・ケイタの作品を取り上げている。
1947年ギニア大西洋岸の都市コナクリ生まれのレオンは、学業を終えると隣国マリの首都バマコに出る。バマコではピアノ・ジャズ・オーケストラを創設し、その傍らで教師/文化祭のオーガナイザー/国立タバコ・マッチ会社の会計士として働いていた。23歳となった1970年、彼は親友であったマンフィーラ・ケイタと共にマリの伝説的なグループ “レイル・バンド” の設立に携わるようになり、サリフ・ケイタやモリ・カンテをはじめとする多くのミュージシャンの国際的なキャリアをスタートさせた。さらにレオン自身も親友のマンフィラ・カンテとともにマリのバンド Les Ambassadeurs Internationaux に参加、西アフリカでのツアーも行った。その後、ソロ活動を行うためにグループを離れた。
本作は、1978年にリリースした2枚のLPから3曲、そして1979年に弟ジェルマンとの連名作 “Rythmes et Mlodies du Mali” から2曲を収録したコンピレーションアルバム。
70年代後半の時代や、マリという土地柄を想像させるマンディン・グルーヴ溢れるソウルフルなリズムに、催眠術のようなエレキギター。そこにサイケデリックなオルガンや、ファンキーなブラス・セクションを加わり、ご機嫌な楽曲が堪能できる。どこか懐かしい感じもするが、現代でも充分楽しめるアルバム。ずっと聴いているととても心地よくなる。かなりハマります!これは貴重な作品!
↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付きLP)
13位 Ayfer Düzdaş · Kilomên Arxawûnê
レーベル:Ayfer Düzdaş [16]
(アルバム全体がまだ公開されておらず、1曲のみの表示とします。公開され次第こちらで掲載いたします。)
トルコ・イスタンブールを拠点に活動するクルド人ミュージシャン、アイフェル・ドゥズダシュの最新作。
トルコの芸術学校で声楽とヴァイオリンを学び、その後グループなどで活動。クルドの伝統的な民謡をアーカイブしたアルバムに参加し、2008年ソロデビューアルバム『Leylan』をリリース。それ以降もアナトリア南東部の村々を巡り、消えゆくクルドの民謡を25年以上かけて記録する活動を続けてきた。本作はソロ作品としては4作目のアルバムとなる。
本作では、アナトリア南東部寄りのマラティヤ、アルグヴァンとその周辺地区の民謡を収集し、編曲、収録している。その地方の民謡は、トルコ内でも独特の方言と様式で、貴重なものが多く、初公開となる曲もあるそうだ。愛、故郷、喪失、別離といったテーマを含み、畑を耕したり、丘に出かけたり、家畜の群れの世話をしたり、喪失時の悲しみを表現したりと、生活のリズムに歌が織り込まれている。
彼女の伸びやかで特徴ある高音の歌声と、ウードやサズなどトルコの伝統弦楽器の音色がとてもよくマッチしている。村から村へと彼女自身が実際に旅をしながら収集してきた歌だから、よりその歌の良さが表現されている。自然とともに独自の文化で発展してきた民謡の豊かな世界を、彼女がさらに掘り下げ、文化遺産として守っている姿に胸を打たれる。
12位 Mari Kalkun · Stoonia Lood / Stories of Stonia
レーベル:Real World [6]
エストニアのSSWで、カネレ(kannel:エストニア伝統音楽の民族楽器で弦楽器)奏者でもあるマリ・カルクンの最新作。本作が8枚目のソロアルバムとなる。9月に13位に初登場し、その後1位、2位、6位とランクインし、今月は12位に。
日本でも何度も公演を行っており、その度に評価を博してきた。フィンランドのカンテレ(フィンランドの撥弦楽器)奏者でもあるマイヤ・カウハネンともユニット組んだり、様々なミュージシャンたちとも共演し、広く活躍している。
彼女はエストニア南東部のヴォルマーで生まれ、その地域で話されているヴォロ語でも作詞している。ヴォロ語は話す人が今では約75,000人しかおらず、絶滅の危機に瀕している言語で、マリがヴォロ語で歌うことによりその危機を少しでも回避しようと努力している。
エストニアの森から語りかけてくるような歌声、自然と共に共存する音楽を構築してきた。本作でもそのイメージ変わらない。伝統音楽からインスピレーションを受けた楽曲、自然の音と電子音、そしてカネレの優しい音色で彼女の故郷の自然を表現している。
本作では、イギリスのミュージシャンで民俗学者のサム・リーがプロデュースで参加。彼女の世界観をさらに押し広げている。魂に響くような彼女の声が素晴らしく、その空気感がなんともたまらない。自然の優しさや力強さが溢れており、森の中でゆったりと聴いているような気分になれるアルバム。良いです。
11位 Bombino · Sahel
レーベル:Partisan [38]
ニジェール出身トゥアレグ族のギタリスト、SSWのオマラ・“ボンビーノ”・モクタールの最新作。プロデューサーは、英国のプロデューサー/ミキサーであるデヴィッド・バーン、フランク・オーシャン、ザ・エックス・エックスなどのプロデューサーで知られるデヴィッド・レンチ。
2011年国際的にリリースされたアルバム『Agadez』で世界的に注目を浴び、2018年のアルバム『Deran』でグラミー賞ベスト・ワールド・ミュージック・アルバムにノミネートされ、ニジェールで初めてグラミー賞にノミネートされたアーティスト。
トゥアレグ族は、北アフリカのベルベル人の流れを汲む遊牧民で、何世紀にもわたって植民地主義や厳格なイスラム支配の押し付けと戦ってきた。独立のための武装闘争と政府軍による暴力的な弾圧の時代に育った彼の演奏は、同じアフリカのティナリウェンやアリ・ファルカ・トゥーレをはじめとし、ジミ・ヘンドリックスやジョン・リー・フッカー、ジミー・ペイジを彷彿とさせるギター・リフを響かせながら、抵抗と反乱の精神を表現している。パンデミックによって世界の動きが止まった時、遊牧民である彼らも留まらなければいけなくなった。その時に本作の楽曲制作をしていたとのこと。そして、バンドメンバーと共にモロッコ・カサブランカのスタジオでレコーディングを行い、本作が出来上がった。
ボンビーノにとってこれまでで最も個人的で力強く、政治的な思いに満ちた作品。また、彼が最初から目指していたサウンドの多様性、そしてサヘル地域を構成する文化や人々の複雑なタペストリーをそのまま反映した作品でもある。「トゥアレグ族の一般的な苦境は常に頭の中にあり、ずっと自分の音楽の中で取り上げてきたが、このアルバムでは特別に焦点を当てたかった」と彼は言う。
ロック、 “砂漠のブルース”、ポップ調の楽曲等、サウンドは多岐に渡る。そこにボンビーノによるキレキレのギターテクニックが融合され、すっかり虜になってしまいそう。彼の熱い魂が強く伝わってくる作品。
10位 Mo’ Horizons · Mango
レーベル:Agogo [24]
ドイツ・ハノーファー出身のプロデューサー、DJの Ralf Droesemeyer とMark Foh Wetzler からなるデュオ Mo' Horizons の最新作。結成25周年を記念して制作され、本作が彼らの7作目となる。
2000年代初頭のコンテンポラリー・ジャズに影響されたクラブ・カルチャーの中でよく知られていた存在で、世界中のクラブなどでパフォーマンスしてきた。ブラジルへの深い愛情があり、ブラジリアン・ジャズであるボッサやリオのサンバから、エレクトロニックや多くのサンプリングでグルーヴを作っていた。ハノーファーで活動していることもあって「Bosshanover」として知られていた。
本作では、ガーナのハイライフ・シンガー Gyedu-Blay Ambolley、ベネズエラ人パーカッショニスト Nene Vasquez 、コロンビア人歌手 Ivan Camelo、ハノーファーを拠点に活動するイスラエル人歌手 Noam Bar Azulay、スペイン人歌手 Laura Insausti らがゲスト参加。ガーナのハイライフ、コロンビアのクンビア、ファンク、ブラジリアン・ドラムンベースなどが融合、ジャンルにとらわれず、洗練されたサウンドに仕上がっている。
あらゆるジャンルのレコードをひたすら掘り続けて出会った新しいサウンドを再構築するという使命感がひしひしと伝わってくる。めちゃくちゃカッコイイ!
9位 Les Mamas du Congo & Rrobin · Ya Mizolé
レーベル:Jarring Effects [11]
コンゴの5人組女性グループ「レ・ママンズ・デュ・コンゴ」と、ヒップホップとハウスビートのスペシャリストであるフランス人プロデューサーRROBINによるユニットの最新作。リミックス盤もリリースされているが、オリジナル作品としては2作目となる。2020年リリースのデビュー作も本チャートにランクインし、高評価を得ていた。
彼らは、先祖伝来の価値観、リズムやメロディーを守ることを目的としている。先祖代々伝わるコンゴの子守唄にダンスを融合させ、フォーク、皿、バスケット、杵などの生活道具を使い、複雑なリズムに合わせて、自分たちの民族の歴史や社会的なテーマ、コンゴ女性の日常生活などを歌っている。
身近な道具による楽器と、エレクトロニック・ビート、ベース・ミュージック、アフロビートにドラム・マシーン、ラップ、魅惑的なコーラスが美しく融合され、カリスマ的なシンガー&パーカッショニストのグラディス・サンバの歌声も前作以上にパワーアップし、洗練された仕上がりとなっている。催眠的なポリリズムが続く楽曲があったり、子守唄らしく可愛い楽曲もあれば、ラップで力強く訴えかける楽曲もあり、彼女たちのしなやかさや逞しさが感じられとても魅惑的な作品。
現在はヨーロッパツアー中とのこと。上記動画二つ目にあるように、ライヴはかなりパワフルでファンキーで、大いに盛り上がっている様子がうかがえる。これはぜひライヴで観てみたい!
8位 Idrissa Soumaoro · Diré
レーベル:Mieruba [4]
マリ共和国出身の作曲家、歌手、ギタリストで、カマレン・ンゴニ(西アフリカの伝統的な弦楽器)の名手でもあるイドリサ・スーマオロの最新作。サリフ・ケイタも所属していた伝説的なバンド、レ・アンバサドゥール・ドゥ・モテール・ド・バマコのメンバーでもあった。
1949年首都バマコ郊外の村に生まれ、小学生の頃に校長先生のギターと出会い、それ以来ギターに夢中になる。ギターだけでは飽き足らず、様々な楽器にも魅了され、1968年にバマコの国立芸術学院に入学する。その頃から音楽活動や作曲も行い、芸術学院卒業後は音楽教師となる。音楽教師として最初に赴任したのが、本作タイトルでもある町、ディレ(Diré)である。昼は教師、夜はアーティストとして、多くのステージに出演し続け、レ・アンバサドゥール・ドゥ・モテール・ド・バマコにも参加することとなる。
バンド解散後は、視覚障害者に力を与える必要性を世間に認識させるため、自ら保健省へ出向し、目の見えない人と見える人で構成されたオーケストラを立ち上げた。さらには、点字音楽学を学ぶためイギリスにも奨学金留学する。マリに戻ってからは様々な責任ある役職を歴任し、1996年マリの文部省音楽総監に任命され、2011年に退官するまでその職を務めた、というすごい人。
2003年に自身のソロアルバム『Koté』をリリース。2010年にはアリ・ファルカ・トゥーレとの共演作を収録したアルバム『Djitoumou』をリリースし、本作はそれに続くソロ3作目となる作品。
本作は2012年から制作を開始したが、制作途中でプロデューサーが急逝し、制作は中止されていた。しかし、パンデミックによりじっくり制作する時間ができ、今回のリリースに至った。イドリサの意向により、マリのブルースの故郷である町セグーを拠点とするインディペンデント・レーベル、Mieruba からのリリース。構想から制作、流通に至るまで、「マリが繁栄できるよう、共に立ち向かおう」というメッセージが本作に込められている。
砂漠のブルースを感じさせる楽曲で、彼の人生そのものが歌や演奏で表現されており、大変渋い作品。
7位 Ana Carla Maza · Caribe
レーベル:Persona Editorial [19]
1995年キューバ生まれで現在はスペイン在住のチェリスト、アナ・カルラ・マサの最新作。デビューEPアルバムを含めるとこれが4枚目の作品。先月19位にランクインし、上位に来るかなぁと思っていたらやっぱり7位に!
2022年リリースの前作『Bahia』ではチェロの弾き語りを収録したアルバムだったが、本作では前作収録曲をラテンバージョンにアレンジした楽曲やオリジナル曲をバンド編成で演奏している。彼女自身によるセルフプロデュース作品で、タイトル『Caribe』はまさにカリブのこと。
ハバナで生まれ両親も音楽関係の仕事に携わっていた。アナが5歳の時にキューバ人ピアニスト、チューチョ・バルデスの妹、ミリアム・バルデスからピアノを習い始めたのが音楽の道の始まり。8歳でチェロを初めて弾き、10歳で初めてステージに立った。12歳のときにキューバからスペインに家族で移住(これがすごい!)し、2012年にコンセルヴァトワールで学ぶためにパリに移り住む。パリでの活動がソロ・キャリアの始まりとなり、そこからヨーロッパ中に彼女のサウンドが広まった。2022年には150以上のコンサートに出演するほどの活躍ぶり。
ソンやルンバ、サルサなどキューバだけでなく、ドミニカのメレンゲや、アルゼンチンのタンゴ、コロンビアのクンビア、そしてブラジルのボサノヴァなども盛り込まれ、自身の女性的な感性、今ここにあるものを前向きに謳歌したいという彼女の願望や喜びを反映したラテン音楽のアルバムとなっている。チェロを弾きながら大らかに歌う姿は清々しい!今後の活躍がとても楽しみなミュージシャンである。
6位 Aga Khan Master Musicians · Nowruz
レーベル:Smithsonian Folkway Recordings [14]
歴史的に重要なイスラム文明や、現代のイスラム社会、世界各地のディアスポラからの美術品を展示・収集しているトロントの美術館、アガ・カーン美術館の音楽プログラムの一環としてのグループ、アガ・カーン・マスター・ミュージシャンズによる最新作。本作が彼らにとって初めてのフルアルバムとなる。
アガ・カーン美術館では教育機関としても機能し、音楽をはじめとした様々な芸術のイベントや講演などを開催している。音楽的革新が文化遺産の活性化にどのように貢献できるかを探求するために集められたメンバーはここでキュレーターとしての役割も持ち、ワークショップやマスター・クラスなどを中心に、2013年より演奏活動を行なってきた。
彼らは、中東、地中海沿岸地域、南アジア、中央アジア、中国出身の6人の音楽家たち。ピパ(琵琶)担当は中国出身のウー・マン、イランと中央アジアで使われる二弦のリュート楽器ドゥタール奏者のシロジッディン・ジュラエフはタジキスタン出身、中央アジアで使われるフレームドラム、ドイラ担当アッボス・コシモフはカザフスタン出身、アラブの伝統撥弦楽器カーヌーン奏者フェラス・チャレスタンはシリア出身、ヴァイオリン、ヴィオラ・ダモーレ担当ジャセル・ハジ・ユーセフは北アフリカ・チュニジア共和国出身という多国籍なグループ。彼らのルーツである中央アジア、中国、中東、北アフリカの音楽を取り入れ、伝統的な音楽が融合した独創的な作品となっている。それぞれの楽器が持っている深い音や魅力、そして各メンバーの高度なテクニックも存分に味わえる。とても有意義な作品。
↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き)
5位 Catrin Finch & Aoife Ní Bhriain · Double You
レーベル:Bendigedig [2]
ウェールズ出身のハープ奏者で「ハープの女王」と呼ばれるカトリン・フィンチと、アイルランド・ダブリン出身のヴァイオリニスト、アオイフェ・ニ・ブリアインのデュオ作品。
カトリンはセネガルのコラ奏者セク・ケイタとのデュオ作でも本チャートにランクイン(直近では2022年6月〜10月)している。かつてはチャールズ皇太子(当時)のお抱え奏者として知られていた実力派ミュージシャン。一方、アオイフェは、国内外のヴァイオリンコンクールや室内楽コンクールでも数多く入賞しており、クラシックと民俗音楽の両方に精通する多彩な音楽家としての地位を確立している。その二人が手を組んだのが2021年で、本作が彼女たちデュオとしてのデビューアルバムとなる。
先月は一部楽曲のみの公開だったが、今回全曲公開され確認したところ、収録曲の全てが「W」から始まるタイトルとなっている。(もしかしてアルバムタイトルの「ダブル」ともかけているのか?とも思ったり…)
彼女たちが奏でるハープとヴァイオリンの音色の組み合わせがとても美しく絶妙で、表現力が非常に豊か。テクニックに申し分ないことはわかっているが、音色でこれほどまでに心をギュッと掴まれたような感じになるのがエモーショナル。そしてインプロヴィゼーションの要素も感じられる。
オリジナルの作品もあれば、彼女たちそれぞれの故郷、アイルランドとウェールズの伝統的な曲を組み合わせた楽曲もありとても豊か。二人の創造力とテクニックが結集された作品。この二人だからこそなし得た作品と言えるだろう。今後の活動やリリースにも注目のデュオである。
4位 Batsükh Dorj · Ögbelerim: Music for My Ancestors
レーベル:Buda Musique [3]
1990年、モンゴル最西端の村ツェンゲルで生まれた音楽家バツフ・ドルジの最新作。今までモンゴル・ホーミーのコンピレーションアルバムなどには登場していたが、本作が彼のソロデビューアルバムとなる。ワールドミュージックだけでなく世界の様々な民俗音楽を広く紹介しているフランスのレーベル Buda Musique からのリリース。
彼が生まれた村ツェンゲルは、隣接するトゥヴァ共和国(ロシア)と関わりが深く、村に暮らす住民もトゥヴァ系の人々が多い。彼もその一人で、幼い頃からモンゴルとトゥヴァのホーミーを学び、トゥヴァの音楽大学を卒業。フーメイ(khoomei)、スグット(sygyt)、カルグラー(kargyraa)などいくつか種類があるトゥヴァの喉歌のテクニックもマスターした。またトゥヴァの民族楽器のイギルやドシプルールも演奏し、その楽器制作も行なうという多才ぶり。
本作でギターを伴奏しているのは、フランスの音楽家/民族音楽学者で、ホーミーのプレイヤーでもあるジョアニ・キュルテ。彼との出会いがあり、本作を制作するに至った。トゥヴァをルーツとする伝統的な楽曲や、伝統に則ったバツフのオリジナル曲が収録されており、馬のリズムや水の流れを模倣しながら、遊牧民の文化を歌っている。
モンゴルやトゥヴァの壮大な大地に響き渡るような豊かな喉歌と、ドシプルールの独特の音色で、その土地の伝統を見事に表現。自然の中で聴いているかのような心地良さが感じられる作品。これが1stアルバムとは驚かされる。今後の活躍が大いに期待できるアーティストだ。
↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付きCD)
3位 Bixiga 70 · Vapor
レーベル:Glitterbeat [9]
ブラジル・サンパウロのアフロ・ブラジリアン・バンド、ビシーガ70の最新作。オリジナル作品としては4年ぶりで、本作が5作目。
2010年にブラジル・サンパウロで結成され、ドラム、ベース、ギター、鍵盤のほか、複数のパーカッションとホーン隊からなる大所帯バンド。アフロビートを中心としたアフリカ音楽に、サンバやカンドンブレなどのアフロ・ルーツのブラジル音楽、またクンビアやアフロ・キューバン、アフロ・ジャズといったアフロ系汎ラテン音楽などをミックスさせた楽曲を演奏する。前作リリース後にパンデミックとなり、その間に10年以上一緒に活動してきたメンバーが脱退、そして新たなメンバーが加入するという動きがあった。
本作はそんな経緯を経て、まさにバンドを再結成するような感じで、新メンバーと共に新たに音楽を作り上げた重要な作品。従来までの土台となる音楽性は変わらないが、新メンバーが今までと違ったアイデアを持ち寄って来たおかげで、新たなエッセンスが加わった作品となっている。例えば、北東部出身の新メンバーにより、アシェーやピゼイロ、テクノ・ブレーガなどの要素もミックスされている。新たな要素を柔軟に受け入れることで、今までよりもさらにパワーアップしている。
また、本作ではゲストとして、パーカッショニストのシモーニ・ソウが参加している。シモーニは、先日26年ぶりに来日したシコ・セーザルのかつてのバンドメンバーであり、26年前の初来日公演の際にも来日している。シコだけでなく、イタマール・アスンサォン、ゼリア・ドゥンカン、ゼカ・バレイロ、バヂ・アサドなどのアーティストとも共演、2000年以降は国際的なプロジェクトにも取り組んでいる実力派パーカッショニスト。10〜11月にかけて行われている本作リリースのヨーロッパツアーにも同行しているようだ。
彼らの音楽はアフリカ的であり、ブラジル的でもある。今のサンパウロをそのまま体現しており、音楽でエネルギーを解放しているようだ。本作はバンドのターニングポイントとなるべき作品で、今後の活動もますます期待できる。インスタでもヨーロッパツアーの様子がアップされている(下記にリンクあり)が、ぜひ観てみたい!と思わせるバンド。いつか日本にも来てくれないかなぁ、と願っている。
↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付きCD&LP)
2位 Luzmila Carpio · Inti Watana / El Retorno del Sol
レーベル:ZZK [1]
ボリビアの先住民ケチュア族出身のSSW、ルスミラ・カルピオの最新作。リリースは、デジタル・クンビア、エレクトリック・フォルクローレで知られるブエノスアイレスの名門レーベルZZKから。
ルスミラは、半世紀以上にわたってアンデスの先祖伝来の知識と音楽を世界中に広めてきた。その長いキャリアの中で、120曲以上を作曲し、25枚以上のアルバムをリリース、母国語のアイマラ・ケチュア語とスペイン語の両方で歌いながら何百万人もの人々にインスピレーションを与えてきた。また2006年から2010年まで在フランスボリビア大使も務め、『ローリング・ストーン』誌が彼女を「南米で最も多作な先住民シンガーのひとり」と評したこともある。ボリビアだけでなく、ラテンアメリカ全土の先住民コミュニティの光明となって活動してきた。
本作では、ラテンアメリカ先住民の儀式や儀礼、自然との交わりなど伝統に対する敬意を表し、彼らの闘いや女性のエンパワーメント、そして人々と地球へのメッセージを伝えている。魂が込められた彼女の特徴的な歌声と、民族楽器との相性が非常に心地よい。民族楽器もチャランゴやケーナといったボリビアのものだけでなく、ハルモニウム、ヴァイオリンやギターなどの西洋楽器、アルゼンチンのボンボ・レゲーロ、アルメニアのドゥドゥク、アジアのパーカッションなども使われている。時折アジアの楽曲かと思えるようなところがあるのもそのせいかもしれない。
パチャママ(母なる大地)とタタ・インティ(父なる太陽)と対話するように作られたそうだ。地球環境問題がかなり深刻化している今、人間と自然との調和を見出すことはかつてないほど重要だということを、大地と太陽に対話することで表現している。
本作LPのお披露目を6月21日の夏至の日に、リリース日を9月21日のお彼岸に合わせるということで、一貫した意思が感じられる。気候変動の異常さを感じた今夏、我々も本作を聴いて、今一度環境について考えなければならないと思わされた作品。
1位 Koum Tara · Baraaim El-Louz
レーベル:Odradek [21]
フランス人ピアニスト/作・編曲家カリム・モーリスと、カリムと繋がりの強いフランスの弦楽器四重奏ユニット、ラ・カメラータ、そしてアルジェリア人歌手ハミドゥことモハメド・ハマムらにより構成された8人組ユニットKoum Tara の最新作。2018年にもアルバムリリースをしているが、今回は歌手を変えてのリリース。
北アフリカの伝統音楽である「シャアビ」と、クラシックや現代ジャズが融合した魅力的なサウンドを展開している。楽器もアルジェリアのマンドリンやダラブッカ、北アフリカのフレームドラムであるベンディールなどのアラブの伝統楽器と、ピアノやヴァイオリン、チェロ、ヴィオラなどの西洋楽器の両方が使われている。パンデミック中に構想され「シャアビ」の詩やメロディー、ルーツにまで探求し、その結実として制作された作品。ハミドゥやカリムのオリジナル作品も収録されている。
ユニット名「Koum Tara」とアルバム名「Baraaim El-louz」(訳すと「アーモンドの木の芽」という意味)は、どちらも18世紀のアルジェリアの詩人、モハメド・ベンデッバの詩に基づいて付けられた。
異なる文化が見事に美しく融合されたとても斬新な楽曲ばかり。現在のシャアビを新たに切り開こうとする意気込みが感じられ、ジャンルを越えた多様性溢れる作品となっている。催眠術のような感じで作品に惹き込まれてしまう。
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(ラティーナ2023年12月)
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