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[2024.3]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2024年3月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】
e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。
※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。
20位 Batsükh Dorj · Ögbelerim: Music for My Ancestors
レーベル:Buda Musique [2]
1990年、モンゴル最西端の村ツェンゲルで生まれた音楽家バツフ・ドルジの最新作。今までモンゴル・ホーミーのコンピレーションアルバムなどには登場していたが、本作が彼のソロデビューアルバムとなる。ワールドミュージックだけでなく世界の様々な民俗音楽を広く紹介しているフランスのレーベル Buda Musique からのリリース。昨年10月に初ランクインし、1月に位、先月は2位でランクイン。
彼が生まれた村ツェンゲルは、隣接するトゥヴァ共和国(ロシア)と関わりが深く、村に暮らす住民もトゥヴァ系の人々が多い。彼もその一人で、幼い頃からモンゴルとトゥヴァのホーミーを学び、トゥヴァの音楽大学を卒業。フーメイ(khoomei)、スグット(sygyt)、カルグラー(kargyraa)などいくつか種類があるトゥヴァの喉歌のテクニックもマスターした。またトゥヴァの民族楽器のイギルやドシプルールも演奏し、その楽器制作も行なうという多才ぶり。
本作でギターを伴奏しているのは、フランスの音楽家/民族音楽学者で、ホーミーのプレイヤーでもあるジョアニ・キュルテ。彼との出会いがあり、本作を制作するに至った。トゥヴァをルーツとする伝統的な楽曲や、伝統に則ったバツフのオリジナル曲が収録されており、馬のリズムや水の流れを模倣しながら、遊牧民の文化を歌っている。
モンゴルやトゥヴァの壮大な大地に響き渡るような豊かな喉歌と、ドシプルールの独特の音色で、その土地の伝統を見事に表現。自然の中で聴いているかのような心地良さが感じられる作品。これが1stアルバムとは驚かされる。今後の活躍が大いに期待できるアーティストだ。
↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付きCD)
19位 Hysterrae · Hysterrae
レーベル:Linfa [8]
民族も音楽的背景も異なる4人の女性によるイタリアのユニットのデビュー作。メンバーは、サレント地方を代表するヴォーカリスト兼フルート奏者のチンツィア・マルツォ、イランの古典・伝統音楽界の名手で、タール、セタール、ダフを巧みに操るシャディ・ファティ、ナポリ音楽だけでなく、バルカン半島の音楽や地中海の様々な民族音楽のプロジェクトにも参加している歌手イレーネ・ルンゴ、多才なシンガーでありマルチ楽器奏者、女優でもあるシルヴィア・ガッローネという実力派メンバーが集結。そこにプロデューサー/サウンド・エンジニア/エレクトロニック・ミュージックの巨匠であるエマヌエーレ・フランドーリが加わり、バンドの雰囲気が巧みに演出されている。
アルバムタイトルでもありユニット名でもある「Hysterrae」とは、古代ギリシャ語で母親の子宮を意味する「hyster」に由来し、民族の枠を超えたバンドの探求を強調し、団結という深遠なメッセージを伝えている。すべての存在は偉大なる宿主である母なる地球の一部として相互に繋がっているということを表現している。
繰り返されるリズム、美しいポリフォニック・ヴォイス、ダブEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)の要素を巧みに織り交ぜている。その呪術的な融合が不思議な雰囲気を醸し出している。最初ちょっと怖かったのだが、聴いているうちに魅惑的で美しく感じる作品。
18位 La Sève · Chlorophylle
レーベル:King Tao [15]
フランス・ドローム地方出身の4人組バンド、ラ・セーヴの二作目。ギター3本とパーカッションの編成で、彼らは西アフリカの音楽、特にカメルーンやコンゴの音楽に影響を受けたそう。
本作では、カメルーンのビクツィ(Bikutsi)やコンゴのルンバなど、西アフリカの多くの地域で親しまれているダンスミュージックを探求している。
6/8拍子で、速くとてもリズミカルな感じで腰を揺らし、足で床をたたくような楽曲もあり、またレゲエやジャズのような楽曲もありとても面白い。どっぶりアフリカのダンスミュージックかと思いきや、彼らのオリジナル曲に現代的でモダンなアレンジも加わり彼ら独自のスタイルを貫いている。何の情報もなく一番最初聴いたときにはアフリカ人によるアルバムかと思ったのだが、全然違っていた!
フランス人による西アフリカ音楽のアルバム、というのが斬新でよい。中毒性のある作品。
17位 Koum Tara · Baraaim El-Louz
レーベル:Odradek [6]
フランス人ピアニスト/作・編曲家カリム・モーリスと、カリムと繋がりの強いフランスの弦楽器四重奏ユニット、ラ・カメラータ、そしてアルジェリア人歌手ハミドゥことモハメド・ハマムらにより構成された8人組ユニットKoum Tara の最新作。2018年にもアルバムリリースをしているが、今回は歌手を変えてのリリース。
北アフリカの伝統音楽である「シャアビ」と、クラシックや現代ジャズが融合した魅力的なサウンドを展開している。楽器もアルジェリアのマンドリンやダラブッカ、北アフリカのフレームドラムであるベンディールなどのアラブの伝統楽器と、ピアノやヴァイオリン、チェロ、ヴィオラなどの西洋楽器の両方が使われている。パンデミック中に構想され「シャアビ」の詩やメロディー、ルーツにまで探求し、その結実として制作された作品。ハミドゥやカリムのオリジナル作品も収録されている。
ユニット名「Koum Tara」とアルバム名「Baraaim El-louz」(訳すと「アーモンドの木の芽」という意味)は、どちらも18世紀のアルジェリアの詩人、モハメド・ベンデッバの詩に基づいて付けられた。
異なる文化が見事に美しく融合されたとても斬新な楽曲ばかり。現在のシャアビを新たに切り開こうとする意気込みが感じられ、ジャンルを越えた多様性溢れる作品となっている。催眠術のような感じで作品に惹き込まれてしまう。
16位 Otava Yo · Loud and Clear
レーベル:ARC Music [-]
(現在は先行シングルのみ公開されていますが、アルバムがリリースされ次第更新いたします)
ロシア・サンクトペテルブルクの民族音楽ユニット、オタヴァ・ヨの最新作。結成20年、イギリス、フランス、アメリカ、インド、日本など世界30カ国以上で公演しライヴで高い評価を得ており、海外でのファンも多い。
本作は5年前から制作開始したのだが、その間にロシアがウクライナに侵攻したため多くの困難がありつつも、ようやく完成した作品。グループ創設者のアレクセイ・ベルキンは、ウクライナ人の母とロシア人の父を持ち、ラトビア人の妻を持つ。戦争が起こりさぞかし複雑な心境であったことは容易に想像がつく。彼らのルーツを引き裂くことになってしまったが、自分たちの音楽を通して力を見出そうとしている。音楽が慰めや支えとなり、ルーツに関係なく人々をひとつにまとめる力になることを信じて本作が生まれたそうだ。
アルバム全体で祝祭的な雰囲気を醸し出している。伝統的だがあまり知られていないロシア民謡にスポットを当て、ロシア民族楽器である弦楽器のグースリやバグパイプのヴォリンカなども使い、彼ら独自のハーモニーを奏でている。歌のハーモニーも素晴らしい。動画を観てもダンスと一体で楽しめる音楽に仕上がっている。
ロシアの伝統的な民族音楽をより幅広い現代の聴衆に届けるというコンセプトのもと活動している彼らが、さらにそれを発展させ続けようとしている意気込みも感じられる。音楽は境界を越え普遍的であるというメッセージを強く感じた作品。
15位 L’Attirail · Honorables Correspondants
レーベル:CSB Productions [29]
1994年結成のフランスのバンド、ラティライユの最新作。本作が15枚目のアルバムとなる。共産主義に憧れたグザヴィエ・ドメリアックを中心に結成され、東欧諸国の民族音楽とロックを組み合わせたアコースティック・バンドで、過去には日本盤も発売されたこともある。映画のサントラ盤も制作している。
今年で結成30周年を迎え制作された本作は、過去二世紀にわたるスパイの世界と歴史に浸り、ベル・エポックから冷戦終結まで、広大な地理的空間と長い時間の中で考えた作品。メロディやリズム、アレンジ、楽曲の雰囲気など変化に富んだ楽曲で構成され、ロードムービーのサウンドトラックのような印象。映像を空想してしまうような、何とも不思議な感覚に陥る作品。
収録曲のほとんどがインスト曲であるが、最後の曲だけヴォーカルが入っている。アルジェリア出身の歌手ホシーヌ・ブーケラ(Hocine Boukella:Cheikh Sidi Bémol 名義でも活躍)が歌い、アメリカのSSWでタルサ・サウンドの創始者、JJ・ケイルへのトリビュートとして作られた。英語で歌われブルース調なのだが、とてもエレガントに仕上がっている。グザヴィエとホシーヌが敬愛しているのがとても伝わってきて、アルバム全体の締めに相応しい楽曲。彼らの世界観にどっぷり浸れる良作です。
14位 Almir Mešković & Daniel Lazar · Family Beyond Blood
レーベル:ALDA [11]
ボスニア出身のアコーディオン奏者アルミル・メシュコヴィッチとセルビア出身のヴァイオリニスト、ダニエル・ラザールのデュオ作品。オスロのノルウェー音楽アカデミーで出会いがデュオを組むきっかけとなり、現在も二人ともノルウェー在住である。
バルカン半島のルーツを持ち、ノルウェー在住ということで、それらの要素が融合されている作品。ルーマニアの伝統的な民謡ドイナ、ボスニアの大衆音楽セヴタなどバルカン半島の伝統的な音楽や、北欧の民謡、そしてロマ音楽など多様な音楽が効果的に融合し、魅惑的で個性的なサウンドを形作っている。さらに、多様な文化と音楽の伝統を代表する国際的なミュージシャンがゲストとして参加。例えば、マリのコラ奏者トゥマニ・ディアバテや、サーミ・ヨイクを歌うマルヤ・モーテンソン、今月10位にもランクインしているノルウェー在住マリ出身のパーカッショニスト、シディキ・カマラなど豪華なゲストが演奏を披露している。
クラシック音楽と民族音楽で20年以上の経験がある二人のテクニックが存分に詰まっている作品。ジャンルにとらわれない、豊かな芸術を見事に表現しており、思わず聞き惚れてしまう。
13位 Natascha Rogers · Onaida
レーベル:Nø Førmat! [-]
オランダ出身でフランス在住のSSW/パーカッショニスト、ナターシャ・ロジャースの最新作。昨年京都で行われた音楽フェス「KYOTOPHONIE 天橋立」に出演予定だったが直前でキャンセルとなり残念な思いをした人も多かったのではないだろうか。
彼女はオランダ人の母と、アメリカ・インディオのルーツを持つアメリカ人の父のもとオランダで生まれた。父が持っていた(隠し持っていた?)コンガに興味を示しパーカッションに憧れ、マンディンゴやアフロ・キューバンの偉大なパーカッショニストに教わるために旅をした。多くのミュージシャンたちと共演してきたが、本作はソロ名義でのアルバムとなる。
キューバのサンテリア、ヨルバの精神性や、アフロ・ラテンのリズム、そして彼女自身のネイティブ・アメリカンのルーツなど、幅広い文化的影響からインスピレーションを得て制作された。ピアノ、パーカッションを自身が演奏し、英語、スペイン語、ヨルバ語で歌っている。アフロ・キューバのパーカッションを専門的に学んだというが、激しい感じのパーカッションではなく、柔らかく静謐で、でも彼女の芯の強さやしなやかさも感じられ、独自の世界観がとても美しく表現されている。魅力的で幽玄的、自然(森の中)にいるような感覚になり、とても心身が癒される作品。
12位 Maria Mazzotta · Onde
レーベル:Nove Nove Zero [-]
イタリア南部プーリア州出身のヴォーカリスト、マリア・マッツォッタの最新作。パーカッション/クリスティアーノ・デッラ・モニカ、ギター/エルネスト・ノビーリのトリオでの作品。ゲストに今月チャート5位のボンビーノもギターで、またニューヨーク在住ドイツ人ジャズ・トランぺッター、フォルカー・ゲーツェも参加している。
2000年から2015年まで南イタリアの伝統的な民族音楽を探求するバンド、Canzoniere Grecanico Salentino のメンバーとして活躍、ソロになっても様々なプロジェクトで活動しボーカル・テクニックの知識を深めた。2020年にはソロ名義としてデビューアルバムとなる『Amoreamaro』をリリースし、国内外から高い評価を受けたアーティスト。
本作のタイトルは「波」。波のような絶え間ない変化についてを本作で表現している。彼女のパワフルでダイナミックな歌声、しかし決してそれでだけではなく、感情と抑揚が込められたテクニックを大いに堪能できる。20年以上のキャリアに裏付けされる歌声は圧巻。シチリア出身の女性歌手ローザ・バリストレーリが歌ったことで知られる「Terra Can Nun Senti(愛なきふるさと)」も収録。今現在世界で起きている戦争や争いによって居場所を失った人々に捧げられているのが、とても胸に沁みいる。
低音だけでなく高音の高らかな歌声もあり、色々なバリエーションを持つ歌手。そして彼女のイタリアの民族音楽の解釈がポストロックと見事に融合しているのがとても独創的で素晴らしい。彼女の歌声がストレートに響き、そして3人が共鳴しているさまに惹き込まれてしまう作品。
11位 Gao Hong & Ignacio Lusardi Monteverde · Alondra
レーベル:ARC Music [26]
中国出身で現在はアメリカ在住のピパ(琵琶)奏者ガオ・ホンと、アルゼンチン出身でロンドンを拠点に活動するフラメンコ・ギタリスト、イグナシオ・ルサルディ・モンテベルデによるデュオ最新作。ガオ・ホンは、昨年もセネガル出身のコラ奏者と共演した作品をリリースし本ランキングにも登場し高評価を得ている。様々なジャンルのミュージシャンとのコラボレーションに果敢にトライしているミュージシャン。
音楽家として交流があったのかと思いきや、ガオがレーベル(ARC)のCEOにコラボできるアーティストを紹介してほしいと直接手紙を送ったことから始まったのだという。CEOは素晴らしいアーティストを数人教えたが、その中にイグナシオも入っており、今までフラメンコ・ギタリストと仕事をしたことがなく最大のチャレンジになると思い彼を選んだのだそうだ。(すごい直感!)そんな始まりから、レコーディング前にZoomでセッションしたり、数日セッションを重ねてからロンドンのアビーロード・スタジオで録音。本作は6時間でレコーディングしたのだそう。
琵琶の音色とフラメンコ・ギターの音色がどのように重なり合うのか想像しづらかったが、聴くとアジアとラテンが見事に融合美しい音色が展開されている。フラメンコギターの規則正しいリズムに、琵琶が即興演奏しているかのように自由で独創的な演奏が重なり美しい世界を醸し出している。
タイトルはスペイン語で「ひばり(雲雀)」を意味する。ガオが奏でる琵琶の音色が空を飛んでいるひばりということを表現しているかのようだ。
彼らの持つ異なる文化が、唯一無二の新しい表現として本作に込められている。それぞれの楽器の良さが見事に表現できているとても興味深い作品。
10位 Tarek Abdallah & Adel Shams El Din · Ousoul
レーベル:Buda Musique [-]
エジプト最北端の都市アレクサンドリア出身で、現在はフランスを拠点に活動を行っているウード奏者/作曲家のタレク・アブダラーと、同じくアレクサンドリア出身でやはりフランスで活躍する打楽器奏者アデル・シャムズ・エル・ディンのデュオ最新作。2015年リリースの前作『Wasla』以来、9年ぶりのリリースとなる。前作タイトルにもなった「Wasla」とは、19世紀後半から20世紀前半にかけて主に演奏されていたエジプトにおける組曲形式の古典音楽のことで、本作でもこのWaslaのスタイルを踏襲した作品となっている。
アデルの打楽器は、アラブのフレームドラムで「リク」と呼ばれる楽器。基本的にはウードとリクによるシンプルな楽器編成のインストゥルメンタル演奏となっている。リクの響きが何とも心地よく、ウードの音色やメロディととても相性が良い。古典音楽ではあるが、詳しくない人にも気持ちよく聴ける楽曲ばかり収録されている。
↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き)
9位 Mama Sissoko · Live
レーベル:Mieruba [24]
西アフリカ・マリのギタリストとして知られるママ・シソコのライヴ盤。1998年にパリのラ・ヴィレットで行われたコンサートの録音を集めた作品。
かつてバンバラ王国の首都であったマリの公営バンド、シュペール・ビトン・ド・セグーに1974年に歌手/ギターで参加、グループ解散後ソロ活動を開始。マンディンカやバンバラ、ソンガイなどマリの民族音楽を取り入れながら、ジャズなど他の要素も取り入れた音楽を展開していた。
本作には、1999年にリリースされたソロアルバム『Soleil de Minuit』からの楽曲も収録されている。25年以上前のライヴとは思えないほど、ライヴの熱が伝わってくるサウンド。彼のギターテクニックと、魅惑的でパワフルなヴォーカルが堪能できる作品。シュペール・ビトン・ド・セグーのメンバーでもあったトゥーサン・サイネを含む素晴らしいミュージシャンがサポートを務めており、時代を超越したマリの音楽を聴けることに感動!
「サルサ・アフリカーナ」と呼ばれる収録曲「Soleil de Minuit」は、ラテン好きには堪らない仕上がり。途中、彼が完璧なスペイン語でこの曲を「El Sol de Medianoche」と呼び、キューバのサルサにエールを送っている。会場はもとよりステージ上もエネルギー溢れるサウンドに酔いしれてしまう。その当時の会場にはこの音で踊っていた人もいるんだなぁと妄想し、身体を揺らしながら聴いてしまうほど。
昨年9月に17位でランクインして以来、先月までずっと上位をキープし続けていたイドリサ・スーマオロの作品と同様、本作もマリのインディペンデント・レーベル、Mieruba からのリリース。マリの貴重な音源と言えるだろう。
8位 Petroloukas Halkias & Vasilis Kostas · The Soul of Epirus Vol. II
レーベル:Artway / Technotropon [12]
ギリシャ伝統音楽の重鎮でクラリネットの生ける伝説と呼ばれる、ペトロルーカス・ハルキアと、ギリシャ北西部のエピルス州出身のラウト(ギリシャとキプロスで発見されたリュート族の長い首のフレット楽器)奏者/作曲家のヴァシリス・コスタスとのデュオによる最新作。
本作は、エピルス出身の偉大なクラリネット奏者、キトス・ハリシアディスが1920年から30年にかけて確立した器楽曲と演奏スタイルへの創造的なアプローチに基づいており、2019年にリリースされたvol.1に続く第二弾となる。キトス・ハリシアディスは、エピルスのレパートリーに基づくユニークで複雑な音楽言語を創作、ペトロルーカスはそれを生涯を通して維持しさらに発展させた。ヴァシリスは現在、ペトロルーカスのクラリネットの演奏哲学をラウトに翻訳している。
伝統的な楽曲が現代的に見事に蘇っており、そしてクラリネットとラウトが対話しているような感覚を覚える。後世に伝えるべき作品。
7位 Ary Lobo · Ary Lobo 1958-1966
レーベル:Analog Africa [5]
ブラジル北東部の大衆ダンス音楽のフォホー歌手、アリ・ロボの全盛期である1958-66年に録音された作品を集めたアルバム。
パラー州ベレン出身のアリはリオデジャネイロに向かい、1956年6月RCAビクターと契約。リオの音楽シーンは、アフロ・ブラジルの伝統に深く根ざした北東部出身のこの新人に注目し始めた。1960年には彼の最高傑作と言われる 『Aqui mora o ritmo(リズムはここに息づいている)』をリリース。それから1966年に『Quem É O Campeão?』をリリースするまで、毎年LPを1枚ずつレコーディングしていた。しかし、1960年代の終わりにはフォホーの人気は下火になり、アリは仕事の機会を求めて都市を転々とすることを余儀なくされ、やがて彼はフォルタレザにたどり着き、1980年に亡くなるまでそこで暮らした。
1950年代にパラー州から登場した歌手やソングライターの中で、彼はは当時としては異例の国民的名声を獲得し、700曲以上を録音した。
先月初登場していたのにチェックできておらず、ランキングを見て驚いた!フォホーファンには堪らない!彼の巻き舌で歌っているポイントがとても好き!ダンス音楽好きならぜひ聴いてほしい一枚!
(☆Analog Africa ありがとう!)
↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付きLP)
6位 Sahra Halgan · Hiddo Dhawr
レーベル:Danaya Music [-]
「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ大陸東端にある未承認国家、ソマリランド共和国出身の女性歌手サハラ・ハルガンの最新作。
ソマリア北西部が内戦により1991年にソマリアから独立したのがソマリランド。内戦が過酷でサ1992年に政治難民としてヨーロッパに渡ることとなり、現在はフランス在住。9年前に、ジュネーブ発のバンド Orchestre Tout Puissant Marcel Duchamp のギタリストであるマエル・サレーテス、BKO QUINTET の創設メンバーであるリヨン出身のパーカッショニストエメリック・クロールと出会い、リヨンでサハ・ハルガン・トリオとして活動を開始し、オリジナル曲とソマリアの伝統的な歌をミックスした1stアルバム『Faransiskiyo Somaliland』を2015年にリリース。続いて2020年にも2ndアルバムをリリースし、本作が3作目となる。本作にはトリオの他に新メンバーのレジス・モンテがヴィンテージ・オルガンとプロト・エレクトロニクスで参加している。
アルバムのタイトル『Hiddo Dhawr』は「Preserve Culture」を意味し、直訳すると「文化を守る」。彼女が2013年にソマリランドの首都ハルゲイサに設立した文化センターの名前でもある。彼女はトリオで、機会あるごとにソマリランドの国旗を掲げて世界中をツアーしてきた。「私は自分がソマリランド人であることを世界に知ってもらいたい。文化、言語、音楽、伝統など、私たちがどれだけ豊かな国なのかを知ってほしい」と訴えている。本作にはソマリランドの文化を守るという彼女の理念が込められている。
先行リリースとなるシングル曲しかまだ聴けていないが、古くから伝わるソマリアの伝統と、繰り返されるギターリフ、ハンドクラップ、タンバリンの容赦ないビートを融合させている。アフリカのポップさとパンクのミックスが堪らない!砂漠のブルースも彷彿させるギターリフはクセになる。
5位 Bombino · Sahel
レーベル:Partisan [1]
ニジェール出身トゥアレグ族のギタリスト、SSWのオマラ・“ボンビーノ”・モクタールの最新作。プロデューサーは、英国のプロデューサー/ミキサーであるデヴィッド・バーン、フランク・オーシャン、ザ・エックス・エックスなどのプロデューサーで知られるデヴィッド・レンチ。
2011年国際的にリリースされたアルバム『Agadez』で世界的に注目を浴び、2018年のアルバム『Deran』でグラミー賞ベスト・ワールド・ミュージック・アルバムにノミネートされ、ニジェールで初めてグラミー賞にノミネートされたアーティスト。
トゥアレグ族は、北アフリカのベルベル人の流れを汲む遊牧民で、何世紀にもわたって植民地主義や厳格なイスラム支配の押し付けと戦ってきた。独立のための武装闘争と政府軍による暴力的な弾圧の時代に育った彼の演奏は、同じアフリカのティナリウェンやアリ・ファルカ・トゥーレをはじめとし、ジミ・ヘンドリックスやジョン・リー・フッカー、ジミー・ペイジを彷彿とさせるギター・リフを響かせながら、抵抗と反乱の精神を表現している。パンデミックによって世界の動きが止まった時、遊牧民である彼らも留まらなければいけなくなった。その時に本作の楽曲制作をしていたとのこと。そして、バンドメンバーと共にモロッコ・カサブランカのスタジオでレコーディングを行い、本作が出来上がった。
ボンビーノにとってこれまでで最も個人的で力強く、政治的な思いに満ちた作品。また、彼が最初から目指していたサウンドの多様性、そしてサヘル地域を構成する文化や人々の複雑なタペストリーをそのまま反映した作品でもある。「トゥアレグ族の一般的な苦境は常に頭の中にあり、ずっと自分の音楽の中で取り上げてきたが、このアルバムでは特別に焦点を当てたかった」と彼は言う。
ロック、 “砂漠のブルース”、ポップ調の楽曲等、サウンドは多岐に渡る。そこにボンビーノによるキレキレのギターテクニックが融合され、すっかり虜になってしまいそう。彼の熱い魂が強く伝わってくる作品。
4位 Mari Boine & Bugge Wesseltoft · Amame
レーベル:By Norse Music [9]
ノルウェーのサーミ人マリ・ボイネと、同じくノルウェーのジャズ・アーティスト、ブッゲ・ヴェッセルトフトのデュオ最新作。ブッゲはプロデュースも担当。2人は2002年にもコラボしているが本作で再びタッグを組んでリリース。
ブッゲの優しいピアノの演奏に、マリの包容力や深みのあって強さやしなやかさも感じられる歌声が重なり、瞑想的で開放的なサウンドスケープが作り出されている。歌っているのは、愛や人間の弱さ、不正、闘争、誇りと尊厳など、シリアスな内容となっている。
聴いていると胸にすーっと入っていくような感じ。歌詞まで理解できるともっといいのだが、聴いているだけでも心地よい美しい作品。
3位 Shakti · This Moment
レーベル:Abstract Logix [3]
イギリスのギタリスト、ジョン・マクラフリンがリーダーを務め、インドのパーカッショニストの巨匠、ザキール・フサインたちと結成、結成50周年を迎えたシャクティの最新作。本作がスタジオアルバムとしては46年ぶりで、4作目となる。(すごい!)昨年はワールドツアーを実施し、世界のファンへ音楽を届けた。
速いタブラとギターのコンビネーションはダイナミックで圧巻される。速い!と思っていてもリズムが変化し緩急あるアレンジが良く、美しいユニゾンも聴ける。キャリアに裏打ちされた演奏テクニックを存分に味わえる作品。さすがです!
↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)
2位 Lina · Fado Camões
レーベル:Galileo Music Communication [28]
ポルトガルの若手女性ファド歌手リナ(Lina)の2作目となる最新作。2020年にリリースされた前作は、シルビア・ペレス・クルスやロザリアなどと共演したスペインのミュージシャン/プロデューサーのラウル・レフリーとの共作で高く評価された。本作は彼女にとって初のソロ名義作となる。
本作では、16世紀に活躍したポルトガルを代表する歴史的詩人、ルイス・ヴァス・デ・カモンイス(Luis Vaz de Camoes 1524-80)の古典詩を基に、“ファドの王様” アルフレード・マルセネイロ(1891-1982)や、モザンビーク生まれのポルトガル人女性歌手アメリア・ムジェによる作曲のナンバーやリナの自作曲、さらには伝統曲などを独自のアレンジで展開している。
今回は、ティナリウェンやロバート・プラントらとコラボしたイギリス人ギタリストのジャスティン・アダムズがプロデュース。世界の様々なミュージシャンたちとコラボしてきた彼独特のアプローチで個性的なファドを創り出した。伝統と革新がうまく融合した楽曲を、彼女が美しく神秘的な歌声、豊かな表現力で歌う。ポルトガルギターの巨匠、ペドロ・ヴィアナによるポルトガルギターの音色もさらに豊さを彩り、聴いてきてうっとりするほど。現代ファドの進化をじっくりと感じさせてくれる作品。
↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)
1位 Aziza Brahim · Mawja
レーベル:Glitterbeat [-]
西サハラ出身で現在はスペイン・バルセロナ在住のSSW、アジザ・ブラヒムの最新作。EPも含めると本作が6作目のアルバムとなる。ランク外から今月いきなり1位に登場!
彼女の出身地である西サハラは未だ領土問題が解決しておらず「アフリカ最後の植民地」と言われているところ。アルジェリアと西サハラの国境近くの難民キャンプで生まれ育った彼女は、ラジオで世界から流れてくる音楽を聴きながら過ごした。10代でキューバに留学し、1990年代の深刻なキューバ経済危機を経験。1995年に19歳で難民キャンプに戻り音楽家としての道を歩み始め、2000年からはスペインで亡命生活を送っている。
2019年リリースの前作『Sahari』は各方面で高評価を博した。このアルバムのリリースツアーを行おうとしたところでパンデミックとなりツアーは中止となった。そして、2020年にはモロッコ軍とサハラ・アラブ民主共和国との衝突が激化、停戦していた西サハラでの戦争が始まってしまう。悲しみに暮れていた彼女に追い討ちをかけるように、彼女の最愛の祖母が亡くなってしまい、悲しみは頂点を迎えてしまう。それを救ったのが音楽制作で、本作のきっかけとなった。悲しみや喪失感から徐々にインスピレーションが生まれていったそうだ。
収録曲はアフリカの民族音楽や砂漠のブルースをベースにしているが、ロックやスペイン、キューバといった彼女が歩んできた要素もうまくミックスされ、彼女の生き様が表現されている。深い感情がこもった歌声は、今なお紛争が続いている故郷の人々へのメッセージが込められているように静かに胸に響く。
↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)
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(ラティーナ2024年3月)
↓2月のランキング解説はこちら。
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世界の音楽情報誌「ラティーナ」
「みんな違って、みんないい!」広い世界の多様な音楽を紹介してきた世界の音楽情報誌「ラティーナ」がweb版に生まれ変わります。 あなたの生活…