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[2023.1] 【映画評】 『モリコーネ 映画が恋した音楽家』 ⎯⎯ 世界最高の映画音楽作曲家エンニオ・モリコーネ。その挫折と栄光に彩られた人生と音楽の秘密とは?
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』
世界最高の映画音楽作曲家エンニオ・モリコーネ。
その挫折と栄光に彩られた人生と音楽の秘密とは?
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文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)
映画音楽の巨匠と言えば?と聞かれたら、迷わず最初に思い浮かべるのはエンニオ・モリコーネだ。他にもモリコーネ同様半世紀以上も前から多くの名画を彩ったミシェル・ルグラン、ニーノ・ロータ、フランシス・レイや、近年ではアレクサンドル・デスプラ、ガブリエル・ヤレド、ヨハン・ヨハンソン、ニコラス・ブリテル、クリフ・マルティネス、トレント・レズナー&アッティカス・ロス、ブライス・デスナー、ジョニー・グリーンウッド、ミカ・レヴィなど、何人でも挙げられる。しかしその手掛けた作品数の多さや、様々なジャンルを取り込んだ音楽自体の多様性、そして何より五線譜数行だけのメロディで揺り動かす人々の感情の深さは、モリコーネが群を抜いているだろう。
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2023年1月13日(金)
TOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ ほか全国順次ロードショー
©2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras
深く印象に残っている(特に青春期に映画館で観た)映画は、タイトルを聞いただけで当時の自分の人間関係や時代の空気感までもが自然と頭の中に広がる。中でも音楽は映像と直接結びついて、様々な記憶を容易に呼び覚ます力を持っている。そんな多くの人々の心に刻まれている映画音楽を生み出してきたモリコーネについて、本作は様々な角度から光を当てて丁寧に、そして大胆に迫ってその人生と音楽を紐解いていく。そこにはモリコーネの指名により、互いに絶大な信頼を寄せ合う仕事仲間であり、親友でもあるジュゼッペ・トルナトーレが監督を務めたからこそ捉えることの出来た、モリコーネの素の姿と真実の言葉を観ることが出来る。
スクリーンには冒頭からいきなりモリコーネが体操をする意外な姿が映し出され、そのリズミカルな動きがやがて彼が指揮をする姿と重なり合う。そしてユーモラスな空気感と指揮をする音楽の抒情に満ちた美しさが絶妙に混ざり合い、独特な雰囲気を作り出す。それは彼の音楽性の幅広さを象徴すると同時に、本作におけるトルナトーレ演出の方向性を提示したものでもある。まるで脚本に書かれたようにドラマチックなモリコーネの人生を、2時間半を超える上映時間の中でそのまま大げさに物語るのではなく、端々に軽妙なユーモアを交えることで適切なリズムを作り出し、その長さを感じさせずに盛り上げる見事な演出だ。
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