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[2020.10]カエターノ・ヴェローゾ 『熱帯の真実』 翻訳刊行記念対談 国安真奈×宮沢和史

 カエターノ・ヴェローゾが1997年に発表した著書 “Verdade Tropical” の邦訳版『熱帯の真実』がこのたびついに刊行された。1950年代から70年代にかけてのブラジルの音楽と文化、社会、政治を語ったものであり、その全訳に、20周年記念版(2017年)の新たな序文を加えたものとなっている。

 刊行を記念して、翻訳を担当したポルトガル語通訳・翻訳の第一人者、国安真奈さんと、トロピカリズモからも影響を受けた音楽家、宮沢和史による記念対談を行った。

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カエターノ・ヴェローゾ『熱帯の真実』(アルテスパブリッシング)
2020年9月28日発売 4200円+税

トロピカリズモ●ブラジルで1960年代後半に起きた、音楽を中心とした芸術運動。カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルといったミュージシャンによる音楽ムーヴメントを中心に、現代美術、演劇、映画等の各種カウンター・カルチャーが連動して広がっていった。

コロナ禍だからできた本

宮沢 この本はそもそもブラジルでは97年に出たんでしたっけ? その時に、日本語版という話はなかったのですか?

安 日本語にする話は初版が出てわりとすぐ、98年か99年じゃなかったかなぁ。そのくらいからはありました。訳者あとがきにも書きましたが、出版企画を存続させたという意味はそういうことで、企画は一度も死んでないんですよ。ただ、訳者側も出版社も、校正と編集の作業に着手できなかった。半年くらいかかるわけで。実は、このコロナ禍で2月くらいに、上半期に入っていた仕事が全部なくなってしまって、4月くらいにはほんとに何にもやることが無くなってしまって…。そんな時にたまたま、やりましょうということになりました。その後、仕事がまた入ってくるようになったので、最後には結局、時間的余裕がなくなったんですが、今回、コロナがなかったらちゃんとできてたのかな?というのはあります。

宮沢 精神状態も違いますしね。日常が流れている中でやるのと、(仕事がなかったりして)完全に止まっている中で向き合ってやるのと。

 でも、私コロナ鬱みたいっぽくなってて。ずっと外に出られなかったじゃないですか。でも気候がよかったりしたからベランダに出たりして気分転換したりしていたけど、ちょっとまずいよねという感じでした。へばっては立ち直り、へばっては立ち直りという感じで進めていきました。

宮沢 この本が出た時のブラジルでの評判はどうだったんですか?

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