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[2024.9]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2024年9月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。



20位 Carla Pires · VaiVem

レーベル:Ocarina [-]

 ポルトガルの新世代ファド歌手として活躍するカルラ・ピレスの5作目となる最新作。2017年には日本国内ツアーも行い、各会場大盛況だったことは記憶に新しい。ソロのファド歌手として本格的に活動して今年で20周年を迎えた。本作はそれを記念して制作されたもの。
 自身のオリジナル曲のほか、ファド歌手アルフレド・マルセネイロや、モザンビーク生まれのポルトガル人ファド歌手/作曲家/演奏家として長年活躍しているアメーリア・ムージェ、ポルトガルのSSWアントニオ・ザンブージョにより書かれた楽曲が収録されている。
 曲調によって表現を変え、感情移入した歌はとても説得力がある。静かに、そしてしなやかな彼女の歌声と、ポルトガルギターなど弦楽器との相性は抜群でとても素晴らしい。これまでの彼女のキャリアを讃えるように様々な曲調の楽曲、静かな曲だけでなくアップテンポな曲もあり、彼女の魅力が充分堪能できる。歌の上手さに圧倒される美しい作品。

19位 Maré · Maré

レーベル:Sons Vadios [-]

 ポルトガルの漁師、漁村の生活や勤勉さに敬意を表したプロジェクト「Maré(ポルトガル語で潮の意味)」により制作された作品。リスボンの北に位置する沿岸都市ナザレを拠点に音楽家達により設立された文化協同組合で、ポルトガル伝統音楽のレーベル Sons Vadios によりリリース。
 このプロジェクトは、2022年11月に漁業協同組合80周年記念事業の一環として開始された。ポルトガル伝統音楽のミュージシャン達が様々な地域から集まり本プロジェクトに協力、漁業に関係する人々で構成された合唱団も参加し、本作が制作された。また、音楽だけでなく、漁業協同組合理事長や、ジャーナリスト達による文筆活動、映像作家による伝統的な歌のビデオ撮影、ビジュアル・イラストなども制作、コンサートも行われ、大きな文化的事業として行われた。
 漁業と音楽、日本では演歌と紐付くのかもしれないが、ポルトガルでは、バカリャウ(干し鱈)の工場で歌われている歌や、漁の時に歌う歌など労働歌、漁業に携わる人々の身近に存在する伝統歌が収録されている。
 漁業を称えるためにこのような文化的な事業が興され、本作品が聴けるのがとても素晴らしい。このプロジェクトに関わった全ての人々に敬意を表したい。

18位 Ali Doğan Gönültaş · Keyeyî

レーベル:Mapamundi Música [5]

 イスタンブール出身のトルコ系クルド人バンド Ze Tijê のリードヴォーカル Ali Doğan Gönültaş のソロ二作目となる最新作。前作『Kiğı』は2022年リリースで、本チャートにも5ヶ月間ランクインしていた。本作も5月に6位に初登場、先月は1位を獲得し、今月は5位と上位をキープしているので、長期間のランクインが予想できそうだ。
 クルドの弦楽器タンブールと、彼の歌だけでとてもシンプルな音。しかし、幻想的な彼の歌声と、魅惑的なタンブールの深い音色が絶妙に織り成されている。クルドの歴史や文化、そして個人的な経験を反映した歌で、ザザキ語やトルコ語などで歌われおり、豊かで魅惑的な作品。
 アルバムタイトル『Keyeyî』とは、彼の母国語であるザザキ語で「家」を意味する。自身の故郷を思い出し、実家で過ごした時間や、そこで得た喜びや悲しみなど様々な思いを表現したアルバム。
 彼の民族の物語に不可欠な音楽的遺産を受け継いでおり、豊かで魅惑的な音楽の物語を形成している。シンプルだからこそ刺さってくる作品。

17位 Tiganá Santana · Caçada Noturna

レーベル:Ajabu! [12]

 ブラジル・バイーア出身のSSWチガナー・サンタナの7作目となる最新作。前作『Vida-Cdigo』以来4年ぶりのリリースとなる。
 本作は、ポルトガルのアレンテージョ地方の都市セルパで録音された。
タイトル「Caada Noturna(夜の狩り)」とは、チナガーが敬愛する詩人パウロ・コリーナの同名の詩に由来していて、狩猟の神へのオマージュや夜行性/月/深い感情/神秘に触れる詩的なトーンなどがアルバムの主旨と合致しているのだとか。そして今回チナガーと共にアルバムを制作したのは、レオナルド・メンデス(ギター)とルドソン・ガルター(ベース)の二人。今回は主にレオナルドのギターがサウンドの核となっていて、曲によってはキコンゴ語で作曲したものも収録されるなど、アフロ・ブラジリアンなスタイルはこれまで通り貫かれている。1曲目以外は彼のオリジナル作品。1曲目ファブリシオ・モタ作詞作曲の「Das matas」(森から)は、アフロ・ブラジルの狩猟神 Oxóssi を称えた内容で、曲中にチガナーによる朗読が入っており、とても惹きつけられる。
 サンプル音源を聴いたが、チガナーの温かくて柔らかく、ソウルフルで深い歌声と、アコースティックな弦楽器の音色に、すっぽりと包み込まれるかのような感覚を覚える。本当に彼の歌声にうっとりとさせれる。また、ゲストにアフロ・ルーツ・サンビスタとして知られるファビアーナ・コッツァも参加しており、二人のデュエットがとても美しい。ブラジル音楽好きなら必聴の一枚!

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり。9/22発売!)

16位 Nfaly Diakité · Hunter Folk Vol 1: Tribute to Toumani Koné

レーベル:Mieruba [-]

 1989年マリの首都バマコ生まれ、ンファリー・ジャキテ(Nfaly Diakité)の初のソロアルバム。バンバラ族の精霊信仰に基づく狩猟民族であるドンソの一員であるンファリーは、ドンソ・ンゴニ(大きな瓢箪を半分に割ってヤギ皮を貼った伝統的な弦楽器)を演奏する。バンバラ族の歴史と文化を音楽と歌で伝える役割を担っている彼は、ドンソのコミュニティで有名になると、BKOクインテットにも一時加わり、ヨーロッパやアメリカのツアーにも参加していた。彼の卓越した演奏は注目を集めることとなり、あまり知られていないこの伝統楽器の認知度を高めることを目的に、マリ国内外の数多くの音楽フェスにも参加。伝統と現代的なサウンドを融合させ、幅広い音楽的背景を持つアーティストとコラボレーションすることによって、彼の役割を見事に果たした。
 本作は、ドンソ・ンゴニの第一人者で、語り部であり詩人でもあるトゥマニ・ケネへのオマージュとして制作され、2020年6月にバマコで録音されたもの。ドンソ・ンゴニとケレグネ(Keregne:擦り合わせて音を出す打楽器)の演奏とヴォーカル全てをンファリーが担当。長いキャリアを通じて勇気、大胆さ、誠実さの象徴であり続けたトゥマニ・ケネへの敬意を表し、ドンソ・ンゴニ奏者の新世代を代表する存在とも言えるンファリーが本作で表現している。伝統と現代がうまくミックスされた作品。

15位 Marta Topferova · Sombras

レーベル:Moravia Publishing [30]

 チェコ出身の女性SSWマルタ・トッフェロヴァの10作目。若くしてアメリカに移住し、様々な文化の影響を受けた。チェコの伝統音楽であるスラブ音楽と、アメリカのヒスパニック・コミュニティの中で出会ったラテンアメリカ音楽の両方を取り入れて歌い、曲を書くようになった。
 本作はベルリンに移り住んだ2020年から2022年の間に書いたオリジナル作品が収録されている。まさにパンデミックの最中、日も当たらず、空も見えない小さなアパートで書いたそうだ。タイトルは「日陰」を意味するので、気分的にも状況的にも暗かったということなのだろう。
 楽曲は、(ボリビアの)ワイニョ、クエカ、サンバ(Zamba)、ボレロ・ソン、ソン、クンビアといった様々なラテンアメリカのリズムが使われており、今までのキャリアの中で彼女が培ってきたことが反映されている作品。
 チリのミュージシャン、アレハンドロ・ソト・ラコステも参加しており、ギター、ギタロン、アコーディオン等で彼女をサポートしている。また、チリのマンドリン奏者/作曲家のアントニオ・レストゥッチによるマンドラ(マンドリンよりも一回り大きい弦楽器)の音もとても魅力的。
 ラテンアメリカへの音楽愛が溢れた非常に素晴らしい作品。

14位 Russudan Meipariani featuring Ensemble Anchiskhati · Voices & Mountains

レーベル:Timezone [13]

 ジョージア出身の作曲家/ピアニスト/歌手でドイツで活動しているルスダン・メイパリアニ(Russudan Meipariani)の4作目となる作品。本作は、ジョージアの男声合唱団、アンサンブル・アンキスカティ(Ensemble Anchiskhati)によるコラボレーションアルバム。
 ノルウェー・オスロへの音楽留学経験があり、ヨーロッパの音楽を広く学んだ。彼女の音楽は、クラシックやミニマル・ミュージック、ジョージアのポリフォニー、現代のニューミュージック、ポップ・カルチャーの要素を組み合わせている。
 本作では、力強いジョージアの男声合唱団の声と自身の声を融合させ、そこにミニマルな電子音を重ね、新たなサウンドスケープを探求している。ジョージアの詩人のメランコリックな詩を音楽的に翻訳し、それを歌っている。日々の現実が夢と闇の世界へと移り変わり、ゆっくりと変化していく自然の状態を本作で描写しているとのこと。そこには、寂寥感や安らぎも共存し、魔法にかかったような感じにさえなる魅惑的な作品。美しいです。

13位 Landless · Lúireach

レーベル:Glitterbeat [7]

 2013年結成、アイルランドのダブリンと北アイルランドのベルファストを拠点に活動する女性4人組アイリッシュ・ポリフォニー・グループ、ランドレスの2ndアルバム。2018年リリースのデビュー作も高い評価を受けた。その時のプロデューサー、ジョン・'スパッド'・マーフィー(John ‘Spud’ Murphy)が本作でもプロデュースしている。
 本作のために何年もかけて収録する曲を集めたとのこと。多くは伝統的な民族音楽だが、最近の彼女たちのオリジナル曲も含まれており、メロディと歌詞に重きを置いて選んだそうだ。
 アカペラもあり基本的にはシンプルな伴奏で、メインとなるのは4人の歌声だ。重なり合う声は、豊かでとても美しく、彼女たちの静かなパワーが感じられる。圧倒的な世界観に強く引き込まれる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付き、LPもあり)

12位 Bhutan Balladeers · Your Face Is Like the Moon, Your Eyes Are Stars

レーベル:Glitterbeat [15]

 ブータンの伝統的な民族音楽であるズンドラ(Zhungdra)を歌うブータン・バラダーズの国際デビュー作。ティナリウェンなどのプロデュースで知られるグラミー賞受賞者、イアン・ブレナンによるプロデュース。
 ズンドラは17世紀初頭に生まれたブータンの民族音楽の一つで、複雑なパターンを織り成す伸びやかな声調と、最小限の楽器伴奏に支えられたメロディーを特徴としている。本作で使われている楽器は、二重弦が三組あるリュートのドラムニェン(Drumnyen:ドランギェン(Drangyen)とも言われる)、木管フルート、ピアノの起源とも言われている打弦楽器ハンマー・ダルシマーのような楽器ヤンチェン(Yangchen)、二弦の弓付きヴァイオリンの一種チワン(Chiwang)というシンプルな構成。歌い手は16人で、首都ティンプーの郊外、世界最大の仏陀座像が見守る森の中で収録されたとのこと。しかし本作に収められているのは、収録曲のうちのほんの一部。楽器を使用せずアカペラで歌われている楽曲もある。自然の中での録音だからなのか、それとも歌本来の魅力なのか、歌い手の伸びやかでストレートな表現がとても印象的。日本の民謡のようにも感じられる素朴なサウンドだ。
 イアン・ブレナンのフィールドワークにはいつも驚かされるが、今回もブータンまで行って録音していたのかと思うと、敬意を表する仕事ぶりだ。

11位 Jyotsna Srikanth · Carnatic Nomad

レーベル:Naxos World [10]

 イギリス系インド人のヴァイオリニスト、ジョツナ・スリカンス(Jyotsna Srikanth)の最新作。今月9位にランクインしたヴァリジャシュリー・ヴェヌゴパルと同じインド南部カルナータカ州の州都ベンガルール生まれで、母親がカルナティック音楽の音楽家/教師であったため、幼い頃から英才教育を受けてきた。結婚してロンドン移住し、世界的な音楽イベントに参加するなどし、欧米にカルナティック音楽の認知を広める活動を行なっている。
 彼女は、主に15~18世紀のカルナティックの作曲家による作品を解釈し、伝統的なラーガ(インド古典音楽の旋法)の基本的な音階であるメラカルタ(Melakarta)に由来する美しいラーガの数々を表現している音楽家。インド古典ヴァイオリンと西洋ヴァイオリンの両方をきっちり学んだ彼女の卓越した運指テクニックと、感情を含んだ音楽的表現を融合させている。
 本作は、彼女が10年以上前にヨーロッパで6ヵ月にわたって15カ国で行った大規模なツアーがルーツとなっている。ツアーで行った選りすぐりの楽曲を二人の南インド人の打楽器奏者と共に再演した音源が収録されている。全7曲だが、1曲あたりの時間が長いものもある。カルナティック音楽の伝統的で複雑な音階、リズムやテクニックなどがたっぷりと堪能できる。ヴァイオリンと、ムリダンガムやカンジーラ(フレームドラム)など南インドの打楽器が、呼応しつつ息ピッタリの演奏に度肝を抜かれる。

10位 Dobet Gnahoré · Zouzou

レーベル:Cumbancha [4]

 コートジボワール出身、世界的にも活躍している女性シンガー/SSW、ドベ・ニャオレ(Dobet Gnahoré)の7作目となる最新作。2021年リリースの前作『Couleur』も本ランキングにランクインし高評価を得たが、本作はそれ以来のリリースとなる。前作に続き、アフリカの音楽と文化を称えながら、アフリカの社会問題も取り上げ、コロナ禍を経て社会の回復や団結力、コミュニティの力といったテーマを探求した楽曲の数々が収録されている。
 本作のタイトル「Zouzou」とは、精霊や天使という意味で、実際にアルバムタイトルとなっている楽曲のMVでは、ドベたち出演者が天使の姿で登場している。このアルバムを通して、私たちが守らなければいけない天使(子供たちや弱い立場にいる人々のこと)の存在、目に見えない精霊たち、スピリチュアルなエネルギーの存在を認識すること、それらに寛大さを持つことをメッセージとして込めている。
 アフリカの伝統的な音楽と現代的なアレンジや楽器がうまくミックスされて、洗練された現代アフロポップ作品に仕上っている。ドベの歌唱力もお見事で、彼女のエネルギーが存分に感じられる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き)

9位 Varijashree Venugopal · Vari

レーベル:GroundUP Music [11]

 インドの歌手/フルート奏者である、ヴァリジャシュリー・ヴェヌゴパル(Varijashree Venugopal)のフルアルバムとしては初めての作品。スナーキー・パピーのマイケル・リーグがプロデュースし、彼のレーベルからのリリース。
 ヴァリジャシュリーは、1991年インド南部カルナータカ州の州都ベンガルール生まれ。両親ともに優れた音楽家であり、1歳半の頃から100のラーガ(インド古典音楽の旋法)を聴き分け、4歳で南インドの古典音楽であるカルナティック音楽のコンサートを始めたという神童だったそう。
 約10年前にマイケル・リーグと出会ったようで、その頃の彼女はさまざまな形の音楽を探求していて、カルナティック音楽のテクニックや基礎を、ジャズやブラジル音楽などインドの音楽とは異なるジャンルに応用していた。そこから発想を得たのだろう、本作は7年かけて制作されたとのこと。
 伝統的なカルナティック音楽が根底にありながら、ジャズの即興的要素やスキャットを散りばめ、楽器の一つとも言える彼女の伸びやかで透き通った歌声、インドのパーカッションの響きがとても印象的。マイケル・リーグをはじめ、アナット・コーエン、ブラジルのバンドリン奏者のアミルトン・ヂ・オランダも参加しており、多様な音楽的文化が見事に融合している作品。タイトル『Vari』はサンスクリット語で「水」を意味し、透明感溢れる彼女の歌声が、まさに水のような純粋さや透明感を表現している。魅力的な彼女の歌声にとても惹き込まれる作品。

8位 Arooj Aftab · Night Reign

レーベル:Verve [37]

 パキスタン出身、バークリー音楽大学でジャズを学び、卒業後はNYを拠点に活動してきたSSWアルージ・アフダブの最新作。本作がソロとしては4作目となる。
 ルーツとなる南アジアの伝統音楽、学んだジャズ、ポップス、ブルースなどが絶妙に混ざり合う楽曲を制作、ジャンルに捉われないヴォーカルを実践し、幅広い研究レパートリーを披露してきた。2021年以降、メジャーな音楽フェスに多数出演し多くの観客を魅了、ニューヨーク・タイムズ紙やローリング・ストーン誌、タイム誌などから高い評価を受けた。2022年グラミー賞最優秀新人賞にノミネートされ、ベスト・グローバル・ミュージック・パフォーマンス部門で彼女の楽曲「Mohabbat」が受賞した。2023年には、ヴィジェイ・アイヤー、シャザード・イズマイリーとのトリオ・アルバム『Love In Exile』をリリースし、このアルバムが第66回グラミー賞最優秀オルタナティブ・ジャズ・アルバム賞と最優秀グローバル・ミュージック・パフォーマンス賞の2部門でノミネートされるなど、ますます期待が高まる音楽家の一人として評価されている。
 そんな彼女による最新作は、タイトル通り「夜」に焦点を当てた作品となっており、自身によるオリジナル8曲と、スタンダード1曲の全9曲が収録されている。彼女の歌声がアルバムのテーマに合う、落ち着いた低音、それでありながら強さやしなやかさも感じられる。暗闇になると現れる孤独や、内省的な感情を多面的に美しく表現している。彼女独特の素晴らしい世界が繰り広げられている作品。

↓国内盤あり〼。

7位 Ruşan Filiztek · Exils

レーベル:Accords Croisés [-]

 トルコ南東部の都市ディヤルバクル出身のクルド人ミュージシャン/サズ奏者/歌手のルシャン・フィリステックの最新作。2021年にソロデビュー作をリリースしたが、本作はそれ以来2作目となる作品。
 幼い頃父親からサズを習い、青春時代はイスタンブールで過ごし、その後シリアやイラク、アンダルシアからヨーロッパまで音楽を通して旅をし、2015年にアルメニア人、トルコ人、クルド人が共存するパリのポルト・サン・ドニ地区に辿り着く。パリのソルボンヌ大学で民族音楽学の修士号を取得し、幅広い演奏活動や様々なミュージシャン達とコラボレーションを行い、現在はパリで活動している。
 本作タイトルは「亡命」を意味し、彼のこれまでに音楽的、人間的な探求を反映した作品となっている。フラメンコ・ギタリストのフランソワ・アリア、パーカッショニストのファン・マヌエル・コルテス、ケルトのフルート奏者シルヴァン・バルー、アルメニアのドゥドゥク奏者アルチョム・ミナシャン、ヴィオラ奏者のマリー=スザンヌ・ドゥ・ロワ、ギリシャの歌手ダフネ・クリタラス、フラメンコ歌手のセシル・エヴロット、ジャズ・ベーシストのレイラ・ソルデヴィラとエムラー・カプタンらの友情が織り成す作品となっている。
 まだ全作は聴けていないが、上記動画はフラメンコとのコラボレーション。フラメンコギターとクラップ、そしてサズが入り、楽曲は中東音楽とフラメンコが融合しているのがお見事!全ての楽曲を早く聴いてみたいところだ。

6位 Meridian Brothers · Mi Latinoamérica Sufre

レーベル:Les Disques Bongo Joe [14]

 コロンビア・ボゴダで1998年に結成された前衛的バンド、メリディアン・ブラザーズの最新作。サルサやクンビア、バジェナートなどカリブのリズムにサイケデリックなエレクトリックサウンドを組み合わせ実験的な音楽を制作しているグループ。
 本作は、熱帯のラテンにおいて、エレクトリック・ギターの未開拓の可能性を探求したいという欲求から生まれたコンセプトアルバム。アフリカの大衆音楽であるハイライフやスークースで使われるギターの音色やリズムからインスピレーションを得て、それらのラテン音楽と融合させているユニークなアルバム。サイケデリックの中に、ハイライフやアフロビートも感じられ、もちろんクンビア、キューバなどラテンも味わえるという不思議な作品。他に類を見ない革新的なサウンドで、彼ら独自の世界観を大胆に表現している傑作!これはいいです!

5位 Bab L’ Bluz · Swaken

レーベル:Real World [3]

 2018年モロッコ・マラケシュでモロッコ/フランスの混成メンバーにより結成されたバンド、Bab L' Bluzの最新作。本作が2作目となる。2020年にリリースされた、デビューアルバム『Nayda』は、仏ル・モンド紙や、ニューヨーク・タイムズから称賛を受け、2021年のソングラインズ賞のフュージョン部門を獲得し、世界的にも高い評価を得た。
 モロッコのグナワ音楽など、アフリカ北部マグレブのトランス的で推進力のあるリズムに根ざしており、サイケデリック、ブルース、ロック、ヘビメタにまで通じ、アクセル全開で楽曲が展開していく。MVではモロッコの弦楽器ゲンブリを弾いており、ゲンブリを現代の国際音楽シーンに広めるという夢を持つバンド。ぶっ飛びっぷりがとても気持ち良い!先月いきなり1位で登場したが、それが納得できるほどエネルギー溢れる作品。
 自分自身を見失うことで自分自身を見つけるというのが、本作の中心的な信条だそうだ。温かみのあるアナログ・サウンドは、ジミ・ヘンドリックス、レッド・ツェッペリンなど70年代のロック・アイコンに、アフリカのトランスの美学をミックスさせており、神聖な霊の憑依を目的としたモロッコの儀式の影響を感じさせる。これらの融合したサウンドに説得力さえも感じられる。
 フロントウーマンであるモロッコ出身のヴォーカル、ユスラ・マンスールの歌声が素晴らしい。シンプルな歌声ではなく複数音が混ざっているかのような歌声で、多様なメロディを歌いこなす技術に圧巻。そして、激しいリズムで強さを、ゆったりした楽曲では彼女の優しさも感じられる。聴いていて、頭がスッキリ覚醒し、だんだんとハマってしまう作品。堪らない!

4位 Buzz’ Ayaz · Buzz’ Ayaz

レーベル:Glitterbeat [-]

 キプロスのバンド、ムシュー・ドゥマニが2022年夏に来日、日本のワールド・ミュージック・ファンに大きな感動を与えたことは記憶に新しい。そのの創設者であるアントニス・アントニウが新たに結成したバンド、バズ・アヤズ(Buzz' Ayaz)のデビュー作。
 ヨーロッパ各地からの観光地として知られているキプロス島は、ギリシャ系住民とトルコ系住民の間で政治的な緊張状態にあり、島は分断されている。しかしエリアによっては、二つの文化が混ざり合い互いに文化的な交流が行われている。このバンドは分断されたキプロスが音楽的に融合することを目的に結成され、分断された両地域から集まった4人のメンバーにより構成されている。アントニスのエレクトリック・ジュラ(ギリシャの弦楽器)、トルコ系のドラム、ギリシャ系の鍵盤奏者によるベースシンセ/オルガン、キプロスに移住してきたイギリス人によるバスクラリネットという編成。
 60〜70年代のロックやサイケデリックオルガンがベースとなり、ギリシャとトルコが融合したメロディックなサウンドはとても重厚で、幻想的、催眠的に繰り返されるグルーヴ感がクセになる。ギリシャとトルコが融合した現代のキプロスのサウンドとも言え、彼らの目的が見事に成功している作品。今後の活動にも注目!

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

3位 Vigüela · We

レーベル:Mapamundi Música [6]

 スペイン中南部のカスティーリャ・ラ・マンチャ出身のユニット、ヴィグエラ(Viguela)の最新作。2022年リリースの前作『A la Manera Artesana』も本チャートに長期間ランクインしていたが、本作はそれ以来で10作目となる作品。以前は5人組だったが、現在は4人で活動しているようだ。スペインの伝統音楽の遺産を探求し続け、それを現代に再構築し世界的に発信しているグループ。
 本作でも、スペインの舞踏音楽であるファンダンゴ、ロンディーニャ、セギディージャなど、スペインの伝統音楽が収録されている。彼らの祖先が不完全なまま残した古代の音楽言語を復活させるというバンドのコミットメントが見事に反映されている。ギターや伝統的な民族楽器から、生活雑貨の瓶やフライパンまでも楽器として演奏、生活に根付いていた伝統音楽を演奏している。そして手拍子などを交えながら、力強くストレートに歌っているのがとても印象的。

2位 The Zawose Queens · Maisha

レーベル:Real World [1]

 東アフリカのタンザニア、ワゴゴ族のペンド・ザウォセとその姪リア・ザウォセによるデュオ、ザウォセ・クィーンズのデビュー作品。
 ワゴゴ族はタンザニア中央部の丘陵地帯におり、優雅なポリリズムで、ポリフォニーの声楽、そしてフィドルのような弦楽器チゼゼ(chizeze)、指ピアノのような楽器イリンバ(illimba)、パーカッションのンゴマ(ngoma)などの伝統楽器を演奏することで知られている。1990〜2000年代にフクウェ・ザウォセが、世界にその音楽を知らしめた。そのフクウェの娘ペンドと孫娘にあたるリアが、このデュオ2人となる。フクウェは厳格で保守的だったため、かつてバンドでの女性の役割はバックコーラスを歌い、ンゴマの一部であるパーカッションのムヘメ(muheme)を叩くことしか許されなかった。しかし変化はゆっくりと訪れ、2002年から2009年ザウォセ・ファミリーとして若い世代も含めて再結成したとき、女性たちはコンサートでイリンバを演奏した。そして今回初めて、彼女たち二人がデュオとして前面に立ち、リード・ヴォーカルとパフォーマンスをすることになった。
 イギリス人プロデューサーのオーリー・バートン・ウッドとトム・エクセルがプロデュースし、レコーディング、ミックスも行っている。オーリーらと彼女たちを繋げたのが、タンザニアを代表するギタリスト/シンガーのレミー・オンガラの娘アジザ・オンガラで、彼女はタンザニアの伝統を守り世界に発信する活動を行っている。また、タンザニアのバンド、ワムウィドゥカ・バンド(Wamwiduka Band )もゲスト参加しており、タンザニアの伝統音楽の今後も期待できそうだ。
 本作では、伝統楽器だけではなく、現代の電子楽器との融合も行われている楽曲もあり、伝統的なサウンドがより印象強くなっている。そして、二人のハーモニーと伸びやかな歌声、催眠的な繰り返しがとても気持ち良い。イリンバの音色が二人を大きく包み込んでいて、その中で伸び伸びとダンサブルに歌っている姿が想像できる。全世界のファンが待ち焦がれていただろう作品だ。

1位 Bassekou Kouyate & Amy Sacko · Djudjon, l’Oiseau de Garana

レーベル:One World [2]

 マリのグリオミュージシャン、バセクー・クーヤテ(Bassekou Kouyate)と、その妻エイミー・サッコ(Amy Sacko)の夫婦名義の最新作。先月2位で、今月1位に!
 バセクーは西アフリカの伝統的な弦楽器ンゴニの名手で知られており、アリ・ファルカ・トゥーレ、トゥマニ・ディアバテ、ポール・マッカートニーやU2など多くのアーティストと共演している。また、音色が異なるンゴニを演奏するバンド、ンゴニ・バ(Ngoni ba)を2005年に結成、世界各地のフェスでも演奏している。そのバンドのヴォーカルは妻のエイミーで、エイミーは「マリのティナ・ターナー(!)」と称されマリの人気シンガーの1人。
 本作は、バセクーの故郷であるガラナ村(マリのセグーから60キロ離れたニジェール川の辺りにある他民族村)で録音、息子のマドゥ・クーヤテ(Madou Kouyate)も参加した。バセクー自身と友人のイブラヒム・カバ(Ibrahim Kaba)が共同プロデュースした作品。彼らのルーツを辿り、普遍的な物語を伝えることに重点を置いた自然なサウンドに仕上げた。そのためか、ンゴニの音色やパーカッション、エイミーの歌も実にシンプルで心地よい。
 インストだけの楽曲もあるが、歌はマリの言語バンバラ語とフラニ語で歌われている。アルバム最後の曲「Macina」はバセクー自らが朗読のような形で思いを綴っている。言葉は理解できなくとも、魂から何か伝わってくるものがある。まさにマリのブルースと言える作品。彼らの故郷への旅に同行しているような気分にさえなる。


(ラティーナ2024年9月)

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