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[2021.06]【新連載シコ・ブアルキの作品との出会い③】シコの歌との出会いが開いたポルトガル語《A Banda》

文と訳詞●中村 安志 texto y traducción por Yasushi Nakamura

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プロフィール●音楽大好き。自らもスペインの名工ベルナベ作10弦ギターを奏でる外交官。通算7年半駐在したブラジルで1992年国連地球サミット、2016年リオ五輪などに従事。その他ベルギーに2年余、昨年まで米国ボストンに3年半駐在。Bで始まる場所ばかりなのは、ただの偶然とのこと。ちなみに、中村氏は日本を代表するフルート奏者、城戸夕果さんの夫君でもありますよ。

 私にとってシコ・ブアルキの歌は、ポルトガル語とともに、大好きなブラジルの文化・歴史・社会を学ぶ上で、特別な素材となりました。絶妙に韻を揃えた歌詞。日常会話のボキャブラリーの範囲をはるかに超え、過去の名作や出来事を知ってようやく合点がいく奥深さ。音楽的流れを優先し、語尾が次の語頭の音に吸収されるなど、聞き取りにも苦労しました。
 難しい作品が多いですが、ブラジル人の世界に思い切り飛び込むべく、背伸びしてチャレンジするには格好の材料でもあります。仲良くなった留学生からもらったカセットテープを何度も聴きつつ、歌詞がうまく聞き取れずにいた私も、あれこれ読み漁るなどしていくうちに疑問が氷解し、こんな皮肉が言葉の裏に込められていたのか、すごい歌だと気づいたとき、人々の気持ちのどこかにようやく一歩近づけたような気がしました。
 よく「外国語のヒヤリング上達は、ネイティブ発音のシャワーを浴びるに尽きる」と言われますが、近視眼もいいところでしょう。そもそも目で読んでも知らない状態の単語は、いくらわかりやすく発音されようと、判別などできません。音感も重要ですが、鍵となるのは物理的な耳の良さだけでなく、語彙の広さ、更に文脈への理解など、様々な受け皿が揃う必要があることを痛感しました。
 しかし、難解な作品の一方で、すぐ憶えてもらいたい、わかりやすい作品も数々あります。例えば、遠くから近づいてきた楽隊が前を通ると、お金を数えていた親父も手を止め、弱々しくしていた爺さんも踊りだし、皆が沸き立ったが、楽隊が過ぎ去ると誰もが日常に引き戻され、いつもの悩みや苦しみを抱えて過ごす。今回ご紹介するのは、そんなひとときの流れを実にわかりやすい言葉で描いた、「A banda(楽隊)」という曲です。

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