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[2021.02]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2021年2月|20位→1位まで【無料記事 聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。

  20位から1位まで一気に紹介します。

※この記事は、登録なしで全て読める無料記事です。

※レーベル名の後の()は、先月の順位です。

「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Lajkó Félix Band · Start

レーベル:Fonó (-)

 セルビア(旧ユーゴスラビア)生まれ、ハンガリー人のヴァイオリニスト/ツィテラ奏者/作曲家であるライコー・フェリックスの最新作。
 10歳からハンガリーのチター(ツィテラ)を演奏し、12歳よりヴァイオリンを演奏し、現在46歳。多くのミュージシャンとユニットを組み、ソロ、デュオ、トリオ、バンドなど様々な形式で活動している。今回の作品は彼のバンド名義での作品となる。
 上記動画を見てもわかるように超絶なテクニックと情熱的なインプロビゼーションが特徴で、その演奏はジャズ、ジプシー、クラシック、ワールドミュージックなどすべてのジャンルを超越している。
 今回の作品では、超絶なテクニックはもちろん、それがベースにありながらも、緩急ある曲調やロックテイストのものもあり、まさにジャンルを越えた構成となっている。「Ocean liner」ではAttila Sidooのラテンギターソロがとても色っぽく素敵。ライコーのヴァイオリンから発せられるエネルギーが、バンドメンバーの魅力も十二分に引き出されており、とても聞きごたえのある一枚となっている。

19位 Afel Bocoum · Lindé

レーベル:World Circuit (7)

 国際的に活躍したマリの歌手/ギタリストのアリ・ファルカ・トゥーレのグループ「ASCO」に13歳で参加し音楽家としてのキャリアをスタートしたアフェル・ボクムは、1955年、マリのニアフンケ生まれた歌手/ギタリスト。アリ・ファルカ・トゥーレもニアフンケ生まれだった。ソロデビュー作は、1999年の『Alkibar』。
 本作は、エグゼクティブ・プロデューサーであるデーモン・アルバーン、ニック・ゴールドのサポートを得て録音。スタジオアルバムとしては2009年の『Tabital Pulaaku』以来11年ぶりのアルバムで、キャリア4作目となる。収録したのは、マリ南東部ニジェール川北部のニジェール・ベンドで古くから演奏される音楽。寡作なマリ音楽の至宝による、土着的で乾いた土の香りがする砂漠のブルースの傑作が誕生した。

追伸:アフェル・ボクムは、地元で暮らすために、農業関係で公務員をしている(or していた)という。もしかして、今、65歳前後なので、定年して音楽活動に集中できるようになったのかな……。

↓こちらで購入可能です。

↓音楽ブログの「サナコレ」でも詳しく取り上げられていました!

18位 Hallelujah Chicken Run Band · Take One (1974-79)

レーベル:Analog Africa (32)

 アフリカ音楽復刻専門レーベル〈アナログ・アフリカ〉が2007年にリリースしたジンバブウェ伝説のバンド、ハレルヤ・チキン・ラン・バンドの貴重音源集を装い新たにリイシューしたアルバム。
 1972年、マングーラ鉱山で働く労働者向けの慰問バンドとして活動を開始した彼らは、やがてショナ族の伝統民俗楽器であるンビーラの音色をギター演奏で模倣することを考案。それをバンド・サウンドに取り入れたことによって、伝統を生かした今日のジンバブウェ・ポップ・サウンドの原点を生み出した。後にチムレンガ・ミュージックを確立することとなるあのトーマス・マプフーモがドラマー/リード・ヴォーカリストとして在籍していたことでも知られている重要グループだ。本作では彼らがレコーディングを開始した74年から解散した79年までの貴重音源をピックアップしている。

↓国内盤あり〼。(CDとLPがあります)

17位 Kronos Quartet · Long Time Passing: Kronos Quartet & Friends Celebrate Pete Seeger

レーベル:Smithsonian Folkways Recordings (3)

 サンフランシスコを拠点に活動している弦楽四重奏団クロノス・クァルテット。1973年の結成以来、ミニマル・ミュージックなどの現代音楽に加え、ロックやジャズなどをはじめとするポピュラー・ミュージックとのクロスオーバーにも取り組み、幅広い音楽ジャンルに渡って演奏し、クラシックの演奏家のみならずあらゆるジャンルのアーティストからリスペクトされている。世界中で演奏活動を行ない、精力的に新しい作品の録音や、アーティストとのコラボレーションなど、様々なプロジェクトを進め、弦楽四重奏団として無限の可能性を明示してきた。
 このアルバムは、アメリカで著名なフォーク・シンガー、故ピート・シーガーのトリビュート・アルバムで、6名のヴォーカル・ゲストと共にシーガーの名曲の数々の再構築に挑戦している。
 結成50年を前に、今年9月17年ぶりの来日予定だったが、コロナで公演は中止となった。せめてこのアルバムで、次回公演への思いを馳せよう。

↓国内盤あり〼。

16位 Tao Ravao & Vincent Bucher · Piment Bleu

レーベル:Buda Musique (-)

 マダガスカル出身フランス在住のカボシー(マダガスカルの弦楽器)奏者であるタオ・ラヴァオと、フランス出身のブルースハープ奏者ヴァンサン・ビュシェとのデュオ作品。デュオ作品としては3作目のアルバムとなる。
 数年前からデュオ活動しているため二人の息もぴったりである。
 カボシーやヴァリハ(マダガスカルの民族楽器で撥弦楽器)の音色がマダガスカル感満載なのだが、これがブルースハープと合わさると何とも言えない不思議な感じとなる。アメリカ南部のブルースな感じでありながら、マダガスカル感もあり、そしてアフリカのビートも感じられる。そして、メロディーはメランコリックで、タオの渋いボーカルがスパイスをきかせている。まるで私たちを旅に誘ってくれるかのようなアルバムだ。

15位 Eliseo Parra · Cantar y Batir

レーベル:Dalamix (15)

(上記の曲はアルバムに収録されていませんが、冒頭部分にエリセオがpandero cuadradoを演奏する部分があります。かっこいい!)

 スペインのベテラン音楽家、研究家、パーカッショニストであるエリセオ・パラの新作。スペインの伝統的なダンス・ジャンルを再現し、パーカッションとヴォーカルをふんだんに盛り込んだ新構成となっている。
 スペインの伝統音楽のプロモーターとしての長いキャリアが認められ、2018年にはヨーロッパ・フォルクローレ賞アガピト・マラズエラを受賞している。エリセオは生涯の大部分をイベリア半島を構成するすべての文化、また失われつつある少数の文化、民俗学と伝統を研究することに費やしてきた。今回のアルバムにもスペイン各地で収集した音楽を彼ならではの手法で作り収録されている。
 アルバム最後の曲「Mediterráneo」は、同じくスペインの偉大な音楽家・詩人のジョアン・マニュエル・セラット(Joan Manuel Serrat)が作った曲であり、エリセオが22歳の頃から歌っていた。今回ジョアンへのオマージュとして収録されている。71歳でこのパワー、恐るべし!

14位 Star Feminine Band · Star Feminine Band

レーベル:Born Bad (8)

 ベナン北西部の辺境の地ナティティングー出身の10歳から17歳までの7人の少女たちのグループ「スター・フェミニン・バンド」のデビューアルバム。ガレージロック、ポップス、故郷の伝統音楽などのスタイルを、ユーモアとエネルギー、軽やかなタッチで融合させており、フランス語だけでなく、ワーマ語やディタマリ語など現地の言語でも表現している。
 彼女たちが育ったのは緑と岩だらけの対照的な風景が広がる地域で、この地域の若い女の子のほとんどは、強制結婚や早期妊娠が一般的となっている。この状況を知った音楽家アンドレ・バレグエモンが、北ベナンの社会で女性の価値を示すため、問題意識に根ざした女性だけのグループを結成することを決意し、自治体の支援を得てメンバー募集すると地元FM局で発表した。そこで選ばれた7人の少女が、彼女たちである。中には楽器を持ったこともない子もいたが、トレーニングを実施し驚異的な進歩を遂げることになった。このプロジェクトは地元も応援しており、ナティティングー博物館の別館には、バンドのためのリハーサル室が設置され、彼女たちは学校に通いながら週3回、午後4時から7時までリハーサルを行い、また学校が休みの期間は、月曜日から金曜日まで毎日朝9時から夕方5時までみっちりリハーサルをしているそう。(すごい!)
 彼らの日常的な闘いや、平等、エンパワーメント、強制結婚の圧力、女性の性器切除などのテーマが中心となっており重いイメージだが、歌ったり踊ったりそして演奏している姿を見るとその姿に惹きつけられ思わず微笑んでしまう。ヨーロッパツアーも予定されているとのことで、これからの活動が大変楽しみである。

13位 Sutari · River Sisters 

レーベル:AAUU (18)

 Sutariは、ポーランドの女性3人組ユニット(2020年春よりメンバーの一人が交代)である。2012年にポーランドラジオの "New Tradition "フォークフェスティバルでデビューし、そこで審査員の2位と観客賞を受賞し、その後ポーランドで2012年の最も興味深い新しいフォークグループに選ばれた実力派ユニット。歌手、楽器奏者、パフォーマーである3人の若い女性が、それぞれ異なる音楽的・演劇的背景を持ちながら、ポーランドの伝統音楽を受け継ぎ、その上で様々なヴォーカルテクニックやリズムを探求し、独自のフェミニズムや環境主義的な解釈を提供し活動している。
 本作は3枚目のアルバムであり、川と水の循環を見つめる作品となっている。このアルバムについて彼女たちは「自然は常に私たちの作品の中に存在していますが、今回は自然を大切にしたいという私たちの愛情と願望をより明確に表現したいと思いました。地球は私たちにとって大切な存在であり、だからこそ、地球の自然と生命を守る環境運動に全力で取り組み、心を込めて応援しています。これらの動きの一つ、環境と芸術的なものから、私たちはアルバムの名前をポーランド語で "Siostry Rzeki"(River Sisters)としました。このアルバムに収録されている8曲は、ポーランドの様々な地域の歌を再解釈することで、その思いを伝えています。ポーランドと世界の歴史に足跡を残し、政治、科学、芸術、活動を通じ、未来の世代の生活を向上させようとしている女性たちへのオマージュです。」
 CDも環境に配慮した素材を使い作成したものだそう。音楽、作品ともに環境運動に取り組んでいる彼女たちをぜひ応援したい。

12位 Zedashe · Silver Sanctuary

レーベル:Electric Cowbell (11)

 ジョージア(グルジア)のポリフォニック声楽合唱団とダンスグループであるゼダシェによる9枚目のアルバム。共産主義時代の間に大部分が失われたジョージア特有のポリフォニックな聖歌を歌うため、1990年代半ばに設立され、ジョージア東部にある中世の要塞都市シグナギを拠点に活動している。ジョージアでは数少ない男女混合の合唱団で、女性がリーダーを務めている。彼らのレパートリーは、古い出版物から収集した民謡、器楽的なメロディーと付随する踊りも含まれており、国の多くの多様な地域の村人たちから学び伝統を保存している。
 今回のアルバムもジョージアの12の地域から集められた22曲が収録されており、古代の聖歌、バラード、結婚式の歌、仕事の歌、中世の寓話、ダンスのメロディー、ごちそうの歌、楽器のメロディーなど、数十年にわたる彼らの研究と熱心な歌の収集がここに反映されている。聖歌隊の強力な歌唱力と、正確な編曲が、収集された古い歌を21世紀の音楽として新鮮なものにしている。

11位 Luedji Luna · Bom Mesmo É Estar Debaixo d’Água

レーベル:Luedji Luna (-)

 ブラジルディスク大賞2020の、関係者投票で2位にラインクインしたバイーア出身の女性SSW、ルエジ・ルナ(Luedji Luna)のセカンド・アルバム『Bom Mesmo É Estar Debaixo D’Agua(一番いいのは水の中にいること)』が、本チャートにもランクインした。
 サウンド面での本作の意図は、アルバム全体を通して、アフリカとブラジルの間、より正確にはケニアとブラジルの間で、ジャズからの影響とアフリカのリズムをミックスすること。そのために音楽プロデュースは、ケニア人ギタリストのKato Changeとルエジが務めた。録音バンドのメンバーは、Kato(ギター)の他、サンパウロでコンゴ人の両親の下に生まれたFrançois Muleka(ギター)、キューバ出身ののAniel Somellian(ベース)、バイーアのRudson Daniel de Salvador(パーカッション)、バイーアに住むスウェーデン人のSebastian Notini(パーカッション)。バンドからして多文化を象徴するメンバーとなっている。
 このアルバムに込めた物語は、黒人女性の人間性を取り戻すことだとルエジは言う。
「映画の中で黒人女性が愛されていたり、ミューズになっていたり、一人称で話していたりするのを見ることはほとんどありません。私はその物語を構築したいのです」
※前作リリース時には、本誌で彼女へのメールインタビューを行ないました。

10位 Songhoy Blues · Optimisme

レーベル:Transgressive / Fat Possum (10)

 マリ出身の4人組によるアフリカン・ロックンロールバンド、ソンホイ・ブルースの3枚目のアルバム。
 マリの内戦により故郷を離れざるを得なくなり難民となった4人は、彼らが持っている最も強力な武器である音楽を使って反撃することとし、10年前にバンドを結成した。難民となったことで学んだ痛みや教訓をもとに、バンドは人権という概念が、自分たちの目で見てきたものをはるかに超えて、マリの国境をはるかに超えて広がっていることに気づく。そこから生まれる音楽は強い。彼らの2枚目のアルバム『RESISTANCE』(2017)は、広く世界に評価され、注目すべきグループとしての地位を確立した。
 今回のアルバムについてのメッセージも強い。今の世界に立ち向かっている女性たちのエンパワーメント、何百年も前からの女性差別的な慣習の撤廃を求める曲「Balada」や「Gabi」、「Worry」では、若い人にも年配の人にも、前向きな気持ちと粘り強さが闘争に立ち向かうための最良の手段であるとアドバイスしている。「Assadja」では、地域社会の改善のために日々汗を流して目を覚ます戦士たちを称え、感謝し、「Dournia」では、物質主義や利己主義の高まりに直面している現代人の思いやりや共感の欠如を嘆く。「Bon Bon」ではキラキラした約束事に騙されないように、「Barre」では若者に変化を求め、「Fey Fey」では分裂を望む人たちを戒める。
 彼らがマイクを握るたびに、対峙し、慰め、賞賛し、感謝し、リスナーを励まし、明日のより良い世界へと導いていく。

9位 Stella Chiweshe · Ambuya!

レーベル:Piranha (-)

 シンバブウェ独立前の70年代より活躍し、80年代には世界的な注目を集めるようになった女性ンビーラ奏者ステーラ・チウェーシェ。男性が支配してきた伝統的な音楽の分野で名声を得てきた最初の女性アーティストの一人であり、ンビーラの女王と呼ばれ、「アンブヤ・チンヤカレ」(伝統音楽の祖母)の愛称で親しまれている。
 1987年にリリースした1stアルバム『Ambuya?』が、今回33年の時を経てリイシュー盤としてリリースされたのがこのアルバム。1987年当時は、イギリスのワールドインディー界のレジェンド、3 Mustaphas 3と共演し、伝統的なアコースティック・ムビラの代わりにエレクトリックを演奏するなど、伝統楽器の境界線を取り払った。このアルバムは彼女の国際的なブレイク・アルバムとなった。
 今回のリイシューに加えて、ステーラは、彼女の故郷であるハラレから北東に1時間の丘陵地帯に戻るプロジェクトにも取り組んでいる。そこで彼女は、伝統的なンビーラとショナ(シンバブウェの人口の4分の3を占める多数派民族)の文化を保存し、深め、それを国やシンバブウェの国境を越えて未来の世代に伝えていくために、ンビーラ音楽に特化した学習と文化交流の場を作る計画を立てている。彼女は、ンビーラの形が進化し、ンビーラを取り巻く社会が発展していくことを願っている。ンビーラに携わり続ける活動はまだまだ続く。

8位 Las Lloronas · Soaked

レーベル:Muziekpublique (40)

 Las Lloronasは、2017年冬、ブリュッセルの路上で自然発生的なプロジェクトとしてスタートした女性トリオ。今回の作品は彼女たちの最初のアルバムとなる。EP『Take Space』を2018年7月にリリースすると、そこから各国のフェスに呼ばれ知名度を上げてきた。フェスでは、アルゼンチンのバンド Perotá Chingó のオープニングアクトとしても出演。この1stアルバムは、クラウドファンディングで資金を調達し作り上げた。知名度を上げた成果でもある。
 クラリネット、ギター、ウクレレ、ときにアコーディオンによるアコースティック音楽と、擬声語、ポエトリーを見事に融合させた音楽で、独特の世界観がある。3人の声は、スペインのフォークやヒップホップのリズム、クレズマーのソノリティ、ブルースなどを感じさせ、哀しみ、白昼夢、戦いの叫びを表現している。彼女たちのハーモニーとメランコリックなメロディー、何よりもクラリネットのなんとも言えない音色が、世界観をさらに広げている。今後の創作活動がとても期待される三人だ。
 擬声語が特に面白く、「La bruja mariposa」ではサビ部分は「ダメ、ダメ、ダメ〜」(日本語で!)と聞こえる。これがずーっと後を引く感じである。いい意味でクセになる音楽かもしれない。

7位 Tara Fuki · Motyle

レーベル:Indies Scope (14)

 結成20周年を迎えたチェコ出身、チェロの女性デュオ、タラ・フキの最新作。前作の『Winna』から6年ぶりの新作である。二つのチェロの音と、二人の声による音楽は、詩的であり、儚くもあるように聞こえるが、20年一緒に活動し続けている強さや柔軟性も滲みでていると言える。
 今回のアルバムでは、10曲中3曲が彼女たちの故郷であるチェコ語で歌われている。(普段はポーランド語なのですがその違いが聞き取れなく、正直わかりませんでしたが...でも珍しいことのようです!)また、二人以外にも珍しくパーカッションのサポートが参加している曲もある。
 アルバムタイトルは「蝶」という意味。蝶がアルバム全体のキーワードになっている。
 新型ウィルスの影響でレコーディングが遅れたそうだが、無事20周年を祝うアルバムが完成し良かった!美しい名盤です!

6位 Derya Türkan & Sokratis Sinopoulos · Soundplaces

レーベル:Seyir Muzik (4)

 トルコの古典弦楽器ケメンチェ(3弦バイオリン)奏者のデリヤ・チュルカン(1973年生)と、ギリシャの民族楽器リラの奏者であり作曲家のソクラティス・シノプロス(1974年生)の共演アルバム。演奏家としてはそれぞれ30年近く活動しているが、最初の出会いは10代後半で、それ以来友人であり、またギリシャとトルコの間で、2つの文化の共通点を探るコラボレーションの先駆者としても活動している。
 各々の活動も精力的に行っているが、共演作としては二枚のアルバムを制作しており、本作は2018年以来の三作目となる。
 長年の二人の関係性が音楽にも表れており、二人の弦の音色が素晴らしく心に沁みる。

5位 Sofia Labropoulou · Sisyphus

レーベル:Odradek (13)

 ギリシャのカヌーン(アラブ音楽で伝統的に使われる撥弦楽器)奏者であるソフィア・ラブロポウローのソロ一作目。
 ギリシャと地中海の民族音楽、古典的なオスマン、西洋中世、実験的な現代音楽の世界を融合させることで、独特のサウンドを開発し、ソリストとして、アフリカ、ヨーロッパ、中東の様々な音楽の伝統を持つ世界的に有名なミュージシャンと頻繁に共演している。旅をしていない時は、映画やドキュメンタリーのために作曲をしたり、カヌーンやギリシャ民族音楽のマスタークラスを世界各地で開催している。現在はオーストリアのウィーンとギリシャのアテネを行き来している。
 ギタリストのヴァシリス・ケッテンツォグルーと長年の共演し、2013年には、二人でのアルバム『Butterfly』をリリースしている。
 今回のソロアルバムは、様々な時代や場所からインスピレーションを受けた作成された。アルベール・カミュの「Sisyphus and Other Essays」や、ギリシャ神話や民族様式、トルコやアラブの音楽、セックス・ピストルズなど。上記動画で、セックス・ピストルズのカバーを演奏しているが、まるで織物を織るかのようにカヌーンを演奏している。そして奏でる音と姿が本当に美しいこと!実力派とも言える彼女のこの美しいアルバムを聴くと、心が洗われる。

4位 Wowakin · Wiązanka

レーベル:Baba Studio (2)

 2016年春に結成されたポーランドのトリオ「WoWaKin」(グループ名は彼らの名前の頭文字からとって命名)のセカンドアルバム。2016年ポーランドで最も重要な民族音楽コンクール「The New Tradition」でデビューし、3位に入賞。それ以来、多くのコンサートを行っている。
 クラシック、ジャズ、現代音楽や演劇など多様なバックグラウンドを持つ、パウラ・キナシェフスカ(ヴァイオリン、ヴォーカル)、マテウス・ヴァチョヴィアク(アコーディオン)、バルトロミエイ・ウォズニアック(パーカッション、ヴォーカル)の3人で編成され、ポーランドの村の民族舞踊音楽(マズルカ、オベルカ、ポルカ、クヤヴィアクなど)のルーツを探求し活動している。来日経験もあるヤヌシュ・プルシノフスキのトリオにもゲスト出演するなど、ポーランドでも期待されているグループの一つである。
 インストゥルメンタルもありながら、女性ヴォーカルの曲もあり、男性ヴォーカルの曲もあり、という具合にレパートリーが豊かなアルバムである。

3位 Elida Almeida · Gerasonobu

レーベル:Lusafrica (5)

 カーボベルデ出身の27歳のシンガー・ソングライター、エリーダ・アルメイダの4枚目のアルバム。アルバムタイトルはカーボベルデのクレオール語で「新世代」という意味。カーボベルデのサンティアゴ島出身で、現在はポルトガル在住。様々な音楽的影響を取り入れており、アルバムタイトル通りまさに新世代のミュージシャンである。
 1stアルバム『Ora Doci Ora Margos』(2014年)に収録された「Nta Konsigui」は、 YouTubeで300万回以上再生されるほど大絶賛された。
今回のアルバムは、ツアー中に世界中で作曲されたものであるが「カーボベルデの中心にある私の作品には、その土地の振動と音楽が染み込んでいました」と彼女が言うようにカーボベルデの伝統音楽(バトゥーケ、フィナソン、フナナ、タバンカなどリズム重視のものから、モルナまで)が根底にあり、キャリアを積んだ彼女の才能が溢れる作品となっている。
 何より、歌っている姿は、観ているこちらまで幸せになるような笑顔が堪らない。

2位 Liraz · Zan

レーベル:Glitterbeat (1)

 歌手と女優の両方で活躍するイラン系イスラエル人アーティスト、リラズのセカンドアルバム。タイトルの『Zan』はペルシャ語で "Women"という意味で、まさに彼女の祖母や母など家族の女性たちのために書かれたもの。「彼女たちは自由のために戦った。私は自分の自由のために戦っている。彼女たちの物語を歌にして伝えている」と語っている。そして、彼女の2018年の作品『Naz』からの物語の第二章だとも。
 このアルバムでは、現在イスラエルとは国交の無いイランの音楽家らと、テヘランのイスラム教徒や秘密警察からの視線を避けながら秘密裏にオンラインでコラボレーションを行った。(安全のため名前を明かしていない音楽もいるようだ)煌びやかなエレクトロポップをアンダーグラウンドで展開している作品である。

↓国内盤あり〼。

1位 V.A. · Zanzibara 10: First Modern, Taarab Vibes from Mombasa & Tanga, 1970-1990

レーベル:Buda Musique (-)

 ザンジバル(現在のタンザニア連合共和国)で生まれ、東アフリカのスワヒリ文化圏一帯の大衆音楽であるターラブ。他のアフリカ音楽とはかなり異なるテイストを持ったこの音楽は、東アフリカ沿岸のスワヒリ文化に花開き、ペルシャやインドの諸言語、またポルトガル語など交易を行なっている国・地域の言語の語彙なども取り入れられて発展し、様々な文化が混じりあって生み出された混血音楽とされている。そんな多彩なサウンドを持つターラブの魅力を存分に感じさせてくれるBuda Musiqueレーベルの人気シリーズ “Zanzibara” の最新作。本作で10作目となる。
 ケニアのモンバサと、タンザニアのタンガにおいて1970年代初頭からの20年間に登場したポップなテイストを持つターラブを様々な角度から紹介した編集盤。タンガのシーンで活躍した女性歌手シャキーラをはじめ、モンバサのマタノ・ジューマやズフラ・スワーレーといった歌手らの70年代音源のほか、80年代にシーンを席巻した女性歌手マリカやンワナヘラまで、この地域でもっともポップ・ターラブが盛り上がりを見せた時代をダイジェストに紹介している。アフリカ〜アラブ〜インド洋のテイストが絶妙に入り混じった上に、欧米音楽からの影響が加味され独自の混血サウンドを作り出した時代の勢いが凝縮されており、まさにワールド・ミュージック・ファンの食指が動く内容である。これは見逃せない一枚だ!

↓国内盤あり〼。
(詳細なデータや貴重な写真が満載の32ページのブックレット付き!) 


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(ラティーナ2021年2月)


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