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[2024.8]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2024年8月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。


20位 Bedouin Burger · Ma Li Beit

レーベル:PopArabia [30]

 シリア出身のヴォーカリスト/作曲家のリン・アディブ(Lynn Adib)と、レバノン出身のアンダーグラウンド・パイオニアで音楽プロデューサー/マルチ・インストゥルメンタリストのゼイド・ハムダン(Zeid Hamdan)によるデュオ、ベドウィン・バーガー(Bedouin Burger)のデビュー作。2020年にデビューシングル「Taht El Wared」をリリース、それ以降シングル、EPをリリースしたが、ようやくアルバムとしてリリースされた。
 二人は2018年、レバノン・ベイルートで共通のミュージシャンの友人の家で出会った。そこで強い絆を感じ、リンの幼少期の思い出であるお祭りや結婚式を主催するベドウィン(Bedouin:アラブの遊牧民族)にインスパイアされた音楽を創作することになった。彼らはフランスで活動している。
 古典的なアラブのマカーム(音階)や、彼らの故郷であるレバント地方の民族的なリズムが、現代的なエレクトロニック・ビートと融合しており、とてもユニークな作品。アラブの豊かな文化が、彼らの遊び心や探求心と結びつき、ポップな作品で仕上がっている。シンプルだけどとても面白い作品。

19位 Söndörgő · Gyezz

レーベル:GroundUP Music [21]

 ハンガリーのセンテンドレという町を拠点に活動し、バルカン地方から東欧に広く分布する南スラヴ文化を代表する伝統的な弦楽器タンブーラを中心としたアンサンブルを聴かせる5人組バンド、センデルゲー(Söndörgő)の最新作。1995年結成で、本作が9作目の作品となる。メンバー5人のうち4人は親戚関係(3人兄弟(アロン・エレディックス、ベンジャミン、ソロモン)と従兄弟(ダヴィド・エレディックス))で、残る1人のメンバー、ベースとタンバリン担当は、パンデミックの時2020年にメンバー交代している。ワールドミュージックを演奏するバンドとしてヨーロッパ中に知られており、人気のあるバンドである。
 タンブーラを中心とした編成だが、管楽器やアコーディオンも彼らのサウンドの中心となっている。本作では、伝統的な民族音楽の要素と、ジャズのような即興演奏の要素がミックスされている。ジャズ要素が強いなと思ったら、アメリカ人のジャズミュージシャン、クリス・ポッターも参加している。そして、本作はマイケル・リーグ創設のレーベル、GroundUP Music よりリリース。本作がバンドにとって極めて重要な転機となっていることは明らかで、更なる成長と創造的探求への新時代の幕開けとなる作品であるだろう。

18位 Ahmed Moneka · Kanzafula: Afro-Iraqi Sufi Soul

レーベル:LulaWorld [12]

 バグダッド出身、アフリカのルーツも持つイラク人で、音楽/俳優/執筆とマルチな才能を持つアーティスト、アフメド・モネカのデビュー作。
 音楽一家に育ち、アフリカとイラクの文化と伝統を尊重しバグダッドでアーティスト活動を行なっていたが、命を狙われたため2015年カナダへ亡命し、現在はトロント在住。故郷や家族、伝統から引き離された彼は、自分のルーツを思い出し、トロントでも音楽活動を続けた。
 トロントでは地元のミュージシャン達とコラボレーションし、ユニット「Moneka Arabic Jazz」を結成、アラブの音階「マカーム」とアフロ・ジャズを融合させたサウンドを演奏、結成から僅か1年でトロント・ジャズ・フェスティバルで賞を受賞するなどトロントの音楽シーンに衝撃を与えた。
 その勢いは本作で充分堪能できる。メロディはアラブ音階、グルーヴがアフロ・ジャズというあまり聴いた事のない組み合わせが実に面白い。イラクの伝統的な楽曲も彼独自のアレンジで、またアフメド自身のオリジナル曲も収録されている。伝統楽器も使われており、現代的な楽器との合わせ技も効いている。トロントに彼のルーツがうまく橋渡しされているなと実感できる作品。ファンキーでハマります!

17位 Hamed Sadeghi · Empty Voices

レーベル:Hamed Sadeghi [-]

 イラン生まれ現在はオーストラリア在住、イランの弦楽器であるタール奏者/作曲家ハメド・サデギ(Hamed Sadeghi)の最新作。ハメドは、オーストラリアで高い評価を受けているワールド・ ジャズ・バンド、エイシャン・アンサンブル(Eishan Ensemble)の創設者であるが、本作は彼のソロプロジェクトとしての作品。作曲家/サックス奏者のサンディ・エヴァンス(Sandy Evans)や、ジャズコントラバス奏者のロイド・スワントン(Lloyd Swanton)など、オーストラリアのジャズ界で活躍するミュージシャンたちが参加、7人編成のアンサンブルを編成した。管楽器4本、パーカッション、、コントラバス、そしてハメドのタールという豪華な編成だ。
 タールの妖艶的で複雑な音色と、西洋楽器の音色がシームレスに融合され、洗練されたサウンドに仕上がっている。即興的な表現も感じられ、異文化間のコラボレーションが見事に成立している。シドニー・オペラ・ハウスやタスマニアのテン・デイズ・オン・ザ・アイランド・フェスティバルの招待を受け、オーストラリア全土をツアーし、メルボルン国際ジャズ・フェスティバルとブリスベン国際ジャズで最終公演を行ったプロジェクトの成果としてリリースされた作品。実力派ミュージシャンたちのサウンドはとても豊かで美しく、アルバムタイトル『Empty Voices(空っぽの声)』とは対照的に充実した内容となっている。

16位 Olcay Bayir · Tu Gulî

レーベル:ARC Music [8]

 ロンドンを拠点に活動するトルコ出身クルド人SSWオルカイ・バユルの最新作。フルアルバムとしては三作目となる。
 10代の頃家族とともにロンドンに移住し、ロンドンの大学でオペラを学んだが、クラシック音楽は自分の進む道ではないと悟った。自身のルーツであるアナトリアの民謡を探究し、2014年1stアルバムをリリース。彼女独自のアレンジで5ヶ国語で歌った作品はは高評価を博し、イギリスのワールド・ミュージック・シーンで最も素晴らしく、最も魅力的なシンガーの一人と評された。
 本作もアナトリアの伝統音楽をもとに、現代的なアレンジと西洋的な歌い方でアナトリアとロンドンの現代的なサウンドが絶妙にミックスされたサウンドとなっている。歌っている歌はどれもアナトリアの伝統音楽で、結婚式のダンス音楽、アナトリアの歴史を通して多くの女性が共有した経験を歌った歌、戦争の悲惨さを訴える歌など、女性に纏わる楽曲を集めている。
 タイトル「Tu Gulî」とはクルド語で「あなたは薔薇(You are a Rose)」という意味。かつての女性達に敬意を表しながらも、時を超えて語り継がれてきたアナトリアの女性たちの物語を、彼女自身の世界観で表現している。これまでの彼女が拓いてきた豊かな音楽性を美しい歌声で披露している。言葉はわからなくとも、物語にどっぷり浸れるような作品。

15位 Bhutan Balladeers · Your Face Is Like the Moon, Your Eyes Are Stars

レーベル:Glitterbeat [-]

 ブータンの伝統的な民族音楽であるズンドラ(Zhungdra)を歌うブータン・バラダーズの国際デビュー作。ティナリウェンなどのプロデュースで知られるグラミー賞受賞者、イアン・ブレナンによるプロデュース。
 ズンドラは17世紀初頭に生まれたブータンの民族音楽の一つで、複雑なパターンを織り成す伸びやかな声調と、最小限の楽器伴奏に支えられたメロディーを特徴としている。本作で使われている楽器は、二重弦が三組あるリュートのドラムニェン(Drumnyen:ドランギェン(Drangyen)とも言われる)、木管フルート、ピアノの起源とも言われている打弦楽器ハンマー・ダルシマーのような楽器ヤンチェン(Yangchen)、二弦の弓付きヴァイオリンの一種チワン(Chiwang)というシンプルな構成。歌い手は16人で、首都ティンプーの郊外、世界最大の仏陀座像が見守る森の中で収録されたとのこと。しかし本作に収められているのは、収録曲のうちのほんの一部。楽器を使用せずアカペラで歌われている楽曲もある。自然の中での録音だからなのか、それとも歌本来の魅力なのか、歌い手の伸びやかでストレートな表現がとても印象的。日本の民謡のようにも感じられる素朴なサウンドだ。
 イアン・ブレナンのフィールドワークにはいつも驚かされるが、今回もブータンまで行って録音していたのかと思うと、敬意を表する仕事ぶりだ。

14位 Meridian Brothers · Mi Latinoamérica Sufre

レーベル:Les Disques Bongo Joe [-]

 コロンビア・ボゴダで1998年に結成された前衛的バンド、メリディアン・ブラザーズの最新作。サルサやクンビア、バジェナートなどカリブのリズムにサイケデリックなエレクトリックサウンドを組み合わせ実験的な音楽を制作しているグループ。
 本作は、熱帯のラテンにおいて、エレクトリック・ギターの未開拓の可能性を探求したいという欲求から生まれたコンセプトアルバム。アフリカの大衆音楽であるハイライフやスークースで使われるギターの音色やリズムからインスピレーションを得て、それらのラテン音楽と融合させているユニークなアルバム。サイケデリックの中に、ハイライフやアフロビートも感じられ、もちろんクンビア、キューバなどラテンも味わえるという不思議な作品。他に類を見ない革新的なサウンドで、彼ら独自の世界観を大胆に表現している傑作!これはいいです!

13位 Russudan Meipariani featuring Ensemble Anchiskhati · Voices & Mountains

レーベル:Timezone [-]

 ジョージア出身の作曲家/ピアニスト/歌手でドイツで活動しているルスダン・メイパリアニ(Russudan Meipariani)の4作目となる作品。本作は、ジョージアの男声合唱団、アンサンブル・アンキスカティ(Ensemble Anchiskhati)によるコラボレーションアルバム。
 ノルウェー・オスロへの音楽留学経験があり、ヨーロッパの音楽を広く学んだ。彼女の音楽は、クラシックやミニマル・ミュージック、ジョージアのポリフォニー、現代のニューミュージック、ポップ・カルチャーの要素を組み合わせている。
 本作では、力強いジョージアの男声合唱団の声と自身の声を融合させ、そこにミニマルな電子音を重ね、新たなサウンドスケープを探求している。ジョージアの詩人のメランコリックな詩を音楽的に翻訳し、それを歌っている。日々の現実が夢と闇の世界へと移り変わり、ゆっくりと変化していく自然の状態を本作で描写しているとのこと。そこには、寂寥感や安らぎも共存し、魔法にかかったような感じにさえなる魅惑的な作品。美しいです。

12位 Tiganá Santana · Caçada Noturna

レーベル:Ajabu! [-]

(↓Spotifyではまだ2曲しか公開されていませんでしたので、全曲公開され次第更新いたします)

 ブラジル・バイーア出身のSSWチガナー・サンタナの7作目となる最新作。前作『Vida-Cdigo』以来4年ぶりのリリースとなる。
 本作は、ポルトガルのアレンテージョ地方の都市セルパで録音された。
タイトル「Caada Noturna(夜の狩り)」とは、チナガーが敬愛する詩人パウロ・コリーナの同名の詩に由来していて、狩猟の神へのオマージュや夜行性/月/深い感情/神秘に触れる詩的なトーンなどがアルバムの主旨と合致しているのだとか。そして今回チナガーと共にアルバムを制作したのは、レオナルド・メンデス(ギター)とルドソン・ガルター(ベース)の二人。今回は主にレオナルドのギターがサウンドの核となっていて、曲によってはキコンゴ語で作曲したものも収録されるなど、アフロ・ブラジリアンなスタイルはこれまで通り貫かれている。1曲目以外は彼のオリジナル作品。1曲目ファブリシオ・モタ作詞作曲の「Das matas」(森から)は、アフロ・ブラジルの狩猟神 Oxóssi を称えた内容で、曲中にチガナーによる朗読が入っており、とても惹きつけられる。
 サンプル音源を聴いたが、チガナーの温かくて柔らかく、ソウルフルで深い歌声と、アコースティックな弦楽器の音色に、すっぽりと包み込まれるかのような感覚を覚える。本当に彼の歌声にうっとりとさせれる。また、ゲストにアフロ・ルーツ・サンビスタとして知られるファビアーナ・コッツァも参加しており、二人のデュエットがとても美しい。ブラジル音楽好きなら必聴の一枚!

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり。9/22発売!)

11位 Varijashree Venugopal · Vari

レーベル:GroundUP Music [-]

 インドの歌手/フルート奏者である、ヴァリジャシュリー・ヴェヌゴパル(Varijashree Venugopal)のフルアルバムとしては初めての作品。スナーキー・パピーのマイケル・リーグがプロデュースし、彼のレーベルからのリリース。
 ヴァリジャシュリーは、1991年インド南部カルナータカ州の州都ベンガルール生まれ。両親ともに優れた音楽家であり、1歳半の頃から100のラーガ(インド古典音楽の旋法)を聴き分け、4歳で南インドの古典音楽であるカルナティック音楽のコンサートを始めたという神童だったそう。
 約10年前にマイケル・リーグと出会ったようで、その頃の彼女はさまざまな形の音楽を探求していて、カルナティック音楽のテクニックや基礎を、ジャズやブラジル音楽などインドの音楽とは異なるジャンルに応用していた。そこから発想を得たのだろう、本作は7年かけて制作されたとのこと。
 伝統的なカルナティック音楽が根底にありながら、ジャズの即興的要素やスキャットを散りばめ、楽器の一つとも言える彼女の伸びやかで透き通った歌声、インドのパーカッションの響きがとても印象的。マイケル・リーグをはじめ、アナット・コーエン、ブラジルのバンドリン奏者のアミルトン・ヂ・オランダも参加しており、多様な音楽的文化が見事に融合している作品。タイトル『Vari』はサンスクリット語で「水」を意味し、透明感溢れる彼女の歌声が、まさに水のような純粋さや透明感を表現している。魅力的な彼女の歌声にとても惹き込まれる作品。

10位 Jyotsna Srikanth · Carnatic Nomad

レーベル:Naxos World [-]

 イギリス系インド人のヴァイオリニスト、ジョツナ・スリカンス(Jyotsna Srikanth)の最新作。今月11位にランクインしたヴァリジャシュリー・ヴェヌゴパルと同じインド南部カルナータカ州の州都ベンガルール生まれで、母親がカルナティック音楽の音楽家/教師であったため、幼い頃から英才教育を受けてきた。結婚してロンドン移住し、世界的な音楽イベントに参加するなどし、欧米にカルナティック音楽の認知を広める活動を行なっている。
 彼女は、主に15~18世紀のカルナティックの作曲家による作品を解釈し、伝統的なラーガ(インド古典音楽の旋法)の基本的な音階であるメラカルタ(Melakarta)に由来する美しいラーガの数々を表現している音楽家。インド古典ヴァイオリンと西洋ヴァイオリンの両方をきっちり学んだ彼女の卓越した運指テクニックと、感情を含んだ音楽的表現を融合させている。
 本作は、彼女が10年以上前にヨーロッパで6ヵ月にわたって15カ国で行った大規模なツアーがルーツとなっている。ツアーで行った選りすぐりの楽曲を二人の南インド人の打楽器奏者と共に再演した音源が収録されている。全7曲だが、1曲あたりの時間が長いものもある。カルナティック音楽の伝統的で複雑な音階、リズムやテクニックなどがたっぷりと堪能できる。ヴァイオリンと、ムリダンガムやカンジーラ(フレームドラム)など南インドの打楽器が、呼応しつつ息ピッタリの演奏に度肝を抜かれる。

9位 Huun-Huur-Tu, Carmen Rizzo & Dhani Harrison · Dreamers in the Field

レーベル:Dark Horse / BMG [5]

 ロシア連邦トゥヴァ共和国の4人組ユニット、フンフルトゥの最新作。トゥヴァの伝統楽器と喉歌を演奏する、1992年結成のベテランミュージシャンたち。日本での公演実績もあり、様々なミュージシャン達とコラボし、世界に広くトゥヴァの音楽を広めている。
 本作では、グラミー賞に2度ノミネートされたプロデューサー/ミュージシャンのカルメン・リッツォと、ジョージ・ハリソンの長男でありシンガー・ソングライターとして活躍するダニ・ハリソンとコラボし、現代的なプロデュース、インストゥルメンテーションとの融合を試みている。
 フンフルトゥの喉歌も充分堪能できるが、それだけでなくカルメン、ダニが加わったことによって、世界中を旅した気分になる楽曲に仕上がっている。レコーディングはトゥヴァをはじめとし、LA、ヨーロッパ、ロンドンで行われ、まさに楽曲も世界を旅してきた。
 喉歌やトゥヴァの伝統楽器が現代的なサウンドと見事に融合し、魅力的な世界が広がっている。ゆったりと自然を感じられ、リフレッシュできる作品。

8位 Asmaa Hamzaoui & Bnat Timbouktou · L’Bnat

レーベル:Ajabu! [6]

 モロッコの民族音楽グナワ音楽の女性として第一人者である若手ミュージシャン、アスマー・ハムザウィと彼女のバンドであるブナット・ティンブクトゥによる最新作。本作が2作目となる。
 モロッコ・カサブランカで音楽家の父とダンサーの母から1998年に生まれたアスマーは、幼い頃からゲンブリ(3弦のリュート)を習ったり、父親のバンドにも加わったりしてきた。グナワの儀式に女性は欠かせないが、グナワ・ミュージシャンとしての女性はほとんどおらず、ましてや女性だけのバンドはなかったそうだ。2012年に女性だけのメンバーでバンドを結成、2017年グナワ音楽のメッカであるエッサウィラで開催されたグナワ・フェスティバルに出演しブレイクした。以降世界のフェスにも出演、世界に新世代のグナワ音楽を紹介している。今年のWOMADにも出演予定で、期待されている存在。一方で、伝統を重んずる一部のグナワ伝統主義者に反対されてもいる。
 低音のゲンブリとリズミカルなカルカバ(鉄製のパーカッション)が催眠術のように続きググッと引き込まれる。「砂漠のブルース」とも言われるグナワ音楽特有の楽曲に、アスマーの表現力豊かなリードヴォーカルと、メンバーのコーラスが加わりじっくりと陶酔できる作品。グナワ音楽の不思議な感じが体感できる内容だ。伝統を存続させたいと願う彼女たちの熱い思いが伝わってくる。このまま活動を続けて欲しいと願うばかりだ。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)

7位 Landless · Lúireach

レーベルGlitterbeat [-]

 2013年結成、アイルランドのダブリンと北アイルランドのベルファストを拠点に活動する女性4人組アイリッシュ・ポリフォニー・グループ、ランドレスの2ndアルバム。2018年リリースのデビュー作も高い評価を受けた。その時のプロデューサー、ジョン・'スパッド'・マーフィー(John ‘Spud’ Murphy)が本作でもプロデュースしている。
 本作のために何年もかけて収録する曲を集めたとのこと。多くは伝統的な民族音楽だが、最近の彼女たちのオリジナル曲も含まれており、メロディと歌詞に重きを置いて選んだそうだ。
 アカペラもあり基本的にはシンプルな伴奏で、メインとなるのは4人の歌声だ。重なり合う声は、豊かでとても美しく、彼女たちの静かなパワーが感じられる。圧倒的な世界観に強く引き込まれる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付き、LPもあり)

6位 Vigüela · We

レーベル:Mapamundi Música [-]

 スペイン中南部のカスティーリャ・ラ・マンチャ出身のユニット、ヴィグエラ(Viguela)の最新作。2022年リリースの前作『A la Manera Artesana』も本チャートに長期間ランクインしていたが、本作はそれ以来で10作目となる作品。以前は5人組だったが、現在は4人で活動しているようだ。スペインの伝統音楽の遺産を探求し続け、それを現代に再構築し世界的に発信しているグループ。
 本作でも、スペインの舞踏音楽であるファンダンゴ、ロンディーニャ、セギディージャなど、スペインの伝統音楽が収録されている。彼らの祖先が不完全なまま残した古代の音楽言語を復活させるというバンドのコミットメントが見事に反映されている。ギターや伝統的な民族楽器から、生活雑貨の瓶やフライパンまでも楽器として演奏、生活に根付いていた伝統音楽を演奏している。そして手拍子などを交えながら、力強くストレートに歌っているのがとても印象的。

5位 Ali Doğan Gönültaş · Keyeyî

レーベル:Mapamundi Música [1]

 イスタンブール出身のトルコ系クルド人バンド Ze Tijê のリードヴォーカル Ali Doğan Gönültaş のソロ二作目となる最新作。前作『Kiğı』は2022年リリースで、本チャートにも5ヶ月間ランクインしていた。本作も5月に6位に初登場、先月は1位を獲得し、今月は5位と上位をキープしているので、長期間のランクインが予想できそうだ。
 クルドの弦楽器タンブールと、彼の歌だけでとてもシンプルな音。しかし、幻想的な彼の歌声と、魅惑的なタンブールの深い音色が絶妙に織り成されている。クルドの歴史や文化、そして個人的な経験を反映した歌で、ザザキ語やトルコ語などで歌われおり、豊かで魅惑的な作品。
 アルバムタイトル『Keyeyî』とは、彼の母国語であるザザキ語で「家」を意味する。自身の故郷を思い出し、実家で過ごした時間や、そこで得た喜びや悲しみなど様々な思いを表現したアルバム。
 彼の民族の物語に不可欠な音楽的遺産を受け継いでおり、豊かで魅惑的な音楽の物語を形成している。シンプルだからこそ刺さってくる作品。

4位 Dobet Gnahoré · Zouzou

レーベル:Cumbancha [10]

 コートジボワール出身、世界的にも活躍している女性シンガー/SSW、ドベ・ニャオレ(Dobet Gnahoré)の7作目となる最新作。2021年リリースの前作『Couleur』も本ランキングにランクインし高評価を得たが、本作はそれ以来のリリースとなる。前作に続き、アフリカの音楽と文化を称えながら、アフリカの社会問題も取り上げ、コロナ禍を経て社会の回復や団結力、コミュニティの力といったテーマを探求した楽曲の数々が収録されている。
 本作のタイトル「Zouzou」とは、精霊や天使という意味で、実際にアルバムタイトルとなっている楽曲のMVでは、ドベたち出演者が天使の姿で登場している。このアルバムを通して、私たちが守らなければいけない天使(子供たちや弱い立場にいる人々のこと)の存在、目に見えない精霊たち、スピリチュアルなエネルギーの存在を認識すること、それらに寛大さを持つことをメッセージとして込めている。
 アフリカの伝統的な音楽と現代的なアレンジや楽器がうまくミックスされて、洗練された現代アフロポップ作品に仕上っている。ドベの歌唱力もお見事で、彼女のエネルギーが存分に感じられる作品。先月10位で初登場だったが、やっぱり上位に食い込んできましたね。多くのリスナーが期待していた作品!

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き)

3位 Bab L’ Bluz · Swaken

レーベル:Real World [2]

 2018年モロッコ・マラケシュでモロッコ/フランスの混成メンバーにより結成されたバンド、Bab L' Bluzの最新作。本作が2作目となる。2020年にリリースされた、デビューアルバム『Nayda』は、仏ル・モンド紙や、ニューヨーク・タイムズから称賛を受け、2021年のソングラインズ賞のフュージョン部門を獲得し、世界的にも高い評価を得た。
 モロッコのグナワ音楽など、アフリカ北部マグレブのトランス的で推進力のあるリズムに根ざしており、サイケデリック、ブルース、ロック、ヘビメタにまで通じ、アクセル全開で楽曲が展開していく。MVではモロッコの弦楽器ゲンブリを弾いており、ゲンブリを現代の国際音楽シーンに広めるという夢を持つバンド。ぶっ飛びっぷりがとても気持ち良い!先月いきなり1位で登場したが、それが納得できるほどエネルギー溢れる作品。
 自分自身を見失うことで自分自身を見つけるというのが、本作の中心的な信条だそうだ。温かみのあるアナログ・サウンドは、ジミ・ヘンドリックス、レッド・ツェッペリンなど70年代のロック・アイコンに、アフリカのトランスの美学をミックスさせており、神聖な霊の憑依を目的としたモロッコの儀式の影響を感じさせる。これらの融合したサウンドに説得力さえも感じられる。
 フロントウーマンであるモロッコ出身のヴォーカル、ユスラ・マンスールの歌声が素晴らしい。シンプルな歌声ではなく複数音が混ざっているかのような歌声で、多様なメロディを歌いこなす技術に圧巻。そして、激しいリズムで強さを、ゆったりした楽曲では彼女の優しさも感じられる。聴いていて、頭がスッキリ覚醒し、だんだんとハマってしまう作品。堪らない!

2位 Bassekou Kouyate & Amy Sacko · Djudjon, l’Oiseau de Garana

レーベル:One World [4]

 マリのグリオミュージシャン、バセクー・クーヤテ(Bassekou Kouyate)と、その妻エイミー・サッコ(Amy Sacko)の夫婦名義の最新作。
 バセクーは西アフリカの伝統的な弦楽器ンゴニの名手で知られており、アリ・ファルカ・トゥーレ、トゥマニ・ディアバテ、ポール・マッカートニーやU2など多くのアーティストと共演している。また、音色が異なるンゴニを演奏するバンド、ンゴニ・バ(Ngoni ba)を2005年に結成、世界各地のフェスでも演奏している。そのバンドのヴォーカルは妻のエイミーで、エイミーは「マリのティナ・ターナー(!)」と称されマリの人気シンガーの1人。
 本作は、バセクーの故郷であるガラナ村(マリのセグーから60キロ離れたニジェール川の辺りにある他民族村)で録音、息子のマドゥ・クーヤテ(Madou Kouyate)も参加した。バセクー自身と友人のイブラヒム・カバ(Ibrahim Kaba)が共同プロデュースした作品。彼らのルーツを辿り、普遍的な物語を伝えることに重点を置いた自然なサウンドに仕上げた。そのためか、ンゴニの音色やパーカッション、エイミーの歌も実にシンプルで心地よい。
 インストだけの楽曲もあるが、歌はマリの言語バンバラ語とフラニ語で歌われている。アルバム最後の曲「Macina」はバセクー自らが朗読のような形で思いを綴っている。言葉は理解できなくとも、魂から何か伝わってくるものがある。まさにマリのブルースと言える作品。彼らの故郷への旅に同行しているような気分にさえなる。

1位 The Zawose Queens · Maisha

レーベル:Real World [3]

 東アフリカのタンザニア、ワゴゴ族のペンド・ザウォセとその姪リア・ザウォセによるデュオ、ザウォセ・クィーンズのデビュー作品。先月いきなり3位で登場したが、今月はやっぱり1位に!
 ワゴゴ族はタンザニア中央部の丘陵地帯におり、優雅なポリリズムで、ポリフォニーの声楽、そしてフィドルのような弦楽器チゼゼ(chizeze)、指ピアノのような楽器イリンバ(illimba)、パーカッションのンゴマ(ngoma)などの伝統楽器を演奏することで知られている。1990〜2000年代にフクウェ・ザウォセが、世界にその音楽を知らしめた。そのフクウェの娘ペンドと孫娘にあたるリアが、このデュオ2人となる。フクウェは厳格で保守的だったため、かつてバンドでの女性の役割はバックコーラスを歌い、ンゴマの一部であるパーカッションのムヘメ(muheme)を叩くことしか許されなかった。しかし変化はゆっくりと訪れ、2002年から2009年ザウォセ・ファミリーとして若い世代も含めて再結成したとき、女性たちはコンサートでイリンバを演奏した。そして今回初めて、彼女たち二人がデュオとして前面に立ち、リード・ヴォーカルとパフォーマンスをすることになった。
 イギリス人プロデューサーのオーリー・バートン・ウッドとトム・エクセルがプロデュースし、レコーディング、ミックスも行っている。オーリーらと彼女たちを繋げたのが、タンザニアを代表するギタリスト/シンガーのレミー・オンガラの娘アジザ・オンガラで、彼女はタンザニアの伝統を守り世界に発信する活動を行っている。また、タンザニアのバンド、ワムウィドゥカ・バンド(Wamwiduka Band )もゲスト参加しており、タンザニアの伝統音楽の今後も期待できそうだ。
 本作では、伝統楽器だけではなく、現代の電子楽器との融合も行われている楽曲もあり、伝統的なサウンドがより印象強くなっている。そして、二人のハーモニーと伸びやかな歌声、催眠的な繰り返しがとても気持ち良い。イリンバの音色が二人を大きく包み込んでいて、その中で伸び伸びとダンサブルに歌っている姿が想像できる。全世界のファンが待ち焦がれていただろう作品だ。この夏はヨーロッパツアーも行われるとのこと、ぜひ彼女たちのパフォーマンスを体感したいものだ!

(ラティーナ2024年8月)

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