[2023.4]【アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い㊲(最終回)】たった1つの音だけで作ったサンバ - Samba de uma nota só
文と訳詞●中村 安志 texto e Tradução : Yasushi Nakamura
50年代、ジョビンが幼馴染みでもあるニュートン・メンドンサと生み出した作品の中で、例えば、この連載の第8回目でご紹介したDesafinado(音外れ)は、別格の傑作でしょう。
「自分は音が外れていると言われるが、そう指摘するあなたこそ、おかしいのではないか、これこそ新しい響き、ボサノヴァなのだ」と、新時代の幕開けを宣言するかのような台詞だけでも粋ですが、そもそもこの歌詞で語られる内容が、実際に響く音(通常の基本形から外れてみせるメロディーや、不協和音など)とも絶妙に絡みあい、作詞・作曲の両面から「音外れ」を表しつつ、それが実は心地よい美しい響きでもあることもそのまま表現し、相乗効果で聴く者の心に迫ってくる。そんな、高度な芸術性を発揮した作品だと、私は考えています。
1960年11月に33歳の若さで亡くなった、このニュートン・メンドンサとジョビンの共作で、上記のDesafinadoと並んで私が最も注目しているのは、歌の主人公が「これはたった1つの音だけで作ったサンバだ」と語る、Samba de uma nota sóです。後に米国では、One Note Sambaというタイトルでヒットしました。
その歌詞の言葉どおり、音楽のほうも、1個だけの音程(nota)でフレーズを歌い続け、3つ目のフレーズでは別な音程に移りはするものの、同様に単一音の連続で綴られる。歌詞も、「他の音も入るけど、基本となる音は1つだけ」と整理してくれます。
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