[2024.10]【映画評】『シビル・ウォー アメリカ最後の日』〜現実と地続きの“もしもの世界”で描かれる 一生モノのトラウマ級の恐怖を体感する
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
現実と地続きの“もしもの世界”で描かれる
一生モノのトラウマ級の恐怖を体感する
文●圷 滋夫(映画・音楽ライター)
本作の監督/脚本家アレックス・ガーランド(1970年ロンドン生まれ)は26歳の時に「ザ・ビーチ」(レオナルド・ディカプリオ主演で03年に映画化)で小説家デビューし、後に脚本家、さらに監督としてのキャリアを始め、『28日後…』(02 脚本)、『わたしを離さないで』(10 脚本)、『エクス・マキナ』(15 監督/脚本)などの上質なSF映画を世に送り出してきた。SFに軸足を置きながら人間の本質にも触れるような哲学的な深みまで感じさせる内容が、特に監督を手掛けるようになった『エクス・マキナ』以降の作品では、エッヂの効いた美しいヴィジュアルと研ぎ澄まされた豊かなサウンドとが相俟った独自の美学による世界観を創り上げ、多くの熱心なファンが常に彼の新しい作品を待っている。
ガーランドの監督/脚本作は制作総指揮も兼ねた全8話の配信ドラマ『DEVS/デヴス』(00)で一つの頂点を極めたと思っているが、それは『エクス・マキナ』以降全ての作品でチームを組むプロデューサーのアンドリュー・マクドナルド(脚本デビュー作『28日後…』からの関係)、撮影のロブ・ハーディ、音楽のベン・ソーリスベリーとジェフ・バーロウ、音響デザインのグレン・フリーマントル(『ゼロ・グラヴィティ』でアカデミー賞を受賞)の力によるところも大きいだろう。本作では『DEVS/デヴス』から新たに加わった編集のジェイク・ロバーツも含め、チーム力がより進化/深化している。映画ファンにとって今最も信頼のおける映画会社A24が過去最高額の予算を投じたことも大きく、その期待通りに同スタジオ最大のオープニング成績となる大ヒットを記録し、2週連続全米第1位となっている。
本作は「アメリカが2つに分断されて内戦が起きたら?」という “もしもの世界” を描くSF映画だが、同時に7月のトランプ前大統領暗殺未遂事件で誰もが頭の片隅で「内戦か?」と危惧した、現実の世界と地続きの戦争アクションにして深淵なる人間ドラマでもあり、ガーランドの新境地と言っていいだろう。物語は内戦の原因には一切触れずいきなり政府軍の劣勢状態から始まり、戦場カメラマンのリーと記者のジョエルのコンビが、大統領の最後の単独インタビューを取ろうとしている。リーの恩師のベテラン記者サミーと、リーに憧れ戦場カメラマンになる夢を抱く野心家のジェシーが加わり、4人は車でニューヨークからワシントンD.C.へと向かう。しかし次々と想像を絶する狂気に直面し、常軌を逸した極限状態の中で心身ともに疲弊して行く。果たしてリーとジョエルはホワイトハウスに辿り着き、大統領のインタビューを取れるのだろうか?
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