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[2022.7]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2022年7月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Vigüela · A la Manera Artesana

レーベル:ARC Music [6]

 小説『ドン・キホーテ』の舞台で知られるスペイン中南部のカスティーリャ・ラ・マンチャ出身の5人組ユニット、ヴィグエラ(Viguela)の最新作。
本作が9枚目のアルバムとなる。2月に6位で初ランクイン、3月に1位になり、それ以来ずっと上位をキープしている。
 1980年代半ば頃から活動しているベテラングループ。2016年頃から海外に向けて進出し、ヨーロッパ各地のフェスティバルなどで演奏、ワークショップも行なっている。スペインが国の事業として海外に文化を紹介する活動の企画にもピックアップされ、フラメンコ以外のスペイン伝統音楽を国際的なプロのステージで披露した最初のグループでもある。
 アルバムタイトルは「職人道」という意味。本作では「職人的な創造性」ということに焦点を当て、スペインの舞踏音楽であるファンダンゴ、ロンディーニャ、セギディージャ、ホタ、そしてアカペラで歌うトナダ、活気のあるソンなど、様々な地域の伝統的なスペイン音楽をこのアルバムで紹介している。
 スペインの地方で古くから根付いている曲を今もなお守り続け、それを世界に向けて発信しようとしている活動はとても素晴らしい。スペイン音楽の力強さとともに、彼らの「職人」としての意気込みが感じられる。

19位 Vieux Farka Touré · Les Racines

レーベル:World Circuit [-]

 マリのギタリスト、SSWであるヴィユー・ファルカ・トゥーレの最新作。ソロ名義としては10作目のアルバムとなる。
 2006年に亡くなったマリの伝説的なギタリスト、アリ・ファルカ・トゥーレの息子であり、“サハラのヘンドリックス”として知られている。父親アリと一緒に作り、録音した曲がヴィユーのデビューアルバムに収録され、それが父親最後の録音となった。ヴィユーは、マリの音楽だけでなく他のアフリカ音楽、ロックやラテン音楽などの要素も取り入れ、彼独自のサウンドを発表し、世界各国から高い評価を受けてきた。また、ソロ作品以外にも、アメリカのSSWジュリア・イースタリンやイスラエルのSSWイダン・レイチェルとのアルバムをリリースするなど、ジャンルを超えた活躍を見せている。
 コロナのパンデミックで全てのツアーが中止となり、自宅のスタジオ(亡き父に敬意を表して「Studio Ali Farka Toure」と名付けたそう!)にこもり、ずっと制作活動をして生まれたアルバム。本作のタイトルは「ルーツ」を意味する。亡き父が世界に紹介してきたマリ北部の伝統音楽、ソンガイ音楽のルーツを探求し、彼なりに作り上げた作品。そして本作は、父が自身の作品のほとんどを録音・発表し、そして世界的な知名度を獲得した英国の名門レーベルであるWorld Circuitから初めてのリリースとなった。
 自分のルーツである父の音楽がベースにあり、部族や民族間の緊張により絶え間ない暴力に悩む母国や世界各国において人々が一つになることを切望するために制作された。時代を超えたグルーヴ感、彼自身のアイデンティティが感じられる深い作品。亡くなった父親アリも天国でさぞかし喜んでいることだろう。

18位 Maga Bo · Amor (É Revolução)

レーベル:Kaxambu [27]

 アメリカ生まれでブラジルに帰化し1990年代後半からブラジル在住のプロデューサー/パーカッショニスト/DJ、Maga Bo の最新作。
 WOMEXなど世界50ヶ国以上で活動、国際的にも高い評価を得ており、井イギリスのレーベル Ninja Tunes や Tru Thoughts、またアルゼンチンのレーベル ZZKなどからのプロデュースでも国際的に有名である。
 2012年の2作目となるアルバム『Quilombo do Futuro』に収録されている楽曲「No Balanço da Canoa」は、2016年リオデジャネイロ・オリンピックの開会式でも注目された。本作はそれ以来10年ぶりのリリースとなる。
 本作では前作にも参加したメンバー(BaianaSystem のRusso PassapussoとRoberto Barreto、元Planet Hempのラッパー BNegãoといったアーティストたち)が再び集結。また、Felipe Cordeiro(ベレン)やJeru Banto(リオデジャネイロ)といったブラジルのコンテンポラリーシーンを代表するアーティストとの新たなつながりも生まれた。2020年に亡くなったカンドンブレの男性司祭でアフロ・ブラジル音楽のパーカッショニストでもある Mestre Antonio Carlos de Xangô も参加している。
 バイーアなどブラジルの伝統的な音楽やリズムが、現代の技術、テクニックと見事に融合し、新しいアフロ・ブラジル音楽とも言える作品。ずっと低音で響いているリズムやパーカッションがとても心地よい。聴けば聴くほどやみつきになってしまうアルバムだ。Maga Bo のブラジル愛と伝統への敬意が感じられる。
 上記動画一つ目は、サルバドールとリオのサンタテレーザで撮影されたもの。Dandara Manoela の歌と BNegão のラップが映像とマッチしていて、たちまちサルバドールに行きたくなってしまう!
 二つ目の動画は、ペルーのデジタル・クンビアとラテン・トラップの実験家である Dengue Dengue Dengueをリミキサーに迎え、パーカッショニストの Alexandre Garnizé が参加、ZZK Recordsよりシングルリリースされた楽曲。映像は Vincent Moon が撮影した素材を利用し、制作された。豪華!ブラジル北東部のリズム "coco" がずっと響き、曲の世界観と非常に合っている。(シングルで別のレーベルからリリースというのも珍しい話だが、「KAXAMBU」は自身のレーベルだからこそできる技なのだろう…)

17位 Master Musicians of Jajouka, Led by Bachir Attar · Dancing Under the Moon

レーベル:Glitterbeat [-]

 ローリング・ストーンズのリーダーだったブライアン・ジョーンズ(1942-69)やオーネット・コールマンといった著名な音楽家たちを魅了したモロッコの神秘的音楽として世界に知られているジャジューカ。しかしモロッコ国内ではほとんど知られていなかったというなんともミステリアスな音楽でもある。精力的にワールド・ミュージックをリリースするドイツのレーベルであるGlitterbeat が、ジャジューカの最新アルバムをリリースした。
 亡くなる1981年までジャジューカのリーダーだったハージ・アブドゥッサラーム・アタールの実息バシールが率いるグループによるこの2枚組は、ジャジューカ音楽の神秘性と精神性を、最高精度を誇る音響機材が忠実に捕らえた大傑作。コロナ禍が始める直前の2019年11月にジャジューカ村で録音され、最新の録音機材を同村に持ち込み様々な伝統音楽スタイルを可能な限り高音質で録音した。使用されているのはガイタ(ダブルリードの木管楽器)、リラ(竹製の笛)、カマンジャ(ヴァイオリン)、ロウタール(リュート)、その他ティベル(両面太鼓)を始めとする打楽器類で、曲によっては祝祭色溢れるヴォーカルもある。もちろん西洋音楽の歩み寄るようなミクスチュアは一切無く、代々受け継がれてきた伝統に則った演奏が、リアルな音質と共に繰り広げられている。恍惚の世界へと導く不思議な魅力に満ちあふれる作品である。

↓国内盤あり〼。

16位 Kobo Town · Carnival of the Ghosts

レーベル:Stonetree [21]

 トリニダード・トバゴにルーツを持つ Drew Gonsalves がリーダーをつとめるカナダのバンド Kobo Town の最新作。これが4枚目のアルバムとなる。バンド名は、カリプソが誕生したトリニダード・トバゴの首都、ポート・オブ・スペインの歴史的な地域にちなんで名づけられた。
 Drew は13歳の時にトリニダード・トバゴからカナダに移住した。18歳の時にトリニダードに残った父に会いに行き、そこでカリプソに魅了されてしまった。それ以来カリプソやスカなどカリブ海の民族音楽にインスパイアされたオリジナルの楽曲を制作している。カナダ在住でトリニダード出身のメンバーを集め2005年にバンド結成。2006年にデビュー作をリリース。以降、海外でのフェスティバルなどに参加し、多くの観客を魅了してきた。前作のアルバム『Where The Galleon Sank』は、カナダで Juno賞を受賞し大きな評価を得ている。
 カリプソやスカ、レゲエなどカリブ海の陽気なメロディなのだが、骨太ロックのようにも聞こえる。歌詞の内容は、人生の儚さや社会的な批判などがこめられた非常に哲学的な内容となっている。そのギャップが彼らの良さであるとも言えるだろう。とても聞き応えある作品。

15位 De Kaboul à Bamako · Sowal Diabi

レーベル:Accords Croisés [5]

 多国籍なメンバーたちによるプロジェクト「ソワル・ジャビ」のアルバム。3月に4位で初ランクインして以来、ずっと上位をキープし続けている。
 タイトルは『カブールからバマコへ』という架空の道からインスピレーションを得て、南アジア〜アラブ、西アフリカ圏の亡命を経験した歌手やミュージシャンたちが集まった。参加しているのは、マリの歌手ママニ・ケイタ、イランの歌手兼バイオリニストのアイダ・ノスラット、イランのタール奏者ソゴル・ミルザエイ、クルド出身のトルコ人歌手ルシャン・フィリズテック、アフガニスタン出身のタブラ奏者/歌手シアー・ハシミ、そして、パリ出身の大人気エスノ・ジャズ・ファンク・バンド、アラ・キロのメンバー6人。2019年にベルギーで、難民問題を題材にした舞台「De Kaboul à Bamako」のために作られたプロジェクト。「ソワル」とはペルシャ語で「質問」、「ジャビ」はバンバラ語で「答え」を意味し、難民問題に対する問いと答えを投げかけている。
 ヨーロッパやアフリカなど様々な地域から集まった異文化のミュージシャンたちが、国境を越え作った音楽で、時にはマリを、時にはバルカンや中東が感じられ楽曲がとても豊か。ママニ・ケイタとアイダ・ノスラットの歌声がとてもパワフル!様々な文化の出会いが演出されておりとても素晴らしい作品だ。

14位 Bonga · Kintal da Banda

レーベル:Lusafrica [8]

 アンゴラ出身のミュージシャン、ボンガの5年ぶりとなる最新作。1942年生まれ今年で80歳!キャリア50年で、アンゴラのレジェンドとも言えるシンガーである。
 アンゴラで育った彼が、家族や友人から受けた教育や人生経験を称えて作られたアルバムで、タイトル『Kintal da Banda』とは彼が育った家の中庭を意味する。28年間彼と共に活動してきた音楽監督であり、優れたギタリストでもある Betinho Feijó がプロデュースしている。
 1960年代にオランダに亡命し現在はパリ在住だが、アンゴラ音楽に与えた影響は大きく、アンゴラの伝統音楽センバ(Semba)を世界中のステージで披露している。
 1999年にマリーザ・モンチ、カルリーニョス・ブラウンともコラボしたが、本作でもフランス系アルジェリア人女性アーティストのカメリア・ジョルダナ(Camélia Jordana)と共演している。これが哀愁漂うメロディで二人の情熱的な声がマッチしていてとても良い。この曲では、アンゴラの伝統や習慣を呼び起こすメッセージが込められている。アルバム全体にも同様にアンゴラへのルーツ回帰を提唱している。Betinho のギターの音色とボンガのハスキーでパワフルな歌声が非常に心地良く、魅惑的なアルバムだ。

13位 Ana Alcaide · Ritual

レーベル:Ana Alcaide [-]

 スペイン・トレド在住の演奏家 / 作曲家 / 音楽プロデューサーであるアナ・アルカイデの6作目となるアルバム。7歳からクラシック・ヴァイオリンを始め、マドリードの音楽院で学ぶが、スウェーデンやメキシコ、スペインでも大学に行き、生物学の学位を取りつつも音楽活動をしていた才女。
 2000年にスウェーデン留学中に、スウェーデンの伝統楽器ニッケルハルパと出会い、その音色に魅了され独学で演奏していた。2005年には本格的にニッケルハルパを学ぶためまたスウェーデンに戻り、ニッケルハルパ専門の演奏者となった。そして、2006年にデビューアルバムをリリースした。
 スペインの古代都市トレドにインスピレーションを受けた彼女の音楽は「
トレドのサウンドトラック」と評され、彼女独自の音楽的解釈が世界的に評価されている。また世界各国の音楽家ともコラボレーションし、各地でのコンサートや、独自のプロジェクトを推進するなど、精力的な活動を行なっている。
 本作のタイトルは訳すと「儀式」。日々の儀式を通じて得た力を賛美するために作られたとのこと。スピリチュアルな感じがするが、今まで活動してきた努力、実力の成果とも言える美しい楽曲ばかりが収録されている。イランの歌手レザ・シャイエステともコラボしており、中東音楽のような感じも受ける。何よりニッケルハルパの音色がとても深く、豊かで美しい。

12位 Ali Doğan Gönültaş · Kiğı / Gexî / Kegui

レーベル:Ali Doğan Gönültaş [-]

 イスタンブール出身のトルコ系クルド人バンド Ze Tijê のリードヴォーカル Ali Doğan Gönültaş のソロ作品。バンドは2007年に結成され、2015年にデビューアルバムをリリース、現在まで2作品をリリースしている。2018年頃よりソロで活動をはじめ、ソロコンサートも行なっていた。本作がソロアルバムとして初めてのリリースとなる。バンド活動だけでなく、映画音楽の制作や、テレビ番組にも出演するなど、幅広い活動をしている。
 本作のタイトルは、トルコ東部にある彼の生まれ故郷の街の名前だそうだ。彼自身の物語と、この地域の150年の歴史と文化に音楽的、そして言語的な側面からスポットを当て表現しているとのこと。この地方の言語であるザザキ語をはじめ、クルド語やトルコ語でも歌っている。この地方の伝統的な音楽だけでなく、彼が思い描いていた実験的な要素も本作で表現されている。ソロ作品ではあるが、楽器やヴォーカルでサポートメンバーも多数参加している。彼本人のヴォーカルだけでなく、女性ヴォーカルの曲もあり、男声と女声が交互に歌っている曲などバラエティ豊な曲が多数収録されている。トルコの弦楽器であるバーラマや、メイ、ドゥドゥク、ズルナ、クラリネットなどの木管楽器の音色が、彼の世界観にぴったり嵌まっている作品。

11位 Marjan Vahdat · Our Garden Is Alone

レーベル:Kirkelig Kulturverksted [4]

 テヘラン生まれのイランの歌手、Marjan Vahdatの最新作。4月に5位で初登場、それ以来ずっと上位をキープしている。
 彼女は、1995年から活動しているベテラン歌手。生まれ故郷のイランの音楽と詩に関する知識を世に広めるため、世界各地でコンサートやフェスティバルに出演し活動している。本作は彼女のソロ作としては3枚目で、ノルウェーのレーベルからリリースされた。プロデューサー、アレンジャーに、ノルウェーのジャズミュージシャン、Bugge Wesseltoft を迎え制作された。
 イラン各地の伝統音楽と詩からインスピレーションを受け、彼女自身が歌詞と曲のほとんどを作っている。また、同じミュージシャンとして活動している姉の Mahsa Vahdat もいくつか楽曲提供を行なっている。イランの伝統音楽をベースに、現代的な表現を加えた彼女独自のスタイルが確立されている。
 他のミュージシャン達と同様このアルバムもコロナが制作に影響を与えたようで、録音はアメリカ、イラン、ノルウェーで行われた。まず彼女のヴォーカルを録り、それをもとにミュージシャンが1人ずつアレンジを加えていく。それをノルウェーにいるプロデューサーがこれらを見事にまとめ上げた。オーセンティックで調和のとれたサウンドスケープとなっている。
 故郷を想い歌っているように聞こえるが、それだけではなく世界への普遍的なメッセージとして受け取ることができる。歌の深みが心に沁みる美しいアルバムである。

10位 Maija Kauhanen · Menneet

レーベル:Nordic Notes [25]

 フィンランドの撥弦楽器カンテレの奏者であり、ヴォーカル、パーカッションも同時に一人でこなすフィンランド出身の多才な女性アーティスト、マイヤ・カウハネンの2ndアルバム。前作となる1stアルバムは2017年3月にドイツのレーベルからリリース、世界中で賞賛され、2017年フィンランド批評家協会賞をはじめとした多数の賞を受賞し評価を得た。ヨーロッパ、アジア、アメリカの約30カ国で演奏し、世界中で演奏、日本にも公演のため来日している。
 彼女の父親が楽器職人であったため、幼い頃からカンテレを演奏していた。最小の5弦カンテレから最大の39弦のコンサートカンテレまで、あらゆるサイズのカンテレを演奏できるそうだ。
 ソロアルバムをリリースする前には、フィンランドのユニット「Okra Playground」やトリオユニット「Rönsy」など、いくつかのユニットのメンバーとしても活躍。また、エストニアのシンガー・ソングライター、マリ・カルクンとのユニットでも活躍。国際的に高く評価されているアーティストの一人である。
 実力派アーティストとも言える彼女の最新作は、彼女独自の世界観に包まれた作品。伝統楽器を演奏しているが、楽曲は決して古く感じるものではなく、現代的だ。カンテレの音色がとても美しく、それでいて前衛的な演奏もあり、ヴォーカル(これがまた上手い!)を聴かせる楽曲もあり、多様性に富んでいる。カンテレの認知度を世界的に広げようと活躍しており、この先もますます楽しみなアーティストである。

9位 Moktar Gania & Gnawa Soul · Gnawa Soul

レーベル:MusjoMusic / Nuits d’Afrique [-]

 モロッコの港町エッサウイラを拠点に活動するグナワ音楽のアーティスト、モクタール・ガニアと彼のバンド、グナワ・ソウルのデビューアルバム。エッサウィラは、1997年から毎年夏の初めに開催されるグナワ・フェスティバルの開催地であり、まさにそのメッカとも言える街で活動しているグループ。
 モクタールは、数多くの西洋音楽家とコラボレーションし、グナワ音楽を世界的に広め、2015年に亡くなったマフムード・ガニアの弟でもある。家系的にも長い歴史を持つ音楽家の家系を継ぎ、現在のグナワ・シーンで重要な地位を確立している。グナワ音楽には欠かせない弦楽器ゲンブリの名手であり、マアレム(マスター)の称号を持つ。モクタールもまた兄と同様、世界のミュージシャンたちと共演している。
 参加メンバーは、作曲家 / ギタリストのAnoir Ben Brahim、編曲家 / パーカッショニストの Yacine Ben Ali、そしてこれもグナワ音楽には欠かせない鉄製のパーカッション、カルカバ担当の Simo Errabaa 。他にコラ奏者や、ゲストヴォーカルでモロッコ出身のイスラエル人歌手 Neta El Kayam も参加している。
 催眠術にかかりそうなゲンブリの低音の連続、エレキギターのリフ、リズムはグナワ音楽特有でとても魅力的なのだが、楽曲はどれも今までのグナワ音楽よりも洗練された音のような気がする。と思っていたら、ミキシングはグラミー賞を4回受賞したプロデューサーのChris Shawがアメリカで行い、マスタリングはロンドンで行なったという。モロッコ人アーティストとしては初めてメジャーレーベルのプロデュースを受けることになったそうで、ユニバーサル(MENA:中東・北アフリカ地域)からのリリースが決定したとのこと。これがデビューアルバムということだが、今後の活動も非常に楽しみなユニットである。

8位 Amélia Muge · Amélias

レーベル:Uguru [16]

 モザンビーク生まれのポルトガル人歌手、楽器演奏家、作曲家、作詞家で、ファドの声と詩的な歌詞で知られているアメーリア・ムージェの最新作。最初のソロアルバムをリリースしたのは1992年、キャリアは30年にも及ぶ。伝統音楽のルーツ探求や多文化フュージョンへの挑戦、ポルトガルでは声楽のパイオニアでもあり、自分の声からサンプルを作り、音色の可能性を開発、表現するなど多彩なクリエイターでもある。
 本作はアカペラを中心とした女性グループ歌唱の豊かさへのオマージュとして制作された。パンデミックにより各自が隔離された状況に直面し、芸術の世界の脆弱性を深刻に感じ、無力感を抱いていた時に本作を制作することを決めたという。2018年作『Archipelagos - Passages』でギリシャとポルトガルのミュージシャン数十人と共同開発したが、そのメンバーも遠隔で加わり自宅で制作されたそうだ。
 とても魅力的なアメリアの声がメインとなり、そこに女性コーラス、電子音やパーカッションが加わっている。シンプルな構成だが、音色、雰囲気がとても豊かな作品となっている。まさにタイトル『Amélias』通り、彼女の思い描く世界が見事に表現されたアルバムとなっている。

7位 Noori & His Dorpa Band · Beja Power!: Electric Soul & Brass from Sudan’s Red Sea Coast

レーベル:Ostinato [10]

 スーダンの革命のサウンドトラックであり、ベジャ文化の中心地であるスーダン東部の紅海沿岸の都市、ポートスーダン出身のバンド、ヌーリ&ドルパバンドの最新作。ベジャ・サウンドとして初の国際リリースとなる。
 タイトルの『Beja Power!』のBejaとは、スーダンの北東部の部族、べジャ族のこと。その祖先は数千年前にまでさかのぼることができ、古代エジプトやクシュ王国の末裔とも言われている。ベジャ族の文化はあまり知られていないがそれには意図的な理由がある。紅海に面したスーダン東部の彼らの土地は、膨大な金鉱床に恵まれまた呪われてもおり、その多くは外国企業に売却されている。ベジャ族を認め、自分たちの土地で採掘された富を利用しようとするベジャ族の声に、歴代のスーダン政府は目をつぶってきた。ヌーリは、ベジャ族の音楽を解き放つことが、公平と正義を求める彼らの最も強力な抵抗行為になると考え音楽活動を行なってきた。
 ベジャのメロディーは、ノスタルジックで、希望に満ち、甘美で、曖昧で、正直で、何千年も前から存在している。古いベジャの録音はほとんど制作されておらず、残っていたとしてもとても少ない。そんな中で本作の国際的リリース。これはとても貴重な音楽であると言えよう。
 エレクトリック・ソウル、ブルース、ジャズ、ロック、カントリーなどの音楽のスタイルにトゥアレグ(砂漠のブルース)、エチオピア、ペルー、タイの音楽がミックスされたようなグルーヴ感がなんともやみつきになる感じ。またヌーリが自作した4弦楽器(上記動画で確認できます)も面白い!
 彼らのベジャ音楽は、脈々と受け継がれてきた魅力的なサウンドの、途切れることのない連鎖を形成している。ベジャの文化がさらにこのまま続くよう希望を持ちながら聴きたい。

6位 Perrate · Tres Golpes

レーベル:Lovemonk [17]

 フラメンコ歌手(カンタオール)Tomás de Perrate の11年ぶりの3枚目となるアルバム。彼は、19世紀半ばからフラメンコが花開いたスペイン・アンダルシアの町ウトレラ出身で、フラメンコ歌手であるペラーテ・デ・ウトレラを父にもち、叔母も有名なフラメンコ歌手(カンタオーラ)、従兄弟たちも有名なパフォーマーである。また母方にはフラメンコの伝説的歌手マヌエル・トーレもおり、歌や踊り、ギターといった文化に囲まれて育った。若い頃はジャズやロックのバンドで歌ったこともあるそうだ。
 本作は彼自身のルーツの遺産となる伝統的な歌を現代に蘇らせ、それをフラメンコの未来へも繋がるよう現代性を探りつつ制作された。プロデューサーは、シルビア・ペレス・クルスのアルバム『Granada』や、ロサリアのデビューアルバム『Los Ángeles』の名プロデューサーであり、マルチインストゥルメンタリストでもある Raül Refree が担当。数年かけたプロジェクトとしてこのアルバムのコンサートも含めて制作された。収録曲はアフリカ人奴隷、アメリカ先住民、スペイン人とポルトガル人を中心としたヨーロッパの冒険家たちが集まっていた「アフロ・アンダルシア・カリビアン」と呼ばれる多文化地域を通過した16〜17世紀の古い曲をPerrateが選曲し、アレンジしたものがほとんどである。
 Perrateの父親譲りの深い声と、ギターの相性がとても心地よい。新進気鋭のプロデューサーとタッグを組み、フラメンコの進化を感じさせ、時代を超えた作品である。 

5位 África Negra · Antologia Vol. 1

レーベル:Les Disques Bongo Joe [3]

 赤道付近に位置するアフリカの島国サントメ・プリンシペのグループ、África Negra のアンソロジー作品。本作は彼らの代表曲12曲をセレクトしリマスタリングしたもの。
 África Negra は1970年代初頭に結成され、サントメ・プリンシペでよく知られたグループである。最初の録音は1981年に行われ、アンゴラやカーボベルデ、ポルトガルなどを回るツアーを成功させた。
 サントメ・プリンシペは、かつてポルトガル領であり、サトウキビやコーヒー、カカオの栽培が盛んで、奴隷貿易の中継地点でもあったため、ポルトガル、アンゴラやカーボ・ヴェルデなどから多くの人が流入した。そのような背景から、アンゴラのセンバやカーボ・ヴェルデのコラデイラ、さらにはブラジル音楽やカリブのメレンゲ、コンゴ共和国のリンガラ音楽など、多くの音楽文化が取り入れられ、サントメ・プリンシペ独自のPuxa(プシャ)と呼ばれる音楽が成立した。África Negra は、そこにアフリカ音楽特有のエレキギターによるフレーズを入れ、キャッチーなメロディーと陽気なリズムが組み合わさる魅力的な音楽を展開していた。
 本作は選び抜かれた楽曲が集められているだけに彼らのグルーヴ感やエネルギーがとても感じられる作品。この続編として、ツアーマネージャ―が残していたというスタジオテープからデジタル化された未発表音源もリリースされるという。それも非常に楽しみである!

4位 Lamia Yared & Ensemble Oraciones · Ottoman splendours / Lumières ottomanes

レーベル:Analekta [-]

 レバノン生まれでカナダ・モントリオール育ち、現在はモントリオールを拠点に活動している歌手/ウード奏者のラミヤ・ヤレドの最新作。2019年リリースの前作以来、本作が2作目となる。モントリオールの音楽財団、Centre des musiciens du monde の協力のもと制作された。彼女のプロジェクトである「Ensemble Oraciónes」もこの財団に登録されており、ワークショップを行ったり、海外でも公演するなど財団のサポートのもと音楽活動を行っている。
 彼女は、ギリシャ、トルコ、レバノンを旅し、アラブやトルコの古典音楽の著名な巨匠たちと出会い、その地方の歌や、ウード演奏の技術を磨き活動してきた。ギリシャの民謡やギリシャの大衆歌曲であるレベティコ、トルコやアラビアの古典音楽を探求し、オスマン帝国時代にその地域周辺の民族達が何世紀も共存してきたセファルディ音楽をはじめとする音楽、そしてその文化について研究し、それを音に具現化したのがこのアルバムだそうだ。
 セファルディ音楽は、基本的には女性によって歌い継がれてきたもの。結婚式で歌う歌や恋の歌など、日常生活での身近な歌が収録されている。一方で、オスマン帝国の宮廷音楽も収録されており、非常に多様なレパートリーとなっている。演奏しているメンバーも多様で、カナダ出身者だけでなく、シリアやトルコなどの一流ミュージシャンたちが参加している。カヌーンやケメンチェといった伝統楽器からチェロやヴィオラ、クラリネットなど音の彩りがとても豊かである。そしてラミヤの歌もとても美しくて素晴らしい。ラディーノ語、ギリシャ語、トルコ語で見事に歌い上げており、楽曲の豊さを際立たせている。歴史的にも非常に価値があるアルバムといえよう。

3位 Catrin Finch & Seckou Keita · Echo

レーベル:Bendigedig [2]

 イギリスのハープ奏者カトリン・フィンチとセネガルのコラ奏者セク・ケイタのデュオ最新作。このデュオとしては、2013年のデビュー作『Clychau Dibon』、2018年作『SOAR』に続く三部作の三作目となり、デュオ10周年を記念した作品。
 前作は好評を博した作品だったが、本作もそれを越えるような作品。さすがデュオ10周年ともなると、ジャンルの垣根を越え二人の呼吸がぴったり合った作品となっている。
 本作の基本テーマは、彼らの関係を、ひとつのシームレスな創造的全体へと発展させることだそう。タイトルの『エコー』は、愛、人間関係、死、記憶の重要性にも焦点を当てている。これらのテーマは、この2年間の世界的な状況を考え、多くの人が考えている大きな実存的なテーマとなっている。
 音色が似ているともいえるコラとハープ、これらの音が重なるとさらに美しく豊かに広がるのが本当に素晴らしい。収録されている曲数は7曲とそんなに多くはないが、各曲が長めとなっていて、美しさを充分に堪能できる。じんわりと心に沁み入る音色が美しい作品。

2位 Oumou Sangaré · Timbuktu

レーベル:World Circuit / BMG [1]

 マリ・バマコ出身のベテラン女性歌手ウム・サンガレの最新作。
 5年ぶりの作品で、本作が9作目となる。現在のマリ、コートジボワール、ギニアの3カ国の国境が交わる地点を囲み、ワスル川流域にある文化圏および歴史的地域でもあるワスル地方の伝統音楽、ワスル音楽を代表するアーティストでもある。
 1989年に1stアルバムをリリースして以来精力的に活動しており、これまでリリースされたアルバムがグラミー賞のベスト・ワールド・ミュージック・アルバムにノミネートされるなど、大きな評価を得ている。また、アリシア・キーズとテレビ番組でデュエットしたり、同じマリ出身のアーティストAya Nakamura が彼女に捧げる歌「Oumou Sangaré」をリリースしたり、2019年にはビヨンセが映画『ライオンキング:ギフト』のサウンドトラック「Mood 4 Eva」で、彼女の代表作の一つ「Diaraby Néné」をサンプリングするなど、多くのアーティストから慕われている偉大な存在。
 本作はパンデミック中に渡米したところロックダウンとなってしまい、滞在が延長され、その中で生まれた楽曲がほとんどを占めている。同郷の旧知の友人であるカマレ・ンゴニ奏者のママドゥ・シディベとともに楽曲制作を行った。彼女の30年にわたるキャリアの中で一番、音楽、歌詞に向き合った時間だったと言う。
 タイトルの『Timbuktu』は、マリ中部にある砂漠の民トゥアレグ族の都市のこと。崩壊の危機にあるマリの現在の政治状況を憂慮し、かつて栄えたこの都市がマリの象徴である歴史に希望を見出すべく名付けられたそうだ。また、アフリカの悪しき習慣、強制結婚や一夫多妻制などで制限されている女性達の状況も表現している。強く訴えているかのような低くパンチのある声、そして時には女性達に寄り添うような優しさ溢れる声がとても印象的。ワスル音楽の伝統的なリズムと現代的なアレンジがうまく噛み合い、サウンドが心地良い。
 彼女は実業家でもありマリで事業を興し、そこで雇用を生み、また彼女自身の財団を作り生活に困難な女性や子供達を支援するなど、音楽活動だけに留まらず、社会活動にも大きく貢献している。マリはもとよりフランスからも勲章が授与され、ユネスコ賞も受賞、2003年に彼女は国際連合食糧農業機関 (FAO) の親善大使も任命されている。
 彼女の活動、社会的貢献を考えると、本作はヒューマニズムの信念に基づく芸術活動の集大成とも言える説得力のあるアルバムだと言えよう。

1位 Cimarrón · La Recia

レーベル:Cimarrón Music [-]

 コロンビアのグループ、シマロンの最新作がいきなり1位にランクイン!彼らの4作目のアルバムとなる。
 ベネズエラからコロンビアにかけての内陸部のオリノコ川流域の平原地帯(ジャノ)の伝統音楽「ホローポ(joropo)」を世界に発信しているグループで、アルパ奏者のカルロス・"cuco"・ロハスとヴォーカルのアナ・ヴェイドーが中心となり2000年に結成された。残念ながらカルロスは2020年に65歳で亡くなってしまったが、現在はアナがリーダーでグループを継続している。2017年には日本でもツアーを行い、各地で大盛況だったことは記憶している。その時国内盤としてリリースされたアルバム『Orinoco』は、2019年国際的にリリースされ、ラテン・グラミー賞にもノミネートされるなど高く評価された。本作は、それ以来の作品となる。
 カルロスが亡くなったため彼の演奏する音はもう聴けないのかと思いきや、本作では彼が亡くなる前に制作準備の作業で残していた音源が一部使われている曲もある!彼を偲んだ曲「Cuco en el Arpa」にもその音源が使われている。
 また、本作ではアマゾン先住民が儀式やコミュニケーションのために使っていた伝統打楽器、マンガレーも使われている。その音は20km先まで聞こえるそうで民族同士の宣戦布告や愛の告白(!)にも使われていたようだ。
 本作のタイトルは訳して「強い女性」。ホローポは男性中心の社会で生まれた音楽のため、女性であることがいかに困難であったかとアナは語っている。この地域において強い女性であること、そしてそれを求める女性たちを認めることをこのアルバムで訴えかけている。
 スピリチュアルなサウンド、22年に及ぶキャリアの中で育んできたテクニックで、伝統的なホローポの枠を超えた表現をしている。大きなレーベルとは組まず、彼ら自身のレーベルからリリースしており、商業的なフォルクローレに対する批判も込めている。カッコイイです。

(ラティーナ2022年7月)

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