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[2022.4]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2022年4月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

 e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 David Krakauer · Mazel Tov Coctail Party

レーベル:Label Bleu / Table Pounding [16]

 アメリカ人のクラリネット奏者 David Krakauer の最新作。世界の一流オーケストラと共演しクラッシック音楽界でも名声ある一方、ジャズやクレズマーなども演奏し、前衛的な即興演奏を行なうことでも知られている。本作は、南アフリカ出身でニューヨークを拠点に活動しているピアニスト、作曲家、プロデューサーの Kathleen Tagg とともに制作された。彼らの他、カナダのソウルシンガーソングライター Sarah MK、ウードとギターの名手で世界で活躍する Yoshie Fruchter、ソニー・ロリンズのギター担当だったジャズミュージシャンの Jerome Harris、イランのマルチインストゥルメンタリスト、作曲家、俳優である Martin Shamoonpourなど、世界でも活躍しているミュージシャンたちが参加している。
 コロナで世界がネガティヴな状況になっているのを見て、希望と喜びで世界を照らすべくこのアルバムを制作することにしたそうだ。伝統的な古いダンスの音楽を再構築し、寛容さと私たちが共有する人間性への賞賛というメッセージを込めている。音楽的、文化的な多様性を持つ彼らが、オリジナル曲をはじめ、クレズマー、ポルカ、スクエアダンス、カリプソなど世界中の音楽をユニークに再解釈した楽曲が収録されている。生命力が溢れ、気持ちがポジティヴになれる。

19位 Oki · Tonkori in the Moonlight (1996-2006)

レーベル:Mais Um [9]

 アイヌに伝わる伝統的な弦楽器、トンコリの奏者であるOKIの最新作。2月20位に初ランクインし、今月も20位以内をキープ!入れ替わりが激しいこのチャートではすごいことだ。
 OKI DUB AINU BAND として世界の音楽フェスティバルをはじめ、日本国内のフェスにも数多く出演していることでも知られているが、本作はOKI 名義としてのソロ作品となる。イギリスのレーベル「Mais Um Discos」よりリリースされ、本チャートにランクイン。
 ソロ、バンドとして多くのアルバムをリリースしているが、本作は1996年リリースのデビュー作『KAMUY KOR NUPURPE』から、2006年リリース『KILA & OKI』までの8作品より、レーベル側が選んだ曲が収録されている。以前の作品から選曲しているので、2004年に亡くなった安東ウメ子の声も聴くことができる。
 アイヌの伝統的な楽器を使い、アイヌ語での歌詞でありながら、グルーヴはまさにワールドミュージック!今、改めて聴いてみて新鮮さが感じられる作品。今まで国際舞台で精力的に活動してきた成果が、ここに集約されている作品。輸入盤として聴くことも感動!

18位 Khöömei Beat · Changys Baglaash

レーベル:ARC Music [5]

 南はモンゴル、東はブリヤート共和国に接し、中央アジアに位置するトゥヴァ共和国(ロシア連邦共和国に属している)の男女5人組ロックバンド、ホーメイ・ビート。本作品がセカンド・アルバムとなる。11月に初ランクインして以来、半年チャートに居続けている。
 2017年に結成され、伝統的な楽器や現代的な楽器の演奏技術、トゥヴァ独特の喉歌の習得など、それぞれの分野では一流のトゥヴァの音楽家たちで構成されている。2017年にファースト・アルバムを発表、中央アジアのホーメイ国際フェスティバルにも出演し「現代的な解釈でのホーメイ」というノミネーションで受賞もしている。その後は、各国のフェスにも出演、今日ではロシアだけでなくその周辺国でも知られた存在となっている。
 本作のタイトルは「The Hitching Post(馬などの動物をつないでおく支柱)」を意味する。その支柱はトゥヴァや他の遊牧民すべてにとって中心的な場所であり、他の場所に移すべきではなく、常に揺るぎないものとされている。自分たちの音楽についても、トゥヴァの伝統を守り常に揺るぎないものとしていくことをこのアルバムで表現している。
 トゥヴァ共和国の民族音楽をベースにした現代的な音楽を、伝統的な民族楽器と現代的な楽器で演奏、そこに彼らの特徴的なヴォーカルが重なり、まさに芸術作品と言える音楽となっている。
 MVでは、大地を切り裂くようなドラムで始まり、彼らが育ったトゥヴァの大自然の中、疾走感溢れる映像が、彼らのパワフルな音楽、自然を表現するホーメイと見事に融合している。アルバムジャケットにも表現され、MVの最後に現れる支柱が、まさに揺るぎないものとして登場するのがとても印象的。自然のエネルギーを感じる作品だ。

17位 Le Vent du Nord · 20 Printemps

レーベル:La Compagnie du Nord [-]

 カナダのフランス語圏であるケベック州出身の男性五人組バンド、ル・ヴァン・デュ・ノールが、結成20周年を記念して作ったアルバム。これが11枚目のアルバムで、これまでの作品は、数々の賞やノミネートを獲得しており、世界各地のフェスにも出演しているベテランバンド。
 彼らは、アイルランドとブルターニュのケルト音楽の影響を強く受けているケベックの民族音楽を探求、収集している。これらの伝統的な曲とオリジナル曲をミックスした楽曲を、ハーディガーディ(民族楽器で弦楽器の一種)やブズーキ、フィドル、ギターなどの弦楽器、ボタンアコーディオン、ピアノなどを使い演奏している。
 この記念となるアルバムでは、インストゥメンタルの曲もあり、ヴォーカル入りの曲もあり、そして五人だけのアカペラで見事なハーモニーも披露しており、彼らの豊かで高い音楽性を表現している。男声ハーモニーの成せる技だからか、力強さも感じられる。何より、全員がヴォーカルできるというのが素晴らしく、五人の声がなんともたまらない。

16位 Combo Chimbita · Iré

レーベル:Anti- [15]

 コロンビア出身で現在はニューヨークを拠点に活動している4人組ユニット、コンボ・チンビータの最新作。本作が3枚目のアルバムとなる。
 前作までは彼らのルーツとも言えるアフロ・カリビアンのリズムとサイケデリックさを兼ね備えた音楽だったが、本作ではコロンビアのブルレンゲと神聖な伝統的打楽器をより深く探求し、呪術的、神秘的さが増しスケールアップした作品となっている。
 パンデミックや人種差別、性的マイノリティへの抑圧など、閉鎖的な現代において、彼らは音楽の力によって癒し、新しい世界を構築していこうということでこのアルバムが作られた。
 コロンビアの伝統楽器であるグアチャラカ、エレクトリックギターの音色、底から沸き上がるようなドラムのリズムと、ヴォーカル Carolina の魂込められた歌声が融合しているのがなんとも心地よい。制作における精神性も深く感じられるアルバム。
 本作に収録されている数曲は、プエルトリコの有名なクイア、トランスのパフォーマーたちとのコラボレーションも展開されている。上記動画もその一つで、 Teresa Karolina が出演している。

15位 Romengo & Mónika Lakatos · Folk Utca

レーベル:FolkEurópa [7]

 ハンガリーのブダペストで、ロマ族の家に生まれたモニカ・ラカトスが夫Mihály "Mazsi" Rostás と作った5人組ユニットRomengo の最新作。
 モニカは、ロマ族の中でも少数のハンガリー北東部で生活しているオラー・ロマ族出身。コミュニティの中で音楽と歌に親しんで育ち、1996年、ハンガリーのテレビ番組でロマ族の伝統音楽を歌い優勝したことから彼女のキャリアがスタートした。夫婦2人でデュオとして活動することもあれば、The Gipsy Voices というユニットでも活動している。
 Romengo としてヨーロッパツアーを行なったり、南米やアジアでも演奏活動を行なっている。またベルリン・フィルハーモニーや、フランクフルト・オペラでも演奏するなど、他ジャンルとの共演も精力的に行なっている。またこれまでのアルバムもワールドミュージックチャートのトップ10に選ばれるなど、世界で評価されているバンド。モニカ自身も2020年にワールドミュージック界で最も権威のある賞、WOMEXのアーティスト賞をロマ族として初めて受賞している。
 彼女の叙情的な歌声と、ロマ族の伝統的な音楽がとても魅力的で、心が揺さぶられる作品。彼らのステージではロマ族の踊りも披露されているようだ。演奏風景を観ると生活で使う道具(牛乳缶!)も楽器になっている。彼らの暮らしに音楽が根付いている証しだろう。

14位 Dobranotch · Zay Freyleikh!

レーベル:CPL-Music [20]

 ロシア、サンクトペテルブルグ出身の男性7人組クレズマー&バルカンバンド Dobranotch の最新作。
 1998年にフランスで結成、フランスの都市ナントの路上で演奏活動を始め、20年以上にわたりユダヤ、ジプシー、バルカンの伝統音楽を演奏してきた。世界20カ国以上でツアーを行い、各国の音楽フェスにも多く出演し、ルーツミュージックの無限のエネルギーを世界中に届けている。
 このアルバムは、イディッシュ語でラビの言葉から始まり、ユダヤ人社会の中で100年以上前から伝えられている伝統的な曲、トルコの民謡をセファルディ風にアレンジした曲などが収録されており、彼ら独自のクレズマーを展開している。タイトルの「Freylekh」とは、東欧のユダヤ教の踊りを意味しており、まさにタイトル通り踊りたくなるようなアルバム。
 彼らはユダヤ人社会の結婚式などの祝祭によく招待されるそうだが、上記一つ目の動画を観ると、ユダヤ教の結婚式にダンスは欠かせず、出席者全員で幸せを共有していることがよくわかる。
 そして二つ目の動画は、ロシアがウクライナ侵攻後にアップされたもの。民族舞踊曲であるウクライナのゴパックとロシアのコマリンスキーを演奏している。音楽家としてできることを表現し、平和を願っている。

13位 Small Island Big Song · Our Island

レーベル:Small Island Big Song [3]

 Small Island Big Songは、歌を通して太平洋とインド洋に浮かぶ16の島々の海洋文化を結びつけるマルチプラットフォーム・プロジェクト。これらの地域の100人以上のミュージシャンが参加している。その最新アルバムで、2月に1位にランクイン後、上位をキープしている。
 2015年に台湾のプロデューサー、バオバオ・チェンとオーストラリアの音楽プロデューサー兼映像作家ティム・コールによって設立されたプロジェクト。2018年にリリースされた前作、プロジェクトと同名のアルバム『Small Island Big Song』は、世界各国で評判を呼び、イギリス、ドイツなどで音楽賞を次々に受賞した。本作はその次の作品になるのだから、期待度はかなり大きかったことがわかるだろう。
 本作も前作同様、ミュージシャンたち自身の文化遺産を代表して誇れる曲を彼らの母国語で歌い、伝統的な楽器を使いレコーディングを行なった。各曲の映像の撮影場所についても彼らの文化にとって意味のある場所を選んでもらい撮影している。また、他の島のミュージシャンたちも一緒に歌い、演奏し、舞台となった島の歴史や文化、自然について一緒に語っている。例えば、上記動画は、モーリシャスの黒人奴隷の物語(サトウキビ畑で奴隷として働かされ、歌声は封じられた結果、彼らの文化は途絶えてしまった…)からインスピレーションを受けた歌。奴隷が繋がれていただろう鎖を発見するところから映像が始まり、「自由になりたい」という歌詞が続く。歌っているのはモーリシャスの歌手と台湾アミ族出身の歌手。演奏しているのもマダガスカルやタヒチ、パプアニューギニア等のミュージシャンたち。この曲一つとっても壮大な感じがするのだから、全12曲の理解を深めじっくり聴くと相当面白いのではないだろうか。

12位 Stelios Petrakis Quartet · Spondi

レーベル:Artway Technotropon / Molpe Music [8]

 ギリシャ・クレタ島出身の擦弦楽器リラの名手、ステリオス・ペトラキスが率いる4人組ユニットによる最新作。
 スペイン・バレンシア地方のマルチ撥弦楽器奏者エフレン・ロペスとイラン出身のパーカッショニスト、ビジャン・シェミラニと共演した2017年の前作『Taos』は世界各国で好評を博し、多くの賞を受賞した。7年ほど前からこのユニットでも活動しており、本作は2作目のアルバムとなる。メンバーは、リュートのディミトリス・シデリス、マンドリンのミハリス・コンタキサキス、そしてダンス担当のニコス・レベシス。ダンスのステップの音も彼らの音として含まれるそうだ。この4人組で、クレタ島の音楽とダンスを世界各地のフェスティバルで披露してきた。
 本作は彼らのオリジナル作品や、クレタ島の伝統的な楽曲などが収録されている。ステリオスと共演したエフレン・ロペスとビジャン・シェミラニもゲストで参加。他にもクレタ島のバグパイプであるアスコマンドウラや、ヴォーカルもゲストで参加している。3人だけの弦楽器の音色も美しいが、ステップ音、打楽器、バグパイプの音色や歌声も加わるとさらに美しく、壮大さが増す。
 タイトルはギリシャ語で「献酒」という意味。ステリオスが今まで関わってきた人たちに敬意を表してこのアルバムを捧げる、ということで付けられたそう。地中海やその周辺の美しい島々を思い起こさせる。

11位 Gonora Sounds · Hard Times Never Kill

レーベル:The Vital Record / Dust-to-Digital [-]

 盲目のギターの名手であり、シンガーソングライターでもあるダニエル・ゴノラが率いるジンバブエのバンド Gonora Sounds のファーストアルバム。2004年から路上で演奏活動を行なっていたが、2016年、路上で息子(ドラム担当)と演奏する動画が1000万回以上のビュー数を得て爆発的な人気となった。その後、この親子デュオはドキュメント映画に出演したり、世界の様々なアーティストとコラボしたりと大活躍。ついにアルバムを制作することになり、ジンバブエの音楽界の大御所とアメリカのプロデューサーによるプロデュースでリリースされた。
 親子二人で活動していたが、近年ギター、ベース、コーラスのメンバーも加わり音に厚みが増した。彼らはジンバブエの音楽であるスングラ(Sungura)を演奏する。スングラはジンバブエ独特の音楽で、アフロキューバ、コンゴ、ケニア、南アメリカなどのルーツを持ち、それらが融合しているのだが、海外で聞かれるのは今は非常に稀なことなのだそう。 
 ダニエルが弾くエレキギターと情熱的なヴォーカル、それを支えるメンバーのコーラスが、軽やかで陽気な雰囲気を感じる。アルバムの最後は「アーメン」で締めくくられており、彼らの人柄が伝わってくるようだ。
 上記動画では、ギターにマイクをくくりつけて歌うダニエルの姿がとても印象的。ハンデを持って路上で演奏してきたからこそのアイデアだろうが、なんと理にかなったことかと驚いた!

10位 El Khat · Albat Alawi Op. 99

レーベル:Glitterbeat [-]

 イエメン人のルーツを持つエル・ワハブ (Eyal el Wahab)がリーダーで、イスラエルのテルアビブを拠点とするバンドエル・カート(EL Khat)のセカンドアルバム。エル・ワハブがアルバムのほとんどの曲を作りアレンジしている。
 テルアビブで育ったエル・ワハブは独学で音楽を学び、エルサレムの管弦楽団にチェリストとして入団した。独学だったので楽譜は読めず、演奏曲を耳で覚えながら活動していたが、1960年代のイエメンの伝統音楽「Qat, Coffee & Qambus: Raw 45s from Yemen」を聞いた時に進む道を変えた。彼の持つルーツがそう変えさせたのか、楽団を辞め、楽器を作り始め、そしてこのバンドを結成した。
 使われている楽器は、捨てられていたガラクタ(金属やプラスチック、木など)で自作したもの。ゴミさえも楽器にすることができる家族の故郷を思い起こしながら、人が必要としないものを使うというコンセプトを持ち活動している。楽曲はシンプルなのだが、レトロフューチャー的なサウンド。中東のサイケデリック音楽と言われており、魅力的なグルーヴがあり中毒性を持つ音楽だ。そして自作の楽器を使いこなしているメンバーの表現力も素晴らしい。これからのアラブ音楽を牽引していくだろう新世代のアルバムだ。

↓国内盤あり〼。

9位 Divanhana · Zavrzlama

レーベル:CPL-Music [2]

 ボスニアの5人組バンド、Divanhana の6枚目のアルバム。スタジオ録音としては4枚目。前作は2018年にリリースしたので。4年ぶりのリリース。
ボスニアの伝統的な民族音楽であるセヴダ(セヴダリンカともいう)を、ジャズ、ポップスなど現代的なアレンジで演奏している。2009年に結成、2011年にファーストアルバムをリリースしている。それ以来、各国の音楽フェスに出演、ヨーロッパ各地でのコンサートツアーも成功させている。
 本作はパンデミック直前の2020年2月に録音されたもの。ボスニアで歌い継がれてきた伝統的な歌や、彼らのオリジナル作品が収録されている。そしてパンデミック中にスロベニアやスイス、アルゼンチンなど他国のミュージシャン達ともやり取りし、このアルバムに反映させている。
 ボスニアは地理的な影響もあり、様々な宗教、文化、伝統が歴史的に複雑に絡み合ってきた地。そのせいかゼヴダのメロディーは短調であり、とても感情的である。でも彼らの音楽はそれだけではない。現代的な要素や、世界の他の地域の音楽要素も取り込んでおり、彼ら独自のセヴダを創り上げている。

8位 Yungchen Lhamo · Awakening

レーベル:Tibet Arts Management / Six Degrees [-]

 チベットのラサで生まれ育ったシンガーソングライター、ユンチェン・ラモの最新作。これが6枚目のアルバムとなる。彼女の名前は「メロディーの女神」という意味を持つ。音楽の夢を追いかけるため、ヒマラヤ山脈を越えインドへ、その後オーストラリアに移住した。そこで瞑想の祈りを歌い始めたことがきっかけで音楽への道へと進み始め、ファーストアルバムはオーストラリアでベストワールドミュージックアルバム賞を受賞している。現在はニューヨーク在住で、カーネギーホールをはじめとした世界各地の有名ホールで公演を行ったり、多くのミュージシャン達とも共演、映画のサントラにも携わっている。
 2019年6月にマドリードで公演したことがきっかけで、本作のプロデューサーとなるフリオ・ガルシアとカルメン・ロスと出会い、今回のアルバムを制作することになった。本作はスペインで録音され、フラメンコの伝説的女性歌手であるカルメン・リナーレスも特別ゲストとして参加している。最初はお経を唱えるように始まり、徐々にフラメンコと融合し、最後はお経のように終わる。フラメンコとお経がこんなにもマッチングするとは驚きだ。
 彼女の美しく強い声が、波動のエネルギーとなって心に響く。低音も高音も素晴らしく、精神的にも内側から解放されるような、とてもスピリチュアルな作品だ。

7位 Mamak Khadem · Remembrance

レーベル:Six Degrees [6]

 イラン人女性歌手ママク・カデムの最新作。テヘランで生まれ、幼少期にはイラン国立ラジオ・テレビの児童合唱団で歌っていたが、イラン革命が起こる前の1977年に10代でアメリカに移住した。修士号を取得し教職に就く傍らで本格的に音楽の道を歩み始め、イラン系フュージョンバンド「AXIOM OF CHOICE」を結成、バンド名義では3枚のアルバムを発表している。2007年にソロ作品としてファーストアルバムを発表、本作が4枚目のアルバムとなる。ロサンゼルス・タイムズ紙で「世界で最も恍惚を感じさせてくれる驚異的な音楽の一つ」と評され、古代の詩とペルシャの巨匠の音楽にルーツを持ち、大胆で革命的な新しいサウンドで観客を魅了している。
 本作は、コロナで亡くなった最愛の父に捧げたアルバム。父への深い愛情、別れ、喪失感を表現しており、彼女の気品が感じられる美しい作品となっている。シングルカットされた曲「Across the Oceans」も収録されており、コールドプレイのクリス・マーティンがピアノとヴォーカルでゲスト参加。また、ペルシャの詩人ルーミーの詩の朗読でルーミー研究家であるコールマン・バークスもゲスト参加している。ママクが難民キャンプで子供達と過ごすことで生まれた曲で、子供達が音楽を通じて強さと希望を見出せるようにと作られた。遠隔で録音された子供達の合唱も参加している。上記MVも本当に美しく、貧しい境遇で生まれた子供達が純粋な意志で乗り越え、そして彼らが救おうとしているクジラは、地球温暖化、環境破壊、水問題などの現状を象徴している。楽曲、歌声、MVを含め全てが美しい!心に沁み入り、涙が出てくるほど。最近の世界情勢で疲弊していた心が洗われる。是非観ていただきたい。

6位 Park Jiha · The Gleam

レーベル:Tak:til / Glitterbeat [13]

 韓国で高い評価を得ている作曲家、マルチアーティストのパク・ジハの3枚目のアルバムとなる最新作。アルバムタイトルは「煌めき」を意味し、音楽と光の交わりをテーマにした作品となっている。韓国ウォンジュ市にある安藤忠雄が設計した美術館「ミュージアムSAN」にあるスペース「瞑想館」での特別公演のために作られた曲も収録されている。この公演はコロナの影響で日程がかなり延期になってしまったそうで、その期間アルバムを制作するのにじっくりと集中できたとのこと。
 前作同様本作でも彼女がすべての楽器を演奏している。アルバムジャケットの写真は、センファン(Saenghwang)という日本の笙に似た韓国の伝統楽器。他にも、オーボエのような木管楽器ピリ(Piri)、打弦楽器のヤングム(Yanggeum)や、グロッケンシュピールを彼女一人で演奏している。それぞれの音を録音し重ねているのだろうが、その重なり具合や音の質感、無音になるまでの間隔や呼吸感が絶妙で、光を音として見事に表現している。
 上記動画一つ目はサイレントモノクロ映画「Sunrise」のサウンドトラックとして制作された曲、二つ目は「瞑想館」での公演の様子。素晴らしいアルバムなので、これらの動画も堪能していただきたい。

↓国内盤あり〼。

5位 Marjan Vahdat · Our Garden is Alone

レーベル:Kirkelig Kulturverksted [-]

 テヘラン生まれのイラン人歌手、Marjan Vahdatの最新作。1995年から活動しているベテラン歌手。生まれ故郷のイランの音楽と詩に関する知識を世に広めるため、世界各地でコンサートやフェスティバルに出演し活動している。本作は彼女のソロ作としては3枚目で、ノルウェーのレーベルからリリースされた。プロデューサー、アレンジャーに、ノルウェーのジャズミュージシャン、Bugge Wesseltoft を迎え制作された。
 イラン各地の伝統音楽と詩からインスピレーションを受け、彼女自身が歌詞と曲のほとんどを作っている。また、同じミュージシャンとして活動している姉の Mahsa Vahdat もいくつか楽曲提供を行なっている。イランの伝統音楽をベースに、現代的な表現を加えた彼女独自のスタイルが確立されている。
 他のミュージシャン達と同様このアルバムもコロナが制作に影響を与えたようで、録音はアメリカ、イラン、ノルウェーで行われた。まず彼女のヴォーカルを録り、それをもとにミュージシャンが1人ずつアレンジを加えていく。それをノルウェーにいるプロデューサーがこれらを見事にまとめ上げた。オーセンティックで調和のとれたサウンドスケープとなっている。
 故郷を想い歌っているように聞こえるが、それだけではなく世界への普遍的なメッセージとして受け取ることができる。歌の深みが心に沁みる美しいアルバムである。

4位 Sowal Diabi · De Kaboul à Bamako

レーベル:Accords Croisés [4]

 多国籍なメンバーたちによるプロジェクト「ソワル・ジャビ」のアルバム。タイトルは『カブールからバマコへ』という架空の道からインスピレーションを得て、南アジア〜アラブ、西アフリカ圏の亡命を経験した歌手やミュージシャンたちが集まった。参加しているのは、マリの歌手ママニ・ケイタ、イランの歌手兼バイオリニストのアイダ・ノスラット、イランのタール奏者ソゴル・ミルザエイ、クルド出身のトルコ人歌手ルシャン・フィリズテック、アフガニスタン出身のタブラ奏者/歌手シアー・ハシミ、そして、パリ出身の大人気エスノ・ジャズ・ファンク・バンド、アラ・キロのメンバー6人。2019年にベルギーで、難民問題を題材にした舞台「De Kaboul à Bamako」のために作られたプロジェクト。「ソワル」とはペルシャ語で「質問」、「ジャビ」はバンバラ語で「答え」を意味し、難民問題に対する問いと答えを投げかけている。
 ヨーロッパやアフリカなど様々な地域から集まった異文化のミュージシャンたちが、国境を越え作った音楽で、時にはマリを、時にはバルカンや中東が感じられ楽曲がとても豊か。ママニ・ケイタとアイダ・ノスラットの歌声がとてもパワフル!様々な文化の出会いが演出されておりとても素晴らしい作品だ。

↓国内盤あり〼。

3位 Vigüela · A la Manera Artesana

レーベル:ARC Music [1]

 小説『ドン・キホーテ』の舞台で知られるスペイン中南部のカスティーリャ・ラ・マンチャ出身の5人組ユニット、ヴィグエラ(Viguela)の最新作。
本作が9枚目のアルバムとなる。先月1位にラインクインし、今月も上位をキープ。
 1980年代半ば頃から活動しているベテラングループ。2016年頃から海外に向けて進出し、ヨーロッパ各地のフェスティバルなどで演奏、ワークショップも行なっている。スペインが国の事業として海外に文化を紹介する活動の企画にもピックアップされ、フラメンコ以外のスペイン伝統音楽を国際的なプロのステージで披露した最初のグループでもある。
 アルバムタイトルは「職人道」という意味。本作では「職人的な創造性」ということに焦点を当て、スペインの舞踏音楽であるファンダンゴ、ロンディーニャ、セギディージャ、ホタ、そしてアカペラで歌うトナダ、活気のあるソンなど、様々な地域の伝統的なスペイン音楽をこのアルバムで紹介している。
 スペインの地方で古くから根付いている曲を今もなお守り続け、それを世界に向けて発信しようとしている活動はとても素晴らしい。スペイン音楽の力強さとともに、彼らの「職人」としての意気込みが感じられる。

2位 Rokia Koné & Jacknife Lee · Bamanan

レーベル:Real World [21]

 西アフリカのマリ出身の歌手、ロキア・コネの、これが世界デビューとなる1stアルバム。幼い頃から音楽に囲まれて育ち、現在はアンジェリーク・キジョーが率いるグループ「Les Amazones d'Afrique」のメンバーでもあり、「バマコの薔薇」とも呼ばれている実力派歌手。本作は、アイルランド出身カリフォルニア在住のプロデューサー、ジャックナイフ・リーとタッグを組んだ作品である。ジャックナイフ・リーは、U2、R.E.M、The Killersなどの大物プロデューサーであり、コロナ禍だからこそ実現できたチームである。
 このアルバムは、マリのバンバラ族へのオマージュであり、彼らの伝統的な言語、文化、習慣に対してリスペクトを込めて作られた。伝統にリスペクトしながらも、アフリカに未だ残る女性を軽視する制度や習慣にも批判している。
 アルバムは、マリの伝統的なグリオを想像するメッセージ性の深い曲からスタートし、マリのグルーヴ感が随所に感じられる。アメリカ在住ロックのプロデューサーを迎えているが、彼女の声がとても魅力的で、とてもダイナミックであるからそう感じるのだろう。4曲目の「N'yanyan」は、エレクトリック・ピアノだけの伴奏で、スローテンポの美しい曲(上記動画二つ目)。この曲が収録されたのは、マリでクーデターが発生し、停電と夜間外出禁止令が発令される直前で、ワンテイクで録ったというから驚いた。深みがあり美しい歌声が一回で録れるとは…!
 この曲は全世界の人にもメッセージが込められている。「今の(コロナで)困難な状況はいつか終わる。この困難は一瞬のことであり、すべてのことは過ぎ去る」と。

1位 Bonga · Kintal da Banda

レーベル:Lusafrica [-]

 アンゴラ出身のミュージシャン、ボンガの5年ぶりとなる最新作。1942年生まれ今年で80歳!キャリア50年で、アンゴラのレジェンドとも言えるシンガーである。
 アンゴラで育った彼が、家族や友人から受けた教育や人生経験を称えて作られたアルバムで、タイトル『Kintal da Banda』とは彼が育った家の中庭を意味する。28年間彼と共に活動してきた音楽監督であり、優れたギタリストでもある Betinho Feijó がプロデュースしている。
 1960年代にオランダに亡命し現在はパリ在住だが、アンゴラ音楽に与えた影響は大きく、アンゴラの伝統音楽センバ(Semba)を世界中のステージで披露している。
 1999年にマリーザ・モンチとカルリーニョス・ブラウンともコラボしたが、本作でもフランス系アルジェリア人女性アーティストのカメリア・ジョルダナ(Camélia Jordana)とも共演している。これが哀愁漂うメロディで二人の情熱的な声がマッチしていてとても良い(上記動画二つ目)。この曲では、アンゴラの伝統や習慣を呼び起こすメッセージが込められている。アルバム全体にも同様にアンゴラへのルーツ回帰を提唱している。Betinho のギターの音色とボンガのハスキーでパワフルな歌声が非常に心地良い。初ランクインでいきなり1位になるのも納得でき、待っていたリスナーが多くいただろう!と実感した魅惑的なアルバムだ。

(ラティーナ2022年4月)

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