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[2023.3]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」㉜】Lucas Mamede 『Já ouviu falar de amor ?』

文:中原 仁

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 ルーカス・マメーヂは、北東部ペルナンブーコ州レシーフェ出身、現在20歳のシンガー・ソングライターだ。
 
 ハイスクール時代の2020年から、SNS(Tik Tok)にギターを弾いて様々な曲を歌う映像をアップしたところ、これがバズり2021年、自作の3曲をデジタル・リリース。「Conto os dias」は Spotify で600万回近く再生されている。“まあ、なかなかイイんじゃないの” が正直な印象だったが、2023年2月にリリースしたデビュー・アルバムを聴いて印象が一変。北東部の音楽をベースにバイーアやリオの音楽も取り入れたハイ・クォリティなサウンドで、素朴な中に都会的なオシャレ感もあり、日本のブラジル音楽ファンにも支持されそうな穏やかな声質の歌と曲想の、2020年代のMPBにグレードアップした。インディーズながら、隅々まで気を利かせたプロフェッショナルな音作りだなあと思っていたら・・。
 
 ルーカスのSNS人気に目をつけたのが、チアゴ・イオルクやアナヴィトーリアといった新世代のスターを手がけている、フェリッピ・シマスのエージェント、F/Simas。こことマネージャーをつとめるルーカスの兄がチームを組み、アルバムの音楽監督にアレー・シケイラを迎えた。サンパウロ出身でバイーアにも拠点があるアレーは、トリバリスタスのメガヒット盤(2002年)、マリーザ・モンチの『私の中の無限(Infinito particular)』(2006年)、カルリーニョス・ブラウン関連の様々なプロジェクトで共同プロデューサーをつとめ、多くの若手・新人も手がけてきた、今世紀のブラジル音楽を代表する辣腕プロデューサーだ。彼の卓越した音楽センスが、ルーカスのデビュー作でも大いにモノを言っている。
 
 参加メンバーも、失礼ながら無名の新人のデビュー作とは思えない豪華さだ。リズム・セクションには、ビッグ・ハベーロことチアゴ・ハベーロ(ダニ・グルジェルの夫。ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートのドラマー/プロデューサー)。ウエブステル・サントス(シコ・セーザル、ゼリア・ドゥンカンらと共演しているギタリスト)。北東部の音楽に欠かせないアコーディオンは、ジルベルト・ジルの『Gilberto's samba』(2014年)に大抜擢された若武者、メストリーニョ。そのほか曲により、レシーフェのマエストロ、スポッキ(サックス)、ヒカルド・ヘルス(ハベッカ)、ジャキス・モレレンバウム(チェロ)などが参加している。録音はビッグ・ハベーロの本拠地、サンパウロのDa Pá Viradaスタジオを中心に行なわれた。
 
 ルーカスにとってはこのアルバムの録音が、正式なスタジオ初体験だったそうだが、伸び伸びと自然体で歌っていて頼もしい。それでは曲を紹介していこう。12曲中10曲が、ルーカスのオリジナルのラヴ・ソングだ。
 
 ルーカスの歌とメストリーニョのアコーディオンのデュオで始まるタイトル曲「Já ouviu falar de amor ?」が心を北東部の大地に誘う。映像も、どうぞ。

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