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[2024.9]新しいモビスター・アレーナでの感動の再始動!!!アジア勢も大活躍!!!新チャンピオン決定!!!

レポート●本田 健治

 今年のタンゴダンス世界選手権は、なかなかファイナルの場所も発表されず、今まで準決勝までやっていた USINA DEL ARTE で、小さく行われてしまうのか、と案じていたが、日本出発の直前になって凄いニュースが飛び込んできた。巨匠プグリエーセの出身地、ブエノスアイレス、ビジャ・クレスポ地区のモビスター・アレーナ・スタジアムで開催と発表があった。

モビスタ・アレーナの全貌
4時間も前から長蛇の列が続く

 世界の大都市に見るスーパー・アリーナ並、最大16,000人収容のまだ完成4,5年の新しい会場だ。クラブ・アトランティコ・アトランタの所有地に2019年暮れに完成した屋内スタジアムだ。世界選手権の新しい会場に、ここが突然決められるはずはなく、相当準備され、かなりの検討を加えられての決定だったと思う。

Movistar Arena

 昨年誕生したミレイ政権は「余分な政府の省庁や、役人の大量カットを始め、公費の無駄使いを一切省き、一日も早く、1ドル=1ペソの時代を復活させて、借金大国からの脱却をはかりたい」政策に邁進している。アルゼンチン特有の連邦制に四苦八苦しながらも、今のところ市民、国民の理解を得ながら、少しずつ実現に動いているように見える。というか、過去の何代にもわたる政権政策の惨状から、もうこれしかない、と誰もが思っていることの現れだろう。大幅なペソ安と外貨購入制限や輸入制限による高インフレなどの経済的苦境を背景に、日本のテレビでも散々紹介されたとおり、華々しく無駄な官僚機構、官僚の大量切り捨てなどの経済政策を発表したが、ミレイの率いる政党連合「自由前進」は州知事をひとりも輩出しておらず、上下両院で過半数の議席をも確保できていないから、簡単ではない。今や、2025年の中間選挙までに成果を訴え、多少優秀と言われてる実姉を立てて、多くの議席を獲得することに向けて動き出す始末。さて、次の選挙となると、州知事選挙で「共和国提案」に分裂させたように見えるマクリの「変革のために共に」も頑張るのは当然。結局、ミレイと組した「共和国提案」との統一会派実現も方向にも進んでいない。それでも、経済改革に向けミレイが選択したのは改革法案の提出と必要緊急大統領令の併用。なんとか、無用な官僚組織や、官僚の大量不採用で、現在のところ少しづつ前進。これが、いつもならスーパー・デモで大混乱のところが、結構落ち着いた社会となっている。

ホルヘ・マクリ市長

 世界選手権を主催するブエノスアイレス自治市の首長は、マクリの従兄弟のホルヘ・マクリ。それなのに、やはり、国政の影響もかなりあったということだろう。日本と大きな橋渡しをしてくれたL大臣も現在は国会議員で、諸政策の推進に大きな役割を担っているらしい。あの市の文化大臣になって最初の仕事が全く無駄だった職員700名の解雇だった。「文化と観光に関してはかなりの部分を任されている」と言っていたし、ついこの間、その駆け引きの一端が見えたが、国有のアルゼンチン航空まで民間に、という話も一応なくなった。あまりにも極端な政策は、一つ下げては一つを通す、モビスター・アレーナ開催発表も、そんな駆け引きの一つでもあったのだろうか?
まぁ、文化の享受さえできれば良い我々は、これからのミレイ側の反撃パフォーマンスを楽しみにしていたいところだ。それが、また「タンゴ」だったりしたら、ますます痛快だが。
 しかし、そんな影響を与えるほど、「タンゴ」の世界選手権が、アルゼンチン社会で力を持ってきた、とも言えそうだ。

 さて、8月14日に始まったブエノスアイレス市主催のタンゴBAフェスティバルには公式発表によると、合計70,000人以上の観客と、2,000人以上のアーティストたちが参加する最大のフェスティバルとなった模様。

 フェスティバルは14日(水)から始まり、27日(火)に閉幕した。2,000人以上のアーティストが参加し、コンサート、展覧会、ダンスクラス、タンゴ学校オーケストラ、典型的なダンスオーケストラのサミット、ミロンガ、大衆集会、映画上映会、書籍発表会、レコード発売、展覧会、膨大な数の参加者によるダンス選手権など、500以上のアクティビティがプログラムされていた。以下、今年のアクティビティに参加したアーティストたち………
スサーナ・リナルディ、セステート・マジョール、サンドラ・ミハノビッチ、フランコ・ルチアーニ、バニーナ・ビルス、フアン・カルロス・バリエット、アドリアナ・バレラ、アウロラ・ルビズ、ホセ・コランジェロ、オルケスタ・デル・プラタ、ディエゴ・スキッシ、ナタリア・ヒルズ、 ラウル・ラビエ、エレナ・ロジェ、ビクトル・ラバジェン、

ダンス・ファンにニュース。ラ・フアンダリエンソにいたピアノのパブロ・バジェが自身のセステートを結成。ダンスに特化しても,聴かせても一流の注目のセステートが一人歩き始めた。
バジェは、TVプロデューサーたちにも顔が広く、音楽性は保証付きなので,今後が楽しみ。


 ナウエル・ペニシ、アスティレロ、レオナルド・クエロ舞踊団、フリア・センコ、ロドルフォ・メデロス、アモーレス・タンゴ、エルナン・ハシント、エドゥアルド・アルキンバウ、ノエリア・モンカダ、エル・アランケ…… ホセ・コランジェロ、ネストル・マルコーニ、ビクトル・ラバジェンとオルケスタ・エスクエラ・デ・タンゴの若手演奏家たち、ルイス・バジェ・セステート、フアン・カルロス・バリエトとノエリア・モンカダとオルケスタ・エル・アランケが共演する。

 フェスティバルは8月25日(日)にコロン劇場で開催されるブエノスアイレス・タンゴ・オーケストラのガラ公演でクライマックスを迎えた。

マルコーニ&市立タンゴ・オーケストラ

 そして、肝心の選手権の方。フェスティバルの初日、ダンスの世界選手権の予選には53ヶ国から750組が参加した。

 蓋を開けてみると、実はアジアからの参加者も数多く見られ、特にピスタでの参加が目立った。とはいえ、参加したのは日本の場合、多くの教師陣で、一般参加は少なかった。ここは少し残念。でも、過去に十分な成果を見せてきた教師のみんなが、再挑戦を続ける。この姿は美しいし、必ずアジアのレベルを上げてくれる事になる。

 さて、このUSINA(発電所をコンサート・イベント複合施設に改造した市の建物)で14日にオープルした世界選手権は、参加者のあまりの増加に、連日遅くまで凄い賑わいで行われたが、8月27日、ファイナルはいよいよモビスター・アレーナに会場を移し、午後6時半開始というのに、午後4時にはすでに会場を1周する長蛇の列ができていた。無料の入場券を手に入れた一般客も招待客も一緒に入り口で座席グループ券をもらい指示に従って座っていくのだが、整理がしっかりしているから,ゆっくりと埋まってく。さすがに今年はこの会場が全部埋まるとは思えなかったが、なんと開始時には、満杯の観客で埋め尽くされていた。昨年までのオベリスク近くの道路を止めての会場もアイデアとしては素晴らしかったが、特に昨年は先ず雨の心配に振り回された上、極寒の中での開催で、それは大変で不評だった。それに比べるとここは会場にいるだけで迫力満点。ワールド・カップにふさわしい素晴らしい雰囲気だった。ピスタからステージまで、とにかく世界中のレベルが上がっているのを実感する。アジア選手権、ヨーロッパ選手権のチャンピオンたちは決勝シードだから、このモビスターのスーパー・ステージからのパフォーマンスとなる。シードは良いが、最初からこの大観客と大ステージでは、結構きついものがあると思うが、しょうがない。その他、予選から参加したカップルたちも、みんな物凄いレベルでダンスを披露する。もう何年か前の選手権とは比べものにならない高いレベルの戦いが続いた。

ナナ & カイト

 ステージでは、アジア選手権の決勝シードを持つ Nana & Kaitoと韓国のLondon & Solange がこの決勝ステージに立った。ただ、ピスタはブエノスアイレス市のメトロポリタン大会の世界のミロンゲーロス部門で優勝して準決勝シードされていた Cristian & Nao が参加(最終成績世界第5位)、昨年の大会で第3位に輝いた Diego & Aldana は準チャンピオンに。 その他Ezequiel & Haruna、Lucia & Alejandro、今年アジア・チャンピオンの

アジア・チャンプのビクトル・チョー & ルナ・キム

Victor Cho & Luna Kim と韓国チャンピオンの London & Solange らは決勝シードで大活躍した。決勝にこれだけアジア勢が顔を揃えたのも久しぶりだ。Nana & Kaitoは、非常に気の利いた構成で、一つの風を送ったが、決勝シードというのは、あのアリーナでの登場が初めてのダンスとなる。決勝シードのカップルにも、準決勝での採点なしでの足慣らしダンスを認める方向で考えてほしいものだ。アジア選手権の結果、ビデオに選手権内部での評価は高かったと聞く。勝つまで挑戦です!!! 決勝からアリーナのステージは誰にとっても難しいと思う。が、慣れも必要だ!!! 別ジャンルを組み合わせるには、音、繋ぎ、つくりの一工夫があった方が,とも思った。それと、音作りで思ったが、世界選手権では、音の再生は完全に手を入れた素晴らしい音で流される。ありのままを大事にする時と、コンペティションの時の再生音は考え方も違うはずと思ってはいたが、世界選手権は完全に素晴らしい音になっていた。大事な話ですよ。

あと一歩届かなかった準チャンピオン、ディエゴ&アルダナ。左が総合プロデューサーのモッシ。

 結果今年は Diego & Aldana が非常に悔しい僅差の準チャンピオン。直後にDiegoは「来年こそまた参加して絶対にチャンピオンに!!!」と息巻いていた。はっきりいって、ディエゴとアルダナのダンスは,ブエノスアイレスのミロンガでも非常に評判が高い。競技以上にタンゴ・ダンスの一つの形を継承し、発展させているようなしっかりした姿勢が評価されている。その気持ちがわかるほど、チャンピオンとの差はほとんどなかったと思う。今や、アジアの歴代のダンサーの中でもある意味頂点のダンスを見せてくれていると思う。Cristian & Naoは、結果発表の一番先に発表されたが、第5位。アルゼンチン・カップルからの評価も高く、もう少し上位かともみられていたが…。さらに、いつもタンゴの音楽を本当に良く理解した上での絶妙のリードが最高と評価されているEsequiel & Harunaも6位と大健闘。

アイレン・モランドとセバスチャン・マルティネス
アイレン・モランドとセバスチャン・マルティネス

 さて、今大会のステージ部門では、ブエノスアイレス出身のアイレン・モランドとセバスチャン・マルティネスが、涙ながらにステージ・チャンピオンとして表彰を受け、表彰式の後、チャンピオン・デモでフォーエバー・タンゴ・オーケストラが演奏する「El Marne」に合わせてダンスを披露したが、キレキレの素晴らしいダンスには「納得」しかない。彼らは新チャンピオンで「民音賞」を獲得し、来春のタンゴ・シリーズで全国のすべての公演に登場する。男性のセバスティアン・マルティネスは過去に日本に滞在したことのあるダンサーで、準決勝からトップ通過してきたチャンピオン。

ファティマ・カラコッチとブレンノ・ルーカス・マルケス

 そして「ブエノスアイレス州ロボス出身のファティマ・カラコッチとブラジル・ポルトアレグレ出身のブレンノ・ルーカス・マルケスが、タンゴ・デ・ピスタの世界チャンピオンに輝いた。ブエノスアイレス政府のホルヘ・マクリ長官とクララ・ムッシオ副議長が、二人のダンサーへの賞の授与を担当した。」
(ラ・ナシオン紙)

ファティマ・カラコッチとブレンノ・ルーカス・マルケス


 オスバルド・プグリエーセの出身地、ビジャ・クレスポ地区にあるモビスター・アレーナ・スタジアムを埋め尽くした観衆の前で、表彰式の後フアン・ダリエンソのタンゴ「Loca」を踊ったこのピスタ部門の新チャンピオンは、副賞でフロリアーノポリスのビエナルから、ブラジルのサンタ・カタリーナ州をツアーする栄誉を受けた。また、ファティマは4歳から、ブレンノは13歳からタンゴを始めた。一緒に踊り始めて1年半後、彼らの献身と情熱は、彼らのキャリアの中で最も待ち望まれていた成果を分かち合うことになった。2021年、ふたりはすでにタンゴとミロンガ部門で同市のダンス選手権で優勝し、才能を発揮していた。」(ラ・ナシオン紙)

マルセーラ・パトリシア・ハラとルイス・マリオ・セイルフエケ

 また、ファイナルの最初を飾ったシニアトラック部門では、マルセーラ・パトリシア・ハラとルイス・マリオ・セイルフエケが優勝し、彼らもまた感動とともに表彰を受けた。とても素晴らしい風景だった。さて、これからのシニア部門が、こんなにすべてのダンサーの興味を引くようになる日が待ち遠しい。

ナウエル・ペニシ

 さて、いつもファイナルのステージで会場中を沸かす音楽部門は、ブエノスアイレスのフロレンシオ・バレラ出身の才能あるミュージシャン、ナウエル・ペニシのパフォーマンスで始まった。生まれつき小眼球症で目が見えないペニシは、カルロス・ガルデル賞を4度受賞し、ラテン・グラミー賞にも3度ノミネートされている。音楽との深いつながりと卓越したキャリアにより、アルゼンチンの音楽シーンで最も称賛される人物のひとり。普通のギターをハワイアン・ギターのような使い方で器用に演奏する。しっかりした声量に、繊細さと名人芸を加えた彼の演奏と歌声は、この夜最もエキサイティングな瞬間のひとつとなった。

 発表が遅く、世界中が心配しながら迎えたタンゴBA2024の世界選手権だが、結果的には、史上最高の、最もエキサイティングな選手権として幕を閉じた。この選手権については、他にも物凄い企画、出し物が一杯だった。今日は取りあえず新チャンピオンの速報で、詳細は少しずつ紹介していく予定です。

世界選手権決勝の結果は以下となります。

◆ステージ部門

https://tangoba.org/wp-content/uploads/2024/08/Final-Tango-Escenario.pdf

◆ピスタ部門

https://tangoba.org/wp-content/uploads/2024/08/Final-Tango-Pista.pdf

◆シニア部門

https://tangoba.org/wp-content/uploads/2024/08/Ranking-Final-Senior.pdf

(ラティーナ2024年9月)

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