[2021.11] 「ラ米乱反射」電子版 第11回 「呪われた国ハイチ」を捏造した内外利権
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[2021.11] 「ラ米乱反射」電子版 第11回 「呪われた国ハイチ」を捏造した内外利権

「ラ米乱反射」電子版 第11回 
「呪われた国ハイチ」を捏造した内外利権

文 ● 伊高浩昭(ジャーナリスト)

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 カリブ海の「呪われた国」-そう呼ぶ者が多いハイチ共和国で2021年7月7日未明、政治的悲劇が起きた。ジョヴネル・モイーズ大統領(享年53)が暗殺されたのだ。今年のラ米重大ニュースの一つで、事件の記憶は異邦人にも新しい。その推移を辿りながら、惨劇が起きた歴史的・現代的背景を探る。

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故ジョヴネル・モイーズ大統領

▶︎暗殺事件発生

 事件は21年7月7日午前1時前後に起きた。首都ポルトープランス南部ペシオンヴィル区の高台にある住宅街ペレラン地区のモイーズ家の邸宅が現場だった。モイーズは、この私邸に居住していた。つまり私邸は事実上の大統領公邸の役割を果たしていたわけだ。大統領警備隊が私邸構内に常時駐屯していた。

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私邸(右上)と事件の痕跡

 コロンビア人傭兵コマンドが難なく私邸に侵入し、大統領を殺害、マルティーヌ夫人に重傷を負わせ、金品を奪って逃走した。なぜ、難なく侵入できたのか。ここに事件の真相を探る鍵があった。

 事件発生を発表したのは、当時のクロード・ジョゼフ暫定首相だった。私邸を襲撃したコマンドには英語やスペイン語を話す者がいた、との警察情報も明らかにされた。

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当時のクロード・ジョゼフ暫定首相

 ジョゼフ暫定首相は事件当日の7日記者会見し、15日間の戒厳令を発動。公官庁には半旗が掲げられ、国喪に入った。ラジオ・テレビは通常の番組を差し替えるよう命じられた。

 国民は自宅滞在を求められ、自動車の通行は制限された。街には重武装の軍隊と警官隊が出動。平常はごった返している首都や主要都市から人影が消えた。

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ポルトープランス国際空港

 隣国ドミニカ共和国(RD)との国境は閉鎖され、ポルトープランスのトゥサン・ルヴェルテュール国際空港をはじめ空港や港湾は閉鎖された。首都空港の名称は、18世紀末からの対仏独立戦争の英雄の名だ。ハイチはラ米で最も早い1804年に独立を果たした。

 「世界最初の黒人国」ともなったのだが、米州一貧しく世界でも最貧国の一つという位置づけから逃れられないままだ。外国の介入、独裁、権力者の腐敗、治安の極度の乱れ、天災、そして多数者の途方もない極貧状況が、疫病のように覆い被さっている。「呪われた」と言われる所以だ。

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2010年1月のハイチ大震災
(首都の倒壊した建物と広場に避難した人々)

 記者会見に同席したハイチ警察のレオン・シャルル長官は、コマンドの4人を射殺し、2人を逮捕したと明らかにした。コマンドに捉えられていた私邸警備の警官3人は解放された。

 このことは、コマンドは難なく私邸構内に侵入したものの、警備隊とコマンドの間で銃撃戦が展開されたことを意味し、コマンドを「難なく通らせた」警備隊上層部と部下たちの間に意思の疎通が十分でなかったことを示唆する。

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マルティーヌ夫人

 右腕や臀部に銃弾を受けた大統領夫人はマイアミの病院に緊急搬送された。命に別状はなかった。事件当時、私邸内に隠れていた大統領夫妻の子どもたちも、米国の保護下に置かれた。

 ジョゼフ暫定首相は、アントニー・ブリンケン米国務長官と電話会談した。これを受けて、ジョー・バイデン米大統領は、「暗殺事件に衝撃を受け、悲しみに暮れている」と弔慰を表明、ハイチへの支援を申し出た。

▶︎事件の背景

 ハイチ北部出身のモイーズは実業経営に長け、バナナ農場で大成功した。相当にあくどい取引にも手を染めたと伝えられるが、北部財界に台頭したモイーズは、「スイート・ミッキー」の芸名で知られた芸能界出身のミシェル・マルテリー大統領(任期2011年5月~16年2月)と知己になる。ここから政界への足場を築いた。だが首都のある南部の政界から見れば、モイーズは成金の外様だった。

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