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[2022.4]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ㉑】 伝統か、ファッションか? ―サモアのタタウと癒しの歌―
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[2022.4]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ㉑】 伝統か、ファッションか? ―サモアのタタウと癒しの歌―

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文●小西 潤子(沖縄県立芸術大学教授)

 2012年、児童福祉施設職員が児童に入れ墨を見せて恫喝する事件を受けて、大阪市は入れ墨を禁止とする「職員倫理規則」の改定をしました。一方、2013年9月8日、ニュージーランド(アオテアロア Aotearoa)の先住民マオリのエラナ・ブレワートンさんが、顔のモコ moko(マオリ語でタトゥーのこと)を理由に、北海道の温泉施設で入館を断られる出来事がありました。1950年代初めの断絶を経て、1980年頃再び施術されるようになった女性のモコは、マオリ文化復興の象徴でもあります。アイヌ語復興のためにマオリ語指導者として招聘されたブレワートンさんにとって、モコを反社会的行為と同等に扱われたことは、屈辱的だったでしょう。

 それから10年経った昨今。SNSには#タトゥー、#タトゥーデザイン、#刺青とタグづけされた画像や、海外のセレブのタトゥー(入れ墨、刺青、文身、黥)を巡ってたくさんのコメントが投稿され、ファッションとしてのタトゥーが日常の風景に入り込んでいるかのような印象を与えます。

 人類史上、タトゥーは古くから世界中で行われていたそうですが、中世に施術が断絶したイギリスに太平洋諸島のタトゥーを紹介したのは、ジェームズ・クック船長(1728 - 1779)。ディズニー映画『モアナと伝説の海』に登場する半神半人のマウイも、タトゥーだらけの青年でしたね(2022年3月号)。

 確かに、タトゥーは個人の身体装飾です。しかし、施術に相当の痛みを伴い、簡単に除去できないこともあって、必ずしも個人に帰属し、個人の選択によって彫られるとは限りません。また、美的のみならず社会的にも評価あるいは批判されますし、ジェンダーやセクシュアリティの問題も絡んでいます。

 ドイツの『マイヤー百科事典 Meyers Konversations Lexicon 』(1894) の図版として、「黒人」「ニュージーランド人」「ボルネオのダヤク」「カロリン島人」「日本人」の「装飾的なタトゥー」が掲載されたことで、非ヨーロッパのタトゥーが白人社会にも知れ渡りました。これが当時の進化論的解釈や犯罪学と結びついたことで、タトゥーは野蛮な行為と見なされる一因となったのです。

 その一方で、1862年エドワード7世がエルサレムでタトゥーを彫り、1910年代頃までイギリスでは王室や上流階級の間でタトゥーが流行し、日本の刺青師に彫らせた人物もいたそうです。どうも、タトゥー・ブームは今に始まったことでもなさそうです。

 今回の舞台は、サモア。実は、英語のタトゥーの語源は、サモア語のタタウ tatau です。もともとサモアの男性のタタウは、あたかもズボンを身につけているかのような「だまし絵(トロンプルイユ trompe-l'oeil)」のように、腰から下半身に彫り込まれました。一方、女性が膝から太ももにかけて彫るマル maluは、お守りのように見なされていました。男女で彫りのパターンは全く異なっていますが、いずれも「プライベートな部分」を裸のまま人前にさらさないという決まりごとによるものだったのです。

 とは言っても、タタウを彫るのは誰でも痛―――いはず。それを癒すために施術中にうたわれるのが、タタウの歌です。伝説によると、フィジーから泳いで渡ってきたタエマー Taemā とティラファイガー Tilafaigā という2人の女神が、サモアにタタウをもたらしたとされます。19世紀のフィジーでは、タトゥーはもっぱら女性のものとされていましたが、女神たちの手違いから、サモアでは男性にも許してしまったのです。次の動画は、このタタウ伝説の歌をマルの施術中にうたっているものです。

Tatau Samoa - the Samoan tattoo song


 次にご紹介するのは、同じ歌に振付をして、教会の行事で披露された踊りです。2人の女神役と思われる女性が、伝統的な踊りに見られる足運びや腕の動きのパターンを組み合わせたパントマイムのような動作で演じています。ご祝儀が風に舞うのも、サモアらしい!見どころは、やはり踊り手に彫られたマルです。

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