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[2020.12]【ピアソラ再び~生誕100年に向けて】「超」実用的ピアソラ・アルバム・ガイド on Spotify Part 4

文●斎藤充正 texto por Mitsumasa Saito

[著者プロフィール] 斎藤充正 1958年鎌倉生まれ。第9回出光音楽賞(学術研究)受賞。アメリカン・ポップスから歌謡曲までフィールドは幅広い。世界のピアソラ・ファンがピアソラのバイブル本として認めている『アストル・ピアソラ 闘うタンゴ』の著者であり、ピアソラに関する数々の執筆や翻訳、未発表ライヴ原盤の発掘、紹介などまさにピアソラ研究の世界的第一人者。

 前回ご紹介したように、1960年のキンテート(五重奏団)結成以降RCA、次いでCBSからアルバムを発表してきたアストル・ピアソラは、1964年にフィリップスと契約、翌65年から67年までは同じ系列のポリドールに録音を残す。この1964年から1967年までという時期はピアソラにとって、キンテート(五重奏団)による演奏面でのピークと精神的なスランプの両方が大波のようにあらわれた、波乱の時期にあたる。そこには長年彼を支えてきた妻デデとの破局も大きな影を落としていたが、その辺りの事情については、2018年公開のドキュメンタリー映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』にも詳しく描かれていたし、連載の第1回でも触れた。

 それはともかく、他のレーベルの音源と比べても、現在はユニバーサルが管理するフィリップスとポリドール音源の系統立てたCD化は長いこと進まず、苦言を呈したことも一度や二度ではなかった。ようやく2012年になって、アルゼンチンのユニバーサルから全音源が『Astor Piazzolla Completo en Philips y Polydor Volumen I』『... Volumen II』『... Volumen III』というCD3タイトル(『I』と『III』は2枚組)に収められて復刻が叶ったのだが、どういうわけかそれらがSpotifyには存在していない(1975年以降の関連音源を集めた『... Volumen IV』だけは聴けるのに)。なので残念ながら今回は、やや歯抜けの現状に沿った形で紹介するしかない。

1964年

 この年唯一のアルバムは、フィリップスからリリースされた『Astor Piazzolla 1944-1964 / 20 años de vanguardia con sus conjuntos』(邦題:モダン・タンゴの20年)。後ろを向くことがなかったピアソラが、というのは実は大いに語弊があるというかまったく事実ではないのだが、それはともかく、最初にフィオレンティーノ伴奏のオルケスタ・ティピカを結成してからキンテートを率いる現在まで20年間の歩みを、各編成を再現しながら振り返ってみよう、という企画盤である。

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