[2023.5]ブラジル初!性自認が女性のアーティスト限定プログラム「マーレス」、参加者のMAKOさんへインタビュー
文●島田愛加
2014年、念願のサンパウロ州立タトゥイ音楽院のポピュラー学科サクソフォン専攻に入学し、しばらくして音楽院の広報担当から「女子生徒を増やすためプロパガンダに出演してくれないか」と打診された。事情がわからず、なぜそんな必要があるのか聞いてみたら、どうやらブラジルでは楽器を演奏することは未だに男性の役目、あるいは特権だと思っている人が存在するというから驚いた。
慣れないポルトガル語生活に必死で気付いていなかったのだが、確かにサックス吹きの私が参加しているグループは男だらけだった。
その通り、ブラジルで最も古い歴史ある我が音楽院も、初めてドラム専攻を卒業した女性は2017年のカロリーニ・カレと、つい最近の出来事である。
以来、私はブラジルにおける女性アーティストの在り方に興味を持つようになった。
今回、リオデジャネイロ在住歴20年を越える日本人アーティスト、MAKOさんが女性アーティスト対象としたプログラム「マーレス(MARES: Mulheres Artistas em Residência)」に参加したとお聞きしたので、インタビューをお願いしたところ、快諾いただけた。
ブラジルの社会背景と音楽シーンも含め、女性アーティストの在り方、ジェンダー問題を考えるきっかけとして多くの人に読んでいただけたらと思う。
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愛加(以下、愛):今回のプログラムは「リオデジャネイロ在住で、サンバやショーロなどポピュラー音楽シーンで現在活動中の性自認が女性のアーティスト」に限定して募集が行われましたが、リオのポピュラー音楽シーンは女性の割合が少ないんですか?
MAKO:ちょっと気になるから先に聞きたいんだけど、サンパウロではあまり女性アーティストたちによるムーブメントはないの?
愛:あると思います。私の周りの女性アーティストは殆どフェミニストだし、女性だけのバンドも沢山ありますね。私は偶然そういう活動する機会が殆どなくて。ブラジルに着いたころは女性アーティスト問題に全く気付かずにいました。数年前から興味を持ち始めて……。リオデジャネイロはどうですか?
MAKO:リオの音楽シーンって、「リオで生まれた音楽」って話が関わってくると思うの。アフリカから送られてきた黒人奴隷たちから生まれたサンバというブラジル音楽が商業化されたのがリオだから、リオはサンバの発祥地としてあるわけよね。ショーロもそう。
そうなると、黒人問題も強くある。あとは黒人+女性であるということが重なり、社会のはみ出し者みたいにされる事も多かった人たちが、今、男性たちと同じように仕事がしたいと思うようになっていて。
サンバの世界、特にエスコーラ・ヂ・サンバもだけど、「バテリア(打楽器隊)は男のもの」っていう形があったわけ。私がブラジルに来たのが2000年。その時ようやくバテリアに女性がちらほらいるけど、触っている楽器はショカーリョ、みたいなそういう雰囲気があったわけですよ。
特にサンバの世界っていうのは “マシズモ(machismo)” というね、男尊女卑の固まりみたいな場所でした。女性歌手はいても、女性がスルドやヘピニキを持てない世の中がずっとあって。でも今は女性だって男性と対等にできる技術を持つ人がたくさんいるわけです。そして今、ようやく女性たちが打楽器を触ることが当たり前になってきています。
愛:確かに、南米の文化に多いですが、発祥から最近まで、楽器を演奏するのは男性で、女性は踊りや歌って自然に分けられる場合が多いですね。
MAKO:そう、以前はね。ただ最近は逆もあって、男のダンサーさんも多い。パンデミックの前にこういった女性ムーブメントの主体になってる子たちがショーロという音楽とかけて「Chora」(ポルトガル語の場合、-aは女性名詞)っていうグループを作って、月1回ホーダ・ヂ・ショーロをしてたんだけど、女じゃないとダメっていうイベントなの。演奏するのは女性。じゃあ男の人は何していたかって言ったら、お尻ふって踊っていたの。
愛:なるほど。笑
MAKO:それはわざとなわけ。女の人たちが、今まで自分たちが悔しい思いをしてきたから、男には絶対楽器を触らせない!って。
最近は同性愛者やトランスジェンダーの人たちもいっぱい遊びに来て踊ってる。それを見て時代は変わったと感じたし、自分たちの場所を作ろうとしてるブラジル人女性ならでの力の強さを目のあたりにさせられたというか。
愛:話は戻りますけど、近年リオのサンバ界はどんな動きがあるのですか?
MAKO:2020年以降かな、女性のサンビスタが自分たちだけで力を見せようっていう動きがものすごく強くなったのは。サンバがここで生まれたことが特に背景にあるんじゃないかな。私は自分の目で見てそういう風に感じるし、みんなの発言を聞いても、やっぱりサンバは自分たちのものっていう意識があるからね、リオの人たちは。
思い返せば、私が参加しているMulheres de Chico っていう女性だけのブロッコがあって、結成した17年前はそんな意識してなかったけど、よく考えるとすごいことだったと思うの。今は当たり前にみんなやっているから、驚いたりすることもある。
愛:なるほど。リオで性自認が女性のサンビスタが集まるグループmovimento das mulheres sambista もそういう意図をもって活動していますよね。このグループはMAKOさんが今回参加したプログラム「マーレス」にも関係があるようですが、マーレスはここから派生したものなのですか?
MAKO:企画者は同じ人たちが集まってるかな。movimento das mulheres sambistas は女性に無料で音楽を教えたり、同じような人たちがドナ・イボンニ・ララのプロジェクトをやったり、今回のマーレスみたいなのをやったり。結構同じ人たちが動いて、いろんな人達を誘ってやっています。
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