[2023.11]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」㊵】 Edu Lobo 『Oitenta Anos』
文:中原 仁
8月29日に80歳を迎えたエドゥ・ロボが、その名も『80歳(オイテンタ・アノス)』と題するニューアルバムを発表した。最初にお伝えしておくと、11月リリースなので「2023年ブラジル・ディスク大賞」投票の対象外となる。
自作の24曲、歌は自身のほか、モニカ・サウマーゾ、ヴァネッサ・モレーノ、ゼー・ヘナート、そして28歳のアイルトン・モンタホーヨス。この4人。
プロデュースとアレンジは、ピアニストのクリストーヴァォン・バストス。ジョルジ・エルデル(ベース)、ジュリン・モレイラ(ドラムス)、マウロ・セニージ(サックス)、カルロス・マルタ(フルート)、キコ・オルタ(アコーディオン)、パウロ・アラガォン(ギター)といった名手たちが脇を固めている。
選曲を一言で言うと、シブい。「Arrastão」や「Ponteio」といった60年代のソング・フェスティヴァル優勝曲、代表曲の「Upa Neguinho」などがなく、日本など海外で人気の高い60年代後半~70年代初頭のノリの良い曲も、ほとんど外されている。多いのが、エドゥがシコ・ブアルキとの作曲・作詞コンビで80年代以降に手がけてきたバレエ・舞台の音楽の曲。シンガー・ソングライターの域を超えた、作曲家エドゥ・ロボの広範で芳醇な魅力を味わえるアルバムで、馴染みのない曲が多いと思うが、各曲の出典や代表的なカヴァー・ヴァージョンもまじえて紹介していこう。
【DISC 1】
「Casa Forte(カーザ・フォルチ)」(1)は、スロー・テンポで始まって北東部のリズムに乗ったアップ・テンポへと展開する有名なスキャット曲。60年代後半から70年代にかけて、エリス・レジーナ、セルジオ・メンデス&ブラジル'66、フローラ・プリン、エルメート・パスコアルがいたブラジリアン・オクトパスなどが録音した。
"Casa Forte" Elis Regina e Edu Lobo
「Bancarrota Blues(バンカホッタ・ブルース)」(2)はシコ・ブアルキ(作詞)との共作。エドゥとシコが手がけた数々の舞台音楽の中から、これは『O Corsário do Rei(オ・コルサーリオ・ド・ヘイ)』(1985)のために作った曲で、シコの歌を通じても名高い。
"Bancarrota Blues" Chico Buarque
「Ave Rara(アヴィ・ハーラ)」(3)は、ソロ・リーダー作としては13年ぶりのリリースとなった『Corrupião(コフピアォン)』(93年)から。作詞はアルヂール・ブランキ。ヴァネッサ・モレーノが歌う。
続いてシコと共作した舞台音楽『Cambaio(カンバイオ)』(2001年)から2曲。「A Moça Do Sonho(ア・モサ・ド・ソーニョ)」(4)は、サントラ盤ではエドゥが歌った。ここではアイルトン・モンタホーヨスが歌う。
「Cantiga De Acordar(カンチーガ・ヂ・アコルダール)」(5)は、サントラ盤ではエドゥ、シコ、ジジ・ポッシが歌った。ここではエドゥ、モニカ・サウマーゾ、ヴァネッサ・モレーナが歌う。
「Nego Maluco(ネゴ・マルーコ)」(6)もシコと共作した軽快なサンバで、これは舞台音楽ではなく『Corrupião(コフピアォン)』(93年)から。ここではゼー・ヘナートが歌う。
「Branca Dias(ブランカ・ヂーアス)」(7)はカカーゾとの共作。ナナ・カイミが『Renascer(ヘナセール)』(76年)で初録音し、エドゥは『Camalerão(カマレアォン)』(78年)で録音した。ここではモニカ・サウマーゾが歌う。
続いてエドゥの本領のひとつ、北東部のリズムに乗った3曲。軽快なバイアォンの「Dança do Corrupião(ダンサ・ド・コフピアォン)」(8)はパウロ・セーザル・ピニェイロとの共で『Tantas Marés(タンタス・マレース)』(2010年)から。エドゥとヴァネッサがデュエットする。
「Canudos(カヌードス)」(9)はカカーゾとの共作で『Camalerão(カマレアォン)』(78年)から。
「Gingado Dobrado (Nordestino)(ジンガード・ノブラード - ノルデスチーノ)」(10)はカピナンとの共作で『Limite das Águas(リミチ・ダス・アグアス)』(76年)から。ここではヴァネッサ・モレーノが、オリジナルよりテンポを上げて歌う。
「Na Ilha de Lia, No Barco de Rosa(ナ・イーリャ・ヂ・リア、ノ・バルコ・ヂ・ホーザ)」(11)には「Meio-dia, Meia-lua」のサブタイトルがある。バレエ『Dança da Meia-Lua(ダンサ・ダ・メイア・ルア)』(88年)のためにシコと共作した曲。シコは『Chico Buarque』(89年)で、エドゥは『Meia-Noite(メイア・ノイチ)』(95年)でそれぞれ録音した。
そしてエドゥとシコの共作を代表する永遠の名曲「Beatriz(ベアトリス)」(12)。2人が初めてコンビを組んで手がけたバレエ『O Grande Circo Místico(オ・グランヂ・シルコ・ミスチコ)』(83年)の音楽で、そこではミルトン・ナシメントが感動的な名唱を繰り広げた。エドゥが書いたメロディーは音域が広く、シコは最も高い音に "céu(セウ=空)"、最も低い音に "chão(シャオン=地面)"の言葉を配した。エドゥは『Meia-Noite』でミルトンとデュエット。ここではエドゥとモニカがデュエットする。
"Beatriz" Milton Nascimento (1992)
【DISC 2】
「Só Me Fez Bem(ソ・ミ・フェス・ベン)」(1)はヴィニシウス・ヂ・モライス(作詞)との共作。ボサノヴァの面影を残す、エドゥのキャリア初期の作品で、ワンダ・サーがデビュー作『Vagamene(ヴァガメンチ)』(64年)で初録音。『Edu e Maria Bethânia』(66年)ではマリア・ベターニアがソロで歌った。
ここから5曲目までの4曲、シコと共作した舞台の音楽が続く。「Salmo(サルモ)」(2)はDISC 1の2曲目と同じく『O Corsário do Rei』(85年)の音楽。ここで歌うゼー・ヘナートが85年、クラウヂオ・ヌッシとのデュオでこの曲を歌った映像があったのでアップしよう。
"Salmo" Claudio Nucci & Zé Renato
「Ciranda da Bailarina」(3)は『O Grande Circo Místico』(83年)から。サントラ盤では子供のコーラス隊が歌っていた。ここではエドゥとヴァネッサがデュエット。エドゥとシコのコンビが歌う映像もどうぞ。
"Ciranda da Bailarina" Chico Buarque e Edu Lobo
「Sobre Todas As Coisas(ソブリ・トーダス・アス・コイザス)」(4)も『O Grande Circo Místico』から。サントラ盤ではジルベルト・ジルが歌った。マリア・ベターニア、ジジ・ポッシ、マリア・ヒタなど女性歌手のカヴァーに印象的なものが多い。ここではアイルトン・モンタホーヨスが歌う。
「Veneta(ヴェネータ)」(5)はDISC1-4、5と同じく『Cambaio』から。サントラ盤ではガル・コスタが歌った。ここではモニカが歌う。
「Primeira Cantiga(プリメイラ・カンチーガ)」(6)はパウロ・セーザル・ピニェイロとの共作。『Tantas Marés』ではエドゥとモニカがデュエットした。ここではヴァネッサとアイルトンがデュエット。
そしてまたシコと共作した舞台の音楽が2曲。「Tango de Nancy(タンゴ・ヂ・ナンシー)」(7)は『O Corsário do Rei』から。ここではヴァネッサが歌う。
「O Circo Místico(オ・シルコ・ミスチコ)」(8)は『O Grande Circo Místico』のメイン・テーマ。サントラ盤ではジジ・ポッシが歌った・ここではアイルトンが歌う。
「Salabim(サラビン)」(9)はパウロ・セーザル・ピニェイロとの共作で、テレビの子供向け番組『Rá-Tim-Bum(ハチンブン)』のために作った曲。ここで歌うヴァネッサ・モレーノは、自身の最新アルバム『SOLAR』でも子供とのデュエットでこの曲を歌っている。
「Silêncio(シレンシオ)」(10)はヴィニシウスとの共作だがエドゥのキャリア初期の作品ではなく、数年前にヴィニシウスの娘が発見した未発表の詩にエドゥが曲をつけ、エドゥ&ホメロ・ルバンボ&マウロ・セニージのアルバム『Quase Memória(クァジ・メモーリア)』(2019年)で初録音した。
このアルバムからもう1曲、「Terra do Nunca(テーハ・ド・ヌンカ)」(11)。パウロとの共作だ。ここで歌うゼー・ヘナートはボカ・リヴリのアルバム『Amizade(アミザーヂ)』(2013年)でも、この曲を歌っていた。
最後もシコ・ブアルキとのコンビの曲。『Cambaio』から「Uma Canção Inédita(ウマ・カンサォン・イネーヂタ)」(12)。サントラ盤ではシコがクラシカルな趣のホーン・セクションを従えて歌っていたが、ここではエドゥがパウロ・アラガォンのギターを従えてしっとり歌って締めくくる。
(ラティーナ2023年11月)
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