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[2024.10]ブラジル人ピアニストヒカルド・バセラールと、歌手レイラ・ピニェイロがジョアン・ドナートに捧げるアルバムをリリース!〜ドナートが亡くなる前に遺した未発表曲も収録〜

 ブラジル人ピアニスト/作曲家/音楽プロデューサーのヒカルド・バセラール(Ricardo Bacelar)が、歌手のレイラ・ピニェイロ(Leila Pinheiro)とタッグを組んで制作したアルバム『Donato』がリリースされた。配信も9/27から始まっている。

 アルバムタイトルからわかるように、本作はブラジルの音楽家で昨年7月に亡くなったジョアン・ドナートの楽曲が新たな解釈で収録されている。生きていれば、今年の8月17日で90歳の誕生日を迎えるはずだった。

 本作のヴォーカリストとしてレイラを誘ったのは、ヒカルドからだった。

「ドナートの作品に新たな視点をもたらすようなアルバムを作りたかった。レイラはジャスミン・スタジオのあるフォルタレーザまで来てくれ、レコーディング初日に早速二人で「ルガール・コムン(Lugar Comum)」「ア・ハン(A Rã)」の2曲を録音した。ミュージシャンでもある彼女と一緒にハーモニーを紡ぎながら、演奏・録音していく作業は全てが自然な流れで進行した。レイラは歌手としてもピアニストとしても、正確かつ要求の厳しいアーティストであり、我々二人のコミュニケーションは円滑だった」とヒカルドは話す。

「ヒカルドのスタジオはこれまで私がレコーディングに使ったことのあるスタジオの中でも屈指の素晴らしい施設で、ジャスミン・レコードという彼のレーベルの存在も知っていたが、随分変わったオファーだなというのが正直な印象だった。ドナート作品はそれまでに何曲もレコーディングしており、ステージでの共演も多い。1983年にリリースした私のファーストアルバムにドナートも参加しているし、私も彼のDVD「ドナトゥラル(Donatural)」に参加している。私にとって偉大な存在であるドナートに捧げるアルバムをこの時期に作ろうという選択肢は自分にはなかった」とレイラは話す。

「ヒカルドからオファーを受けた時には、ドナートの生誕90年に合わせた発表のタイミングが絶妙に思え、また自分にとっては大きな挑戦になると感じた。これまでに素晴らしいレコーディングやアレンジがされている曲に新たなアプローチを探すことは、ある意味では作曲家のオリジナルのコンセプトを解体するような作業といえ、ヒカルドのことを、そして彼が提案するものや、我々二人の出会いから生まれてくるものを全面的に信頼して、体当たりで取り組むことにした」と言っている。

 レイラのヴォーカルと、ヒカルドのピアノのアルバムだが、本作にはジャキス・モレレンバウムも全12曲中9曲で参加している。ヴォーカルとピアノにチェロが加わることで、さらに美しさが広がった。

 ジャキス・モレレンバウムについてヒカルドは、「彼とは以前アルバム『アンダール・コン・ジル(Andar com Gil)』のレコーディングで共演したこともあって参加を依頼した。今回のアルバムへのジャキスの貢献は大きく、曲のアレンジは我々三人が協力して作り上げたと言っても過言ではない」という。
またレイラも「我々はトリオとして一緒にジョアン・ドナートと共作者たちの作品を深く読み込んだ」と語っている。 

 アルバムに収録されたドナートの作品12曲は、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ホナウド・バストス、アベル・シルヴァ、シコ・ブアルキ、マルロン・セッチ、シルヴィオ・フラーガ、リジアス・エニオとの共作。この中で唯一の未発表曲である「コンタス・ジ・ヴィードロ(Contas de Vidro)」は、作曲者ドナートの生前に、ドナートの妻イヴォーニ・ベレンを通じてレイラの手に渡った。

「この曲はドナートとジョアン・ジルベルト、リジアス・エニオとの共作で、これまでインストゥルメンタルバージョンしか録音されていなかった。ドナートがイヴォーニとの電話中に『これを送ったら、レイラは大喜びするな』と言っていたが、まさにその通りになった。この曲と『ヴェルボス・ド・アモール(Verbos do Amor)』では私がピアノを演奏した」とレイラは話す。この曲と名曲「ナトゥラルメンチ(Naturalmente)」でヒカルドもレイラと共に歌っている。

©︎Nicolas Gondim

 ドナートもスペシャルゲストとして録音する予定だったが、それは叶わなかった。「リオに行って一曲ドナートにも参加してもらう計画だったが、残念なことにレコーディングの前に亡くなってしまった」という。

 本作以前にもレイラとヒカルドは、共演経験がある。2022年のシングル「セメンチ・ジ・マレ(Semente da Maré)」、2023年、ホベルト・メネスカル、ヂオゴ・モンゾ、ヒカルド3人によるアルバム「ノス・イ・オ・マール(Nós e o Mar)」(その中の「バイ・バイ・ブラジル(Bye Bye Brasil)」でレイラも参加)だ。いずれもヒカルドのレーベルである、ジャスミン・ミュージックからリリースされた。

 以前から親交はあったが、本作のサウンドは彼らが入念にこの作品を作り上げたことを反映している。

「ドナート作品の扱われ方については、最新の注意を払った。彼の楽曲のように偉大な作品に新たな解釈を加えようとする場合、大きな敬意や厳密さが求められる」と2人は言う。そして、このアルバムには若い世代のピアニストや歌手、アレンジャーに、ドナート作品を紹介するという役割もあるだろうと考えている。

「聴いた人が驚くような独自の視点を与えることができるのはとても興味深い経験だった。このアルバムは言うなれば誰も見たことのないジョアン・ドナートの肖像写真だと言える。」

 

プロフィール
Ricardo Bacelar(ヒカルド・バセラール)
ピアニスト/作曲家/音楽プロデューサー。自身のレーベルであるジャスミン・ミュージックを立ち上げ、現在ブラジル国内で最も重要なレコーディングスタジオのオーナーでもある。リオデジャネイロの人気グループ、ハノイ・ハノイのメンバーとして長年活躍。
ソロアーティストとしては、ベルキオール、イヴァン・リンス、ジルベルト・ジル、ファギネル、ホベルト・メネスカル、フラヴィオ・ヴェントゥリーニ、エヂナルド、アメリーニャといった大物ミュージシャンたちとレコーディングしている。また米国のジャズ専門ラジオ局で最も頻繁にオンエアされたアーティストの一人に入ったことが2度ある。ヨーロッパや日本でもツアーを行っており、2024年には東京ブルーノート・プレイス公演を含む8公演の日本ツアーを開催した。

Leila Pinheiro(レイラ・ピニェイロ)
MPBやサンバ、ボサノヴァの歌手であり、ピアニスト、作曲家としても活躍し、44年のキャリアを持つ。ホベルト・メネスカルがプロデュースしたアルバム『Bênção Bossa Nova(ベンサン・ボサ・ノヴァ)』の記録的ヒットでボサノヴァアーティストとしての名声を確立。これまでに多くの賞を獲得しており、来日公演も行っている。アントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ドナート、イヴァン・リンスらブラジル音楽を代表するアーティストとも共演。
代表曲はジョビン作曲の「Espelho das Águas(エスぺーリョ・ダス・アグアス)」、フラヴィオ・ヴェントゥリーニ(Flávio Venturini)とムリロ・アントゥーニス(Murilo Antunes)作曲の「Besame (ベサメ)」など。ピアノは10歳から演奏している。

(ラティーナ2024年10月)


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