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東京タンゴ祭復活!演奏力の高さを世界が認める日本のタンゴ界から代表的4バンドが登場!

文●西村秀人 texto por Hideto Nishimura

 来たる7月2日、東京タンゴ祭2021が実施される。「タンゴ」がユネスコの無形文化遺産に登録された翌年の2010年以来、日本のタンゴ演奏家を一堂介して開催された人気イベントで、毎年のように開催されてきていたが、タンゴに限らず、このコロナ禍の中で、音楽家にとってライヴ活動を行うのが厳しい状況の中、しかるべき感染対策をもってこうしたコンサートが復活されるのは大変に意義深い。
 演奏予定曲目も出てきているので、それも合わせ改めて出演者を紹介しよう。

京谷弘司クアルテート・タンゴ

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 今年2021年はアストル・ピアソラの生誕100周年。そのアストル・ピアソラが来日した際、「近い将来アストル ・ピアソラのライバルとなるコウジ」と称賛されたことはよく知られている。日本の戦後タンゴ・ブームの最後期1965年に早川真平率いるオルケスタ・ティピカ東京にバンドネオン奏者として参加した京谷は、ブームが去り仕事が減った厳しい時期に、東京のタンゴ・バーでファンのリクエスト曲をバンドネオン・ソロで演奏するという荒行のような時も過ごしてきた。そんな時期を経て、自己のトリオを結成(ピアノ:小松真知子、ベース:小松勝)、初アルバム『明日へのメッセージ』には、名曲の優れたアレンジに加え、京谷自身と熊田洋の作品も含め、日本のタンゴがようやく新しい次元に入ったことを告げるアルバムとなった。その後もトリオやクアルテートを率いて長く活動、優れた自作曲をまじえながら新旧のタンゴを演奏し、アルバム制作も続けてきた京谷。今回は自作とピアソラのナンバーを3曲づつ取りあげる予定だ。京谷の代表作ともいえる「シエンプレ・ア・ブエノスアイレス」(いつもブエノスアイレスに向けて)をはじめ、京谷の自作は現代の色を強くにじませており、ピアソラ作品と続けて演奏されるのは意義深い。ピアソラ作品からは「アディオス・ノニーノ」「ブエノスアイレスの夏」「タンガータ」が登場する予定。1991年から長く京谷と共演してきた淡路七穂子(ピアノ)、柔軟性と鋭さをあわせもった喜多直毅(バイオリン)、タンゴに欠かせないグルーヴ感の持ち主、田辺和弘(コントラバス)とのアンサンブルでじっくり聞いていきたい。

小松真知子とタンゴ・クリスタル

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 1986年という、アルゼンチン・タンゴ界に再び大きな光があたり始めた、まさにその年に活動を開始したタンゴ・クリスタル。やはり日本のタンゴ・ブームの最後の時代にタンゴ界で活躍し始めたピアノの小松真知子と、夫でありギター&編曲担当の小松勝が結成した(そしてこのお二人の子息がバンドネオンの小松亮太である)。今でこそ女性ピアニストの多い日本タンゴ界だが、小松真知子はその先駆けともいえる存在。クリスタルはホールでの定期コンサートや、ホテルやレストラン、船内での演奏など多様な場所で演奏することでタンゴ・ファンを増やし、アルゼンチンを含む海外でも公演、その名声は内外に広く伝わっている。今回は自己のプロジェクトにおける多様な活動でも知られる早川純(バンドネオン)、共にトラディショナルなスタイルに特に本領を発揮する専光秀紀と宮越建成(バイオリン)、京谷クアルテ―トと掛け持ちで登場する田辺和弘(コントラバス)という面々に、クリスタルとの長い共演歴を持つボーカルの小島りち子も参加。
 選曲は今のタンゴ・ファン向けに少し凝ったラインで、オスバルド・ベリンジェリ作の豪快なミロンガ「コンパドリータ・ミア」、オスカル・エレーロの「ケフンブローソ」(不平屋)、アリエル・ラミレスの「巡礼」、フェデリコの「ヒロコ・エン・ブエノスアイレス」、パオラとルカスのダンスを加えて「バンドネオンの嘆き」などの予定だ。

オルケスタ・アウロラ

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 バイオリンの会田桃子とピアノの青木菜穂子の双頭バンドで、2008年から活動を開始、2009年、2010年、2013年と順調にアルバムを発表してきた。メンバーも含め、日本のタンゴ界でもっとも忙しく活躍し、国内外で研鑽を積んだアーティストたちの集合体でもあり、リーダーの会田と青木はデュオでも活動していたりするのだが、このバンドでは6人編成ならではのダイナミズムと独自の編曲が追求されているところが特別だ。
 オルケスタ・アウロラとしては久しぶりのコンサート登場となる感じだが、メンバーは常日頃から様々な形で共演しているメンバーばかり。今年自己のクアルテートでも素晴らしいアルバムを発表した鈴木崇朗(バンドネオン)、ジャズ、ジプシー音楽など多彩なジャンルで活躍する吉田篤貴(ビオラ)、室内楽やミュージカルも含め、日本の多様なアーティストとの共演歴も持つ島津由美(チェロ)、ジャズとタンゴを中心にしつつもやはり多様なアーティストとの共演を果たしている西島徹(コントラバス)という、弦の厚いセステートがどんな演奏を聞かせてくれるか、乞うご期待である。青木のオリジナル曲や会田桃子の新編曲による「リベルタンゴ」が予定されており、聞き逃せない。
 今回は歌手として、タンゴへの追及心なら誰にも負けないKaZZmaが参加する。自身のギター弾き語り、ギター・トリオ伴奏、バンドネオン・ソロ伴奏、オルケスタ伴奏とどんな形態にも挑戦し、成果を出してきたKaZZmaがオルケスタ・アウロラとどんなコンビネーションを見せてくれるのかにも要注目。曲目は「ロコへのバラード」などを予定。

仁詩&BANDA NOVA

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 海外での活動も目ざましく、民俗音楽からジブリまでタンゴの枠にとらわれない幅広い活動で知られるバンドネオン奏者で、昨今のコロナ渦ではタンゴ界屈指のインターネット配信通と言ってもよい仁詩が、負けず劣らず様々なジャンルで活躍するメンバーと組んだのがBANDA NOVA。ピアノの須藤信一郎はタンゴ、ジャズを中心にポップス、シャンソンでも活躍、近年は八代亜紀の専属ピアニストでもあるという。ギターの田中庸介はブルースやジャズをバックグラウンドに持ち、ブラジル音楽やタンゴにも取り組み、その活動の幅はかなり広い。そんな多極的にアンテナを張り巡らし、様々な現場で研鑽を積んできた3名が紡ぎ出すオリジナル・タンゴが面白くないわけがない。今回は別途オルケスタ・アウロラを率いて登場するバイオリンの会田桃子が2曲に参加予定。ここしばらく仁詩との共演が多い会田がBANDA NOVAとどんなスタイルで取り組むのか、大いに期待できる。メンバーのオリジナルが中心だが、会田は名曲「パリのカナロ」に参加する。


 世代の多様性という意味でも、それぞれの音楽性の方向性の豊かさという意味でも今回の4組のコンビネーションは今のタンゴ界を象徴する実に興味深いものだ。

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