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[2022.6]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ㉓】 「スカウトソング」になったニュージーランド先住民マオリの歌 ―「ユポイ ヤイヤ エーヤ」の伝播の軌跡―

文●小西 潤子(沖縄県立芸術大学教授)

 ボーイスカウトやガールスカウトをご存じでしょうか?街頭での募金活動、国民祭典や国体などでのパレードで見かけたり、もしかしてご自身が(元)スカウトだったりするかも知れませんね。1908年1月、ロンドンにボーイスカウト英国本部を設置しスカウト運動を始動したのは、イギリスの退役将軍ロバート・スティーヴンソン・スミス・ベーデン=パウエル Robert S. S. Baden-Powell (1857-1941)。日本では1922 年4 月13 日、後藤新平総裁らのもとで少年団日本連盟が結成され、ボーイスカウト国際事務局に正式加盟しました。

 今年は、ちょうどそれから100年を迎えます。この間、スカウト活動にはたくさんの(元)少年・少女が参加してきました。2021年時点では、ヨーロッパのアンドラ公国、中国、キューバ、北朝鮮、ラオスの5か国を除く172の国と地域で、5,700万人以上のスカウトが活動しているそうです。

 私事ではありますが、いまの私の考え方や行動の基礎になったのは、小学校2年生のとき母親に連れられて入団したガールスカウト(正式には、年少女子が所属するブラウニー)体験でした。親しい英国や米国の研究者もスカウト出身だと聞き、スカウト活動が研究のためのフィールドワークに結びついたのだろうか、と少し気になっています。

 私にとって特に思い出深かったのが、1971年静岡県朝霧高原で開催された第13回世界ジャンボリー(世界スカウトジャンボリー)です。1920年から4年に一度ヨーロッパやアメリカで開催されてきた国際的なジャンボリー(キャンプ大会)がアジアで行われたのは、1959年第10回フィリピン大会以来のこと。参加者数は、第1回ロンドン大会で8,000人。その後12,000~30,000人程度で推移してきた中で、「相互理解 For Understanding」をテーマとして掲げた朝霧高原での大会参加者は、23,000人という盛況ぶりでした。その時、世界各国のスカウトが特設舞台で、歌や踊りが披露しあった「スキル・オ・ラマ Skill-O-Rama」を含む映像記録が残っています。

第13回世界ジャンボリー

 私たちは、おそらく大会も部分参加だったのでしょう、歌や踊りを見た記憶はありません。また、キャンプではなく「さつき荘」で合宿しました。明確に覚えているのは、行き会う人に「サイン、プリーズ」と声をかけてサイン帳に記帳してもらったり、バッジやコインをたくさんもらったりしたことです。
 
 スカウト活動では、「スカウトソング」をうたいます。『ボーイスカウト歌集』には、キャンプファイヤーなどで機運を高めるときのイエールの歌として、「ズン ガリ ガリ Zum Gali Gali」(パレスチナ民謡)、「アチャ パチャ ノーチャ Acha Paacha Nocha」(ラップランド民謡)、「ヘベヌ・シャロム・アレヘム Hevenu Shalom Aleichem」(イスラエル民謡)など50曲があげられています。このうち、 “It’s A Sall World”(R. M. Sherman & R. B. Sherman)、「大きな歌」(中島光一作詞・作曲)など5曲以外の全体の90%が、どこかの国や地域のあまり知られていない歌なのです。それらの情報は極めて少なく、日本では意味不明のまま振り付けを伴う「アクションソング」としてうたい継がれてきました。

 それから30年以上経った2004年、太平洋芸術祭(開催地:パラオ)でのこと。ニュージーランド先住民マオリのグループが、私の覚えていたスカウトソング「ユポイ ヤイヤ エーヤ」と同じメロディの歌をうたいながら、ハカ・ポイ haka poi を踊ったのです。ちなみに、日本ボーイスカウト豊中第20団や同横浜74団のホームページには、「ユポイ ヤイヤ エーヤ」の振付が掲載されています。

 マオリといえば、ニュージーランドのラグビーユニオンナショナルチーム・オールブラックスが試合前に行う、儀礼的なハカ haka が有名ですね。一方、ハカ・ポイとは、植物の繊維などを球状にして紐に結びつけたものを振り回しながらうたい踊る様式の踊りのことです。現在では女性の遊戯踊りと見なされていますが、かつては若い男性も行う儀礼的な踊りだったとも言われています。

写真1 マオリのハカ・ポイ
(グアム、2016年5月24日 撮影:小西潤子)

 次の動画は、ハミルトンにあるンガ・タイアテア Nga Taiatea 高校の生徒によるハカ・ポイです。紐の短いポイが用いられていますが、紐の長いものもあります。また、ここでは西洋風のハーモニーを伴う歌または語りにギターの胴を叩いてリズム伴奏をしていますが、コードをつけてギター伴奏をする演目もあります。

Nga Taiatea - Poi (Tainui Waka Kapahaka Festival 2021)

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