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[2023.2] 【島々百景 第80回】 ブエノスアイレス② アルゼンチン

文と写真:宮沢和史

 南米の国土の広い国々の地図を見ていると、長年培った日本的な “縮尺感覚” が当てはまらずに自分自身のサイズを見失うような感覚によく落ち入る。例えば、川沿いにいくつか集落があったとして、経験値から川幅を参考に集落間の距離を推測してみようとするものの、実際はその何倍もの距離だったなんてことがよくある。

 アルゼンチンのブエノスアイレス市は海に面しているように見えるがそうではなくてラ・プラタ川の河口に位置している。そこから海水浴をするために有名なビーチであるマル・デル・プラタへ行こうとするとノンストップで5時間以上かかる。地図で見るより遥かに遠いのだ。しかも、日本の高速道路での移動感覚とは異なるので距離と時間の相関関係がイメージできない。簡単に言えば南米はそれだけ広大なのだ。

 ブエノスアイレスに初めて行った時の感動は今でも色あせることはない。それまで南米はブラジルしか知らなかった自分にとって “南米のパリ” という謳い文句はよくイメージできなかったが、いざその地に立ってみるとブエノスアイレスが歩んできたいくつもの歴史が現在というキャンパスに緻密に描かれた絵画のような映画のように感じられた。誰かが「ブエノスアイレスは雨と夜がよく似合う」と言っていたが、本当にその通りで、その美しい絵画に艶やかさと奥行きが加わり、ため息が溢れるほど見惚れてしまう。とはいえ、朝も昼も、晴れた日も曇りの日もブエノスアイレスは美しい。ブエノスアイレス市内だけを何度となく旅し、大いに楽しむことはできるが、車でもう一歩足を伸ばしてみるのもいい。

 ブエノスアイレス中心部から北西に1時間弱車を走らせるとティグレ(Tigre)という観光地に着く。ティグレとは日本語で虎。かつてここには野生の虎やジャガーが生息していたようだがもちろん今はいない。ここはマリーナのある避暑地としてお金持ちをターゲットにしたリゾート開発を進めていて多くの移住者を受け入れている。少々強引な例えだが、軽井沢とか葉山のような存在と言っていいかもしれない。ホテルやレストラン、カフェなどが充実していて、ブエノスアイレスから気軽にドライブできるコースとして最適な場所だと言えるだろう。

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