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[2020.10]【TOKIKOの 地球曼荼羅③】生命力の猛威-ブラジルの奇跡

文●加藤登紀子

①ペルーの出会いからブラジルの旅へ

 フランス語では、前の言葉の最後の音を、後に続く音とくっつけて発音することがあります。例えば「tres important」を「トゥレ ザンポルタン」という風に。
 そのリエゾンと全く同じように、ひとつの旅のちょっとしたことが、次の旅の大事な出会いにつながって来ちゃうことが、ほんとに多いです。

 中南米を旅した1974年、ペルーのクスコの空港に私と同じ飛行機で一人の日本人男性が降りたのです。一人旅だった私はちよっと頼りにしたくて声をかけようとしたのですが、うっかり姿を見失ってしまったのでしたが、クスコの遺跡、マチュピチュで、列車を降りて歩く列の中にその人の姿を見つけた時、私は大声で「おじさーん!」と呼んだのでした。日本人は他にいないので、その声は確実に届き、それをきっかけに、クスコのその夜は楽しい夕食になりました。

 その人が、「もしブラジルに行ったら是非訪ねなさい」と一人の画家を紹介してくれたのです。

 ペルーからボリビア、アルゼンチンと旅をした最後に訪れたのがブラジル。サンパウロでは、私を待ち構えてくれていた人が多くて、日系人のテレビに出演したり、若い2世の人たちとボサノバを聴きに行ったり、滞在の時間があっという間に過ぎ、残すは後1日と言うことになってから、紹介された画家さんとやらに、お会いすることが無理と、お伝えするために電話をかけたのです。すると、彼が、「とにかくすぐにいらっしゃい!素晴らしいブラジル、知って欲しいよ」というのです。私はその一言に乗って、泊めていただくはずだったお宅にさっさとお別れを言って、まだ会ったこともいないその画家を訪ねたのです。

 今から思えば、なんと失礼なことをしたんだろうと、赤面するような思いですが、この直感は正しかった!

 行ってみるとそこには日本語の通じない2世、3世の若者たちが集まっていて、楽しいフィエスタ(晩餐)の最中でした。札幌出身の彼はブラジル滞在20年、画家としての第一人者として活躍しているのでした。

 「あなたはブラジルの海を見ましたか?」というので、「いいえ」と答えると、「じゃあ、美しい海を登紀子に見せよう!」ということになり、その夜中に車で出発。翌朝イリアベーラという美しい海辺にたどり着き、ある大金持ちの所有する島に渡ったのでした。

 農夫や料理人も住み着いたその家で、海に身を任せ、ピンガを飲み、美味しい食事をし、ゆったりと過ごした夢のような1日は、すべてが想定外!そこにあったギターで私も歌い、みんなが思い思いにおどったり、うたったり……。

 誰かが歌を聞かせてくれたわけではないけれど、確かにブラジルの音楽を一番感じることの出来た時間だったと思います。


②リオからの小さな旅。

 夜中にまた車でサンパウロに戻り、その足で私は空港からリオに向かい、リオでも知人に紹介された見知らぬ人の家を訪ね、そこでまた不思議な人に会ってしまい、思いがけない旅になったのです。

 その人は日本から移住しブラジル人と結婚、柔道クラブを開いていて、指圧とお灸と心霊術の心得があると言うヒッピー風の人。

 「心の旅をしよう」ということになり、またまた5人ほどで車に乗り、リオ・プレートという小さな街へ出かけたのです。彼がその町の市長のお姉さんを知っている、というそれだけを頼りに行ってみると、その市長さんの娘さんがちょうど空いている建物があると、大きな池のほとりの不思議な古い建物を紹介してくれて、その夜はその古家で過ごすことになったのでした。月の美しい夜で、この世のものと思えない幻想のひと夜。

 翌日、町を出て車を走らせると石灰質の小高い放牧地が続き、そこに小さな川がキラキラと蛇行している!流れの間に鍾乳洞のような不思議な地形がある謎の川。その川に沿って森の中に入り、石ころだらけの渓流を歩いていくと、美しい少年が現れた。彼の後をついていくとそこに小学校があり、教室ひとつの小さな学校に先生が一人。

 ヒッピー男は、せっかくだからと、授業をしようといいだし、教室に入ると、子供達はさまざまな顔で肌の色もいろいろ。ああ、これがブラジル。彼は黒板に「愛」という時を書き、「日本語で最も美しい字です。」と説明をし、私も一曲、とすぐに歌えそうな歌を、と「鳩ポッポ」をアカペラで歌ったのでした。

「一緒に歌ってみましょう」と言ったら、なんか急に変な空気!

 実は「ポッポ」が男の性器の呼び名だとかで大笑いになった。とんだ音楽の授業になってしまって…… 笑。

 そこから少し行ったところにサンタ・クララという昔の豪農の家の跡を訪ね、黒人奴隷を窓のない部屋に住まわせた昔のブラジルの暮らしを覗き、動物小屋と土間のある台所で今も働く、黒人のお婆さんと話し込み、ブラジルの奥深く根付いている日常に触れることが出来たのでした。その街が地図の上のどこだったかも定かではない、この突然の奇妙な旅、今も夢の中の出来事だったように思えてなりません。


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