[2022.12]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ㉙】 「南洋踊り」の伝播 ―ミクロネシアから小笠原へ―
文●小西 潤子(沖縄県立芸術大学教授)
小笠原諸島には、「南洋踊り」という珍しい踊りが伝わっています。踊り手は、腰みの、首飾り、花や葉を添えたタコの葉細工の頭飾りを身につけ、男性は上半身裸。しかも、割れ目太鼓の伴奏に合わせた「レフト、ライト…」の掛け声に行進のような足踏み、外国語のような歌詞からなる歌をうたいながら踊ります。これが、「江戸の祭囃子」などと並んで、東京都指定無形民俗文化財だと聞いたら、ちょっと驚きますよね。
小笠原・父島 南洋踊り(Nanyo Dance, Chichijima, Ogasawara Islands)
演目は、「ウラメ」「夜明け前」「ウワドロ」「ギダイ」「アフタイラン(あるいは「締め踊りの歌」)」からなり、この順番にメドレーでうたいながら踊り、その前後に「レフト、ライト…」の号令とその場足踏みを挿入します。ちなみに、「ウワドロ」の歌詞は次の通りです。
実は、小笠原諸島の南洋踊りの原型は、サイパン島のレファルワシュRefaluwasch(通称カロリニアン Carolinian)のマース maas なのです。《ウワドロ》の元となった演目は、現在のレファルワシュのマースにも含まれています。
tipiyeew dancers “apangaagh”
この入場曲…よく聴くと、「♪そ~らそらそら、も~っとやれ…や~れやれやれ、も~っとやれ」とうたっていませんか?!それもそのはず、両大戦間に日本の統治支配下におかれたミクロネシアでは、日本語(混じり)の歌が盛んに創作されました(2020年12月号)。北マリアナ諸島でも、当時大流行していたマースの踊り歌に日本語(混じり)の歌が用いられたのです。それでも、日本語だと言われないと気づかないかも知れませんね。同じように、小笠原の「ウワドロ」の歌詞も、口伝えされるうちに、中央カロリン語の発音が随分変化してしまいました。
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