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[2022.11]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2022年11月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 VRï · Islais a Genir

レーベル:Bendigedig [23]

 ウェールズ出身の若手音楽家トリオ VRï のセカンドアルバム。2018年にデビューアルバム『Ty Ein Tadau』をリリース、数々の賞を受賞し好評価を得た。本作はそれ以来の作品となる。フィドル(ヴァイオリン)、ヴィオラ、チェロによる弦楽トリオで、ウェールズ語と英語で歌っている。
 彼らの出身地ウェールズでは、ラグビーソング、男声合唱団などが盛んで「歌の国」と言われている。メンバーそれぞれが小さい頃からウェールズの伝統音楽や賛美歌などと触れ合う環境で育ち、音楽大学に進学。大学卒業後はウェールズの伝統音楽のシーンで活躍し始めた。フィドル担当のパトリック・ライムス(Patrick Rimes)は、人気グループ Calan の創設メンバー、チェロ担当のジョーダン・プライス・ウィリアムズ(Jordan Price Williams)は、コントラバス、ウェールズ・バグパイプ、ハルモニウムなども演奏しウェールズの伝統音楽グループ Elfenと No Good Boyo のメンバー。フィドル担当のアネイリン・ジョーンズ(Aneirin Jones)も No Good Boyo のメンバーで、そして、3人はウェールズの伝統音楽とロックやファンク、ラップ等を演奏する若手人気グループ Pendevig のメンバーでも活動している。各々で活動していたが、3人で一緒演奏したのは2014年12月、テレビのショー番組でだった。ユニット名 VRï とは直訳すると「上へ」という意味だが、高揚感や軽さ、浮遊感といった意味合いも含んでいる。自分達の音楽を「ボーカルと楽器の室内楽」と表現し、ドラムやキーボードなどの楽器は一切使用せず、弦楽器と彼らの声とハーモニーのみのシンプルな構成となっている。長く抑圧されてきたウェールズ語を使い、ウェールズの伝統的なメロディーを独自に解釈、彼らのアイデンティティや多様性の尊重などを音楽で表現している。本作品では、詩人で歌手の Beth Celyn も朗読、ゲストヴォーカルで参加、女性の地位向上や文化の自由などのメッセージを織り込んでいる。
 実力派メンバーのユニットだけあって、弦楽器のハーモニーはさることながら、歌のハーモニーもすごく美しく、とてもメランコリック。シンプルな構成だが決して単調ではなく、若いエネルギー、高揚感を感じられる作品。このようなバンドがいくつも存在するのなら、ウェールズ伝統音楽の未来は明るいだろう。

19位 Okra Playground · Itku

レーベル:Nordic Notes [-]

 フィンランド・ヘルシンキを拠点に活動する6人組ユニット Okra Playground の3rdアルバム。伝統的なフィンランドの音楽を新鮮なアプローチで演奏したいという共通の思いを持ったミュージシャン達により2010年に結成された。本チャートでも何度かランクインしているミュージシャン、マイヤ・カウハネン(Maija Kauhanen)、パヴィ・ヒルボネン(Päivi Hirvonen)もこのユニットのメンバー。2016年にデビュー作『Turmio』、2018年には2ndアルバム『Ääneni yli vesien』をリリースし、どちらも好評を博した。それ以来、ヨーロッパをはじめとした海外でのフェスに多く出演、ツアーも開催し、世界で認められるユニットとなった。
 弦楽器のヨウヒッコ(jouhikko)や、カンテレなどフィンランドの伝統的な民族楽器を使い、エレクトロやポップ、ロックなどの影響を受けた現代的なサウンドに仕上げている。
 本作品のテーマは、変化、成長、矛盾。パンデミックやウクライナの戦争など、世界を揺るがすような社会問題を扱ったオリジナルの楽曲を作り、彼ら自身のメッセージを歌詞に込めている。3人の女性メンバーのヴォーカルも美しく、神秘的なエネルギーが感じられる。伝統と現代が融合されている素晴らしい作品。

18位 BKO · Djine Bora

レーベル:Les Disques Bongo Joe [9]

 マリの五人組ユニットBKOの最新作で、本作が3作目となる。2015年にワールドミュージック・フェス「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」で来日(その時のユニット名は BKO QUINTET)、大盛況のステージだった。2017年にリリースされた2ndアルバムも好評を博した作品だったが、本作はそれ以来5年ぶりのリリースとなる。
 BKOとはマリのバマコ空港のコードのことで、文字通りバマコを拠点に活動しているグループ。アフリカ音楽の新世代として注目されている。グリオが使う伝統的な弦楽器ジェリ・ンゴニ、狩りの儀式に使う弦楽器ドンソ・ンゴニを電気増幅させて演奏、そこにジャンベ、パーカッションのリズムセクション、グループのカリスマ的シンガーであるファサラ・サッコの嗄れた声のヴォーカルが加わり、彼ら独自の新しいサウンドを生み出している。
 本作のタイトルは「精霊の出現」という意味。マリの最近の状況は、2020年に軍事クーデターが起こるなど政治的にもとても厳しい状況。マリの精霊たちを彼らの音楽で呼び起こし、マリの政治的危機や貧困など人々の身近の問題に訴えかけようとしている。神秘的でいて、彼らの熱いエネルギーが感じられる。

17位 Eneida Marta · Family

レーベル:Azziz Music [-]

 西アフリカの小国、ギニアビサウ共和国出身の歌手エネイダ・マルタの最新作。2001年デビューし本作がソロ作品として6作目のアルバム。2019年にリリースされた前作『IBRA』は世界的にも大きく評価された。
 ポルトガル語とギニアビサウ・クレオール語で歌い、多様なジャンルの楽曲を伸びやかなヴォーカルで表現してきた。現在はポルトガルを拠点にしているが、生まれ故郷ギニアビサウへの愛は持ち続けており、ユニセフから大使を任命され人道的な活動も行っている。
 本作のプロデュースは、彼女の末息子であるルーベン・アジス(Rúben Azziz)、共同プロデュースは彼女の弟でアンゴラ在住のSSW、ジェルソン・マルタ(Gerson Marta)が担当。アルバムジャケットは、彼女の両親の結婚式の写真が使われ、録音は「a family studio in Portugal(ポルトガルの家族のスタジオ)」で行われた。まさにタイトル通り「家族」で作ったアルバム。
 本作には、ギニアビサウの政治状況に対する反乱の叫びを表現した楽曲「Kuma」(2020年8月3日にシングルでリリース:8月3日は1959年に首都ビサウでピジギチ虐殺が行われた日)や、祖国が豊かな国になること、復興への希望を表現した楽曲「Allan Guiné」など、祖国に対するメッセージが込められている。アルバムの最後は自身の母(現在74歳、ロンドンに20年以上在住)へ捧げる楽曲「Mama」で締めくくられている。
 プロデューサーの若い感性と、 “サウダーヂ” 感があふれる彼女の声との融合がたまらなくいい!祖国と家族を愛する彼女だからこそできたとても素晴らしいアルバム。

16位 Oumou Sangaré · Timbuktu

レーベル:World Circuit / BMG [5]

 マリ・バマコ出身のベテラン女性歌手ウム・サンガレの最新作。
 5年ぶりの作品で、本作が9作目となる。現在のマリ、コートジボワール、ギニアの3カ国の国境が交わる地点を囲み、ワスル川流域にある文化圏および歴史的地域でもあるワスル地方の伝統音楽、ワスル音楽を代表するアーティストでもある。
 1989年に1stアルバムをリリースして以来精力的に活動しており、これまでリリースされたアルバムがグラミー賞のベスト・ワールド・ミュージック・アルバムにノミネートされるなど、大きな評価を得ている。また、アリシア・キーズとテレビ番組でデュエットしたり、同じマリ出身のアーティストAya Nakamura が彼女に捧げる歌「Oumou Sangaré」をリリースしたり、2019年にはビヨンセが映画『ライオンキング:ギフト』のサウンドトラック「Mood 4 Eva」で、彼女の代表作の一つ「Diaraby Néné」をサンプリングするなど、多くのアーティストから慕われている偉大な存在。
 本作はパンデミック中に渡米したところロックダウンとなってしまい、滞在が延長され、その中で生まれた楽曲がほとんどを占めている。同郷の旧知の友人であるカマレ・ンゴニ奏者のママドゥ・シディベとともに楽曲制作を行った。彼女の30年にわたるキャリアの中で一番、音楽、歌詞に向き合った時間だったと言う。
 タイトルの『Timbuktu』は、マリ中部にある砂漠の民トゥアレグ族の都市のこと。崩壊の危機にあるマリの現在の政治状況を憂慮し、かつて栄えたこの都市がマリの象徴である歴史に希望を見出すべく名付けられたそうだ。また、アフリカの悪しき習慣、強制結婚や一夫多妻制などで制限されている女性達の状況も表現している。強く訴えているかのような低くパンチのある声、そして時には女性達に寄り添うような優しさ溢れる声がとても印象的。ワスル音楽の伝統的なリズムと現代的なアレンジがうまく噛み合い、サウンドが心地良い。
 彼女は実業家でもありマリで事業を興し、そこで雇用を生み、また彼女自身の財団を作り生活に困難な女性や子供達を支援するなど、音楽活動だけに留まらず、社会活動にも大きく貢献している。マリはもとよりフランスからも勲章が授与され、ユネスコ賞も受賞、2003年に彼女は国際連合食糧農業機関 (FAO) の親善大使も任命されている。
 彼女の活動、社会的貢献を考えると、本作はヒューマニズムの信念に基づく芸術活動の集大成とも言える説得力のあるアルバムだと言えよう。

15位 Ernesto Djédjé · Roi du Ziglibithy

レーベル:Analog Africa [29]

 1960年後半から1983年までコートジボワールで活躍したミュージシャン、エルネスト・ジェジェの黄金期とも言える1977~1982年の音源を収録した復刻アルバム。貴重なアフリカの音源をリリースし続けているドイツのレーベル、Analog Africa からのリリース。
 コートジボワール発祥のポピュラー音楽 ジグリビティ(ziglibithy)を生み出したのがエルネスト。西部のベテ族を中心とした民族の伝統的な音楽と、スークース(soukous:コンゴのダンス音楽)、マコッサ(makossa:カメルーンのダンス音楽)、ファンクなどのジャンルを融合させた音楽である。“砂糖” を意味する「zigli」と “音楽を超える” を意味する「bhithy」からの造語で「甘く、蜂蜜のような、甘美な、柔らかい歌で、人が抗えないもの」という意味を表している。詩人でもあったそうだからこの表現がなんともお見事!
 1968年パリに移住し、1973年コートジボワールに戻ってきた。それからジグリビティを生み出し、国内はもちろん国際的にもヒット、カメルーンやブルキナファソなどアフリカの他の国でも大流行し、彼は国民的スターとなった。ところが、1983年に35歳で突然謎の死を遂げてしまう。
 彼の死後、1990年にコートジボワールで生まれたダンス音楽、ズーグルー(zouglou)や、ヨーロッパ音楽と融合しパリ、コートジボワールで大流行したダンス音楽、クーペ・デカレ(coupé-décalé)もジグリビティの影響を受けており、彼の功績は非常に大きいと言えるだろう。
 アルバムタイトルは「ジグリビティの王様」、まさに彼が生み出した音楽を堪能できる作品。ファンク、ソウルにも通じる中毒性ある軽快なグルーヴ感がなんとも堪らない!

14位 Ali Doğan Gönültaş · Kiğı / Gexî / Kegui

レーベル:Ali Doğan Gönültaş [15]

 イスタンブール出身のトルコ系クルド人バンド Ze Tijê のリードヴォーカル Ali Doğan Gönültaş のソロ作品。バンドは2007年に結成され、2015年にデビューアルバムをリリース、現在まで2作品をリリースしている。2018年頃よりソロで活動をはじめ、ソロコンサートも行なっていた。本作がソロアルバムとして初めてのリリースとなる。バンド活動だけでなく、映画音楽の制作や、テレビ番組にも出演するなど、幅広い活動をしている。
 本作のタイトルは、トルコ東部にある彼の生まれ故郷の街の名前だそうだ。彼自身の物語と、この地域の150年の歴史と文化に音楽的、そして言語的な側面からスポットを当て表現しているとのこと。この地方の言語であるザザキ語をはじめ、クルド語やトルコ語でも歌っている。この地方の伝統的な音楽だけでなく、彼が思い描いていた実験的な要素も本作で表現されている。ソロ作品ではあるが、楽器やヴォーカルでサポートメンバーも多数参加している。彼本人のヴォーカルだけでなく、女性ヴォーカルの曲もあり、男声と女声が交互に歌っている曲などバラエティ豊な曲が多数収録されている。トルコの弦楽器であるバーラマや、メイ、ドゥドゥク、ズルナ、クラリネットなどの木管楽器の音色が、彼の世界観にぴったり嵌まっている作品。

13位 Purbayan Chatterjee & Rakesh Chaurasia · Saath Saath

レーベル:Purbayan Chatterjee / Believe [17]

 インドのシタール奏者 Purbayan Chatterjee と、その友人でバンスリ(インドの竹製フルート)の名手 Rakesh Chaurasia による最新作。二人の他にもタブラ奏者二名(Ojas Adhiya, Satyajit Talwalkar)が参加している。
 北インドのラーガ(旋律を基本とするインド古典音楽の音楽理論、旋法)の精神と伝統に則って即興演奏した、全7曲(本作の場合、7ラーガとも言う)が収録されている。ラーガは演奏するのにふさわしい時間帯やムード、感情があるそうで、本作では夜明けのラーガからスタートし、昼と夜が行き交うというテーマで演奏された。1曲が10〜19分で、CDでは2枚組、合計1時間45分のボリュームとなっている。Purbayan は Ojas と、Rakesh は Satyajit とのデュオ作をそれぞれ過去にリリースしており、今回はこの4人が集結した作品。前半3曲は、Purbayan と Rakesh 、そしてそれぞれのデュオの演奏、後半の4曲は4人での演奏が収録されている。
 Purbayan と Rakesh は20年来の友人で、古典の伝統を重んじながらも、その枠にとらわれず、異なるジャンルの音楽を取り入れるなど果敢に挑戦してきた。Purbayanの前作となる2021年リリース作品『Unbounded Abaad』は、プログレッシブ・ジャズ・ロックであったし、また Rakeshはフュージョンバンド「Rakesh and Friends」でも活躍している。
 本作のタイトル『Saath Saath』は、「一緒に」や「一緒に何かをする」という意味。彼らの友情を前面に押し出し、シタールとバンスリという楽器を通して、2人の魂を結びつける親密なダイナミズムを表現している。
 複雑なメロディーで構成されているが、シタールの奥行きある響きと音階、バンスリの膨よかな音色の組み合わせがとても心地よい。じっくり1時間45分この音楽に浸ると、心が浄化されるようだ。

12位 Solju · Uvjamuohta / Powder Snow

レーベル:Bafe’s Factory [6]

 フィンランド最北の自治体ウツヨキ出身のサーミ人、Ulla Pirttijärvi とその娘 Hildá Länsman による母娘デュオ Solju のセカンドアルバム。
 ラップランドに暮らす先住民サーミ人の伝統歌謡であるヨイクを現代的な音楽と組み合わせ、サーミ人のルーツを持つ彼女たちならではの音楽を展開している。2018年にデビューアルバムがリリース、世界的にも高評価を博し、カナダ国際先住民音楽賞をはじめ多くの賞を受賞した。本作はそれ以来のオリジナル作品となる。
 自然とコミュニケーションを取るためのツールとして歌われ、シャーマニズムとも深い関わりがあるヨイクを現代的に表現している。ヨイク独特の歌唱法による声や楽曲から、サーミ文化が育まれてきた豊かで、時には厳しい壮大な自然が頭に思い浮かぶ。幽玄的で絵画的なアルバムと言えるだろう。
自分たちのルーツに誇りを持ち、それを音楽で世界に示したいと思っている彼女たちの思いが静かに伝わってくる。心落ち着くひとときを与えてくれるアルバム。

11位 Constantinople, Kiya Tabassian & Ghalia Benali · In the Footsteps of Rumi

レーベル:Glossa [-]

 イラン出身でカナダ在住のシタールの巨匠キヤ・タバシアンによって2001年にモントリオールで設立されたユニット、コンスタンチノープルの最新作。東洋と西洋の異文化間の交流促進、世界中の多様な音楽的要素を取り入れた音楽を制作するために活動、これまでに20枚のアルバムをリリースしている。
 本作は、13世紀のペルシャのスーフィー(イスラム神秘主義)の詩人、ルーミーの作品がテーマとなっている。キヤ・タバシアンが、チュニジア系ベルギー人のアーティスト/歌手のガリア・ベナリと出会ったことで、本作のプロジェクトが具体化された。キヤは「彼女こそ、ルーミーの洗練された詩を歌うための理想的な声であり、ルーミーの作品の象徴的な意味を音楽的に伝える名手たちのアンサンブルをすべてまとめるために必要な原動力だと感じた」と言っている。まさにその通りでルーミーの世界観や普遍性といったものが、音楽的に見事に表現されている。音楽に合わせてガリアによる詩の朗読もあり、とても美しい。
 2018年にリリースされたセネガル人歌手/コラ奏者アブライエ・シソコとの共演作品『Traversees』も記憶に新しいが、それとは世界観が全く異なる作品となっており、コンスタンチノープルのテクニックに驚嘆せずにはいられない作品。

10位 Vieux Farka Touré · Les Racines

レーベル:World Circuit / BMG [11]

 マリのギタリスト、SSWであるヴィユー・ファルカ・トゥーレの最新作。ソロ名義としては10作目のアルバムとなる。
 2006年に亡くなったマリの伝説的なギタリスト、アリ・ファルカ・トゥーレの息子であり、“サハラのヘンドリックス”として知られている。父親アリと一緒に作り、録音した曲がヴィユーのデビューアルバムに収録され、それが父親最後の録音となった。ヴィユーは、マリの音楽だけでなく他のアフリカ音楽、ロックやラテン音楽などの要素も取り入れ、彼独自のサウンドを発表し、世界各国から高い評価を受けてきた。また、ソロ作品以外にも、アメリカのSSWジュリア・イースタリンやイスラエルのSSWイダン・レイチェルとのアルバムをリリースするなど、ジャンルを超えた活躍を見せている。
 コロナのパンデミックで全てのツアーが中止となり、自宅のスタジオ(亡き父に敬意を表して「Studio Ali Farka Toure」と名付けたそう!)にこもり、ずっと制作活動をして生まれたアルバム。本作のタイトルは「ルーツ」を意味する。亡き父が世界に紹介してきたマリ北部の伝統音楽、ソンガイ音楽のルーツを探求し、彼なりに作り上げた作品。そして本作は、父が自身の作品のほとんどを録音・発表し、そして世界的な知名度を獲得した英国の名門レーベルであるWorld Circuitから初めてのリリースとなった。
 自分のルーツである父の音楽がベースにあり、部族や民族間の緊張により絶え間ない暴力に悩む母国や世界各国において人々が一つになることを切望するために制作された。時代を超えたグルーヴ感、彼自身のアイデンティティが感じられる深い作品。亡くなった父親アリも天国でさぞかし喜んでいることだろう。

9位 Adédèjì · Yoruba Odyssey

レーベル:One World [13]

 ナイジェリアの大都市ラゴス出身のシンガー&ギタリスト、アデデジの最新作。本作が3作目となる。2012年リリースの1stアルバム、2017年リリースの2ndアルバム共に国際的に高い評価を受け、受賞歴もある。
 5歳の時にラゴスの教会の聖歌隊に入り、10歳になる頃にはその聖歌隊を率いるまでになった。その後、バックヴォーカリストとして精力的に活動、ラジオのジングルや広告、映画のサウンドトラックなどナイジェリア全土で彼の歌声を聴くことができた。ナイジェリアの大学で音楽技術やクリエイティブ・アートを学び、さらにはロンドン、オランダの音楽学校でも演奏や歌を学んだという才能溢れるアーティストである。
 今回の新作は、プログレッシブ・ジャズ・ファンクに、伝統的なヨルバ音楽や、ゴスペルとともに育ってきた影響が色濃く反映されている。グルーヴィーなリズムセクションと、豪華なホーンセクションの演奏に、彼の歌とパワフルなバックコーラスがかっこよく絡み合い、ファンク、ソウル、ジャズ、アフロビートを表現。歌詞はヨルバ語、英語、ピジン英語で歌われており、歌詞の中でヨルバ文化の伝統的なアイデンティティを、なぞなぞやことわざを使って再定義し、社会について語っている。タイトルの訳は「ヨルバの遍歴」。伝統的なヨルバ音楽が、モダンなサウンドと融合、洗練されたジャズ・ファンクになっている。2021年にリリース予定だったが、世界的なパンデミックの影響でリリースを延期、今年の8月にようやくリリースされた。聴いていてグルーヴ感がとても心地良い。気分がアガる作品だ!

8位 Eliades Ochoa · Vamos a Bailar un Son (Special Edition)

レーベル:World Circuit / BMG [-]

 ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのメンバーで、歌手/ギタリストのエリアデス・オチョアの最新作。2020年にリリースされていたが、2022年秋から始まるヨーロッパツアーに向けて再リリースされたため、今回のランクインになったようだ。いきなり8位にランクインするとは、さすが世界的にも知られているアーティストである。
 本作は、キューバ・トローバの作曲家ニコ・サキートや、メキシコを代表する作曲家アグスティン・ララといったラテンアメリカの重要な作曲家の楽曲をエリアデスが再解釈したもの、さらにエリアデス自身が作曲した楽曲が収録されている。キューバのトローバ歌手パブロ・ミラネスや、スペインのフラメンコ歌手 Argentina もゲスト歌手で参加している。ソンやトローバなどキューバ満載のアルバムとなっている。
 アルバム『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』から25年。近年では、彼のキャリアを描いたドキュメンタリー映画が2018年に公開され、世界の映画祭で紹介されたり、またスペインの若手ラッパー C.Tanganaとコラボしたり(上記動画二つ目:昨年リリースされたアルバムなのだが、エリアデスの他にもトッキーニョやホルヘ・ドレクスレル、ジブシーキングスなどといった大物たちともコラボしていてとても面白い!)、そして現在はヨーロッパツアー中、といまだ精力的に活動している。
 ギターの音色も美しく、パワフル、またしっとりと歌いあげている76歳には脱帽。40年以上にわたる彼のキャリアをがっつり堪能できる作品。まだまだ元気で頑張ってほしいアーティストだ。

↓(参考)上記文中に登場した、C.Tangana のアルバムです。

7位 Angélique Kidjo & Ibrahim Maalouf · Queen of Sheba

レーベル:Mister Ibé [4]

 本チャートでもおなじみ、アフリカ・ベナン出身の歌姫アンジェリーク・キジョーと、レバノン・ベイルート出身でフランス在住のトランペッター/作曲家/マルチインストゥルメンタリスト、イブラヒム・マーロフによる初のコラボ作がランクイン。
 本作は、ヘブライ語の聖典や新約聖書、コーラン、ヨルバ族の言い伝えなどに登場するシバの女王マケダとソロモン王のエルサレムでの出会いの伝説がテーマとなっている。伝説では、シバの女王はソロモン王にいくつかのなぞなぞを尋ねたとされている。アンジェリークがイブラヒムと出会った時に、そのなぞなぞのいくつかをイブラヒムに話したところ、それがあまりにも詩的だったため、それら一つ一つに曲を付けることを思い付いたそうだ。アンジェリークはシバの女王とソロモン王の愛の物語を伝える7つのなぞなぞを選び、新たな解釈を加えた詩をヨルバ語で作り、そしてイブラヒムはこれらの詩を音楽に変換し、アフリカのグルーヴと中東の音階やメロディーをミックスした楽曲を作り上げた。
 イブラヒムは、彼の父が開発した四分音を出すことができる “微分音トランペット” を用いる世界唯一のトランペット奏者として知られている。この微分音トランペットと、オーケストラの演奏、そしてアンジェリークの力強くも魅力的なヴォーカルが見事にミックスされ、この物語を壮大なものにしている。芸術的なコラボレーションが堪能できるアルバム。

6位 Maya Youssef · Finding Home

レーベル:Seven Gates [2]

 シリア出身のカーヌーン奏者マヤ・ユセフの最新作で、本作が彼女のセカンドアルバムとなる。9月にいきなり1位にランクインし、今月も上位をキープ。
 カーヌーンは、アラブ音楽で伝統的に使われる撥弦楽器で、台形の共鳴箱に78本の弦を張ったもの。箏のように爪弾いて演奏する。
 シリア・ダマスカスの進歩的な芸術一家に生まれたマヤ・ユセフは幼少の頃から音楽に親しみ、7歳から音楽院で基礎を学んでいた。9歳のある日、音楽院に行くために母親と乗ったタクシーの中で、ラジオから流れてきたカーヌーンの音色に心を奪われ、マヤはこの楽器をやりたいと叫んだが、タクシーの運転手は「これは女の子は弾かない楽器なのだよ」と笑った。その後音楽院でカーヌーンのクラスが開講し参加、それ以来彼女のカーヌーン人生が始まった。12歳の時にシリア全国音楽コンクールで最優秀賞を獲得し、高等音楽院での学士号もカーヌーンを専攻。2007年ドバイでカーヌーンのソロリストとしてデビューしたが、その後より広く国際舞台で活動したいと活動拠点をロンドンに移した。今や「カーヌーンの女王」と呼ばれている。
 2011年にシリア戦争が始まって以来、彼女は他人の作品を解釈するだけでなく、作曲家としても活動を始めた。怒りと絶望が、彼女自身の音楽を創り始めるきっかけとなった。2017年にリリースされた前作のデビューアルバム『Syrian Dreams』では、この戦争によって愛する人や場所を失ったという喪失感や悲しみの激しい感情を表現した。本作では、その激しい感情はいくらか癒やされ、戦争で破壊された故郷を離れ、心の故郷を見つけることを痛切に反映し、「人類」や「世界」が自分の故郷であるということを表現している。
 アラビア音楽の伝統に根ざしているが、ジャズ、クラッシック、フラメンコとの融合も試みており、彼女独特のスタイルが確立されている。カーヌーンの他に、ピアノやストリングスなどの西洋楽器、またフレームドラムとのアンサンブルも堪能できる。カーヌーンの美しく豊かな音色が優しく寄り添い、私達を故郷に誘ってくれるかのような作品。

5位 Wesli · Tradisyon

レーベル:Cumbancha [12]

 ハイチ出身、現在はカナダ在住のソングライター/ギタリスト/プロデューサーである Wesli の6作目のアルバム。
 1980年ハイチの首都ポルトー・プランス生まれ。8人兄弟で、裕福とは言えなかった家庭に生まれたが、音楽が生活の一部であった。2001年カナダ政府主催の奨学金コンテストで優勝しカナダのモントリオールに移住、アレンジとパーカッションを学びながら様々なアーティストの作品に参加していた。2009年にデビューアルバム『Kouraj』をリリース、以降4枚のアルバムをリリースした。2018年にリリースしたアルバム『Rapadou Kréyol』は高く評価され、2019年カナダのJuno賞(ワールドミュージックアルバム部門)を受賞した。本作はそれ以来の作品となる。
 自身のルーツに立ち返り、ハイチの伝統の隠された側面を探るべく彼は数年かけて旅に出た。何百年も前にハイチに持ち込まれたアフリカの言葉の歌を学ぶためにハイチのブードゥー教信者の集会所やコミュニティグループを訪れたり、ハイチの民族楽器などのテクニックを研究した。本作では、その成果が結集された作品となっており、ハイチの過去を語り、未来を想像する2部作の1枚目としてリリースされたもの。ヴードゥー教のカーニバル音楽「ララ」やレゲエなどハイチ音楽の幅広く伝統的なジャンルに、エレクトロニック、アフロビート、ソウル、ファンク、ヒップホップなどを融合させ、とても魅力的な楽曲を作り出している。また、ハイチのルーツともなるアフリカの文化とも見事に融合、ハイチの豊かな音楽史に敬意を表し、その魅力を余すところなく伝えている。2部作の2枚目もぜひ聴いてみたい!

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

4位 Liraz · Roya

レーベル:Glitterbeat [-]

 60〜70年代のイランのポップサウンドを現代に甦らせることで注目されている、イラン系イスラエル人歌手リラズの2年ぶりとなる最新作。2018年リリースのデビュー作『Naz』では、彼女が好きなイランの女性シンガーによる革命前のポップソングを中心に集め、イランのSNSを賑わせた。記憶に新しい2020年にリリースの前作『Zan』では、カバー曲以外にも自身で作詞・作曲した曲も収録、そしてイスラエルとは国交の無いイランの匿名音楽家たちとオンラインで共演し話題となった。
 本作では前作オンラインで共演した音楽家たちと、トルコの “人目につかない” 地下のスタジオで実際に落ち合い、10日間で録音を行った。前作同様イスラエルのサーフロック・バンド “Boom Pam” の中心人物であるウリ・ブラウネル・キンロトがプロデュースを担当。70年代風のアナクロ・サウンドを忠実に再現する一方で、2020年代らしい先進性も感じられ、前作以上に洗練され、かつ攻めている作品となっている。
 アルバムタイトル「Roya」とはペルシャ語で「ファンタジー」を意味する。同名曲がバージョン違いでアルバムの最初と最後に収録されている。最後の “Female Version” は、メンバーが帰る1時間前にお願いし、女性ミュージシャンのみでのアコースティックバージョンとして、1テイクでライブ収録したもの。「素晴らしい出来に喜び、別れを惜しんで泣いていたら、“まるでそこにいなかったかのように” みんないなくなってしまった」というエピソードが印象的で、まさにファンタジー。イランの伝統楽器タールや、サズといった弦楽器とストリングス、彼女のメッセージ性が強く感じられる歌声とのバランスがとても胸に刺さる。
 来月はさらに上位に食い込んでくるだろうと予想できる素晴らしい作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

3位 Souad Massi · Sequana

レーベル:Backingtrack Production [-]

 アルジェリア出身のSSWスアド・マシの最新作が初登場で3位にランクイン!本作が彼女にとって10作目のアルバムとなる。
 幼い頃から音楽と近くにある環境で育ち、クラシック音楽とアラブ・アンダルシア音楽を学んだ。フラメンコグループや、ハードロックバンドでも活躍、1998年に初のソロ・カセットをリリースした。翌年パリで開催されたフェスティバルに出演し、自ら作詞・作曲を手がけたことで注目を集め、大手レーベルとの契約が成立。その後の作品は世界で多くの賞を受賞し、キャリア20年を越える実力派アーティストである。
 本作は、ほぼ彼女が作詞・作曲を行い、パンデミックで感じた不安や孤独に立ち向かう強い気持ちを表現、フランス語、アラビア語で歌っている。プロデュースはティナリウェンやラシッド・タハを手掛けたイギリスのギタリスト/作曲家のジャスティン・アダムズ(Justin Adams)。(ちょうど一年前のこのチャートで彼の作品がランクインしてました)彼のアイデアで、カントリー、ロック、カリプソ、ボサノヴァ、砂漠のブルースなど、今までの作品より多彩なサウンドとなっている。
 タイトルは、ガロ=ローマ時代に癒しと治癒の力を持つと考えられていた女神セクアナ(Sequana)から名付けられている。このアルバムを聴いて癒されるように、ということだろうか? 彼女の柔らかく、心に寄り添うような歌声と、ギターの音色は確かに癒される。ジャンルにとらわれず、彼女独自の世界観を堂々と表現していて、強さも感じられる。とても気持ちのいい作品。

↓本作プロデューサーのジャスティン・アダムズのランクイン記事です。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

2位 Al-Qasar · Who Are We

レーベル:Glitterbeat [1]

 アラブ系移民が多く暮らしているパリのバルベス地区で2017年に結成されたフランス人/モロッコ人の混成五人組バンド、アル・カサールのデビューアルバム。先月いきなり1位にランクインし、今月は2位に!
 バンド結成後、最初はフランス、次にヨーロッパと中東でライブを行い、カイロで録音されたEP『Miraj』を2020年にリリースし高い評価を得ていた。本作は、満を持して制作されたフルアルバムである。
 サイケデリックな音色を持つエレクトリック・サズを演奏するトマ・アタル・ベリエを中心に、モロッコ人歌手ジャウアド・エル・ガルージュによるアラビック・テイストと、ドラムズ/ベースによるエッジの効いたロック・テイストとが高純度に融合したミクスチュア・サウンドである。
 伝統的なアラブ音楽のグルーヴと、グローバルなサイケデリック、北アフリカのトランス・ミュージック、そして現代のパンクやロックが爆発的に混ざり合ったサウンドとなっている。
 カイロの街から、結成されたパリのバルベス地区まで、アラブの若者たちは抑圧的な指導者、人種差別、貧困に我慢している。ストリートの喧騒とエネルギー、一部のエリートと大多数の人々の生活環境の格差…といった現実を本作で表現。まさに今の流動的な世界のために作られた楽曲が詰め込まれている。
 ゲストに、リー・ラナルド(Sonic Youth)やジェロ・ビアフラ(Dead Kennedys)といったパンキッシュな大物ゲスト、そしてウードの名手、Mehdi Haddab(Speed Caravan)も参加。また、スーダンやエジプトの女性歌手も参加し、美しく力強いメッセージを表現している。
 タイトルで「我々は何者なのか?」と問いかけ、その答えはアルバム・ジャケットで表現している。正体不明の二人が鏡を持ち、鏡でお互いを見るよう促しているようだ。自分自身を改めて確認しろと言わんばかりに…。強いメッセージ性が感じられる作品。

↓国内盤あり〼。

1位 Antonis Antoniou · Throisma

レーベル:Ajabu! [3]

 2022年8月にワールドミュージック・フェス「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」で初来日したキプロスのバンド、ムシュー・ドゥマニのリーダー、アントニス・アントニウのソロ二作目。今月は堂々1位!
 ムシュー・ドゥマニの日本公演もとても盛り上がったが、今年はバンドで世界ツアーを催行。しかし本作はほとんど一人で制作したそうだ。(一体どこにそんな時間があるのか謎である……)
 本作でもギリシャの伝統楽器のジュラ(小型サズ)を使い、ダーティなアナログシンセの音色と催眠的リズムによるループが続く。タイトルの訳は「ささやき声」。囁くようなヴォーカルが演奏に乗り、サイケデリックでアンダーグラウンドな雰囲気が醸し出されている。前作よりもさらに独自の世界観が広がっているようだ。また、母国語であるギリシャ語で歌われており、歌詞は実存主義に対する詩的な考察により特徴付けられているとのこと。この辺りもアントニスだから表現できるのだろう。
 上記のMVは、来日した時に東京(チームラボプラネッツ)で撮影した映像を使い制作されたもの。東洋的で幻想的な雰囲気が楽曲と非常にあっており、とても良い。来日の成果がこのような形で表現されるとちょっと嬉しい気もする。
 バンド同様に、彼のソロ活動も今後注目していきたい。多様な世界観が期待できる要注目のアーティスト。

↓国内盤あり〼。(11/20リリース予定)


(ラティーナ2022年11月)

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