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[2022.3]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2022年3月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

 e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Dobranotch · Zay Freylekh!

レーベル:CPL-Music [-]

 ロシア、サンクトペテルブルグ出身の男性7人組クレズマー&バルカンバンド Dobranotch の最新作。
 1998年にフランスで結成、フランスの都市ナントの路上で演奏活動を始め、20年以上にわたりユダヤ、ジプシー、バルカンの伝統音楽を演奏してきた。世界20カ国以上でツアーを行い、各国の音楽フェスにも多く出演し、ルーツミュージックの無限のエネルギーを世界中に届けている。
 このアルバムは、イディッシュ語でラビの言葉から始まり、ユダヤ人社会の中で100年以上前から伝えられている伝統的な曲、トルコの民謡をセファルディ風にアレンジした曲などが収録されており、彼ら独自のクレズマーを展開している。タイトルの「Freylekh」とは、東欧のユダヤ教の踊りを意味しており、まさにタイトル通り踊りたくなるようなアルバム。
 彼らはユダヤ人社会の結婚式などの祝祭によく招待されるそうだが、上記一つ目の動画を観ると、ユダヤ教の結婚式にダンスは欠かせず、出席者全員で幸せを共有していることがよくわかる。
 そして二つ目の動画は、ロシアがウクライナ侵攻後にアップされたもの。民族舞踊曲であるウクライナのゴパックとロシアのコマリンスキーを演奏している。音楽家としてできることを表現し、平和を願っている。

19位 Justin Adams & Mauro Durante · Still Moving

レーベル:Ponderosa Music [7]

 イギリスのギタリスト/作曲家のジャスティン・アダムズと、イタリアの音楽グループ CanzionIere Grecanico Salentino(CGS)のバイオリニスト/歌手/パーカッショニストであるマウロ・デュランテとのデュオ作。
 ジャスティン・アダムズは、砂漠のブルースで知られる Tinariwen のアルバムをプロデュースし、ブルースのギタリストとしても活動。2019年のWOMADで二人が共演し、友情が深まった。アダムズの砂漠のブルースと、デュランテの故郷である南イタリア・プーリアの伝統音楽タランタに共通点があることを見出し、このアルバムを制作するきっかけとなった。
 デュランテはフレームドラムとヴァイオリン、アダムズはブルースギターで、パンデミック中に重ね録りなしで制作。インスト曲もあるが、英語、イタリア語で、それぞれが歌っている曲もある。デュランテが伸びやかで美しい歌声を聞かせる一方、アダムズは乾いた渋い声で聞かせる対比が面白い。
 砂漠のブルースとイタリアの伝統音楽、共通点があるのかは謎だったが、アルバムを通して聴いてみると、彼らのルーツがうまく合わさり新しいものが生み出されているといえよう。大変聞き応えのあるアルバム。

18位 Choduraa Tumat · Byzaanchy

レーベル:PAN [15]

 トゥヴァ共和国出身の女性ミュージシャン、Choduraa Tumatの最新作。
 タイトル『Byzaanchy』とは、トゥヴァの歴史ある民族弦楽器、ビザーンチのこと。彼女もビザーンチを演奏し、見事なホーメイで歌っている。幼い頃から兄達が歌うホーメイに慣れ親しみ、一緒に歌ってきたそう。1998年に女性だけのホーメイのアンサンブルユニット「Tyva Kyzy」を結成し、それ以来トゥヴァの伝統的な音楽を演奏し続け、精力的に活動している。演奏のため日本に来日したこともあるようだ。
 本作はトゥヴァの伝統的な歌を、4種類のビザーンチを使用し収録されている。ホーメイの歌声に魅了されてしまう作品だ。トゥヴァのビザーンチを普及させ、トゥヴァの伝統音楽のレパートリーを世界に知らしめるべく制作されたとのこと。このチャートにランクインし、見事に結果を残している。
 上記動画はこのアルバムに収録されている曲ではないが、彼女が育ったトゥヴァの美しい自然の中で民族衣装に身を包みホーメイを歌う様子が収録されている。歌っているのは、動画の中に現れるイシュキン川流域に住んでいた伝統的な歌手の歌。自身のユニットでも演奏している曲である。美しい自然と歌のコラボがとても素晴らしい。

17位 Katerina Göttlichová · Zimnice

レーベル:Indies Scope [16]

 チェコのヴォーカリスト、作曲家、マルチインストゥルメンタリストであるKateřina Göttlichová のソロデビュー作。スペインからバルカン半島の民族音楽を演奏する女性中心のチェコのバンド、BraAgas のメンバーとしても活躍している。約20年音楽に関わり、チェコの音楽賞であるアンデル賞も複数回受賞しているベテランミュージシャン。ソロプロジェクトとして本作をリリースした。
 バンドでの活動を予定していた2020年、パンデミックのためそれが全てキャンセルになり、自宅で曲作りを始めたのが制作するきっかけとなった。
本作も彼女が得意としている民族音楽がベースになっており、スラブ民族の音楽とワールドミュージックが融合した作品となっている。バンドでのアルバム制作時に出会ったスラブ民謡の美しい歌詞に、伝統的な民族音楽を基にした現代的なメロディーがつけられている。
 アルバムジャケットで彼女が持っているのは、スウェーデンの民族楽器であるニッケルハルパ。この楽器に惚れ込んでしまい、ソロでの作品の音のベースにしようと考えたそう。このニッケルハルパやギターなどのアコースティック楽器が使われ、バンド作品よりもアコースティックな感じが全体的に出ている。また、エレクトロニクスな要素も入り、アコースティックとうまくミックスされ、彼女独自の世界観を美しく表現している。

16位 David Krakauer · Mazel Tov Coctail Party

レーベル:Label Bleu / Table Pounding [-]

 アメリカ人のクラリネット奏者 David Krakauer の最新作。世界の一流オーケストラと共演しクラッシック音楽界でも名声ある一方、ジャズやクレズマーなども演奏し、前衛的な即興演奏を行なうことでも知られている。本作は、南アフリカ出身でニューヨークを拠点に活動しているピアニスト、作曲家、プロデューサーの Kathleen Tagg とともに制作された。彼らの他、カナダのソウルシンガーソングライター Sarah MK、ウードとギターの名手で世界で活躍する Yoshie Fruchter、ソニー・ロリンズのギター担当だったジャズミュージシャンの Jerome Harris、イランのマルチインストゥルメンタリスト、作曲家、俳優である Martin Shamoonpourなど、世界でも活躍しているミュージシャンたちが参加している。
 コロナで世界がネガティヴな状況になっているのを見て、希望と喜びで世界を照らすべくこのアルバムを制作することにしたそうだ。伝統的な古いダンスの音楽を再構築し、寛容さと私たちが共有する人間性への賞賛というメッセージを込めている。音楽的、文化的な多様性を持つ彼らが、オリジナル曲をはじめ、クレズマー、ポルカ、スクエアダンス、カリプソなど世界中の音楽をユニークに再解釈した楽曲が収録されている。生命力が溢れ、気持ちがポジティヴになれる作品。

15位 Combo Chimbita · Iré

レーベル:Anti- [-]

 コロンビア出身で現在はニューヨークを拠点に活動している4人組ユニット、コンボ・チンビータの最新作。本作が3枚目のアルバムとなる。
 前作までは彼らのルーツとも言えるアフロ・カリビアンのリズムとサイケデリックさを兼ね備えた音楽だったが、本作ではコロンビアのブルレンゲと神聖な伝統的打楽器をより深く探求し、呪術的、神秘的さが増しスケールアップした作品となっている。
 パンデミックや人種差別、性的マイノリティへの抑圧など、閉鎖的な現代において、彼らは音楽の力によって癒し、新しい世界を構築していこうということでこのアルバムが作られた。
 コロンビアの伝統楽器であるグアチャラカ、エレクトリックギターの音色、底から沸き上がるようなドラムのリズムと、ヴォーカル Carolina の魂込められた歌声が融合しているのがなんとも心地よい。制作における精神性も深く感じられるアルバム。
 本作に収録されている数曲は、プエルトリコの有名なクイア、トランスのパフォーマーたちとのコラボレーションも展開されている。上記動画もその一つで、Lio Villahermosa がパフォーマンスしている。タイトル「Oya」は女性神で嵐と風の女神のこと。音楽とパフォーマンスによるこの世界観が見事に表現されている。強さとしなやかさを持って前進すべし!と背中を押されているかのように感じられる作品。

14位 Susana Baca · Palabras Urgentes

レーベル:Real World [3]

 ラテン・グラミー賞の受賞歴もあるアフロ・ペルーの大物歌手、スサーナ・バカの最新作。11月にランクインして以来、今月もランクイン。
今年で77歳、音楽キャリア50年の大ベテラン歌手。本作は、プロデューサー/アレンジャーに、スナーキー・パピーのマイケル・リーグを迎え、ペルーの首都から150キロ離れた小さな町カニエテで録音された。
 ペルーの文化大臣も務めたことのあるスサーナは、ここ最近のペルーの政治情勢に憂いていたのだろう、このアルバムを抗議の形として録音したという。かつて、より良い世界のために闘った人々の遺産と伝統を、このアルバムに込めたそうだ。アヤクーチョの伝統曲「Negra del Alma」や、ムシカ・クリオーヤで Manuel Acosta Ojeda作の「Cariño」、ペドロ・ラウレンスのミロンガ曲「Milonga de mias amores」など、また自身の旧作にも収録されている「Color de Rosa」、「Vestida de Vida」を再録。自身の最も深いルーツの音楽を、現代的なアレンジに仕上げ、希望と抗議のメッセージを込めている。そして聴く人に、人生への愛と、誠実に生きることを感じてもらいたいと言っている。
 彼女の誠実な人生が込められているアルバムで、未だパワフルで成熟したヴォーカルにうっとりする一方、名曲たちの普遍性に圧倒される。

13位 Park Jiha · The Gleam

レーベル:Tak:til / Glitterbeat [-]

 韓国で高い評価を得ている作曲家、マルチアーティストのパク・ジハの3枚目のアルバムとなる最新作。アルバムタイトルは「煌めき」を意味し、音楽と光の交わりをテーマにした作品となっている。韓国ウォンジュ市にある安藤忠雄が設計した美術館「ミュージアムSAN」にあるスペース「瞑想館」での特別公演のために作られた曲も収録されている。この公演はコロナの影響で日程がかなり延期になってしまったそうで、その期間アルバムを制作するのにじっくりと集中できたとのこと。
 前作同様本作でも彼女がすべての楽器を演奏している。アルバムジャケットの写真は、センファン(Saenghwang)という日本の笙に似た韓国の伝統楽器。他にも、オーボエのような木管楽器ピリ(Piri)、打弦楽器のヤングム(Yanggeum)や、グロッケンシュピールを彼女一人で演奏している。それぞれの音を録音し重ねているのだろうが、その重なり具合や音の質感、無音になるまでの間隔や呼吸感が絶妙で、光を音として見事に表現している。
 上記動画一つ目はサイレントモノクロ映画「Sunrise」のサウンドトラックとして制作された曲、二つ目は「瞑想館」での公演の様子。素晴らしいアルバムなので、これらの動画も堪能していただきたい。

↓国内盤あり〼。

12位 Mitsune · Hazama

レーベル:Mitsune [10]

 日本、オーストラリア、ドイツ出身のメンバーで構成され、ベルリンを拠点に活動する女性だけの津軽三味線トリオ。また、コントラバスやパーカッションのリズムセクションを加えた5人編成のバンドにも展開し活動している。2018年4月に結成し、ヨーロッパ各地の文化イベント、フェスティバル、コンサートなどで幅広く演奏している。2018年にデビュー・アルバムをリリースし、本作は二作目となる。
 「Mitsune」は「蜜音」ということらしいが、三味線の3本の弦、3人の女性、3つの文化が調和することなど、何かの3つを示す「ミツ」という言葉をもじったものでもあるそうだ。いきなり10位にランクインしたので、ヨーロッパでの活動が認められている証拠と言えよう。
 日本の民謡だけでなく、現代の名作レパートリー、中東音楽やブルース、ロックなどの影響を受けたオリジナル作品を演奏している。三味線だけでなく篠笛やヴァイオリン、ネイ、カヌーン、箏なども加え演奏しているようだ。どんな音になるのか非常に興味深い。
 タイトルの「Hazama(狭間)」は、メンバーが異なるバックグラウンドを持ち、「文化の狭間」で異文化集団として活動している彼らの経験を探求し、世界の狭間で宙ぶらりんになっているような感覚を表現している。今後の活躍がすごく期待されるユニットである。

11位 Riccardo Tesi, Elena Ledda, Lucilla Galeazzi, Alessio Lega, Nando Citarella, Maurizio Geri, Gigi Biolcati, Claudio Carboni · A Sud di Bella Ciao

レーベル:Visage Music [5]

 2014年にヨーロッパ各地で公演し、大成功をおさめたショー「Bella Ciao」の新バージョンを同じメンバーで公演する予定だったが、このコロナ禍で実現が難しくなった。それに関わる音楽家たちを尊重するべくクラウドファンディングで資金を集め、作成されたアルバム。
 「Bella Ciao」は、1964年にイタリアにフォーク(民謡)音楽を復活させるべく誕生した同名プロジェクトの開催50年を記念しオマージュしたもの。1964年「Bella Ciao」では北イタリアがメインだったが、1966年ダリオ・フォー(風刺喜劇でノーベル文学賞を受賞した劇作家/演出家)が監督した
舞台「Ci ragiono e canto」で、南イタリアの民謡を発掘し舞台化を実現させた。開催予定だった新バージョンのショーは、この「Ci ragiono e canto」をモチーフとしており、社会派・プロテストソング、労働歌からラブソングまでの歌とダンスを通し、イタリア南部の人々の生活と感情を綴ったもの。舞台で使用する曲をアルバムとしてまとめている。
 音楽監督はアコーディオン奏者のリカルド・テシ、ヴォーカルにはエレナ・レダ、ルシラ・ガレアッツィなどベテラン歌手、バンドメンバーにはイタリアトラッドフォークの名手たちを揃えている。ゲストも多数参加、本チャートで今月19位にランクインしているマウロ・デュランテもヴァイオリンで参加している。
 イタリア南部で使われている楽器を取り入れ、南部に伝わる伝統的な民謡を中心に、現代的なアレンジとなっている。歌の力がとにかくすごい!これを聴けば、南イタリアを旅しているかのような気分になれる。旅に行けない今、お薦めの一枚。

10位 Youssou N’Dour · Mbalax

レーベル:Universal Music Africa [12]

 セネガルのスーパースター、ユッスー・ンドゥールの最新作!2019年に利リリースされたアルバム『History』以来で、今回新たに契約したユニバーサル・ミュージック・アフリカからのリリースとなる。
 タイトルはセネガルのダンスミュージックである「ムバラ」、彼自身のルーツとも言える音楽、ムバラに回帰した作品となっている。
 ユッスーのベーシストでありプロデューサーだったアビブ・ファイユが2018年に亡くなったが、今回の作品はユッスーの弟であるブーバ・ンドゥールのプロデュースによるもの。パンデミックで自宅に長く留まることを余儀なくされた2年前頃から本作のための作業が始まった。
 アルバム収録曲の8割をセネガルのウォルフ語で歌い、その他はフランス語と英語の歌詞となっている。環境問題を扱った曲「Ndox」(水を意味する)など、様々な社会的なテーマを想起させる作品となっている。また、昨年3月に66歳で亡くなった同じセネガルの偉大な歌手、チョーン・セックに捧げる曲「Ballago Ndumbe Yaatma」も収録されており、彼への敬意が感じられる。
 アルバムジャケットには、様々な楽器に囲まれたユッスーが表現されている。今までのキャリアや経験をもとに成長してきた彼自身の音楽を、楽器を描くことによって表現している。これからも世界の人々に語りかけ、セネガルの音楽を広めていこうとする決意のようなものがこのジャケットから感じられる。今年の注目作とも言える作品であろう。

9位 Oki · Tonkori in the Moonlight (1996-2006)

レーベル:Mais Um [20]

 アイヌに伝わる伝統的な弦楽器、トンコリの奏者であるOKIの最新作。先月20位に初ランクインし、今月は大きく躍進!
 OKI DUB AINU BAND として世界の音楽フェスティバルをはじめ、日本国内のフェスにも数多く出演していることでも知られているが、本作はOKI 名義としてのソロ作品となる。イギリスのレーベル「Mais Um Discos」よりリリースされ、本チャートにランクイン。
 ソロ、バンドとして多くのアルバムをリリースしているが、本作は1996年リリースのデビュー作『KAMUY KOR NUPURPE』から、2006年リリース『KILA & OKI』までの8作品より、レーベル側が選んだ曲が収録されている。以前の作品から選曲しているので、2004年に亡くなった安東ウメ子の声も聴くことができる。
 アイヌの伝統的な楽器を使い、アイヌ語での歌詞でありながら、グルーヴはまさにワールドミュージック!今、改めて聴いてみて新鮮さが感じられる作品。今まで国際舞台で精力的に活動してきた成果が、ここに集約されている作品。輸入盤として聴くことも感動!

8位 Stelios Petrakis Quartet · Spondi

レーベル:Artway Technotropon / Molpe Music [-]

 ギリシャ・クレタ島出身の擦弦楽器リラの名手、ステリオス・ペトラキスが率いる4人組ユニットによる最新作。
 スペイン・バレンシア地方のマルチ撥弦楽器奏者エフレン・ロペスとイラン出身のパーカッショニスト、ビジャン・シェミラニと共演した2017年の前作『Taos』は世界各国で好評を博し、多くの賞を受賞した。7年ほど前からこのユニットでも活動しており、本作は2作目のアルバムとなる。メンバーは、リュートのディミトリス・シデリス、マンドリンのミハリス・コンタキサキス、そしてダンス担当のニコス・レベシス。ダンスのステップの音も彼らの音として含まれるそうだ。この4人組で、クレタ島の音楽とダンスを世界各地のフェスティバルで披露してきた。
 本作は彼らのオリジナル作品や、クレタ島の伝統的な楽曲などが収録されている。ステリオスと共演したエフレン・ロペスとビジャン・シェミラニもゲストで参加。他にもクレタ島のバグパイプであるアスコマンドウラや、ヴォーカルもゲストで参加している。3人だけの弦楽器の音色も美しいが、ステップ音、打楽器、バグパイプの音色や歌声も加わるとさらに美しく、壮大さが増す。
 タイトルはギリシャ語で「献酒」という意味。ステリオスが今まで関わってきた人たちに敬意を表してこのアルバムを捧げる、ということで付けられたそう。地中海やその周辺の美しい島々を思い起こさせる。

7位 Romengo & Mónika Lakatos · Folk Utca

レーベル:FolkEurópa [-]

 ハンガリーのブダペストで、ロマ族の家に生まれたモニカ・ラカトスが夫Mihály "Mazsi" Rostás と作った5人組ユニットRomengo の最新作。
 モニカは、ロマ族の中でも少数のハンガリー北東部で生活しているオラー・ロマ族出身。コミュニティの中で音楽と歌に親しんで育ち、1996年、ハンガリーのテレビ番組でロマ族の伝統音楽を歌い優勝したことから彼女のキャリアがスタートした。夫婦2人でデュオとして活動することもあれば、The Gipsy Voices というユニットでも活動している。
 Romengo としてヨーロッパツアーを行なったり、南米やアジアでも演奏活動を行なっている。またベルリン・フィルハーモニーや、フランクフルト・オペラでも演奏するなど、他ジャンルとの共演も精力的に行なっている。またこれまでのアルバムもワールドミュージックチャートのトップ10に選ばれるなど、世界で評価されているバンド。モニカ自身も2020年にワールドミュージック界で最も権威のある賞、WOMEXのアーティスト賞をロマ族として初めて受賞している。
 彼女の叙情的な歌声と、ロマ族の伝統的な音楽がとても魅力的で、心が揺さぶられる作品。彼らのステージではロマ族の踊りも披露されているようだ。演奏風景を観ると生活で使う道具(牛乳缶!)も楽器になっている。彼らの暮らしに音楽が根付いている証しだろう。

6位 Mamak Khadem · Remembrance

レーベル:Six Degrees [-]

 イラン人女性歌手ママク・カデムの最新作。テヘランで生まれ、幼少期にはイラン国立ラジオ・テレビの児童合唱団で歌っていたが、イラン革命が起こる前の1977年に10代で米国に移住した。修士号を取得し教職に就く傍らで本格的に音楽の道を歩み始め、イラン系フュージョンバンド「AXIOM OF CHOICE」を結成、バンド名義では3枚のアルバムを発表している。2007年にソロ作品としてファーストアルバムを発表、本作が4枚目のアルバムとなる。ロサンゼルス・タイムズ紙で「世界で最も恍惚を感じさせてくれる驚異的な音楽の一つ」と評され、古代の詩とペルシャの巨匠の音楽にルーツを持ち、大胆で革命的な新しいサウンドで観客を魅了している。
 本作は、コロナで亡くなった最愛の父に捧げたアルバム。父への深い愛情、別れ、喪失感を表現しており、彼女の気品が感じられる美しい作品となっている。シングルカットされた曲「Across the Oceans」も収録されており、コールドプレイのクリス・マーティンがピアノとヴォーカルでゲスト参加。また、ペルシャの詩人ルーミーの詩の朗読でルーミー研究家であるコールマン・バークスもゲスト参加している。ママクが難民キャンプで子供達と過ごすことで生まれた曲で、子供達が音楽を通じて強さと希望を見出せるようにと作られた。遠隔で録音された子供達の合唱も参加している。上記MVも本当に美しく、貧しい境遇で生まれた子供達が純粋な意志で乗り越え、そして彼らが救おうとしているクジラは、地球温暖化、環境破壊、水問題などの現状を象徴している。楽曲、歌声、MVを含め全てが美しい!心に沁み入り、涙が出てくるほど。(聴くたびに泣いてます…)最近の世界情勢で疲弊していた心が洗われる。是非観ていただきたい。

5位 Khöömei Beat · Changys Baglaash

レーベル:ARC Music [2]

 南はモンゴル、東はブリヤート共和国に接し、中央アジアに位置するトゥヴァ共和国(ロシア連邦共和国に属している)の男女5人組ロックバンド、ホーメイ・ビート。本作品がセカンド・アルバムとなる。11月に初ランクインし、今月も上位をキープ!
 2017年に結成され、伝統的な楽器や現代的な楽器の演奏技術、トゥヴァ独特の喉歌の習得など、それぞれの分野では一流のトゥヴァの音楽家たちで構成されている。2017年にファースト・アルバムを発表、中央アジアのホーメイ国際フェスティバルにも出演し「現代的な解釈でのホーメイ」というノミネーションで受賞もしている。その後は、各国のフェスにも出演、今日ではロシアだけでなくその周辺国でも知られた存在となっている。
 本作のタイトルは「The Hitching Post(馬などの動物をつないでおく支柱)」を意味する。その支柱はトゥヴァや他の遊牧民すべてにとって中心的な場所であり、他の場所に移すべきではなく、常に揺るぎないものとされている。自分たちの音楽についても、トゥヴァの伝統を守り常に揺るぎないものとしていくことをこのアルバムで表現している。
 トゥヴァ共和国の民族音楽をベースにした現代的な音楽を、伝統的な民族楽器と現代的な楽器で演奏、そこに彼らの特徴的なヴォーカルが重なり、まさに芸術作品と言える音楽となっている。
 MVでは、大地を切り裂くようなドラムで始まり、彼らが育ったトゥヴァの大自然の中、疾走感溢れる映像が、彼らのパワフルな音楽、自然を表現するホーメイと見事に融合している。アルバムジャケットにも表現され、MVの最後に現れる支柱が、まさに揺るぎないものとして登場するのがとても印象的。自然のエネルギーを感じる作品だ。

4位 Sowal Diabi · De Kaboul à Bamako

レーベル:Accords Croisés [-]

 多国籍なメンバーたちによるプロジェクト「ソワル・ジャビ」のアルバム。タイトルは『カブールからバマコへ』という架空の道からインスピレーションを得て、南アジア〜アラブ、西アフリカ圏の亡命を経験した歌手やミュージシャンたちが集まった。参加しているのは、マリの歌手ママニ・ケイタ、イランの歌手兼バイオリニストのアイダ・ノスラット、イランのタール奏者ソゴル・ミルザエイ、クルド出身のトルコ人歌手ルシャン・フィリズテック、アフガニスタン出身のタブラ奏者/歌手シアー・ハシミ、そして、パリ出身の大人気エスノ・ジャズ・ファンク・バンド、アラ・キロのメンバー6人。2019年にベルギーで、難民問題を題材にした舞台「De Kaboul à Bamako」のために作られたプロジェクト。「ソワル」とはペルシャ語で「質問」、「ジャビ」はバンバラ語で「答え」を意味し、難民問題に対する問いと答えを投げかけている。
 ヨーロッパやアフリカなど様々な地域から集まった異文化のミュージシャンたちが、国境を越え作った音楽で、時にはマリを、時にはバルカンや中東が感じられる。楽曲が豊かで、ママニ・ケイタとアイダ・ノスラットの歌声がとてもパワフル!様々な文化の出会いが演出されている素晴らしいアルバムだ。

↓国内盤あり〼。

3位 Small Island Big Song · Our Island

レーベル:Small Island Big Song [1]

 Small Island Big Songは、歌を通して太平洋とインド洋に浮かぶ16の島々の海洋文化を結びつけるマルチプラットフォーム・プロジェクト。これらの地域の100人以上のミュージシャンが参加している。その最新アルバムで、先月いきなり1位にランクインし、今月も上位に。
 2015年に台湾のプロデューサー、バオバオ・チェンとオーストラリアの音楽プロデューサー兼映像作家ティム・コールによって設立されたプロジェクト。2018年にリリースされた前作、プロジェクトと同名のアルバム『Small Island Big Song』は、世界各国で評判を呼び、イギリス、ドイツなどで音楽賞を次々に受賞した。本作はその次の作品になるのだから、期待度はかなり大きかったことがわかるだろう。
 本作も前作同様、ミュージシャンたち自身の文化遺産を代表して誇れる曲を彼らの母国語で歌い、伝統的な楽器を使いレコーディングを行なった。各曲の映像の撮影場所についても彼らの文化にとって意味のある場所を選んでもらい撮影している。また、他の島のミュージシャンたちも一緒に歌い、演奏し、舞台となった島の歴史や文化、自然について一緒に語っている。例えば、上記動画は、モーリシャスの黒人奴隷の物語(サトウキビ畑で奴隷として働かされ、歌声は封じられた結果、彼らの文化は途絶えてしまった…)からインスピレーションを受けた歌。奴隷が繋がれていただろう鎖を発見するところから映像が始まり、「自由になりたい」という歌詞が続く。歌っているのはモーリシャスの歌手と台湾アミ族出身の歌手。演奏しているのもマダガスカルやタヒチ、パプアニューギニア等のミュージシャンたち。この曲一つとっても壮大な感じがするのだから、全12曲の理解を深めじっくり聴くと相当面白いのではないだろうか。
 現在、北米&ヨーロッパツアーを開催予定とのこと。本作は、彼らのエネルギーを生で感じてみたい!と思わせてくれる。

2位 Divanhana · Zavrzlama

レーベル:CPL-Music [4]

 ボスニアの5人組バンド、Divanhana の6枚目のアルバム。スタジオ録音としては4枚目。前作は2018年リリースだから4年ぶりのリリースとなる。ボスニアの伝統的な民族音楽であるセヴダ(セヴダリンカともいう)を、ジャズ、ポップスなど現代的なアレンジで演奏している。2009年に結成、2011年にファーストアルバムをリリースしている。それ以来、各国の音楽フェスに出演、ヨーロッパ各地でのコンサートツアーも成功させている。
 本作はパンデミック直前の2020年2月に録音されたもの。ボスニアで歌い継がれてきた伝統的な歌や、彼らのオリジナル作品が収録されている。そしてパンデミック中にスロベニアやスイス、アルゼンチンなど他国のミュージシャン達ともやり取りし、このアルバムに反映させている。
 ボスニアは地理的な影響もあり、様々な宗教、文化、伝統が歴史的に複雑に絡み合ってきた地。そのせいかゼヴダのメロディーは短調であり、とても感情的である。でも彼らの音楽はそれだけではない。現代的な要素や、世界の他の地域の音楽要素も取り込んでおり、彼ら独自のセヴダを創り上げている。

1位 Vigüela · A la Manera Artesana

レーベル:ARC Music [6]

 小説『ドン・キホーテ』の舞台で知られるスペイン中南部のカスティーリャ・ラ・マンチャ出身の5人組ユニット、ヴィグエラ(Viguela)の最新作。
本作が9枚目のアルバムとなる。先月6位で初ランクインしたが、今月とうとう1位に!
 1980年代半ば頃から活動しているベテラングループ。2016年頃から海外に向けて進出し、ヨーロッパ各地のフェスティバルなどで演奏、ワークショップも行なっている。スペインが国の事業として海外に文化を紹介する活動の企画にもピックアップされ、フラメンコ以外のスペイン伝統音楽を国際的なプロのステージで披露した最初のグループでもある。
 アルバムタイトルは「職人道」という意味。本作では「職人的な創造性」ということに焦点を当て、スペインの舞踏音楽であるファンダンゴ、ロンディーニャ、セギディージャ、ホタ、そしてアカペラで歌うトナダ、活気のあるソンなど、様々な地域の伝統的なスペイン音楽をこのアルバムで紹介している。
 スペインの地方で古くから根付いている曲を今もなお守り続け、それを世界に向けて発信しようとしている活動はとても素晴らしい。スペイン音楽の力強さとともに、彼らの「職人」としての意気込みが感じられる。

(ラティーナ2022年3月)

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