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[2023.12]【境界線上の蟻(アリ)~Seeking The New Frontiers~14】 BCUC(Bantu Continua Uhuru Conciousness)(南アフリカ)

文●吉本秀純 Hidesumi Yoshimoto

 南アフリカ発の音楽の動向も最近は様々な角度から伝わるようになってきたが、おそらくここ数年のヨーロッパのライブ・シーンにおいて最も熱い注目を集め続けているグループはBantu Continua Uhuru Conciousness、略してBCUCだろう。〝バントゥー系民族の自由意識連続体〟とでも訳すことのできる硬派なネーミングからも伝わってくるように、2004年ごろからソウェトにあった船舶コンテナを改造した公共レストランでリハーサルを重ねながら活動をスタートさせた彼らは、政治的なメッセージを放つレフティーな集団としてストリートなどで地道にライブを継続。You Tubeに残されている過去のアーカイヴを観てみると、初期にはエレキ・ギター奏者などが参加していた時期もあったようだが、変遷を重ねながら2013年には3名のボーカリスト+2台のバス・ドラム(大太鼓)を含む3人の打楽器奏者+ベース奏者で構成された7人編成のスタイルを確立した。

 扇動的なリード・ボーカリストのジョヴィを中心に、鳴りモノなどもこなす男性とソウルフルな女性という異なる個性を発揮しながら濃密に絡み合うフロント陣に、見た目のインパクトも強烈なツイン・バス・ドラムを擁しながら重心の低いグルーヴを叩き出すリズム隊、そして、ンバクァンガからパンク以降の尖ったダブやニューウェイヴ的なニュアンスまで手数の多い奏法で担うベース奏者。南アフリカでジャズなどの影響を受けながら独自発展した〝マロンボ〟と呼ばれる音楽をルーツとしつつも、ラスト・ポエッツやブラック・ウフルー、スピリチュアル・ジャズ、ナイヤビンギ、あるいはハードコア・パンクにも通じる多様な響きを宿した彼らの音は、16年にフランスのレーベルから初の世界進出作『Our Truth』を発表するとともにジャンルを超えた注目を集め、その翌年にはヨーロッパを代表する大型野外音楽フェスのひとつとして知られるロスキレに出演。さらに、18年には英国のDJ/プロデュ―サーとして絶大な影響力を誇るジャイルス・ピーターソンが主宰する〝Worldwide Awards 2018〟でも熱演を繰り広げ、鮮烈なパフォーマンスでその評価を決定的なものとしてきた。

 日本でも2作目の『エマコシニ』(18年)は日本盤としてリリースされ、日本盤用のライナーノーツも僕が執筆したが、正直なところそれに見合った評価や話題性をもって迎えられることはなかった。20分近くに及ぶ長尺曲がメインで雄大にグルーヴする彼らのスタイルは、音源を聴くだけでは確かにとっつきにくく、ライヴ・パフォーマンスを気軽に体感することができそうにない環境ではやや厳しいところがあったようにも思う。そして、19年にはフェミ・クティと米国のラッパーのサル・ウィリアムスを客演に迎えた3部作の締めくくりとなる『The Healing』を発表し、ややカラフルさを増した新境地を示していた彼らだが、世界的なコロナ禍を経てレーベルも英国の≪On The Corner≫へと移して4年ぶりにリリースされた最新アルバム『Millions Of Us』は、練り込まれたサウンド・プロダクションを伴ってより進化したBCUC像を提示することに成功した会心作に仕上がっていた。

 アフロ・フューチャリズム的なイメージを喚起するジャケットのアートワークも前3作とはガラッと雰囲気を変えているが、サウンド面でも前半には(彼らとしては)短めな5~7分台の曲を配置してコンパクトにバンドが内包する多様なグルーヴの切り口を表現し、彼らの真骨頂といえる長尺の大曲も3部構成とすることでメリハリを付け、従来からの強度を損なわずにレコ―ディング作品としてより引き締まったサウンドを提示。On The Corner といえば、ザンジバルのターラブを現代に継承する才媛 Siti Muharam のデビュー作『Siti Of Unguja』(20年)における現代的なプロダクションの絶妙さが素晴らしかったが、本作でもその特性を見事に発揮している。そんなレーベル側の的確なサポートに加えて、BCUC自体のアンサンブルもヨーロッパ各地で膨大な本数のライブをこなしながら進化を続けてきたことが聴き込むほどによくわかり、その違いは過去作と聴き比べてみても歴然。ソウェトのストリート上がりのラディカルさと熱量を保ちながら、より高い次元へと到達している。

 そんなグループの今の勢いを象徴するかのように、世界最大のワールド・ミュージックの祭典として毎年10月にヨーロッパの諸都市で開催されているWOMEXでは、年間最優秀アーティストに相当する〝アーティスト・アワード〟を今年はBCUCが受賞。自らの音楽性を〝アフロ・サイケデリック〟または〝アフリカングングング(Africangungungu)〟と称し、肉声と打楽器をメインに奏でられるアフリカらしいトランシーな酩酊感とレベル・ミュージック的なソリッドさを兼ね備えた彼らのライブ・パフォーマンスが、日本でも体感できる日が訪れることを願いたい。

吉本秀純(よしもと ひですみ)●72年生まれ、大阪市在住の音楽ライター。同志社大学在学中から京都の無料タウン誌の編集に関わり、卒業後に京阪神エルマガジン社に入社。同名の月刊情報誌などの編集に携わった後、02年からフリーランスに。ワールド・ミュージック全般を中心に様々な媒体に寄稿している。編著書に『GLOCAL BEATS』(音楽出版社、11年)『アフロ・ポップ・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック、14年)がある。

(ラティーナ2023年12月)




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