[2022.4] 【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉓】ならず者たちと、失われた彼らの美学に光を当てた歌 - 《Homenagem ao malandro》
文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura
ブラジルの日常において、特に親しい者どうしの会話では、マランドロ(malandro)という存在がよく口にされます。気軽な例でいえば、仲間の誰かが次々と女性に迫りよくモテるプレーボーイであるのを指し、「あいつはマランドロ(=ワル)だ」と称したりしますし、普通には解決しにくい問題を巧みに(時にずるい方法で)切り抜ける人間を指し、「抜け目ない奴だな」といった意味で、マランドロと呼んだりもします。
この言葉は元々、ラテン語で「悪いこと」を示す「malum」を語源に派生しており、直接的な語義としては「悪い人間」を指す語ではあるのですが、リオという街の歴史においては、多くの人が通常従うルール又は集団から外れて暮らす外れ者であるとか、ならず者のことを指すようになったようです。
1888年の解放令で自由の身となってまだ年月も浅い元奴隷の人々が、近代的な経済発展が進んだ1920年代から40年代頃にかけ、特に、かつて旧首都が置かれていた北東部のバイーア方面にいた奴隷の身分を脱した人々が、現在のリオ旧市街に多数移り住むという大きな動きがあった中で、住民構成や街の姿が大きく再編成されたことなどが関係しています。今日皆がサンバと親しんでいる音楽も、こうした人々が暮らす地域において次第にそのスタイルを確立していったことを解き明かす研究などもあり、ブラジルの現代音楽の成立を知る上で興味深い歴史です。
↑ブラジルにおける、解放後の奴隷の行方について扱ったドキュメンタリー
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