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【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㉙】3度目の正直で居着いた人 — 《Teresinha》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

中村安志氏の好評連載「アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い」と「シコ・ブアルキの作品との出会い」は、基本的に毎週交互に掲載しています。今回は、ブラジル演劇界の名作「Ópera do Malandro(ならず者のオペラ)」の中で使う歌としてシコが制作した名曲です。外交官として長くブラジルに滞在した中村氏だから書けるエピソードです。お楽しみ下さい。

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 シコ・ブアルキというシンガーソングライターは、様々な形で権力と対決する音楽を編み出してきた一方で、慎ましく生きる人々の生き様や、それぞれの思いなどに焦点を当てた歌も数多く、時代背景を抜きにしても、真っ直ぐに人々の心を打つ作品がいくつもあります。この連載の第6回目でご紹介した、石切りで働き慎ましく生きる男への温かい眼差しを語った 「Pedro pedreiro」、第9回目でご紹介した、ギクシャクした日常を忘れ、恋人2人が踊り明かす「Valsinha」などは、そうした例の典型と言えるでしょう。
 今回は、ならず者たちとの失われた美学などを扱う演劇「Ópera do Malandro(ならず者のオペラ)」の中で使う歌としてシコが制作した、女性の出会いと別れを歌う「Teresinha(テレジーニャ)」という小品をご紹介します。ブラジルのスター的シンガー・ソングライターのカエターノ・ヴェローゾの実妹で、低めのハスキーボイスが魅力のマリア・ベターニアの録音で1977年にヒットしました。

⇧マリア・ベターニアが歌う「Teresinha」

 ブラジルの童謡の中に、「イエス様のテレジーニャ」という、ブラジル人の間では非常によく知られた歌があります。その歌の冒頭は、テレジーニャという女の子が3人の紳士と出会うお話。最初に来たのは父。次は兄。3番目に現れた紳士が、その人から求婚されテレジーニャが応じた相手、と歌われます。イエス様のテレジーニャ(抜粋)イエスのテレジーニャあるとき転んで、地面に倒れそこに3人の紳士がやってきた3人とも手に帽子を持っていた最初はお父さん次はお兄さん3番目に来たのは、あのテレジーニャが求婚に応じた相手、と歌われます。

⇧童謡「Teresinha de Jesus(イエスのテレジーニャ)」

 これで、お気づきになるかもしれません。本歌取りの名手たるシコ・ブアルキ。彼の書いたテレジーニャの歌詞を聞けば、誰もが幼少時に聴いた3人の男との出会いのお話と重なるものを想起する仕掛けになっているのです。ブラジル人の聴き手にとっては大きな接点として響くものとなります。
 童謡に登場する少女は、最初に来たのが父と言っている頃は、まだ子供である訳ですが、3人目の紳士については結婚相手というふうに、大人の女性へと成長していく様を素直に表現している内容と言えます。

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