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[2022.5]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ㉒】 サモアで香水?! ―聴覚と嗅覚―

文●小西 潤子(沖縄県立芸術大学教授)

「♪君のドルチェ&ガッバーナのその香水」というセンテンスが繰り返される、瑛人さんの「香水」。2019年SNSで広まり、数々の音楽チャートで1位を獲得、2020年12月31日の『NHK紅白歌合戦』に瑛人さんが初出場したのは、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。口語調で日常をうたった歌詞のなかで、繰り返される「ドルチェ&ガッバーナ」というブランド名の固い響きがインパクト大ですよね。

『世界の香水ガイド』によると、ドルチェ&ガッバーナ(1992年発売)のノートは、「クリーミーフローラル」。「ボリュームたっぷりのカーネーションのトップノートとフローラルのミドルノートをもった強いアルデヒド調」で、「その時まで近くにいて、匂いを嗅ぐことのできる人」だけがわかる残り香がなかなかよいらしく、お薦め度は☆2つ。ただし、同じドルチェ&ガッバーナでも、Light Blueというシトラスアンバーの香水は、「消毒用アルコールにまみれたレモン味のソルベ」と☆1つの酷評。果たして君のその香水は、どっちだったのでしょうか…(笑)。

 そういえば、山下久美子さんの「キス&ベッド」にも、「マダム・ロシャスの香りを抱いて」というセンテンスがありました。ロジャ・ダブは、1960年ギ・ローベル作のマダム・ロシャスを「肉感的なレザー調」にたとえ、「ヒッピーの『自然への回帰』を先取り」したフランスの豪華さと優雅さ」を完璧に表現したと評価しています。一方、トゥリンとサンチェスは、「かつてのマダム・ロシャスがどんなものか知らないが」と前置きし、70年代後半のマダム・ロシャスを「素敵にチープな…石けんぽいアルデヒド調シプレ…スモーキーなロウソクのロウの香りと、オフィスを照らす蛍光灯のように不可欠なシトラスの香り」と☆3つ。香水も音楽も、その時代の価値観を反映するのですね。

 ちなみに、『世界の香水ガイド』で☆5つにランキングされているアムアージュ・ゴールドは、やはりギ・ローベル作でオマーン王家の長老が始めたブランドだそうで、その「過剰なフローラル」のノートは、J. A. ブルックナー (1824 - 1896)の≪交響曲9番≫にたとえられています…ふむふむ、過剰ね…。

 日本でも、お香を楽しむ文化を「聞香」と呼ぶように、聴覚と嗅覚には近いものあるのかも知れません。しかも、「香りの指紋」の基本形が形成されるのは15歳くらいまでだそうで、音楽趣向が形成される年齢とほぼ同じと思われます。

 さて、何で香水の話を始めたかというと、私の記憶の中で「サモアと言えば香水」だからなのです。時は、1996年9月。まだ、西サモアという国名だったサモア独立国で、第7回太平洋芸術祭が開催されました(参考:2021年9月号、2022年4月号)。

 4年に1度、太平洋各地で持ち回りによって10日から2週間にわたって開催される太平洋芸術祭は、広大な海域に広がる太平洋の国や島々の厳選された音楽や踊りなどを一度に、しかもほとんど無料で鑑賞できる、またとない機会です。ハワイやアメリカの研究者らからその素晴らしさを聞いて、どうしても行きたいという思いが募りました。

 太平洋芸術祭の時期には、オリンピック同様に、大人数の出演者や観光客が移動します。たとえば、西サモアでの開催時にはパプアニューギニアから200人の代表団が参加したそうです(写真1)。

写真1 パプアニューギニアの踊り
(西サモア[当時]、アピア 1996年9月17日 撮影:小西潤子)

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