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[2024.10]【タンゴ界隈そぞろ歩き⑱】札幌でタンゴ三昧〜Sapporo Tango Festival〜

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura

今回はいつもと目先を変えて、リアルなそぞろ歩きの記録など書いてみようと思う。歩いたのは北海道札幌市。素敵なフェスティバルに参加してきた。

同窓会で帰札の予定が

札幌は私が幼児期から大学受験浪人生までの期間を過ごした地である。10月19日(土)に出身高校の同窓会総会・懇親会が開催されるので、それに合わせて帰札を予定していたのだが、それと重なる10月18日(金)〜20日(日)に Sapporo Tango Festival という催しが開催される、との情報がSNSで流れてきた。なんという幸運!早速主催団体の代表者である林富貴子さんに連絡を取ってみた。ちなみに林さんは DJ Fukky の名前でタンゴDJとして活動している方で、全国各地を飛び回っているので彼女の選曲で踊ったことのある方も多いと思う。

DJ Fukkyこと林富貴子さん

吉村「Sapporo Tango Festivalって踊らなくても参加できるようなイベントはありますか?ちょうど同時期に同窓会があって帰札を予定しているのですが。」
林「踊りメインのミロンガのほか、ジンギスカンパーティー、生ライブ付きミロンガなどありますよ。ぜひいらしてください!」
吉村「いいですね!ぜひ行きたいです。」
林「せっかくの機会ですので、タンゴについて何かお話いただく時間を作れたら素敵だと思うのですが、いかがでしょう?」
吉村「え!話す時間ですか?…何かお役に立てるのであれば検討します。」

というわけで、気楽に遊びに行くつもりが自分も話すことになってしまったのだが、同窓会に加えてタンゴのイベントへの参加で帰札の楽しみが大きく膨らんだ。

Sapporo Tango Festivalとは

そもそも Sapporo Tango Festival とはどのようなイベントなのだろうか。林さんに、ミニインタビューと称してメッセンジャーでいくつか質問してみた。

── Sapporo Tango Festivalはいつから開催しているのでしょうか。また誰が運営しているのですか?

第一回は2022年に開催しました。昨年はややコンパクトな形で Sapporo Tango Weekend を開催し、今年のフェスティバルへとつながりました。運営主体は、SAPPORO TANGO TODO ES AMOR(サッポロタンゴトドエスアモール)です。札幌でアルゼンチンタンゴの普及を目的として仲間と活動しています。

──フェスティバルを行うにあたっての想いや、フェスティバルのコンセプトについて教えてください。

札幌にアルゼンチンタンゴをどうやったらもっと普及定着できるのか、と考えたとき、日常の活動とは温度感の異なる大きなイベントをすることで、札幌にもタンゴの踊り場、コミュニティーがあるということを国内外にアピールできたら、と考えました。多少無謀とは思いながら開催する決心をしました。タンゴDJとして日本各地にお邪魔するようになったことも背中を押してくれたと思います。いろいろな垣根を越えて、タンゴを愛する札幌の仲間や、オーガナイザーの皆様がお力を貸してくださいました。感謝の気持ちでいっぱいです。

初日、二日目は参加ならず…

さて、実際のフェスに参加しての感想…と行きたいところだが、初日の夜は別件があり参加は叶わず。二日目午後は大通公園で野外ミロンガが予定されていたので観に行くのを楽しみにしていたのだが、あいにくの雨で中止。札幌の中心にタンゴが流れて多くの人が踊るさまはきっと絵になる情景だったと思われるだけに、とても残念だった。夜は今回の帰札のメインイベントである同窓会だったのでやはり不参加。アフタージンギスカンパーティーにはかなり心惹かれたが…。

フェスティバル終了後の林さんによるFacebook投稿には、私が参加できなかったイベントについても写真がたくさん掲載されているので、ぜひご覧いただきたい。

三日目は講演、グランミロンガ

そして三日目、午前はダンスのワークショップ2つと私の講演が並行開催。講演の方は15、6名の方が聴きに来てくださった。二部構成で、第一部はタンゴの歴史をたどりながらさまざまな楽曲に触れていただいてタンゴの魅力を知っていただく、という内容。第二部はピアソラが「モダン・タンゴを創ってきた私たちみんなの父」と評するアルフレド・ゴビのタンゴをご紹介。

特別講演「タンゴって?どんな音楽なのか?」(撮影:筆者の友人)

参加者は、タンゴを踊る方とタンゴそのものにほぼ初めて触れる方が半々ぐらいだっただろうか。幸いどちらの方からも面白かったとのお言葉をいただいた。使用した楽曲の音源と映像は個人ブログにまとめたので興味のある方は参照していただきたい。

午後はグランミロンガ。会場はダンスホール一番館というところで、関東以北で最大のダンスフロア―なのだそうだ。そんな場所で多くの方がタンゴを踊っているという状況は胸が熱くなる。

グランミロンガ (撮影:筆者)

DJ Miguelさんの選曲に加え、Sol del Norte Ensamble(bn 清川宏樹、pf 小林萌里、vn 谷川虎太郎、cb 谷川梓)の生演奏もたっぷり。ちなみにバイオリンとコントラバスの谷川夫妻は旭川在住で、同地を拠点に演奏活動を行っているとのこと。

Sol del Norte Ensamble (撮影:筆者)

プロのダンサーによるデモは、ダンスに関しては全くの素人の私でもエレガントな美しさと3組それぞれの持ち味を存分に堪能できた。一組目 Shuhei & Yuriの周平さんは旭川出身。実は旭川はタンゴ濃度が濃いのか?

Shuhei & Yuri (撮影:筆者、写真がブレブレで申し訳ない)
Mauricio & Mari (撮影:筆者)
Ernesto Suter & Paola Klinger (撮影:筆者)

午前中の講演を聴きに来てくださった方や東京から遠征してきた友人と会話を交わすこともできたし、何より温かい雰囲気の中で参加者みんなが楽しんでいることが伝わってきて、参加して大正解だった。

グランミロンガに参加した皆さん (写真提供:林富貴子)

17時でグランミロンガは一旦お開きになり、すぐ後の17時半からはアフターミロンガも開催。私自身は若干の疲れもあって退散したが、きっと別れを惜しむ気持ちで特別な雰囲気になったことだろうと思う。

主催者インタビュー続き

── 今回は何人ぐらいの人が参加したのでしょうか。

アーティストを含めて、のべ三日間で180人ほどです。グランミロンガでは、ご自身では踊らずに観るだけ・聴くだけの方もいらっしゃいました。東京、大阪、名古屋、広島、福岡などや、海外の方もご参加くださいました。

── 普段はどんな活動をされていますか?

月に1~2回区民センターなどを使って練習会や初心者向けクラスを開催しています。また月に一度、今回のフェスティバルの会場だった関東以北最大のダンスホール一番館で Milonga Todo Es Amor(基本的に第四日曜日)を開催しています。

── フェスを終えての現在のお気持ちは?

帰り際やメッセージで多くの方々が本当に楽しかったとお言葉をかけてくださいました。それだけで肩の荷がすっと下りた気がしました。今回は、吉村さんの特別講演もフェスティバルに華をそえてくださいました。また清川宏樹さん率いる Sol del Norte Ensamble の演奏もすばらしく、普段生演奏で踊る機会がない札幌の仲間からもとても良い機会になったとのお声を多くもらいました。このようにいろいろな角度からタンゴにアプローチできたことは本当に良かったと思っております。

── 今後の活動予定、次回フェスの予定などを教えてください。

普及活動の一環として、練習会会場として利用している施設の「サークル発表会」というのがあり、そこでトドエス群舞チームがデモをする予定です。今まで通り、月に一度のミロンガと練習会は継続して地道に活動していきたいと思っております。
また東京や大阪で活動されているプロのダンサーの方々に札幌に来ていただき、ワークショップを開催する予定です。
次回のフェスティバルに関してはまだ未定です。国外を含む多くの方から次回の開催のお問い合わせをいただいていて驚いております。前向きに検討したいと思っております。

Ernesto & Paola と林さん (写真提供:林富貴子)

フェスティバルから帰ってきて

今回は、地方都市においてもタンゴを踊る方、音楽としてのタンゴに魅力を感じている方が着実に増えていることを実感した。そして、様々な工夫と熱意でその地にタンゴを根付かせようとしている人がいることも目の当たりにした。きっと他にも同じような試みをしている方、実行できないまでも同じような想いを持っている方は各地にいらっしゃることと思う。札幌で見聞きしてきたことをお伝えすることがそのような方々へのエールとなれば嬉しい。私自身は、自分の育った地にタンゴが根付いたことを喜びつつ、彼の地で触れたタンゴを愛する者同士の気持ちのつながりの温かさを思い出しつつ、今回のそぞろ歩きを締めくくることとする。

(ラティーナ2024年10月)


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