[2023.1]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い㊳】厳しい戦いの歌のB面で美しく響く — Desalento
文と訳詞●中村 安志 texto por Yasushi Nakamura
この連載の27回目で、シコ・ブアルキが、弾圧を逃れ生活していたローマから帰国してすぐに、真正面から体制を批判してみせたApesar de vocêという、とても重い内容の作品を紹介しました。
シコの長い活動の中でも、最も厳しい圧力を受けていた頃の作品と位置付けられる作品で、祖国の状況が改善していると思って戻ったというのに、むしろ人権抑圧は深刻化していたことが後で判った中でも、この曲を世に出すことになったシコ・ブアルキの声には、1枚重さが加わっているようにも感じられます。それもそのはず。シコは、幼少時から家族ぐるみで親しくしてきた作詞家のヴィニシウス・ジ・モライスから、「決断し祖国に戻る以上、かなりの騒音を立てて帰るべきだ」との助言を受けていたのです。
英断の結果、この曲を収めたシングル盤は、厳しい弾圧の時代にありながら、10万枚もの売り上げを記録しました。曲の引き起こした社会的反響が関係していますが、同時に、このシングル・レコードのB面に、打って変わって思想の一欠片も見せない、美しいラブソングが収録されていることも、人気を更に高めたのではないかと思われます。
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